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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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珍客乱入② やるじゃんお子ちゃま

「やるじゃんお子ちゃま…。もう、ちょっとその才能に嫉妬しかないんですけどぉ…。サカシータ一族マジでエッグいわー」

「…スン、ヒック、いちげきいれられなかったぁ…」


 カズとイリヤが何だかどっちも負けたような顔で落ち込んでいる。


「イリヤ、頑張ったな。一撃入れられなかったのならば抱っこは無しだ。代わりにこの後はミリナ義姉上を見舞いに行こう。どうだ?」

「い、いく! 行きます!」

「えーちょっとぉ、ウチと手合わせしてからにしてくださいよぉ」

「分かった分かった。よし、イリヤの仇を討ってやるか」

 イリヤの前に跪いていたザッシュが立ち上がる。全く面倒見のいい人だ。

「がんばってくださいシュウおじさま! きょうてきです! でも、くやしかったけど、楽しかったからカタキじゃないです!」

 カズが大きな瞳をぱちくりとする。

「楽しかったとか本気ぃ? ちょっと厳しくしすぎたかと思ってたのに…。ねえお子ちゃま、ちょっとぎゅっとしてもい?」

「はい! カズさま!」

「慣れんのはっや。天使かよ」


 カズは手を広げたイリヤを遠慮なく抱きしめ、いーこいーこと撫でくりまわした。


「お子ちゃま…ううん、イリヤ。アンタは小っちゃくても強いんだからさ、何でも怖がらずに楽しみなぁ? 泣いてもいいけど、その分たくさん笑って生きなよぉ。自分勝手でもなんでも、楽しく生きたもん勝ちなんだからぁ」

「く、くるしいですカズさま」

 イリヤがカズの豊満な胸に埋もれてあっぷあっぷしている。


 ゴゴゴゴゴゴ…。


「ぐうううう、くっそぉ羨ましいなんて思ってねえぞぉ…!」

「あ、野次三人衆」


 彼らはイリヤとカズによる雪玉集中砲火で何度も何度も沈められていた。その分、何度も何度も場外から当てて蘇ってもきていたが。とにかくしぶといのが彼らの長所である。


「お前達、子供相手に大人気ないぞ」

 ぐるーり。三人の目がザッシュに集まる。

「な、なんだ?」

「ザッシュの旦那ァ…アンタだよアンタァ…何さっきから女の子に取り合われてんだァ…? 独身男の星だって自覚がねえようだなァ…?」

「何度も言うがそんなものになった覚えはないのだが…?」

「野郎ども、やっちまえええ!!」


 わーっ、野次三人衆の声かけに領民の独身男性が一斉に応じる。

 そこになぜかテイラー勢のエビー、カッツォ、コタ、サゴシまでもが一緒になって飛びかかった。


「なっ、なぜ貴殿らまで!?」

「俺らんこた敬称なんざいらねえって何度も言ってんだろ水くせえんだよザッシュの旦那ァ!」

 ガキィィン、エビーの剣がザッシュの鉄槌に当たって火花を散らせる。

「そうだそうだ女が苦手とか言ってたのに!!」

「うちのお嬢のみならずギャルや同志村女子まで!」

「イリヤ様から一番に懐かれてるのも許せません!! でも顔は好きです!!」

 最後の変態はよく分からない事を叫んでいるな…。


 独身男性対、ザッシュの構図で大乱闘が始まってしまった。

「ちょっとぉ割り込み禁止なんですけどぉー」

 不満げにするカズに、ケケッ、とコマが笑う。

「おもしれーじゃねーか、おい爆乳娘、あれに参戦してやろーぜ」

「爆乳とかセクハラ発言やめてくれますかぁ。まーいーけど。赤毛のおにーさんもいっとく?」

「お、俺ですか? いかにザッシュ殿といえど、多勢に無勢では」


 ブォン、凄まじい風切り音がし、数人が悲鳴を上げてあちらこちらに吹っ飛ぶ。


「全く、こんな人数でかかられては手加減できんぞ」

 ふう、とザッシュが鉄槌を構え直す。

「…ははっ、俺との手合わせではかなり力を抑えていただいていたのですね、なるほど」

 ニコォ…。

「やば、赤毛のおにーさんがマジになっちゃった。長いからタイくんって呼んでい?」

「もちろんお好きにお呼びください」

「おら、やっちまおうぜ。力量も気になってたしなあ…」


 くい、コマが親指で指し示すと、タイタとカズが動き出し、三人でザッシュの周りを取り囲む。無策で飛びかかった先陣とは一線を画す、実力派メンバーだ。


「ど、どどどうしましょうミカお姉様、流石にあの三人はザッシュ様でも一度に相手できないのではなくて!?」

「そうかもですねえ、ザッシュお兄様が苦手とする戦闘スタイルの人が二人もいますからね。でも、お兄様は多少食らってもダメージが少ないそうなんです。お兄様を本気で獲るには何か決め手が足りないような」

「どうしてそう冷静に分析なんてできますの!?」

「まあ、ザッシュお兄様はお強いのでよっぽど大丈夫って話ですよ…わっ、ぐぇ」

 ぎゅううううう。

「きゃあ、お姉様!」

「ぐ、ぐるじいでずざごる…」


 ザコルの豊満すぎる筋肉に押しつぶされ、息が止まりそうになる。背中をバシバシと叩いたら腕はすぐに緩んだ。


「あ、すみません。先程、うっかりナカタをほめてしまったので、ミカが嫌な思いをしていないかと思いまして」

「はあ、はあ……それと私を締め上げるのとに何の関係が?」

「と、いうのは方便で、ただ、僕の事も構って欲しいと思っただけです」

 今度はふわりと抱き寄せられ、いーこいーこと後頭部を撫でられた。

「ふへへええ…」

「お姉様ったら先程のサゴシと同じ顔をしていますわ! 騙されないでくださいませ!」


 ザクザク、何人かが雪を踏んで近づく音がする。


「アメリ様のおっしゃる通りですよ。猟犬様、ご自分はミカ様を放っぽり出して雪合戦やアイキドーに夢中だったくせに、何おっしゃってるんですか?」

 ジト…。

「…ふむ、全くその通りですね。鋭い指摘をありがとうございますピッタ」

 ザコルは私をいーこいーこと撫で続けながら謝ってくれた。

「ミカ様も、猟犬様の事になると何でもお許しになるのはそろそろやめましょう」

「そうですよ!」


 ザコルと私を叱りに来たのはピッタ、ユーカ、カモミ、ルーシ、ティスの五人だ。


「何でもは許してないよー。みんな、昨日は不安だったんじゃない? 今日は魔獣達の参加を快諾してくれてありがとうね」

「いいえ、あのミリューちゃんが連れてきた子達ですから、正直不安はあまりなかったです。昨日はすぐ退避する事になってよく姿を見られませんでしたけど、魔獣達があんなに可愛らしい子達だったなんてと感激してました」


 視界の端には、子供達と一緒に雪にまみれて遊ぶ魔獣達がいる。思っていたよりもずっと人懐こいようだ。彼らも昨日はミリナを守らなければとピリピリしていたのかもしれない。

 イーリアがイリヤを連れ、魔獣と戯れる子供達に紹介しに行った。


「ミカ様、ミカ様がお作りになった『アミグルミ』が完売いたしました」

 ティスの報告に一瞬反応が遅れる。

「…は? 売れた? あの微妙な編みぐるみが?」

「ええ売れたんです。あの、羊のようで羊じゃない、少し羊っぽいあのアミグルミが」


 某ラー油みたいな呼び方されてる…。

 ちょっと戯れに作ったものを十体くらい預けてあったが、まさか売れたとは。


「兄が聖女様の世界の縁起物だと触れ込んだらあっという間に売れてしまったんですよ。申し訳ありません、勝手をいたしました」

「ほー縁起物とは考えたね。売れたならいいよ。縁起物って事にしておくから。干支の置物みたいな感じで」


 私がこちらに喚ばれた年は確か寅年だったので未年なんかまだまだ先だが、万が一ツッコまれたら羊ではなく兎だとでも言い張ればいい。売れるのならば追加で作ってまた預けておこう。


「ありがとうございます。他の作品も依然として売り上げ好調ですよ」


 現在、シータイで起きた空前の編み物ブームのせいで創作意欲を持て余した人々が続出している。せっかくだからと領の内外から毛糸をかき集めてどんどん編んでもらい、出来上がった衣類はカリューにも届けさせた。が、まだまだ余力はあるため、同志の商会に委託し、チッカの市場で試験的に売り出してもらっているところだ。


 基本的には素人作品が多いのでそう高値をつけているわけではないが、売り上げの一部はきちんと製作者にも渡るよう帳簿の管理もお願いしている。売り出してまだ一週間くらいだが、既にちょっとした金額を売り上げている製作者もいて、それがさらに皆の創作意欲につながっている。


「モナ領以外の領からも噂を聞いて買いに来たという人がいるんですよ」

「ええ、意外にいるわよね、どこまで噂が広がっているのかしら」


 合同委託しているピラ商会とダットン商会のスタッフであり、売り子もしているティスとルーシが首を傾げる。


「サカシータ領への支援と思って買ってくれてる部分もあるんだろうねえ。同志もかなり混じってるんじゃないの」

「ふふ、そういう方は見れば分かります。明らかにコソコソしてますし、大体深緑色の服や小物を身につけていますから」

「コソコソ…。それ、万が一同志じゃなかったりしたら危ないね」

 マージに視線を移すと、彼女も頷いた。

「ええ、そうですわね。一応影も同行させて警戒はしておりますけれど、牽制目的の護衛もつけましょう」


 マージはそう言うと、ザッシュにしぶとく飛びかかっていた野次三人衆を呼びつけた。


「何でしょう町長様ァ!」

 三人はシュババッと転がるようにしてやって来た。


「同志村の方々がチッカで編み物を売っているのは知っているでしょう。まだ大きな問題は起きておりませんが、彼らに危害を加えるような輩が出ないよう、あなた達が屋台の近くに立って牽制なさい」

「いよっしゃあ…! じゃなかった、俺らにお任せを!! このお嬢さん方には傷一つつけさせませんぜ!」

「男性の方々もお守りするのよ、彼らは戦闘員ではないのですからね。いいかしら? 調子に乗ってくれぐれも真っ当な客まで追い払わないように」


 マージがそう釘を刺すと、三人は前科でもあるのか少々気まずそうに笑って、準備をしてくると言って町に戻って行った。




「いやはや、今日も今日とて眼福でしたな」

「ええ、雪まみれになって喜ぶ猟犬様などレア中のレア、もはや美術館の最奥に飾られるべき芸術品」

「新キャラ、カズ・モナ嬢もこの世のものとは思えぬ実力でありましたな」

「猟犬様も随分と買っておられた。あのお方が心底憧れの目で見る存在など、それこそレアですぞ」

「見た目はギャルだというのに」

「ええ全くギャルだというのに」


 うんうんうん、同志達が集まって今日の見どころを反芻している。この反省会ならぬ『反芻会』は毎日鍛錬後に十分から十五分くらいの時間で行われている。というかそれ以上の時間になるとそれぞれの部下に回収される。カファがさりげなく太陽の高さを伺っているので、今日もそろそろ回収のお時間だ。

 何だかんだ、彼らは商隊リーダー陣として毎日忙しくしているのである。


「あのアイキドーという武術は我らもぜひ会得したいですな、猟犬様の新しい手札ともなりそうだ」

「ねー、集いのおにーさん達もやるぅ? おねーさんが手取り足取り教えてあげよっか」

「ひい!! ギャル!!」

 自称コミュ障の同志達がギャルに距離を詰められて飛び上がる。カズは揶揄うようにニヤリと口角を上げた。


 ちなみにカリューでは、深緑の猟犬ファンの集い同志達の事を『集いの』などと呼んでいる。カズは水害後もちょくちょくカリューに顔を出しているようだし、あちらに滞在している『集いの』メンバーについて少しは生態を知っているのだろう。


 ドドドドドドドドド…

「あ、やば」


 遠くから響いてきた音に、カズがぎくりと顔を上げる。

 まさか雪崩か何かが起きたんだろうかと私もキョロキョロしてしまったが、ザコルがスッと指差した方向に僅かな雪煙が見えた。


「な、なな、何ですかあれ!? 騎馬の集団に見えますが!?」

 マネジが焦りの声を上げた。

「この距離でよく見えんね、集いのおにーさん。はーあ、もう見つかっちゃったかー…。たぶんロット様だよぉ」

「ロット様!? ま、まさか六男で現サカシータ騎士団長のロット様ですか!?」


 ざわ。サカシータ一族のオタクでもある同志達が色めき立つ。

 放牧場に残っていた他の人々も轟音のする方向に目を向け始めた。


「カズ殿、まさかロットに黙って出て来たのか」

「はい。あまりに過干渉なんでぇ。反省はしてませんよぉ」

「そうか…」

 ザッシュが同情でもするような顔でカズの傍らに立った。


「へへっ、ギャル様も変態に取り憑かれてんすねえ」

「どうしましょう、一旦町にお戻りになりますか、カズ殿」

 エビーとタイタもカズを庇うように前に出た。


「え、やば。ウチの事まで守ってくれる気ぃ?」

「あなた様は、我らが主人であるミカ殿にとって大切なお方でありますから」

 タイタがにっこりと笑って優雅に一礼する。

「ひぇ、騎士やばー、先輩いつもこんな扱い受けてんのぉ!?」

 私もザコルを連れてカズの側に行く。タイタは私達にも一礼した。

「タイタはみんなに礼儀正しいよ。カズが嫌がってるならこのまま庇わせるけど、どうする?」

「……えっと、心底嫌とかじゃないんですけどぉ、ちょっとだけ、息苦しい時もあってぇ…」


 カズが少しだけ俯く。

 普段飄々とした姿しか見せない彼女にしては珍しい。これは、相当な束縛でも受けているのだろうか。


「カズ様、わたくしと一緒に町に戻りましょう。その方がよろしいわ」

 アメリアがイーリアとハコネ、護衛騎士達を連れて駆けてくる。

「え、でも、逃げるのは…」

「カズ、ロットの相手は私達でしておこう。ミカやアメリア嬢と共に戻れ。皆の者、門は一旦閉じさせる! 撤収だ!」


 カズが逡巡している間に私は彼女の背中を押し、急いで町に戻ろうとする領民や同志村メンバーと共に駆け出した。



 ◇ ◇ ◇



 同志達やその部下達は仕事があるからと、門内に入った所で別れた。私達だけにしてくれたとも言う。サカシータ家やテイラー家の内部の話は、要請がない限り聞かないよう配慮してくれているのだ。


「カズさま、げんきを出してください。おやしきについたら、きっとはちみつぎゅーにゅーを出してもらえます」


 イリヤに手を握られ、とぼとぼと歩くカズ。

 半ば家出のようにシータイへ来てしまったことに後悔はないようだが、迎えに来たロットを無視してまで逃げるのは彼女の主義に反するのかもしれない。


「はちみつぎゅーにゅーかぁ、ちょー美味しそうじゃん。楽しみぃ」

 へらりと笑うカズに、イリヤもにこりと笑顔を返した。


 門の外が騒がしい。怒号が聴こえる。はっきり聴こえるわけではないが、カズはどこだと追求している様子だ。


「シュウ兄様、少しは知っているのでしょう」

 ザコルが少し声を落としてザッシュに事情を訊く。


「…まあな。決して虐げているとか監禁しているとかではないのだが、ロットの奴がとにかく鬱陶しいのだ。騎士団長としての立場も忘れ、カズ殿の護衛や従者は自分だけでいいと周りを牽制したり、自分の馬に乗せてやたらに構ったり、食事を食べさせようと皿やカトラリーを取り上げたり、真面目な会議の間ですら横に置いて離さずあまつさえ膝に入れようとしたり、その他にも本来侍女やメイドがやるような世話にまで手を出したり、出かけるとなればどこにでもついて行こうとしたり、それこそ厠や寝所にまで」


『……………………』

 ザコルに視線が集中した。


「…な、何ですか。ミカは何だかんだ言って、鬱陶しがってなんて……なんて……い、いませんよね? ミカ」

「私は別に」

「ほ、ほら! 僕はミカが本当に嫌がるような事はしていませんから!」

 皆のジト目は依然としてザコルに向いたままだ。


「…あは、やっぱ先輩もめっちゃ干渉されてるんだぁ…。つまりウチの我慢が足りないってことぉ…?」


 アメリアがブンブンと首を振る。


「そんな事はありませんわカズ様! あれはミカお姉様が特別だから耐えられているのです!! わたくしだってあそこまでされたら逃げ出すに決まっていますわ!!」

「うぐっ」

 アメリアなりのフォローにザコルが流れ弾を食らう。


「アメリア様やさしーね、ありがとー。あのね、ウチ、自分が甘え上手な方だと思ってたんですよぉ…。むしろ図々しいとかよく言われる方でぇ…。ロット様の事も最初は、あっちが勝手に世話してくるんだからやらせとけくらいに思ってたんだけどぉ…」


 ハコネが首を振る。


「カズ殿、よろしいか。まず王族や高位貴族などとして育ったわけでもない人間が、いきなり四六時中人目に晒されるようになったり、身の回りの世話を何でもされるようになれば息苦しく感じて当然なのだ。あのホッター殿とて、人目はともかく身の回りの世話はほとんど固辞していた。そっちの変態の過干渉には徐々に慣れたというだけだろう」


 かかんしょう…ザコルの口の端から小さなつぶやきが漏れた。


「テイラーの騎士団長さんめっちゃオトナじゃん。あっちも一応騎士団長なのにこの格差ガチで草超えて森なんですけどぉ」


 ヒョコ、小道の脇の木からコマがいきなり顔を出した。


「わっ!! コマさんはもう、びっくりするじゃないですか!!」

「あのロットとかいう奴やべえな」

「もう見てきたんすね。うちの兄貴よりやべえんすか」

 エビーにドングリが飛んでいったが、彼は難なく避けた。


「おい駄犬、お前の兄弟はどうなってんだ。今んとこ、そこそこマトモな感性持った奴がそこの金槌くらいしかいねえぞ」

 おれか? と自分を指差すザッシュ。

「……シュウ兄様はトンネル狂だ」

「ほぉん、少なくともお前よりは生産性のありそうな変態だな」


 コマは三男サンドとも面識があるはずだが、サンドももれなく『やべえ』人なんだろうか。


「ザコル。私、流石にどーかと思うような時はそれとなく回避してますから大丈夫ですよ」

「それとなく…。嫌な時ははっきり言ってくれませんか。前は怒ったりもしていたでしょう」

「旅の道中の事ですか? あれは魔力過多のせいで気分が悪くてイライラしてただけですし。今となってはむしろザコルに気にさせる方が嫌なので、あなたの好きなようにしてくれればいいっていうか」

「またそうやって甘やかす…!!」


 一応励まそうとしたのだが、あまり気を晴らすことはできなかったようだ。そんな私達のやりとりを一瞥したエビーがカズに耳打ちする。


「ギャル様…いや、カズさん、あの人らはいわゆる破れ鍋に綴じ蓋みたいな関係すから参考にしねえ方がいいすよ。ミカさん自身も相当な世話焼きだしよ…」

「あーね、先輩もお節介ていうか、一人でおばーちゃん介護してたせいか親しくなるとパーソナルスペース激狭ってか距離感バグっちゃうとこあるからぁ。てか『破れ鍋に綴じ蓋』ってこっちでも言うんだぁウケるー」

「誰が破れ鍋だ!」

「着実に調教もされちまって」

「誰が調教されていると!」

「ちょーきょーってなあに、エビー」

 イリヤが純粋無垢な瞳で質問をはさむ。

「あっ、え、えっとお…。ちゃんと言う事聞くように解らせるっつか思い知らせるっつうか何つうか…」


 ポン、カズが拳を叩く。

「あっ、そっかあ、ウチ、ロット様のペット気分でいたのかもぉ。先輩みたいに飼い主目線にシフトチェンジしなきゃって感じぃ?」

「そう、それ! そんな感じっす!」


 ……………………。


 もう一度ザコルに皆の視線が集まった。



つづく

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