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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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猛吹雪② 『やり直し』をしてきてください

「ナカタの言う通りですね」

「わ」


 ザコルにサッと抱き上げられ、すぐベッドに降ろされる。そして靴を脱がされ、布団の中に脚をしまわれた。

 そしてベッドボードに置かれたクッションに身を預けるよう言われる。


「本当はきちんと横になっていてほしいですが、最大限の譲歩がそれなのでそこから動かないでください」

「はい。あの、毛糸…」

「今日は! 何も! するな!!」

「…はい」


 ドカッ、とザコルは見張りのごとくベットサイドの椅子に座った。そして自分はどこからかかぎ針と毛糸を出して何か編み始めた。


 ロットも近くにやってきてじっとその手元を見つめる。


「…ねえザコル、何からツッコんでいいか分かんないんだけど、とりあえず何なのそれ。羊のようだけど違うような…」

「ええまさに、羊のようで羊じゃない、少し羊っぽいアミグルミです。ミカの残念な絵心が反映されたもので、彼女はどうせこれを量産するつもりでしょうから、僕が代わりに作っているんです」

 ロットが私の方を見る。また変な女を見る目をしている。

「同志の一人が聖女の故郷に伝わる縁起物だと吹いたらチッカでよく売れたそうで」

「吹いたら…。まあ、言ったもん勝ちよね。異世界のことなんて誰にも判らないんだもの」


 パンパン、エビーが軽く手を叩いて場を締める。


「えー、第五百七十二回、女帝様にどーやって誤魔化そーか考えるの会ぃー」

「ごっ、五百七十二…!? アンタ達そんなにやらかしてんの!?」

「冗談に決まってんでしょ。今まではそうそう誤魔化したことも誤魔化せたこともねーすよ。分かってて見ないふりは何度もしてくれてますけどお」


 なんだ…、と胸を撫で下ろすロット。リアクションが激しいのでついからかいたくなる気持ちは解る。

 コホン、ザッシュが咳払いをする。


「今回は…、というか今度こそ弟が一人減ることになるかもしれないが、正直に報告すべきだとおれは思う。ただ、それをしてしまうとだな…」

 ちら。私の方に視線がくる。

「あの聖女が、二度とおれ達をアテにしなくなる気がして…」

「俺もそのように思います。ミカ殿のご意向を叶える努力を怠ってはなりません」

 タイタがうんうんと頷いている。


 彼は最初から、私がザハリを生かしたいと考えていたからこそ、猟犬ファンの集いで預かると言い出してくれたんだろう。


「でもねえ…。正直に言わないまでも、ほんのチョットでも血が流れただなんて知られたらザハリの首なんか即飛ぶわ。市中引き回しの刑にでもした後に断頭台行きよ」

 ちら。ロットも私の反応を見てくる。


「えっと…。ザハリ様に関しては、見せしめにすればするほど傷つく人が出ますから。ファンや元ファンの人達の立場も悪くなりますし」

「ミカさん、今はあの人らのことなんて…」

 何か言おうとするエビーに首を横に振ってみせる。

「昨日は、彼女達も私達を庇うために集会所まで来てくれたよ。それに、彼女達ほど過激派じゃない、普通のファンだっているはず。それも相当数…。数的に無視できないのもあるけど、これ以上悲しませたくないよ。私が言うのもなんだけど…」


 いくらスキャンダルがあったといっても、推しの変わり果てた姿を見て平気でいられる人は少ないはず。万が一ヤケを起こさせたりしたら、本人にとっても周りにとっても悲劇だ。

 それに、十年前ザコルが王都に行き、帰省を最低限にしたのは、ザハリのためであり、そのファンである彼女達を思ってのことでもあった。民の気持ちを第一に行動したザコルの想いを、私のために無碍にしたくはない。


「彼が余罪を増やすのなんか解りきっていたことです。承知の上で会い、手出し無用と言って、しかも油断したのは私ですから。完全に自業自得なんですよ。ですから…」


 今度はザッシュが首を横に振る。


「……いいや。正直、あなたを護るべき手駒の一人としては『どうして』という気持ちも強い。だが、一人の兄としてはそう単純にあなたを責められない。おれ達では、ザハリの澱みきった心の水面に石を投じることすらできなかった。ザコルを自棄に走らせていた、その根本を取り去ってやることだって…」


 ザコルが手を止めてザッシュの方を見た。


「ミカ殿。洗脳班とやらに預ける前に、今のザハリ自身から言葉を引き出したかったのだろう? ザコルが弟に劣るところなど無く、卑屈に思う必要など無いのだと。それから、ザコルが民を、あいつのファン達を庇う理由も…。あなたは、弟が不器用なだけのお人好しで、優しい性質であることをよく知っている」


 ザッシュの言葉に、ぐっと込み上げるものがある。


「そんな立派なこと考えてないです。…ただ、せっかく文句を言う気になったみたいだしと思って…」

 私はザコルの止まった手元だけをちらりと見て、自分の手元へと視線を戻した。

「ごめんなさい。謝って済む問題じゃないのは理解しています」

「あなたばかりを責められないと言っただろう。これは、おれ達全員の力不足だ」


 ザッシュの気遣いに胸が潰れそうになる。私の思い上がりのために、また……


「違います、全て僕のせいです。ミカはただ、僕達のために心を整理する機会を作ってくれようとしただけだ。なのに、僕がザハリに乗せられて殺そうとしたから……! 一緒に処すなどと言ったのも僕のためでしょう。いくら兄弟でも、僕一人で勝手に罪人を処刑すれば処罰の対象になるからだ。やはり、僕さえ冷静に話ができていたならこんなことには」

「違いますよザコル、そもそもあなた方二人を興奮させたのは私のせいで」


 ガコッ、シュタッ。

 忍者が天井から舞い降りてきた。


 サゴシは、いつも飄々としている彼らしくもなく、あからさまに眉を寄せてザコルを睨みつける。


「……俺にも、アレを止められる手段がありました」

「…? サゴシ、君は…」

「それだけです!」

 シュバ、忍者はまた天井に戻っていった。


 ………………。


「…あーあ、サゴシまでツンデレ化しやがって。うぉっ、吹き矢飛ばすんじゃねーよ! それ毒矢だろ!」

 エビーが天井の穴に文句を言っている。

「…コホン。まあとにかく、俺らテイラー騎士を含むあの場にいた人間全員に大なり小なり責任はあるとして。問題なのは、当のミカさんが誰にも責任取ってほしくないってとこすよ」

「無茶言うわよねえ…」

 ツンデレ悪役令嬢…じゃなかったロットが困ったように片手を頬に当てた。


 私も無理だ無茶だとは分かっている。分かっているからこそ、謎の令嬢ムーヴで命令を下してみたりしたのだ。

 だが、子爵夫人であるイーリアや正真正銘伯爵家の令嬢であるアメリア相手にはあの手は通用しない。渡り人とかいうあってないような切り札以外では、彼女らの身分を超えるカードは持ち合わせていないからだ。


 ガシガシとザッシュが後頭を掻きつつ窓の外を眺める。


「吹雪に感謝したのは初めてだ。時間があるというのは心強い」

「ほんとそれよねー。今もうちの隊員使って地下牢の見張りと掃除させてるけど、吹雪でもなきゃ間に合わなかったわ。あの血溜まり…。後で見てほんとゾッとしたわよ。石畳の隙間に染み込んだのはちょっとやそっとじゃ取れないから…あ、ミカは気にすんじゃないわよ!?」


 謝ろうと思ったのに釘を刺された。


「あれが見つかってたら、もうあたし達も一緒くたで断頭台に登らされてる頃よ。…あたしもね、別にそれでもよかったと思ってるの。でも、それじゃあミカが一生気にしちゃうわ」

「では、具体的にあの義母の目を誤魔化す方法を思いつくか」

「いいえ、ちっとも。しかも後バレでもしたら、それこそ今以上にややこしいことになるでしょうね…」


 うーん。人並外れて屈強な二人が頭を抱える。

 私は布団をはぎ、その場に正座した。


「ミカ、動くなと…」

「ちょっ、何でミカがドゲザすんのよっ! 気にすんなって言ってんでしょ!?」

「やめろミカ殿、分かった、分かったから! 今考えているところだ!」

 はっ。私は思いついた。

「そうだ、イーリア様にも私が土下座で頼み込みましょう! 本場のスライディング土下座、見せてやりますよ…!」

「動くなと言っているだろうが!! ほら、ちゃんと布団に入って寝てろ、全く世話のかかる!!」


 オカン…もといザコルに正座した体勢のままゴロンと転がされ、布団を被せられた。




「ていうか状況証拠しか無いんですし、あの件に関しては黙っておけばいいんじゃないですか。嘘つかないギリギリのとこまで報告する感じで」


 ぎろり。布団から少し顔を出しただけでオカンに睨まれた。めげない。

 ザッシュがそんな私に人差し指を向ける。


「その貧血をどう説明するつもりだ。いつ吹雪が止むとも限らないぞ」


 むう。確かに一日や二日では治らないかもしれないが。

 オカンも頷いた。


「誰がオカンだ…ミカは、物を大事にするでしょう。鍛錬で服がほつれるたび、丁寧に繕って手入れして着ていたような人間が、いきなり着ていたものを全て暖炉に放り込んだんですよ。只事じゃありません。あの濃紺のコート、気に入っていたでしょうに…」


 ぬう。あのコートを着ていないだけでも追求のネタを作るということか。


「嘘つかないまでも、隠し事なんてさせたらミカさんはともかくサカシータ兄弟は無事じゃすまねーすよ。どんな尋問が待ってることか」

「だから私が土下座で謝るって言ってるのに…」

「ミカに謝らせでもしてみなさい、それだけであたし達吊し上げくらうに決まってるわ。大体、アンタにそんなことさせるくらいなら自分で断頭台に登るわよ!」

「お前…」


 じろ、はあ。ザッシュがロットを睨んで溜め息をつく。


「なっ、何よっ」

「何というか、昨日から随分と殊勝になったと思ってな…。こっちは何ヶ月、いや何年もお前の素行に頭を悩ませてきたというのに、ミカ殿にかかるとこうもあっさりと…」

「ち、違うわよっ、ミカが、ミカが泣くから…っ、ねえザコル!?」


 ザコルが顔を上げる。面倒臭そうな顔してる…。かわ…


「…まあ、そうですね。ミカに謝られたり泣かれたりすると、自分がとてつもなく愚かになった気がします」

「それよ!! ていうかシュウ兄様だってミカにいいように転がされてるって、自分で言ってたんじゃないのよっ!!」

「ああ。その通りだ。転がしたとてミカ殿には何のメリットも無いのにも関わらずな。だからこそ、弟達に向けてくれた…もはや愛としか呼べぬ心遣いを、安易に無碍にしたくなくて悩んでいるのだ。あの義母こそは愛よりも規律を重んじる我が領きっての番人…」

「まー! シュウ兄様から愛とかいう単語が出てくるだなんて! ミカ、この女見知りの朴念仁に何したのよ、ねえ」

「議題に関係ない事でミカ殿に絡むな。うるさくしてすまない、ミカ殿」

「いえいえ」


 賑やかだがロットから悪意は感じられない。


「ザッシュお兄様は元々、誰よりも愛情深いお人ですよ。私が特別に何か変えたわけでは」

「ねえねえ、気になってたんだけど、何でシュウ兄様をお兄様って呼ぶわけ? あたしだってザコルの兄よ? ん?」


 悪意はなさそうだが、ぐいぐいくるな…。真面目な議論に飽きたんだろうか。


「ザッシュお兄様が妹のいるエビーを羨ましいって言うから、このミカが妹をしますって約束したんです」

「何よそれ、ズルいじゃない! あたしだって妹欲しいわ!?」


 ザコルがそっとロットの視界を遮るように椅子をずらす。


「おい調子に乗るな。お前に妹など与えたらそれこそ一生『人形』にでもして離さなくなるだろうが。カズ殿が山犬殿の籍を選んだのもそういう理由だぞ」

「う…っ、あの子、本当に嫁にくるつもりもないのね…! 心臓が、心臓が痛いわ…!!」

 狭心症だろうか。マッチョの人には多いと聞く。

「今回のことで少しは自覚しただろうが、お前もザハリと同じ穴の貉だ。愛と称し、自分の満足のために人を縛り付けることの欲深さ、業の深さをとくと知れ」

 むぐうううう、とロットが胸を押さえて蹲った。




「お嬢様に、ご相談申し上げてはいかがでしょうか」


 脱線しまくって収拾のつかなくなった場に、タイタの落ち着いた声が響き渡る。蹲ったロット以外の視線が彼に集まった。


 私はモゾモゾと布団から半身を出す。

「お嬢様って、アメリアに? でも」

「ミカ殿がご懸念なさるのは、お嬢様がミカ殿の身に起きた事実を知って、お心を乱されるのではということでしょうか」

「そう、そうだよ、あの子、今度こそ卒倒しちゃうかも…」

 エビーの方を見れば、こめかみを押さえつつも頷いた。幼馴染も同じ見解のようだが…。

「もし、俺がお嬢様のお立場であれば……いえ、流石に恐れ多いでしょうか」

「いいよ、最後までちゃんと話して。何も畏れなくていいから」

「では…」


 コホン、と咳払いをしてタイタは口を開く。


「お嬢様は、ミカ殿のお力になれないことにこそ、お心を痛めていらっしゃるのではありませんか。カズ殿もおっしゃっていました。心配さえさせてくれないのかと、悲しそうにしていらしたのだと」

「それは、そうだね…」


 アメリアの立場であれば、今も私の部屋で何を話し合っているのかとヤキモキしていることだろう。カズの乱入によって、ザッシュとロットをここに招いていることも恐らくバレている。



「して、皆様が今悩まれている件になりますが、皆様のお立場からして、子爵夫人としてサカシータ領で実権をお持ちであられるイーリア様に対し、此度の件に関してはどうしても筋が通せない、これに尽きるのかと思われます」


 うんうん、皆してタイタの言葉に頷く。


「イーリア様にもお立場というものがございます。伯爵家から預かった姫様に対する度重なる非礼、一度は姫様ご本人のご意向によりご厚情を承ることもできたでしょうが、今回は二度目になります。厳しいご判断を下されねば、テイラー家を軽んじることにもなり、サカシータ家全体の問題ともなりかねません」


「全くその通りだ。先ほどは義母に愛がないかのように言ってしまったが、義母の立場を思えば致し方ないことだな」

 ザッシュはより深く頷いた。


「それらの問題を解決し、かのお方が『致し方ない』とご判断なされるようにするには、他ならぬテイラー家の意向によって事態を収束する必要があるかと。しかし、当事者であられるミカ殿の『ご意向』では、説得材料としては……」


「私が『いい』って言ったくらいじゃ弱い、ってことだね?」

 タイタはこくんと頷く。


「当事者でなく、またテイラー伯の名代として、イーリア様およびサカシータ子爵様に直接ご意見できるお方は、アメリアお嬢様をおいて他にいらっしゃいません」


「なるほど」

「最初っからお嬢にしか解決できねえってことか…」


 流石は深緑の猟犬ファンの集いにおける規律の番人『執行人タイタ』だ。元貴族子息だからか、身分や家のメンツなどへの考慮も堂に入っている。


「でもよ、もしお嬢がザハリ様を許さねえようなこと言い出したらどうすんすか。それこそ退路がなくなるんじゃ」

 エビーの言葉にタイタは首を横に振る。

「お嬢様はきっとご協力くださる。ミカ殿のご意向を叶えるための努力を怠るなとは、アメリアお嬢様のお言葉だ」

 最近アメリアとタイタは編み物をしながらよく話しているようだが、そんなことを話していたのか…。


「編み物初心者同志、いつかはミカ殿にお贈りできるようなお品をと、お話し申し上げていた時のことだった」

「雑談の意識高えな…。タイさん、やっぱお嬢と気が合いますよね。育ちが近えからか話も弾んでっし」

「まさか。お嬢様のご厚意でお相手させていただいているのに過ぎないぞ。我が家は所詮、領地も持たぬしがない中央貴族風情。富のテイラーとも謳われるお家のご令嬢とは、育ちに雲泥の差がある」

「そんなん言ったら俺んチは所詮しがねえパン屋風情ですけどお?」

 お嬢様の幼馴染が不満そうに口を尖らせた。


 むくり、ロットが身を起こす。

「今、中央貴族とか言った…? そこのアンタ、貴族だったの…?」

「いえ、今は平民でございます。我が家は爵位を没収となりましたので」


 かくかくしかじか。


「はあ!? ザコルが粛清で潰した家の子息なの!? そんであのザコルを狂信する秘密結社を作った黒幕だっていうの!? はああああ頭おかしいんじゃないの!?」

 いいリアクションだ。




「…はあ、アンタの周りは変人ばっかりよ」

「よく言われますが、その周りもロット兄様にだけは言われたくないかと。というかタイタを貶さないでくれますか。彼には返しきれないほどの恩があるんですから。彼こそは、ミカに並ぶサカシータ領の救世主だ」


 ザコルがロットに威圧まじりの睨みを利かせる。ザコルは自分のことではあまり言い返さないが、自分の尊敬する人のことではしっかり言い返す人だ。好き。推せる。


「わ、分かってるわ、ちゃんと謝るから許してちょうだい。タイタ、殿」

 素直に頭を下げたロットに、タイタが「そのような…」とアワアワしている。


「タイタの案に乗りましょう。ロット兄様、アメリアお嬢様に先触れを出して、ご承諾いただけるようなら『やり直し』をしてきてください。でなければ話が進められませんので」

「え…っ、そ、それは、もちろん、こんなことも無ければ真っ先にしたかったことなんだけれど…」


 ちら。ロットは何故か私に助けを求めるような視線を投げてきた。


「ミカを当てにしないでくれますか。彼女は動かせません」

 ぎく、とロットが肩を上げる。

「だ、だって、だってあたし、きっとまた余計なこと言うわよ!? アメリア様ってあのいかにも儚そうなご令嬢よね!? あたしみたいなののことなんか絶対ドン引きしてるわよ!!」

「自分で蒔いた種ではないですか。アメリアお嬢様はお若いですが兄様よりは数段『大人』でいらっしゃいますから。真摯にドゲザでもすればきっと解ってくださいます」


 ロットはすげない態度のザコルから目を話し、ザッシュの方を縋るように見た。


「…はあ、アメリア嬢にこれ以上失礼を重ねたくないのだが…。ロット、せめてこちらから伺うのが筋だ。わざわざ許すために自ら伺ってくださるなど、そこの聖女殿以外にはあり得んからな」

「てかそっちが呼んだんじゃねえすか」

 ジト、とエビーがザッシュを睨む。

「まさか。話を聞いてすぐに駆けつけるなどとは露ほども思っていなかった」

「…ええ、あたしでさえあんなにすぐ来るとは思ってなかったわ。母様も『一晩は待つ。いらっしゃらなければ部隊もろとも市中引き回しだ』なんて言ってたもの」


 あ、そっか。ザッシュからイーリアの言付けを伝えられた時点では思いも寄らなかったが、彼らは断られることも念頭においていたのか。

 無視するか、あるいは数時間でも待たせることによって『許さない』とか『許したくない』などと意思表示する選択肢もあったわけだ。


「こちらから押しかけては許しを強要することになりかねないからな」

 ふむ。

「なるほど、そういう誠意の示し方もあるんですねえ。勉強になります」

「なぁーに呑気なこと言ってんすか姐さん、そんなんじゃ舐められるってんですよ」

「別にいいでしょ。私は所詮『ザコルの周りがぜーんぶ仲良しこよしじゃないと気が済まないタイプの女』なんだから。ふふっ、当たってるけど、ふふっ」

「ミカ、それ…っ、違うのよ、舐めてるわけでも貶したいわけでもなくて…っ」

「大丈夫、解ってますよ。ロット様は話せば解ってくれる『いい大人』ですからね。どうか、うちの可愛いアメリアによろしくお伝えくださいますか」

「え、あ…っと…」


 ロットはクッションにもたれたままの私の顔をじっと見つめ、そして俯いた。


「はい…」



つづく

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