お仕置き② 軟禁生活
二十四時間働けますかは高度経済成長期後だったので訂正しました
まあ、二十四時間働いてたらいくら高収入でも死にますよね
「早くお部屋へ」
マージがメイド長に何か申しつけつつ、慌ただしく私をいざなう。
「まま待って、トイレと、お風呂…というか魔法を。どどどうせまた下に、くることにな、ります、か…らっ」
「ミカお姉様、そんなにガタガタと震えて何をおっしゃっているの!」
アメリアに肩を抱かれる。
「厠だけよ、ユキ、介助を」
「はい、町長様」
「魔法もっ! またっ、号泣しちゃうから! 湯船を!」
泣き始めるとまた収拾がつかなくなる。これ以上周囲の混乱を招くのはゴメンだ。
「湯船湯船湯ぶねゆぶね」
「ミカ、分かりましたから。今、僕が湯船を水か雪で満たしてきます。あなたは先に厠へ。ユキ、頼みましたよ」
「は、はい…」
「坊っちゃま!」
「その強情っ張りとは、もめるだけ時間の無駄です」
ザコルは私をユキに預けるとさっさと入浴小屋へ向かった。
「俺らも手伝います!」
ザコルの後をテイラー騎士達が追う。
湯船に山盛り入れられた雪は、魔法をかけて湯にしたら湯船の半分くらいになった。そこに新しい雪をドバドバ入れてもらい、湯温を調整すれば一丁上がりだ。足し湯用の樽も同じように雪でまかなう。
「ふへ、あったかい」
湯船に手を突っ込めば、全身の震えも少し収まった。
「ミカ殿はさっさと部屋に戻るんですよ!」
「ほらほら」
せっかく温まっているのに、氷姫護衛隊がみんなして私を急き立てる。
「あ、君君、クマノくん。あの雪だるま君達が戻ってきたら、お風呂に入るよう伝えてくれる」
「あーっ、やっぱりそんなことのために湯船湯船言ってたんですね!? エビーとタイさんに言いつけますよ!!」
エビタイに代わり、私と他の隊員の距離を調整してくれていたカッツォ達幼馴染三人組が、クワッと目を吊り上げる。
「もー、そんなに怒らないでよ。ほら、元気だからいーじゃないの」
「あなたの『元気』は絶対信用するなってエビーに言われてるんです!!」
「さっきまで震えてたくせに何言ってんですか! 全くもう」
「……ミカ、調子に乗るならもう目こぼししませんよ」
ザコルにサッと肩に担ぎ上げられる。
「堀田せんぱーい、アメリアちゃんが心配しすぎて倒れそーなんで早く行きますよぉー。あ、もう担がれてる」
みんなに早く早くと急き立てられ、私は再び寝室へと収容された。
結果から言えば、私はそこから三日間、女帝に軟禁、溺愛されるだけの日々を送ることになった。
◇ ◇ ◇
初日を含む三日に及ぶ軟禁生活は、トイレと魔力消費のために入浴小屋に行かせてもらえる以外、外はおろか廊下にも出してもらえなかった。入浴小屋への通いだってゴネにゴネた結果だ。
今廊下側で部屋の警備にあたっているはずのエビーやタイタ、ザコルにさえトイレと入浴小屋の往復以外では会えなくなった。
夜も寝かしつけまでイーリアが離してくれなくなり、ザコルと一緒に寝るなんていうことはとてもではないができなくなってしまった。
女帝に身を差し出すと決めたのは自分だし、そんな風に言うのが申し訳ないくらいに快適でもあるのだが…。
軟禁三日目となる日の昼食後。アメリアが穏やかな微笑みをうかべつつ、私の頬に手を伸ばした。
「まだ三日ですが、ミカお姉様、少しふっくらとなさってきましたわね」
「そりゃ、動きもせずカロリーの塊みたいなものばっか食べてたらね…」
差し入れは毎日どっさり届いた。日持ちのしないものからせっせと食べてはいるが、全然追いついていない。
ママ友軍団からはバターたっぷりのサンドイッチが日替わりで届いた。今日の具はベリーのジャムだ。
りんご箱職人と避難民達からはなんと『うどん』が届いた。鹿や羊の骨で出汁をとったスープで、和風というより韓国風の牛テールスープにうどんが入っているような感じの料理だ。コシもあってとても美味しいが、うどんもサンドイッチも毎日届くので正直重い。もちろんそれとは別に、料理長が作る三食もあるのだから当然だ。
同志村女子と元ザハリファンの女性達からはチッカで買い求めてきたらしい可愛らしいお菓子類、その他町民達からも干し林檎に木の実のクッキー、芋料理などが後から後から絶え間なく届いている。
「つーかこっちまで太ってきたんですけどぉー」
「嘘だね、アンタは朝の鍛錬普通に参加してるでしょ。私なんかストレッチくらいしかさせてもらえないのに!」
「朝にちょっと運動したくらじゃ全然足りないですよぉー。アカイシで国境警備してた頃なんて二十四時間戦ってたしぃ」
「二十四時間戦えますか……って、どこのバブル時代? もう時代は令和だよ」
「てかウチら二十四時間くらいよゆーで働いてましたよねぇ、バブルだったらちょー高収入じゃないですかぁ」
「あはは確かに」
「もう!! やはりカズ様もミカお姉様と同類ですわ! お二人とも大人しく休んでくださいませ!」
社畜OL二人を叱る箱入り娘。ほっこり。
アメリアとカズも一緒に軟禁されてくれているのは救いだ。イーリアと二人きりでは本気で貞操が危ない気がする。それくらいには距離が近い。近いというかゼロ距離だ。
ドンドン、ぞんざいな感じのノックが響く。
ガチャ、ふてぶてしい顔で入ってきたのは……
「あれ、シシ先生。どうしたんですか」
くわっ。シシの顔が歪む。
「ど…っ、どうしたもこうしたもございません!! 一応ここでは私があなた様の主治医だというのに! 今まで、男子禁制だとか言って屋敷を締め出されていたのですよ!!」
「へー…男子禁制…」
「男の娘ちゃんはノーカンってことですかぁ?」
カズが、私の太ももを枕がわりにしている人に声をかける。
「見目麗しきものに男も女もないだろう」
「いいですかな子爵夫人! 医者にだって男も女もないのですよ!!」
真理である。
「ははは、お前も随分遠慮がなくなってきたなシシ。前職ではどうだったか知らんが、ここではそのくらい図々しくなければやっていけんぞ」
「そのあなた様が権力を使って私を締め出していたのでしょうが! 全く、早くそこをおどきになりなされ! 診察ができません!」
シシはプンスカしながら持ってきた診療鞄をサイドテーブルに置く。
「シシ先生も大変ですねえ」
ギロリ。
「それもこれも、あなた様が次から次へと問題を起こされるからでございましょう」
「ふふっ、お叱りモードですねえ…」
「馬鹿に…っ、コホン、失礼。…なんですかな、まだ本調子でないのですか」
「いいえ、元気ですよ」
シシは一瞬、探るような目つきをしたが、すぐにやめてベッドサイドに置かれた椅子を引き寄せた。
「…まあいい。診察してもよろしいですかな」
「はい」
シシは私の首や手首、下瞼、腹部の触診などを進めていく。
「前々から思っていたことですが、あなた様は、医者にかかって何か嫌な思いでもしたことがあるのですか」
「…? いいえ、どうしてですか」
「こうして触れさせていただくたび、少し硬直なさる癖が見られるからです」
…………医者ってこわい。
「まあ、克服はなさっているようですな。コマからは貧血と聞きましたが見たところ血行も悪くない。体重も増え始めたそうですし、少しずつ外に出られても問題ないでしょう。薬はコマが処方したとのことですから、私からは特に出しません。ご自身で、何か気になる症状は?」
「今は特に。食べ過ぎで胃が常に苦しいくらいでしょうか」
「立ちくらみや眩暈などは」
「収まりました」
「…収まった、か」
ジロリ。
収まる前になぜ私を呼ばなかった、と如実に語る目だ。
…いや、そう責められても私はさっさと昏睡してしまったので知らないのだが。『おおごとにしたくない』という私の訴えを尊重し、護衛達がいいようにはからってくれたのだと思う。
シシは山の民上層部の手先でもある。
山の民は、増水した川で彼らの同胞を助けた縁から、ザコルと私への恩義を日頃から熱く語る人々だ。一度は私を神と同等に仕立てて崇めようとしたこともあり、サカシータ領民以上に怒らせたら何をするか分からない雰囲気もある。ザハリが私を害したかもしれない、などと知られたら十中八九介入してきただろう。
恐らくそうした懸念を回避する策として、冷静に対処してくれそうなコマが医者代わりに呼ばれたのだ。彼の雇い主の一人であるジーク伯はテイラー伯と関係が良好で私達にも親切だが、私の身柄をどうこうする理由も権利も今のところ無い…はずだ。
ジーク伯オンジとマンジの兄弟は私達の旅の道中、隠密を使って監視…というか見守りもしてくれたし、コマという工作員を送り込んで監視…というか手助けさせてもいるし、他領の工作員であるザコルにまで『氷を守れ』とかいう不穏な指示もしてくるが、今はまだ知り合いか隣人くらいの範疇、のはずだ。たぶん。
「既に両家の間で話がついている以上、これ以上の深入りはできませんな。はあー…」
「ふふっ、嫌味ったらしい溜め息ですねえ。皆さん、吹雪は平気でしたか」
「ええ、おかげさまで。療養中の民も、それから山の民の者達も無事でおりますよ。また都合よく吹雪を呼び寄せたものですなあ」
嫌味に嫌味をかぶせてくる。
あの猛吹雪のせいで、シシや山の民が事態に気づいた時には屋敷に近づけなくなっていたのだろう。
「まさかー。流石に天候は左右できないですよ」
「どうだか!」
「変なフラグ立てないでくださいよ。ていうか、左右できるくらいなら私達がパズータ入った時点でここら一帯晴れてたんじゃないですか」
そうしたらこれほどの水害も起きずに済んだかもしれないのだ。
「…嫌味に本気で返さないでくださいますかな」
マジレスするなとは、自分から嫌味を放っておいて理不尽なことを言う。
「ねえねえ、堀田先輩、あの医者センセーとちょー仲良しじゃん?」
「カズ様、もしやあの嫌味の応酬を見て『仲良し』とおっしゃっているのかしら…?」
シシはカズの方に視線を向けた。そして全身をくまなく視認する。
「何、セクハラ…?」
カズが嫌そうに自分の両腕を抱く。
「心外な。町長様よりあなた様の診察もするよう依頼されております。カズ・ナカタ様、いえ、今はカズ・モナ嬢とお呼びするべきでしょうか。私はシシ。このシータイのしがない町医者にして、魔力視認の能力を持つ者にございます」
シシは立ち上がり、カズに向かって恭しく一礼した。
「魔力視認…? え、それってオーレン様の能力と何か違うわけぇ?」
「この力は私の生まれた一族に受け継がれるもの。人や魔獣などが有する魔力を、色や光として視認できる能力でございます」
カズは私の方を振り向く。
「先輩、オーラ診断的なやつですかぁ?」
「うん、そんな感じ。人間、魔法が使えなくてもみんな魔力を持ってるものなんだって。その巡り方を見て診療に生かしているお医者様なの。私も魔力の流れを定期的にチェックしてもらってるんだよ。ほら、私って魔力が多すぎて度々トラブル起こすし、見てもらって判明したことも多いからね。カズも診察してもらった方がフェアかなと私も思う」
「…ふーん?」
カズは胡散臭いものでも見るような顔でシシに向き直る。
「診察の結果は別室で聞いてきてもいいよ」
ここには私もイーリアもアメリアもいる。誰もカズの敵ではないが、個人情報に当たることだ。
「別室? や、別に隠すよーなこと……あー、そっか。この人、色々判っちゃうんだ。先輩のことも…」
ぶわ。カズから不穏な気が立ち上る。
実は、この軟禁生活の間に、カズには私の能力の全てを話してあった。理由はもちろん『フェアじゃない』と私が思ったからだ。それにカズの実力なら、秘密を知ったことで何かに巻き込まれたとしても充分自衛できるだろう。
…と言って打ち明けたら、『先輩ってホントアレですよね、アレ』と失笑された。アレってなんだよ。
純度の高い殺気を向けられたシシが思わず身構え、腰掛けた椅子を軋ませる。
「…っ、私は、この聖女の敵ではありませんぞ」
「口ではどーとでも言えますからぁ」
ゴゴゴゴゴ…。
「ちょっとカズ、本当に敵じゃないから牽制とかしないで。この人山の民と王家の二重スパイみたいなもんだけど一応敵じゃないから」
「ミカ様!! 何のフォローにもならぬことを言うのはやめていただけますかな!?」
しゅう、カズが殺気をしまう。
「えー、そこまで判っててなんで診察なんかさせてんですかぁ? 男の娘ちゃんに診てもらえばいーじゃないですか」
「まー、コマさんもジークの工作員だからねえ。いいんだよ、私はこのセンセーと『仲良し』だからさ」
「仲良し…」
シシが微妙な顔をする。
「カズ、安心しろ。ミカはこの医者の弱みを握っている」
イーリアが優雅に寝転びながら口を挟む。
「あ、そーなんですか。あは、弱み握ってるとかさっすが第三営業支部のラスボス。タヌキジジイに容赦ねーわ」
「タヌキジジイとは失礼な!! あなた様方の世界の常識は一体どうなって…」
ケラケラと笑うカズにシシが突っかかる。タヌキというか、以前の食わせ者っぽさ満載のシシはどこへやらだ。
シシが元々、誰より愛情深い人で、それが弱みにさえなる人だと私は知っている。
「カズ様も魔力はお高いようですが、ご自分の肉体の中で完結できているように見受けられます」
落ち着いたシシが診察結果を話し出す。カズは結局、この部屋で私達と共に結果を聞くことを選んだ。
「完結?」
「身体強化、と申されましたね。カズ様もミカ様のように魔力を一定量生成し続けておられるのでしょうが、意識のある限り、常に魔力を消費なさってもいるのでございましょう。毎日一、二時間の睡眠しかとられないような生活で、真に疲労が回復できているのか疑問はありますが、あまり体を動かさない時間が長過ぎると逆に魔力過多を引き起こす可能性もあるかと。その場合、そこの聖女様のように魔力や涙を垂れ流すことになるのかは、検証でもしてみないことには判りませんな」
カズは魔力を使って肉体を強化し、人並外れた膂力やスピードを得て戦う合気道ギャル戦士だ。目の前に水がなければ大きく魔力を発散できない私と違い、肉体に注いでいるだけである程度消費できているということらしい。
「寝過ぎは禁物ってことね…」
「ねえねえ、私の魔力ってぇ、何色なの?」
「美しい桃色でございますよ」
「やった、ピンク好きだからうれしーかも」
気になるところはそこか、という感じだが、カズが喜んでいるようなのでよかった。
シシはカズの診察は終わったとばかりに私の方を振り返る。
「少し、よろしいですかな。…彼のことなのですが」
「彼? 彼って彼ですか?」
私が廊下の方を指差せば、シシはこくりと頷く。
よろしいですか、というのは、ここで話してもよろしいですかという意味だろうか。
一応、親の一人であろうイーリアの方を伺うと、いいぞとばかりに頷かれた。
「はい。何でしょう」
「ええ、と、では…」
シシは歯切れを悪くしつつ、声を潜めようと手を口元に当てた。
「先生、少し潜めたくらいじゃ、廊下の彼には丸聞こえですよ」
あの耳の良さだ。当然この部屋の会話は聴かれている。
「…こんな小声でも聴き取れるのですか、全く、同じ人とは思えませんな」
「ふふ、世界に名を轟かせる伝説の工作員ですからねえ。で、何ですか?」
「しょうがありませんな、では」
コホン、シシは声量をもとに戻して話し始める。
「先程お見かけした時に気づいたことですが、かの方から、ほんの少し魔力が漏れ出ています」
「えっ」
「単純に考えますと『渡しすぎ』ではないかと」
「ああ…なるほどお…」
そういえば、二日前にちょっとやりすぎたもんな…。
「彼の意思で消費するのは難しいですから。返していただいて、あなた様の方で消費なさるのが手っ取り早いかと」
ドタドタッ、廊下の方で物音がする。シシが一瞬緊張したような顔をした。
「魔力過多となって感情が乱れるのはあなた様のご様子でよく判っていることです。まあ、同じ症状が出るかどうかは判りませんが、もしも感情を乱した場合、あちら様の方がより被害が甚大となる恐れがある。ミカ様、あなた様は、少し、いや、かなり自制心の高いお方のようですから」
シシがやたらに深刻な様子で言うので、私もつられて眉間に力が入る。むむ。
「自制心、そうでしょうか。私、これでも相当やらかしている自信があるんですが」
イライラしてザコルに八つ当たりしたこともあるし、人前で号泣し涙と鼻水だらけになったことも数知れない。
「ご謙遜を。肺に達するような痛みと苦しみを人に悟らせず、黙ってやり過ごせる忍耐力を持った人間など、歴戦の兵士でもそうはおりません」
バレてるなあ…。
「そんな心臓に毛が生え…いや、狂じ…ではなく、強靭な精神を持った人間ですら、あれ程の醜態を晒すような作用があるということだ。どうやら私は、魔力過多という状態を甘く見ていたようです。いやはや、医者失格ですな…」
この人は私を一体何だと思っているんだろう。心臓に毛を生やした狂人か、そうか。
「ともかく、これ以上は渡すのも放置するのも危険でございます。あとはお二人で話し合ってどうにかなさってください。間違っても周辺を更地にさせることのないように」
この人はザコルを何だと思っているんだろう。歩く火薬庫か、そうか。
では、とシシは退室していった。ドアの外で何やら睨みを利かせるエビーの姿が目に入ったが、大きなトラブルには発展しなかったようだ。
急に静かになった気がする。
「ミカお姉様…」
アメリアが眉間に皺を寄せてこちらを見ている。私は思わず手の平でその視線を遮った。
「や、むしろ三週間近く続けてやっと満タンかって感じですよね。どんだけ容量がデカいのかっていう」
「そういう問題ではございません。はあ、三週間近くも…。あの医者はああ言いますけれども、わたくし、ザコルの自制心については心から信頼していてよ」
毎日のように個室で魔力を分け与えられるような行為をされて、よく理性を保っているとアメリアは言いたいのだろう。
「あのー、それってこないだ聞いた魔力譲渡がどうとかって話ぃ? どーやってやるのかまでは聞いてなかったけどぉ」
疑問系のカズに、アメリアがほんのり顔を赤らめつつ、自分の唇をトントンと叩いてみせる。
「えっ、チューで?」
ズザザーッ、廊下で物音がする。
コソコソ、アメリアとカズが顔を寄せ合う。
「すご、野生の人ってば、毎日二人っきりで彼女にチューされてしかも一緒の部屋で寝てるのに何もないとか自制心の塊じゃん」
ぶっちゃけた表現は控えてほしい。
「彼ならば周辺を無闇に更地になさるようなことはないと断言できますわ。やはり、我が父の信頼は伊達ではありません」
「はは、他ならぬテイラー伯とアメリア嬢にそこまで信用していただけるとは、光栄だなザコル」
シーン。廊下からはもはや何の音もしない。
くはっ、とイーリアが笑い、むくりと体を起こす。
「頃合いだな。あいつへの罰もこれくらいでいいだろう。ミカも寂しがっているようだしな」
バレてるなあ…。
「ええー、私ぃ、もっと堀田先輩とお泊まりしたかったぁー」
「わたくしもですわ。ですが、ザコルに負担を強いたままでは気の毒ですもの、仕方ありませんわね…」
「えっ、あの、まさか、この流れで解散…」
「ああ。だが、鍛錬はあと三日ほど休め。サンドイッチや麺料理などは止めさせるが、ここにある菓子類などは全て食べろ。いいな」
それがお転婆な聖女への仕置きだ、とイーリアはニカッと笑って言った。
つづく




