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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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尋問

 私に腕を刺され、ザコルの投げたナイフで気を失った人物と、タイタが沈めた三人、計四人が転がっている。

 ザコルは遅れて到着したエビーと共に手際よく縛り上げた。


「タイタ、エビー。この者達は一旦、礼拝堂に引っ張っていきましょう」

 そう言って血と毒の付いた投げナイフを紙で拭き、腰ベルトに収納する。

「は、はい、しかし」

「あの、ザコル殿…」

 ためらいの言葉を発する護衛二人に構わず、ザコルは曲者を二人肩に担いで歩きだす。

「あ、の、ザコル」

「何です。話は後です」

 ザコルはこちらを振り向きもせずに言った。さっきからずっと私を見ていない。

「怒ってるのに、ごめん。あの、た、立てないの」


 ザコルがやっと振り返った。私はあの後しばらくして、足に力が入らなくなって座り込んでいた。左手も痺れている。


「刺した衝撃が、手に残ってて…ふ、ふるえ、が…」

 ザコルは担いだ人間をドサッと放り出して私の元に来ると、膝をついて私の顔を覗き込んだ。

「ミカ。もう危険はありませんから」

「ご、ごめん、ごめんね。ザコルのせいになっちゃう所だった。離れて、ごめん、なさい…」

 ザコルは溜息をつきながら私の手を取り、震えを抑え込むように包んだ。

「あの、ザコル殿、ミカ殿はあなた様に休んでいただきたかっただけなのです」

 タイタが駆け寄って来て言う。


「そうでしょうね、解っていますよ。これでも、ミカの意図は解っているつもりです。でも、だから許せないんだ。どうして自分の安全を第一に考えられない?」

 何も言えない。

 自分のせいで自分を危険に晒しただけで済めばいいが、その責任は全て護衛が負うのだ。

「護衛の責任になる所だったなどと考えるのもやめろ。そんな事はどうだっていいんだ。僕のためだなんて、一体何を勘違いしている」

「でも」

「自分を危険に晒して、僕を悲しませるな。それだけの事だ。どうして理解できない」


「……ふうう、ひぐっ…」

 視界がにじむ。

 私は彼を悲しませたのか。それに、許せない、勘違いだと。


「う…、うえっ、……ふっ、はっ、ひぐっ、っ」

 思うように息が吸えない。溺れているみたいだ。苦しい。分からない。罰なんだろうか。もっと空気を吸わないと死んじゃう。死んだら、もっと悲しませるのだろうか。

「ミカ?」

 異変を感じ取ったザコルが私の顔を覗き込む。あまりの苦しさに体が言う事をきかない。

「過呼吸だ。ミカさん、息吸うんじゃなくて吐いてください」

「ミ、ミ、ミカ殿、ど、どうしたら、どうすればいいエビー!?」

「タイさんも落ち着いてください。過呼吸はそんなに…」

「ミカ、大丈夫です。もう怒ってませんから、息を吐いて」

「は、はふっ、ひ、あっ」

 何言ってるの、こんなに苦しいのに、もっと吸わないと死んじゃうのに。


 その時、ザコルが突然私に顔を近づけ、自らの口で私の口を覆った。

「んむ、むうう!」

 パニックになりながら頭を振ろうとするが、両手でガッチリと頭を押さえられているせいでびくともしない。

 息を吸うどころではなくなった。


 そのまま数秒、実際には酷く長く感じた数秒が過ぎた。

 自分の震えが収まるのを感じる。私が脱力したので、ザコルが口を離した。


「落ち着きましたか。ゆっくりと呼吸しましょう。まずは吐いて、それから吸って、吐いて」

 ザコルの言う通りにする。息が整ってくる。


 辺りはすっかり薄暗い。ザコルの顔もよく見えないくらいだ。冷えた風が体温を奪っていく。


「あのような事の後で、自分本位な八つ当たりをしました。ごめんなさい、ミカ」

 ザコルがゆっくりと私を抱き締める。気持ちが落ち着いてくる。

「…よく、後ろから迫った敵に一撃入れましたね。そこは褒めてあげます」

「……うん。ありがとう。助けてくれて。時間稼いだ甲斐がありましたね…」


 相変わらず足に力は入らないが、手の感触は戻ってきた。

 自分の震えが止まると、ザコルが僅かに震えていることに気づく。


「本当にごめんなさい、ザコル。怖い思いをさせて」

「怖い思いをしたのはミカの方でしょうが…全く」

 ザコルは私を横抱きにして立ち上がった。


「タイタ、エビー。二人ずつくらい持てますよね。僕はミカを運ぶのでお願いします」

 そう告げると、踵を返してスタスタと歩き出す。

「ちょお待って、大の男二人は流石に無理ですってえ!」

「ご、ご期待に応えてみせます!」

 タイタは一人を背中に背負い、一人を引きずる形で何とか歩き出す。

「マジかよ…。どんだけだよ」

 ザコルがどんどん歩を進めて遠ざかってしまったので、エビーがどうやって二人を運んできたかは知らないが、随分経って礼拝堂に現れたエビーは汗だくで息を切らしていた。


 ◇ ◇ ◇


 タイタが礼拝堂のランプに火を入れてくれたので、薄暗いながらもお互いの顔が見られるようになった。


「で、その体勢で話すんすかね、猟犬殿は」

「何か問題でも?」

 私を横抱きにしたまま礼拝堂のベンチシートに座ったザコルがしれっと答える。

「あの、ザコル、もう大丈夫だから降ろしてほしいなー…なんて」

 ザコルが据わり切った目をこちらに向けた。降ろすつもりはないようだ。


「えー…あー、うん。とりあえずミカさん、ご無事で何よりでした。それから…申し訳ありませんでした。ザコル殿はともかく、俺はついていけば良かったんです。護衛が二人いれば余裕で倒せてたはずだ」

 エビーが深く頭を下げる。

「エビー、ここに残ってって言ったのは私だよ」

「ミカ殿、俺も一人でお守りできると思い上がっていました。引きずってでもエビーを連れて行くべきでした」

 タイタも頭を下げる。

「タイタはしっかり守ってくれたよ。油断してたのは私だから…」

「僕が一番悪いんです。ミカごときに沈められるという不覚を取りました。申し訳ありませんでした」

 ミカごとき。何やら棘を感じる。


 ザコルはまだ怒っているようだ。それはそうか…。

 涙が湧いてくる。

「そうですよ、私が全部悪いんです。余計な事したから…ごめんなさい…うっ、ううー…」

「泣くな。僕が一番悪いと言っているでしょう」

「ミカさんが悪いわけないでしょ、大体、自分から仕掛けといて返り討ちに遭ったのはザコル殿すからね? 見事に撃沈しやがって」

 エビーがザコルの脛を蹴る。ザコルも避けずに黙って蹴られている。

「ミカ殿はザコル殿の身を案じていただけです。ご自分を責めないでください」

 タイタも繰り返し私を庇う。

「皆私を甘やかさないで。私が調子に乗ってたの。油断してたの。ザコルを悲しませたの。ごめんね、ごめんね、ごめんなさい…うう、あ…ひぐっ」

「ミカ、ゆっくり息を吐いて。謝らないでください。いいですか、一番悪いのはそこに転がっているゴミです」


 床を見やると、失神した三人と、乱暴に腕を手当てされた一人が縛られて転がっている。

 タイタは直接斬りつけず、剣の腹や柄を頭に当てて上手に失神させたようだ。あの薄暗さの中で三人相手に見事なものだ。のどかな町の小道に血を撒き散らすことにならなくて良かったと思う。


「でも、本当に…」

「ミカ殿、どうか謝らないでください。俺は背後の一人に気づかず、あなた様を危険に晒してしまいました。この一件で一番責められるべきは俺です。申し訳ありませんでした」

 タイタが再び頭を下げる。


「…タイタ、もう謝るのやめよう。私もやめるから」

 人が自分のせいで謝っているのを見ると、胃が縮み上がる気持ちになる。

「どうしてタイタの言う事は聞くんです」

 ザコルが眉間にシワを寄せて呟いた。

「タイタ、ありがとう。私が作った隙を見事に活かしてくれたよね。エビーもザコルも、タイタは強いって言ってたけど本当だった。すごく格好良かったよ」


 横抱きにされたままで格好つかないが、何とか明るく言った。タイタも少しだけ固い表情を緩める。


「…では、俺からもお礼を言わせてくださいますか。あの時、ミカ殿が時間稼ぎをしてくださったおかげで俺も冷静になれました。合図のタイミングも絶妙でしたし、あの紙束で気を逸らすのもなかなか咄嗟に思いつける事じゃない。その上、気配だけを頼りに後ろの敵に短刀を突き刺すだなんて…。普通、余程の鍛錬がなければできる事ではありません。ミカ殿、自衛のために動いてくださり本当にありがとうございました。俺一人ではあなた様を無事に守り切る事はできなかったと思います」

 タイタが深く頭を下げる。

「タイタ…」

 また涙が溢れてくる。今日一日魔法を使っていないせいで情緒不安定なのもあるかもしれない。


「流石はミカさん、ただもんじゃねえわ…。伊達に猟犬の殺気浴びてねえっすよ。紙束って何すか、あの散らばってた紙…もしや」

「タイタの反省文だよ」

「えっ」


 昨日エビーに押し付けられた反省文は、ずっと私の鞄に入れられたままだった。地味に重かったが、大きな荷物の方に移す機会もなく持ち歩いていたのだ。


「地図や身分証の方をばら撒く訳にいかないからさ、他に使えそうなものもなかったし…」

「あの、お、俺、回収してきてもいいでしょうか…」

 最近のタイタにしては珍しく自制のきかない様子でソワソワとする。


「もう暗いから全部見つかるか分からないよ。あの反省文には三度、いや四度は助けられた。私としてもあのアイテムは惜しい。明日の朝必ず全て回収に行く」

「ミカさんの正気を取り戻すのには必須アイテムすからね」

 エビーが首肯する。

「何故タイタが書いたものをミカが持ち歩いているん…」

「ザコル殿のおっしゃる通りです!! あの不出来な反省文をどうしてミカ殿が惜しがるのですか! 暖炉にでもくべてしまえばいいものを!」

 タイタがザコルの台詞に食い気味にかぶせる。

 私は首を横に振った。

「あれはもう、私の心の拠り所だよ。反省してるみたいで途中からザコルヘの賛辞しか書いてない、無駄に長文、無駄に美筆、最後はポエム、ツッコミどころ満載でもはや芸術の域。私、タイタの存在にはすごく支えられてるなって思うんだよね」

「や、やめてください…せめてきちんとしたものを書き直しますので…」

 タイタが赤くなってアワアワしている。

「ミカさん、タイさんの事随分お気に入りじゃないすか」

「うん。ニコニコして優しいし、こっちも穏やかな気持ちになれるからね。御意にとかって言う所も古風で好きだな。それに仲間だし」

「……何の仲間か知りませんが、今のくだりは聞き捨てならないですね。ミカ、僕は仲間じゃないっていうんですか」

「ザコルは私の恋人でしょ」


 びし。

 ザコルが固まった。驚きの表情のままこっちを見ている。


 私は急に不安になった。

「え、あれ、違う? 違うんですか? か、勘違いならごめんなさい。私、男性と付き合ったことないから分からなくて。てっきり、そういう関係なんだと…。いや、護衛でもありますけど…。も、もう降ろして…」

 身じろぎしていたら、ぐっと腕に力を込められ、動けなくなった。

「もう寝ます」

「何て?」


 ザコルは私を抱いたまま立ち上がった。そのまま礼拝堂の待機部屋に向かって歩き出す。

「ちょ、ザコル、どこ行くんですか、降ろしてください。あの人達どうするんですか。それに今日は早めに同志村に行かないと」


 がし。

 エビーとタイタがザコルの肩を掴む。


「今回は通せませんよ。こんなとこで何考えてんすか」

「ご、ご無体はおやめください。ミカ殿をお離しください」

 ザコルが二人をゆっくりと振り返る。

「どうして止めるんです。君達は先程と同じように外で待機していればいいんです。寝るだけですから」

「寝るの意味が違って聴こえる! ダメ! ダメですってえ!」

「ミカ殿! ザコル殿をお止めください!」

「えっ、え? ええ? えええー…」


 残念ながら、私ごときにも寝るの意味が分かってしまった。何でか知らないが私がまた変なスイッチを押したらしい。

 思考が極まって顔に熱が集まってくる。どうしよう。どうしよう。


「さあ、ミカ。寝ましょう」

「も、もう無理…。無理無理無理」

 顔を覆って縮こまる。また涙が浮かんでくる。思考回路はショート寸前だ。

「もう離して、ザコルお願い…私、げ、限界……」

「ミカ、そんなに真っ赤になって愛らしいですね。もしや、意識しているんですか」


 耳元で囁くように言われて意識がブツンと途切れた。


 ◇ ◇ ◇


 ミカは目尻に涙を浮かべ、頬や首を紅潮させてぐったりとしていた。


「ジロジロ見るな」

 抱いていた彼女をベンチシートに降ろし、マントを外してエビー達から隠すようににかける。


「いや、トドメ刺したのはあんたでしょうが! あーあー、可哀想に…」

「ちょっとやり返しただけです。それに僕からは何もしていませんし」

 いくら言ってもやめてくれなかったミカとは違う。あんな一方的な蹂躙と比べたら可愛いものだろう。

「何も…? 色々無かった事にすんのやめてもらえませんかね?」

「ザコル殿、ミカ殿が気を失われなかったらどうなさるおつもりだったんです」

 タイタがこちらを正面から見据えて言う。こうして彼に睨まれるのは初めてだ。

「何もしません。だから言ったでしょう、ミカが寝るだけだと。さあ、寝ているうちに済ませてしまいましょう。入り口扉を施錠してください」

「何を済ませるというのですか」

 タイタは警戒を緩めない。

「何をというか、この者たちに少々質問するだけです。この礼拝室は汚せませんね。あの待機部屋で行いましょうか。絨毯や壁紙を弁償する事になるかもしれませんが」

「あー、少々ね、少々。いいすね。かの有名な深緑の猟犬がどんな尋問すんのか、勉強させてもらいますわ」

 エビーが軽い調子で拳をパシっと叩く。

「ああ、なるほど。それは淑女のお耳には入れられません。良かった、ザコル殿もやはりお優しいお方だ」

 タイタが獰猛な笑みを浮かべる。

 ミカは癒しだのと言うが、彼もしっかり武人の端くれだ。


「猟犬殿のは優しいっていうか、ただのヘタレすよ。そのままヘタレでいてくださいね」

「エビー、君は尋問される側でもいいんですよ。勉強になりますから」

「いやー、それはまたの機会にして…。まあ、とにかく遠慮はいらねえって事で」

「そうだな、遠慮はいらないぞエビー。明らかにただの一般人じゃない気配の消し方だったからな。それを思うと、改めてミカ殿の戦闘勘は素晴らしいですね、ザコル殿」

「ええ、彼女には僕も期待しています」


 エビーが物申したさそうにしているが、僕はさっさと転がった四つのゴミを持って待機部屋へと入る。

 あまり時間もない。この三人で何とか最低限の情報を搾り取らなければ。


 ◇ ◇ ◇


 何やら遠くで呻き声や悲鳴が聴こえる。たまに振動が壁や床を伝ってくる。

 恐ろしい事が起きているのかもしれない。しかし体が重い。起き上がれない。

 早く、早くザコルの元に行かないと。


「…ザコル、どこ。離れてごめん。ごめんね……」


 うわ言のように口から言葉が漏れ出す。

 そんな自分を客観的に見ているような、不思議な気分だ。私はどうしてこんな所で寝ているんだろう。


 横に視線だけをやると麦を抱えた女神の像が目に入る。低い位置にあるランプに下から照らされて陰影が際立ち、女神のかんばせが恐ろしいもののように見えた。


 遠くで聞こえていた音が徐々に近づくように、耳に大きく入ってくる。しかし、突如糸が切れたように静かになった。

 ガチャ、というドアを開ける音がする。


「ミカ、起きましたか。僕はここにいます。今、手を洗ってきますから少し待っていてください」

 ザコルの声と足音が聴こえた事で、ホッと体が緩む感覚がした。

 金縛りに遭っていた体がほぐれたので、私はゆっくりと体を起こした。体にかけられていた深緑色のマントが滑り落ちそうになり、咄嗟に掴む。


「…ミカ、何をしてるんです。僕のマントなんて抱き締めて」

「どこにも行かないように捕まえてるところ」

「マントは生き物じゃありません。ほら、返して」

「あ」

 取られてしまった。悲しい。

「ミカ、ほら」

 ザコルが両手を広げたので、椅子を降りて抱きついた。

「ザコル、ごめん、ごめんね、離れてごめんなさい…」

「謝るのは無しだって言ったでしょう。僕が不甲斐ないのが悪いんですから。でももう、検証と称して僕を蹂躙するのは控えてくださいよ」

「蹂躙?」

「執拗に口づけを繰り返すのはやめろと言っているんです。れっきとした蹂躙ですよ」

「蹂躙とはひどいじゃないですか。何度か可愛くキスしただけなのに」

「可愛い? どこが。やたらに長い間唇を食みやがって」

「注ごうにももう唾液が出てこないんですもん。あれ以上の怪我だとどれだけ注がないといけないんでしょうね」

「やりませんから。もう絶対に怪我しませんからやめてください」

「ザコルが勝手に小指を折るのが悪いんですよ」


 一瞬沈黙が流れ、ザコルが息をついた。

「……はい、そうですね。お互いに、自分を傷つけるのはやめることにしましょう」

「はい。私も気をつけます」

 ギュウッと腕に力を込めて抱き締める。温かくて気持ちいい。ちょっと血生臭い気がするけど。


「えっと、あのお……すんません。このゴミどうしますか」

 エビーの間の抜けた声が聴こえ、すぐにザコルから離れようとして胸を押した。が、全く動かなかった。それどころかザコルの腕の力が強まって全く身動きができなくなる。

「ああ、縛り直して水だけ飲ませておいてください。そのうち昏睡すると思います」

「ぐ…ザ、ザコル…離して…」

「ちょっと、もう離してあげてくださいよ」

「何故です。せっかくわだかまりが解けたのに」

「は、離じで……っ」

「ほらミカさんが潰れちゃいますから、その辺で」

「ザコル殿。何をなさっておいでですか」


 ピリリッと空気が張り詰めて、条件反射で体が強張る。


「えっ、今の、タイタ?」

 腕の力が弱まったので抜け出してみると、確かにタイタから殺気の残滓が漂い、そしてすぐに霧散した。


「ミカ殿、お目覚めでしたか。ご気分はいかがでしょうか」

 ニコニコとした、いつものタイタだ。


「えっと、大丈夫。さっき少し金縛りに遭ったけど、体調に問題はないよ」

「それは良かったです。もう少しザコル殿とは距離を取られた方がよろしいのでは?」

 ニコニコ。

「護衛としてご助言申し上げています」

 ニコニコ。

「……タ、タイちゃん。血だらけだね…」

「はい。この方々がどうしてもお話しくださらなかったので、少々スキンシップを取らせていただきました。最後には心を開いてくださいましたよ」

 ニコニコ。


「タイタは尋問に天賦の才がありますね。僕と同じで人間の心の機微に疎い分、容赦がありません。とても捗りました」

「お褒めいただけて光栄です」

「出番のなかった俺はほぼ見学してました。ゴミの後処理は任せてください」

「よろしくな、エビー」


 タイタはずっとニコニコしたままだ。ニコニコしたまま、再び不穏な気を放ち始めている。

「タイタ、どうしたの、大丈夫?」

 歩み寄ろうとしたら当のタイタが手で制した。

「今、少々汚れておりますので。それに、気も立っておりますのでお近づきになりませんよう」

「僕は逆に穏やかな気持ちです。ほら、ミカ、もう一度抱きついていいですよ」

 ニコニコとした血だらけのタイタと、目を据わらせたまま両手を広げるザコル。


 何だろう。

「どっちからも狂気しか伝わってこない」

 つい率直な気持ちが口から漏れ出た。

「その通りです。ミカ殿、その狂気殿から距離をお取りになってください」

「人を狂気呼ばわりしないでください。君と違って僕はいつも通りです」


 尋問は余程凄惨なものだったんだろう。エビーが順番に外へと運んでいくラースラ教徒は皆一様にボロボロだった。

 そして、タイタとザコルの間に何があったんだろうか…。

「一緒にお仕事したから仲良くなったとか」

「ミカさん、そんな呑気な話じゃないすよ。まあ、気は合いそうでしたけど」

 エビーがボロボロの教徒を引きずりながら私に耳打ちしてくる。


「タイタ、大活躍だったんだね」

「いいえ、俺などザコル殿に比べたら赤子のようなものです。あのように静かな尋問は初めて見ました。使う物は針一本のみ、淡々とそれでいて着実に、脳に痛みと恐怖を刷り込んでいくのです。あの狂気に溢れた言葉選びは大変勉強になりました」

「タイタ、君の爽やかな笑顔と苛烈な暴力の落差には感心しましたよ。最後はその表情一つで相手を追い詰めていました。尋問を受ける側にも好みや個性がありますからね、君のようなタイプが一緒だと仕事の幅が広がります」

「勿体無いお言葉です。さあ、我々はミカ殿から離れましょう」

「何故です」

「何故でもです」


 相変わらず血だらけのままニコニコと圧を放ってくるタイタと、それを全く相手にせず平然と両手を広げて待ち構えているザコル。

 狂気二人の間に挟まれた私は何も言えなくなった。




 しばらくして、エビーがボロボロの教徒を再び礼拝堂内に運び入れ始めた。

 丁寧に縄が巻かれ、必要最低限の手当てもしてあるようだ。エビーはずっとタイタとザコルのやりとりをまるで背景の一つかのように扱っていたが、後処理も一段落し、仕方ないなというように溜め息をついた。


「タイさん。とりあえず外の井戸で血を洗ってその服も脱いでください。俺は同志村へ連絡しに行ってきますから、ついでに着替えも借りてきますよ」

 気が逸れたのか、タイタの圧が若干柔らぐ。狂気のニコニコも引っ込んだ。


「ね、ねえ、結局あの教徒達はどうするの?」

 その問いにはエビーではなくザコルが答える。

「とりあえず同志村で預かってもらおうという話になりました。僕に恨みがある者達だとでも説明します。僕への報復としてミカを拐おうとしたと。ミカ自身が狙われている事は知られない方がいいでしょう。それで良いのですよね、タイタ」

 ザコルが目線をやると、タイタが頷いた。

「はい。ザコル殿と直接対面するとまた隠れたり心神喪失したりしますから、俺から一旦話をします。……少し落ち着いてきました。ザコル殿、先程の失礼な発言をお許しください」

 そう言ってタイタがザコルに頭を下げる。

「いいんですよ、僕は場数が違いますから。事後に無理をして穏やかたらんとする必要もありません。気が立っているのなら血を洗いがてら外で素振りでもしてくるといい」

 ザコルはタイタの長剣を指差した。

 タイタは首を横に振る。

「いいえ、ミカ殿が目に入っていないと逆に落ち着けない気がして。ミカ殿が手にかけられそうになった光景がずっと目に焼き付いて離れないのです。申し訳ありません…」

 タイタが俯いた。


「タイタにも怖い思いをさせちゃったんだね。本当に…」

 手を差し伸べようとしたら、タイタが顔をガバッと上げた。


「謝らないでください! 何故、どうしてあなた様が謝るのです。あなた様のように、優しくて慈悲深いお人がどうしてあのような狂った者達に狙われねばならいのです。こんな世界に理不尽にも喚ばれて、何故逃げるように旅に出なくてはならなかったのです。何故、どうして、ミカ殿がこのような目に遭わねばならないのですか…!!」


 タイタは切羽詰まったような顔で捲し立て、肩で大きく息をした。

 あの教徒達から嫌な事をたくさん聞かされたのかもしれない。優しい彼の事だ、私に深く同情してしまったのだろう。


 同情されるのは、苦手だ。


「タイタ」

 ザコルがまるで労わるように話しかける。

「ミカに謝られると堪える気持ちは何となく解ります。ですが、ミカは喚ばれた事を嘆いていませんよ。何なら楽しんですらいます」

「え、そうなんすか、ミカさん」

 エビーが拍子抜けするような軽さで聞いてくる。

「そ、そう…かな。今の状況でそれを言うのは不謹慎じゃないですか?」


 今は特に水害で多くの人が困難と悲しみに直面しているし、さらには私の不注意のせいで優しい護衛が正気を失いかけている。この状況を楽しんでいるとは言いたくない。


「誤解のないように。ミカは、周りの人々に対して憂う事はあっても、自らの状況を悲観した事はないでしょう。日々学ぶことを楽しみ、人や文化との出会いを喜んでいる」

 私はふむ、と頷く。

「それはそうですね。そういう意味ではこの世界に来てからずっと楽しいです。旅に出てからは特に」

「ミカ殿、本心からそのように思われているのですか? あんな目に遭われたというのに?」

 タイタが疑うように首を傾げる。

「嘘じゃないよ。確かに追われているのには困ってるけどさ。でも、この旅そのものは楽しいよ。綺麗な景色もたくさん見たし、たくさんの人に会ってお世話になったし、エビーやタイタとも仲良くなれたし。みんなに感謝されたのは…恥ずかしいけれど嬉しかった。タイタの言う通り、誇りに思えるようになったよ。私、元の世界ではずっと独り相撲してるみたいなものだったからさ…」


 会う事もできない家族の事を想いながら、ただひたすら仕事に追われ、仕事のためだけに生き、食べ物の味さえ忘れかけていた日々に思いを馳せる。


「こっちに来てから、体力もついたし、食事も楽しくなったし。伯爵家では読書も勉強も思う存分させて貰ったし、それに、魔法が使えるようになるなんてね。皆でかき氷食べたのも楽しかったね」

 アメリアやホノルは元気かな。彼女達のことも心配させているんだろうな。


「私ね、この旅の中で殺気を感知できるようになったんだよ! すごくない? 初めて人を刺したのは流石にショックだったけど…私もタイタも無傷だったしさ、それは良かったじゃない。まあ、そもそもこんな事になったのは私のせいなんだけど…本当にごめん」


 しまった、また謝ってしまった。


「ミカ殿、どうかもう気丈に振る舞われないでください。先程もあんなに泣いて…。過呼吸まで起こされたではありませんか。本当はお辛いのでしょう。俺は…お可哀想でなりません…。どうして、どうして周りを責めてくださらないのです。あなた様に謝られるくらいなら…お叱りいただいた方がマシだ!」


 タイタはそう言って胸でぎゅっと拳を握り込む。


「落ち着いてタイタ、違うの。私はね、自分が許せなくて泣いているだけなの。変なのに連れ去られそうになった事より、自分の迂闊な行動のせいで護衛に迷惑をかけたことの方が許せない。タイタを思い詰めさせたのだって…。でも、でもね、不謹慎だけど、泣ける程大事な人がいるって本当に幸せな事だとも思っているんだよ。ね、自分勝手でしょ…っ、だから…っ」


 だからタイタ、私に同情なんてしなくてもいいんだよ。優しいタイタが心を乱す事なんてない。ずっとニコニコ笑っていて。


「ミ、ミカ殿…」

 頬をまた温かいものがつたっていた。発したはずの言葉は音になっていなかった。


 涙を拭こうと手の甲を近づけたら、ザコルのマントを引っ張ってしまった。いつの間にか無意識のうちに掴んで握り込んでいたらしい。ザコルの片手が伸びてきて、私の手の代わりに涙を拭った。


 私は無理矢理笑顔を作る。

「だ、だからね、可哀想なんて、そんな事ないんだよ。私はこんなに恵まれてる。図太く生きてる、だから可哀想なんかじゃ…」

「ミカ、落ち着きましょう」

 なぜ。私は落ち着いている。そのはずだ。

「あ、あの、ミカ殿、俺はもしや、余計な事を言いましたか。あなた様を傷つけたのでは…」

「ううん、タイタは何も悪くない。心配させたのは私だから。大丈夫だよ」

 にこ。努めて笑顔で返す。…ちゃんと笑えているだろうか。


「…タイさん、とりあえず洗ってきましょうよ。外は寒いですけどね。手伝いますから、ほらほら」

 エビーがタイタの肩を叩いた。タイタは無言のまま、エビーに連れられて扉の外へと歩いていった。




「ミカ、ちょっと」

「?」

 手招きされてザコルに向き合うと、おもむろに顔を近づけてきて唇にチュッとキスをされる。


「よし、失神しない。固まらない。やっぱり自分からすれば平気です!」

「……何が、よし、だ。よし! じゃないんですよ…。何だと思ってるんですか!」

「検証ですが、何か」

 変態魔王がしれっと答える。

 はあ、と脱力してふらふらと椅子に座り込んだ。涙をゴシゴシと手の甲で拭く。


「……ザコルはずっと、私の事を可哀想だと言わないでいてくれましたね」

「可哀想、とは?」

 目を上げると、ザコルはキョトンとした顔をしていた。


「ミカはよく泣いたり怒ったりしますが、ほとんどが魔力が溜まっている時か僕に文句がある時ですよね。それ以外はずっと楽しそうじゃないですか」

「……んふっ」

「何がおかしいんです」

 ザコルが眉間に皺を寄せた。


「大体、あの座敷牢での生活でさえ楽しんでいたような図太い女が、ですよ。それからは散々僕を揶揄って、振り回して…。周りから責められるのはいつでも僕だというのに、酔っ払って記憶は飛ばすし、寝ろと言っても寝ないし、ブーツは履いたまま寝ようとするし、顔は汚すし、イジるし、ふざけるし、無茶もするし。ついには僕を蹂躙して意識まで奪いやがって。可哀想に思う要素がどこにあるんです。むしろ文句しかありませんが?」


 何やら私を指差しながら責め立ててくる。


「そこまで言いますかね? お世話されてる事は否定しませんけど、散々変態行為を働いてきたのはそっちですよね? 何度も故意に心神喪失させてきたのだって…」


 ザコルは、ぐ、と少しだけ詰まり、コホン、と咳払いをする。

「ぼ、僕は、ずっと眠れていなかったんです。ですが、あなたのお気楽さ加減を眺めるようになってからは、色々と馬鹿らしくなって良く眠れるようになりました。そこは感謝しています」

 ザコルは目も合わさずにそう言った。どう見ても感謝しているという態度ではない。

「馬鹿らしくなるとは失礼な。というか、気楽に考えてもいいのではって言ってくれたのはザコルですよね?」

「そうでしたか? いつの話です」

「初対面の時です」


 ザコルははあ、と肩を落とすように息をついた。


「そんな事をよく覚えていますね…。あなたが色々と気負おうとするから、そんな事も言ったかもしれません。…そうですね、ミカは気楽にしていてください。嘆いたり怯えたりする必要はありませんが、あまり謝られると僕も堪えます。僕らは基本的に、あなたに対して一種の申し訳ない気持ちを引きずっているのですから。タイタも、あなたに悲しんでいて欲しいわけではないのです」


 ザコルは『気楽にしていて欲しい』という言い方で。

 タイタは『周りを責めていいのだ』という言い方で。


「…そっか、私の心を軽くしたかったから」

 決して上辺の同情などではなく、何度も謝る私のために、後悔を一緒に背負ってくれようとしただけだったのに、私ときたら。


「ミカは強い。その強さで周りを守ろうとしている事も解ります。ですが、それだけでは護衛も形無しだ」

「はい。その通りですね。まだ、思い上がってたみたいです。…叱ってくれてありがとうございます」

 また涙が出てきたので俯いたら、ザコルは私の横に座り、髪を撫でて抱き締めてくれた。


 ◇ ◇ ◇


「落ち込まないでくださいよー、タイさん」

「……落ち込む? 俺がか?」

「あー自覚な…いや、違うならいいんですけど。元気出してくださいよ。ミカさんはこんな時でも楽しく生きてるらしいですし。…それが本当なら言うことねーけどな」

「そうだな、あの方の器の大きさを見くびっていたようだ。きっとまた俺だけが解っていなかったのだろう」

「いや俺も、泣いたり過呼吸起こしたのはフツーに怖かったんだろって思ってましたよ。護衛に迷惑かけたのが辛すぎて泣いてただけとか、ミカさんも、強いっつーか何つーか…」


 メンタルが強いというか、気が強いというか。今まで、どんだけ人を頼らない、頼れないような人生を送ってきたんだろう。


「そうだ、ミカ殿はお強い。だが、あまりに謝られるので…。ただ、あなた様のせいではないと、申し上げたかった」

「うんうん、気持ち解りますよ」

「俺の言葉はあの方を傷つけただろうか。どうだろう、エビー」

 タイタが縋るような顔をして俺を見る。

「どうなんすかね。俺もよく解りません。多分ですけど、ミカさんも人に謝られるのが辛いんじゃないすかね」

「そうか…。では、俺はどうしているのがいいと思う。決してあの方の負担になりたいわけではないのだ」


 それは俺の方こそが訊きたい。こっちはこっちでやらかしまくっているのだ。

 特に、あの自分の能力に怯える顔は頭からずっと離れない。ヘタな隠し事で誤解をさせたのも、ミカが襲われて窮地に陥ったのだって、百パーセント護衛の失態だ。なのに、俺らが謝れば謝るほど、ミカは自分を責めることばかり言う。

 泣いてばかりいるのは、もしかしたら魔法が使えていなくて情緒不安定になっているのもあるかもしれないが、それにしても今日は立て続けに色々とありすぎた。

 タイタの言うように、ミカが無理をしているのではと心配する気持ちも解る。


「…ミカさんは、タイさんがニコニコして優しいから、穏やかになれて好きみたいなこと言ってましたよね」

「ニコニコか…」

 タイタはおもむろに血まみれの上着を脱ぎ、礼拝堂付きの井戸から汲み上げた冷たい水で勢いよく顔や手を洗う。俺はランプを持って手元を照らしてやる。


「あの、ザコル殿との間にある妙な絆にはまだ敵わないかもしれませんけど、タイさんが優しく穏やかに見守ってくれる時間にだってミカさんは癒されてるんだと思うんすよ」

「そうだろうか。エビーと冗談を言い合う時の方が余程お楽しそうだ。あのお方は、俺のような気の利かない人間でさえ否定せず受け入れてくださる。それだけ慈悲深い方だというだけだろう」

「そう卑下しねえでくださいよー。でもほら、その慈悲深いお心のせいか、人が悲しんだり謝ったりするのを見るのは相当ストレスみたいすよね。だから俺らはニコニコしてましょーよ。いや、俺の本分はニコニコしてる事じゃねーか。悪ふざけ担当かな、へへっ」

「悪ふざけは自重しろエビー」

「へへ、やっと俺の事叱ってくれましたね」

 タイタが一瞬キョトンとした顔でこちらを見て、気まずそうに俺が差し出した手拭いを受け取った。


「俺はまたご迷惑をおかけしてしまったか…」

「はいはい落ち込まない落ち込まない……あー、そーいや、あんなこもとあったよなあ…」

「何だ」

 思わせぶりに放った言葉に、タイタは乱暴に顔を拭いながら返事をする。

「ほらアレすよ、アレ。俺とタイさんと揉めた時、ミカさんが間に入ってくれた事あったっしょ?」


 俺がタイタをテイラーへ強制送還させるよう進言した時だ。

 今考えると、ミカの冷静な言葉に従って本当に良かったと思う。あの時は俺の訴えに同調するように諭してくれたが、タイタを帰したところで苦労するのは俺の方だとミカは見抜いていたかもしれない。

 タイタがいなければ、それこそ俺一人であの二人のフォローをし切れたとは思えない。

 今回だってミカを守ったのはタイタだったし、災害に巻き込まれても冷静に行動し、それどころかいち早く救援を呼んでいた。

 最初にあった問題行動もすぐに正してくれたし、体力も、当然礼儀作法だって俺なんかよりちゃんとしてる。

 今となっちゃあの問題行動は何だったのかと思うとこもあるけど、俺と違って、あの二人は決してこの人を侮ってなかった。


「ああそうだな、あの時もご迷惑をおかけしてしまった。エビーに従うようにと俺にお叱りを…いや、お叱りというより、俺が解るよう諭して下さったというのが正しいか」


 それは確かに。ミカは『出しゃばっちゃったね』なんて言っていたが。

 なんだ、やっぱこの人よく分かってんじゃん。


「あの後、タイさんが怒ってないか、いい気はしてないんじゃないかって俺に訊いてきたんです。ミカさんの方が落ち込んでたんすよ。シュンとしちゃってさ」

 タイタが顔を上げる。

「そうなのか? 俺には、特にお変わりなさそうに見えたが」

「それこそ無理してたんじゃないすかねえ。タイさんが元気だって分かったら明らかにホッとしてましたもん。人を叱ったり、怒ったりすんのが元々苦手なんすよ、多分」

「叱ったり怒ったりするのが苦手、なるほど」


 それでも、俺やタイタのために言葉を尽くしてくれた。

 俺の、ガキみたいなお願いでも無碍にせず。


「ミカさん、今頃また落ち込んでるんじゃないですかねえ。タイさんの事はお気に入りみたいですし。まあ、可哀想って言葉はなぜか地雷っぽいすけど。タイさんがいつもみたいにニコニコしてたら、安心するんじゃないすかね」

 タイタは頷きかけて、確認のように俺の顔を窺い見た。

「俺は…まだ、お側で見守らせていただいてもいいのだろうか」

「いいに決まってんでしょ。あんたはちゃんと護衛としての役目を果たしてます。いいすか、ザコル殿に何か言われても引かないでくださいよ。変に遠慮しない方がミカさんも気が楽だと思います。前に言ってたんですけど、特に『距離』を取られるとヘコむらしいです」


 タイタの目に生気が戻る。方向性は決まったようだ。

 ザコルはどんな反応をするだろう。あの変態魔王がやりたい放題なのは前々から気に食わなかったしな。少々焚きつけ…いや、助言するくらいは許されるだろう。


 俺はタイタの汚れた上着を受け取って丸め、同志村まで先触れを出しに走った。


 ◇ ◇ ◇


 どうしてこうなった。


 タイタの距離がやけに近い気がする。物理的にだ。

 そして反対側にはザコル。こちらは完全に密着している。

 というか、腰に片腕を巻き付けられて動けない。半分拘束されているようなものだ。


「あのー、あのさ、エビーは…」

「エビーは同志村に先触れを出しに行きました。ゴミ回収用の荷車も借りてくる手筈になっています」


 タイタがニコニコと答えてくれる。

 みんな当然のように曲者達をゴミ呼ばわりしているが、一応人間だぞ。


「そう。あのさ、結局尋問の内容はどうだったのかな」

「お耳に入れるのもおぞましい事です。血を洗ったら落ち着きましたので、なるべくお側に侍らせていただきたく思います」

 ニコニコ。

 先程までの不穏さはなく、どこか吹っ切れたような笑顔だ。

「落ち着いたならよかった。タイタ、薄着だしびしょ濡れで寒くないの?」

「ええ、寒さには強い方ですから。ミカ殿、先程はお見苦しい所をお見せして申し訳ありませんでした。俺の勝手な考えを押し付け、差し出がましい口を…」

「ううん、私こそ意固地になっちゃって…。ねえ、タイタ、心配してくれてありがとう。タイタは本当に優しいね。器が広いのはタイタの方だよ。守ってくれてありがとう。これからもよろしくね」

「はい、もちろんです。いつでも側でお護りいたします」


 ザコルの腕がピクッと動く。

「ミカ、やはり戦闘術も強化しましょう」

「は?」

「子爵邸に着いたら弓を教える約束でしたね。短刀か短剣を使った戦い方もこの機会にしっかりと稽古しましょう。基本は僕が護りますが、何かあってはいけませんから。あなたを一端の斥候くらいには仕上げてみせます」

「一端の斥候…。エビーが聞いたら目を剥きそうですね。でも今回の事で痛感しました。自衛の手段はいくつあっても困りませんからね」

 こんなん何ぼあってもいいですからね。


「剣術なら俺もお力になれるかと。ザコル殿は投擲と近接戦がお得意でしょう。短剣などの扱いならば俺にぜひ」

 タイタが目の前に回り込んでくる。


「では、僕からは弓術と体術を重点的に指南しましょう」

 ザコルが私を抱えたまま九十度くらい回転する。


「体術のお相手は体格の近い女性の方がよろしいのでは。イーリア様にご相談してみてはいかがでしょう」

 タイタが再び回り込む。


「義母は多忙ですし、同じ女性でも義母とミカでは体格差がありますので。それなら毎日一緒にいる僕が指南する方が効率的でしょう。…僕なら君よりは小柄ですし」

 ザコルが回転する。


「俺もしばらくエビーと共にサカシータ領に留まらせていただきます。こんな所までラースラ教の手が伸びていては、安心してテイラーに戻れません」

「心配には及びませんよ。義母がミカに手駒を用意すると言っていましたので」

 回る速度が徐々に速くなっている。


「ミカ殿も慣れ親しんだ者が側にいた方が安心できるでしょう。遠慮もいりませんし」

「サカシータの兵は強者揃いですから心配ありません」


 くる、くる、くる、くる、くる。


 ドンドン、と扉がノックされ、エビーがヒョコッと顔を出した。

「ぶっふぁ……!! 面白い事になってる…!!」

「え、びぃ…たす、けて…」

 私は完全に目を回していた。吐きそうだ。

 ザコルがサッと横抱きにする。

「ミカ、早く同志村へ行きましょう。先程から泣いてばかりですし、今も随分と気分が悪そうです。早く魔力を消費しなければ」

「いやいや何言ってんすか、タイさんとザコル殿が高速回転させたせいでしょうが」

「ザコル。降ろしてください」

「ミカ、このまま運び…」

「お・ろ・し・て」


 ザコルを一睨みすると、静かに地面に降ろされた。

 足元がよろめいてザコルとタイタが同時に手を出してきたが、私は何とか自分の脚で踏ん張った。

「はあ。何なの。ザコルとタイタは随分と仲良くなったようで」

「別に仲良くなった訳では…」

「エビー」

「はい。何すか」

 めまいを何とか落ち着けた私はエビーがいる扉の方へと歩き出す。エビーはタイタのために着替えも持ってきていた。

「もう時間も遅いし、早くこのボロ雑巾みたいな人達積んで出発しよう。あの待機部屋はとりあえず封鎖して。タイタはさっさと着替えて。それからエビー、後でボロ雑巾が何言ってたのかざっくり報告して」

「了解す」

「ミカ、あなたが聞く必要は」

「そうですお耳に入れるような内容では」

「ザコル、タイタ。知ってるかもしれませんが私、結構いい大人です。それと隠し事は嫌いです。ね? エビー」

「ひゃい」

 エビーが変な声で返事した。怪しい。今回の事以外にも何かロクでもない事を隠している感じがする。


 エビーがボロ雑巾を外に運び出そうとするので手伝おうとしたら、ザコルが二体をヒョイと持ち上げ、タイタは一体を脇に抱えた。

 ぐったりして全く動かないが、ちゃんと生きているんだろうか。


「息はありますよ。暴れると面倒なので長く効く鎮静剤を投与しただけです。コマの特製ですからね、しばらくは起きません」

「ああ、コマさん。この場にいたらきっと全方面に小気味良くツッコんでくれたはず。会いたいな…」

 思わず遠い目をしてしまった。

「奴に会いたいなどと言うのはやめてください」

「コマという方はどなたですか。男性ですか女性ですかどちらの方ですか」

「話振ったのはザコルでしょ。タイタも落ち着いて。二人は仲良く黙ってあの荷車を引きなさい。エビー、道すがら話を聞きます」

「了解す」


 狂気二人がいちいち絡んでくるので話が進まない。心配してくれているにしても過剰だ。

 エビーが最後の一人を荷車に乗せ終えたので、同志村の方面へさっさと歩き出す事にした。




「ミカさん、一応言っときますけど、俺もあまり詳しく話せねえすよ。場慣れしてるザコル殿はともかく、タイさんの取り乱しようを見てもらえば分かると思うんすけど…」


 エビーが火を入れたランプを持って私の隣を歩く。後方ではザコルとタイタが荷車を押してついてきている。


「そう。話せないのは、淑女には話せない的な意味で? それともエビー自身がつらいの? 後者なら後でザコルから聞くけど」

「前者っすね。まあ、ザコル殿より俺のがまだ適任かと思いますんで。ええと、どこから話しましょうかね…」

「まずは、この人達の素性と、この町にどうやって入ってきたのかから話して」

「分かりました」



 エビーによると、この人達はラースラ教徒である以前に、明らかに戦闘慣れした本職の人間だったそうだ。というか、かつて王都で暗部の末端に属していた者だったらしい。

 コマが言っていた『悪いお貴族様に引き抜かれた』構成員のうちの誰か。一応幹部をしていたザコルにも顔を覚えられていない、末端中の末端。

 詳しい経緯は不明だが、その末端構成員はラースラ教の一員となり活動していた。


 今回の尋問では『悪いお貴族様』の名前までは引き出せなかった。彼らも主人の名前を偽名でしか教えられていなかったためだ。その主人が本当にお貴族様なのかはさておき、ラースラ教の中ではそれなりの力を持った人物なのは間違いない。少なくとも、本職をスカウトして捨て駒に使うだけの手腕と先立つものは持っているはず。


 で、そんな捨て駒扱いの元暗部のモブ教徒がどうしてこんな辺境で私を襲えたか、だ。


 彼らは水害の起こる二日前からこの町に潜伏し、牧夫の見習いとして働いていたのだという。

 深緑湖の街で逃げる私達を見てから、目的地がザコルの実家であるサカシータ領ではと仮定した彼らは、堂々と一番太い街道沿いをひた走り、サカシータ領の玄関口であるこの町へと先回りに成功した。

 ちなみにパズータ、チッカ、ツルギ山麓の町にも潜伏者がいたらしいが、護衛人数が増えた事と、ザコルの野生勘を恐れて様子見していたようだ。


 私達は本来、この町をただ通過するだけの予定でいた。そのため、彼らも今回は私達への接触を見送るはずだった。しかし不幸にも水害が発生し、私達はたまたま足止めされ、彼らも町に留まる選択をした。


 水害後ザコルはしばらく不在だったが、私の周りには護衛だけでなく多くの町民や山の民がいた。特に山の民は、私の側に護衛がいるなしに関わらず常に私の周りを警戒していた。

 ザコルが戻ってきて、さらに同志村の支援が入るようになってからは山の民も徐々に休息を取るようになり、一時、山の民による警戒は緩んだ。


 そんな折、私達は人の多い避難所付近を離れ、人の少ない礼拝堂へと移動した。そして私はザコルではない護衛を一人だけ連れて外に出る。

 この町に滞在してから、最も私の警護が緩んだ瞬間だった。


 彼らは、町中へ向かった私達が礼拝堂に戻ってくると踏み、例の小道で潜み続けていた。

 ザコルの言う教徒特有の匂いとは本来、いわゆるエスニック系の香を焚きしめたような匂いのようだ。

 ザコルがその匂いをかなりの遠距離からでも感知して同胞を捕らえた事を踏まえ、彼らは念入りに体を洗い、服を替え、さらには牧場で違う匂いを染み込ませる事までしていたそうだ。何だかやけに獣臭いなとは思っていたがそのせいか…。


 災害対応で状況が刻一刻と変わる中で、彼らはただひたすら警護が緩む瞬間を待ち続けた。私達が油断したからこそ彼らは踏み切った。この襲撃は、起こるべくして起きたものだった。


 そして、返り討ちにされたわけだが。


「なるほどね、元暗部ならザコルの実力は実感を持って知っているはず。だからザコルがいない時にしっかり集団で狙ってきたんだね。さらに薄暗い時間で人けのない小道。完璧だわ」


「感心してる場合すか。厄介なのはですね、既に他の町の潜伏者に連絡が行ってるって事すよ。俺らがここでしばらく足止め食ってるってバレてます。こいつら以外にもこの町に潜伏者がいたとしても不思議じゃありません。今この瞬間も動きを把握されているかもしれないってことすよ」

「結局撒けてなかったって事だね。いや、もしもザコルの言う通りにしてツルギ山経由で子爵領に入ってたら完璧に撒けてた…? でも豪雨と土砂崩れには巻き込まれたかもしれないな。いや、撒けていなくても無闇にザコルから離れなければ襲撃は起きなかったわけなんだけど…」


 未だ何もしていない民のために、罪を犯させないための我慢をしていただけませんか。


 そう言ったザコルの言葉は真実だった。私が余計な事さえしなければここでは何も起きなかったのだ。襲撃者達は『何もしていない民』なんていう善良な存在ではなかったが。


「元々この町で潜伏してたのはあの四人だけ?」

「いえ、他の町に連絡しに行ってる奴が二人いるらしいんで、証言を信じるなら最低でも六人はいます。今頃、そいつらも戻って来てるかもしれませんね」


 水害の二日前に町にやってきて働いてまでいたくらいなら、町長屋敷か門で記録を見れば手がかりくらいあるだろう。それはまた後で当たるとして。


「じゃあ、次ね。私をどうするつもりか聞いたんでしょ?」

「いやあー…、その辺りがちょおーっとエグいんで。頑張って遠回しに言いますけどぉ…」

「いーよ、時間も無いしストレートに言えば」

「いやいやいや…。とりあえず話せる所だけ話します。ね? それで勘弁してくださいよ」


 強制的に目を覚まされた教徒達は当初、呪詛のようにザコルを罵ったようだ。

 愚かなるナントカのしもべだの、氷姫を穢す悪魔だの…。詳しくはエビーに省略されてしまったが、まあまあ下劣な事も言われたらしい。


「ザコル殿がねえ、ミカを穢れた目で見ているのはどうやらあなた方のようだ、穢れの元を断ち切ってあげましょうとか何とか言って例の針一本の拷問が始まったんすよ。タイさんはニッコニッコしながらそれ見てるし、それはそれは怖すぎて思い出すだけでもヒュンですわ」

「そっかー、ヒュンかあ。具体的にどこを攻めたのかは訊かないでおくね」

「そうしてください。なんかもう後ろから射殺されそうなんで、俺が」

 私は荷車を押している二人を振り返る。エビーを直撃していた圧が、一瞬だけ鳴りを潜めた。


 後ろの狂気達を牽制しつつ、エビーからより詳細なことを聴き出していく。

 邪教が私を捕まえてどうするつもりだったのかというと。


 一、監禁・洗脳ののち『聖なる獣神』なるものに仕立て上げる。

 二、現在神として崇めている魔獣の番、および二柱目の神として崇める。

 三、仔を産ませ新しい神の母堂にする。


 シンプルに言えばこういう流れのようだ。


「よく分かんないけど、神だか獣だかにされるだけじゃなくて、魔獣と結婚させられちゃうんだね。教義本文は『尊き渡り人は我らが祈りによって新しい境地へと達し、聖なる獣神となって我らを導くだろう。かつてご光臨なされた神、ラースラ様は言った。我が同胞、神の卵たる渡り人を我らがもとに迎え、非情なる世に光射す聖域をもたらそう』だっけ」


「何でそんなの覚えてるんすか」

「ザコルが経典くすねてきたって言うから、当該の一文だけ見せてもらったんだよね。他も読んでみようとしたら取り上げられちゃったけど」

「あぶねえ。邪教の経典なんて真面目に読もうとしないでくださいよ」

「あんなの読んだくらいじゃ洗脳されないって。まあ、それはいいとして。なるほど、神の嫁にしなきゃなんないから私がザコルに穢されたような事言って怒ってるわけね。ねえ、私が人間以外の形に変化して嫁ぐのかな? 相手がどんな魔獣か知らないけど、単純に生物学上まぐわったり孕んだりするのは難しくないの?」

「ミカさんて免疫無えとか言うくせに案外サバサバしてますよね。耳年増っすか?」

「後ろの真面目くん達に刺されても知らないよ?」

 狂気達の圧が深まる。

「ヒッ、え、えーと…祈られて聖なる獣になるっていうのは概念的な話のようでしてね。あいつらの巧みな儀式? によって、こう、ミカさんも獣みたいに仕上がって、その後どう魔獣と営みをさせるのかってとこもじっくりネットリ語ってくれやがったんで、最終的にザコル殿はもちろんタイさんが特にブチギレちゃいまして…」


 エビーはこれでも物凄く言葉を選んで伝えてくれているはずだ。

 こう言っちゃあ何だが、拘束されて尋問されているような状況で、よくもそんな事をネットリ語れるものだ。そういうのを引き出す巧みな話術みたいなのがあるんだろうか。


「ねえ、その現在の神として崇めてる魔獣って何? 普通に魔界から来た子なの?」

「魔獣ちゃんの出自までは分かんねーんすよ。大体ホントに魔獣かどうかも分からねえすけど、あいつら四人が信者になるより前から教団に囲われてるって話っす。なんか、その魔獣の嫁? を召喚するために長年邪教活動を頑張ってきたらしいんすよね」

 邪教活動を頑張ってきた、とは…。


「苦労してるらしいすよ。渡り人を喚ぶ魔法陣が国家機密扱いになってからもう百年弱ですから」

「…んー、何で渡り人なんだろうね。魔獣の嫁は魔獣じゃダメなのかな。どうして渡り人にこだわるんだろ。御神体が魔獣と人が融合してるやつらしいけど、実際に融合できた事あるのかな? 光射す聖域って何? 何をもって救いとしてるの? 何で伯爵家の屋敷内で喚ばれたの? 氷姫っていう二つ名はどこから漏れ出てたの? 他にも喚ばれて狙われてるような女性はいるの?」

 疑問は後から後から湧いてくる。

「そこまではあの短い尋問じゃ分かんねえすよ。これからじっくり時間かけて搾り取る予定すから。伯爵家でも調査は続けてますし、深緑湖の街で捕まえた奴らも同じように搾られてると思います。情報を持ち合えばそれなりに謎が解けるかもしれないすね。とにかく。ミカさんは捕まったら即、貞操の危機ってヤツです。もう絶対にザコル殿から離れないでくださいよ」


 何となく自分の体を抱いて腕をさする。

 どうせ怪我くらいでは死なないだろうが、下卑た目的で体を触られるのは嫌だ。


「…ザコル」

「何ですか、ミカ」

 呟くように呼んだだけなのに、後方で荷車を押していたはずのザコルが一瞬で側に来た。いや、跳んできたのか?

「ちょっとだけ側にいてください」

「抱き上げましょうか」

「……うん」


 さっきは降ろせと言ってしまったところだが、不安をどうにかしたい気持ちが羞恥を上回り、素直に従った。

 ザコルが横抱きにしてくれたので、手を伸ばしてザコルの首に抱きつく。


「あー…俺、荷車の方手伝いますね。タイさんだけじゃ重いだろうし」

 エビーがランプをザコルの指先に預けて後方に下がる。

 ザコルは抱きついた私をそのままに、夜道を進んで行った。



つづく

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