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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ニンジャから見たあの日④ 処します?

「ふむ。サゴシも落ちたか」


 ……………………。


 じっ…。ハコネを見つめてしまった。



「そう睨むな。サゴシの所属する部隊は特殊でな、俺でさえ奴らに何か要求できるような権限は持っていない。ホッター殿に預けておけばそのうち知っている事を話す気になるだろうと思ってつけたのだ。とはいえ二週間か。意外に時間がかかったな」

「前置きも無しに丸投げしておいてその言い草ですか。ふーん。ハコネ兄さんてそんな事する人だったんだあ…」

「処します?」


 しょっ…



「いや、処さなくていいよサゴちゃん。君はどうしたの。そんなキャラだった?」

「え、あ、はい。割と」

 がく。思わず力が抜ける。


「割と…じゃないよ。サゴちゃんはハコネ団長の指揮下に入れって言われてるんでしょ? 大体、私はハコネ兄さん以上に君に何か言う権限なんて持ってないんだよ。だから脅したようなもんだし…」

「あなたはセオドア様から縁者だと正式に認められてるじゃないですか。奥様もアメリアお嬢様もオリヴァー様もあなたを家族として扱っておられます。であれば、あなたの言葉は主家の方々の言葉と同じです」

「待って待って待っっって。私、半年ちょっと前にポッと湧いて出たような人間だよ? 主家の一員と仰ぐには早すぎやしないかな」

「別に早くないでしょう。現に、あなたは第二騎士団長から俺を丸投げされるくらいの信用は勝ち得ています」


 ハコネを見たら、どや、と胸を叩いていた。開き直っている…。


「ミカ、僕が処しても?」

「ザコルも待って。何なんですか。ハコネ兄さんも煽らないでください」

「ふん、その変態がやりたい放題しているのに、俺がしてはならない理由などあるか」

 私は頭を抱えた。

「みんな自由!! 何なの!?」

「どうどう、姐さん。どうどうどう」

「セーフティゾーンをご利用になりますか」


 私はスープをかき込むようにして食べ終わると、エビーとタイタの間に椅子を移動させた。ザコルが傷ついたような顔をしているが知った事ではない。


「はああ、タイタの近くって本当に落ち着くわ…。エビーはサゴシの所属くらい知ってたんじゃないの。ジークまでついてきてた監視役とか、マグっていう隠密くんとも友達だって言ってたよね?」

「すんません、実はあいつら隠密の仕事内容とかはあんま詳しく訊かねえようにしてんすよ。なんか味方にも軽々しく話せない機密とか持ってたりするんで」

「なるほど…」


 仕事内容を訊けない、という事はどこに所属してどこの仕事をしているかも訊けないという事か。


「サゴちゃん」

「はい」

「君、ここで話をしちゃってもいいの? 人数絞ってもいいんだよ」

「いえ、ミカ殿の召喚事件に絡む尋問ですよね? ここには初期から関わった人物ばかりが集まっています。あなたがあの事件について知りたいのならば、このメンバーを交えた方が効率がいいでしょう」

「いや、私の益の話ではなくてね。君が後で怒られるんじゃないかって話だよ」

「俺は、あなたのために話すのであって、後で上司に何を言われるかは重要ではありません」

 サゴシがキリッとした表情で言い切る。

「素晴らしい忠誠心ですねサゴシ」

「いえ、単純にあのクソ上司よりミカ殿の方がかわ…いえ、立場は上ですので」

 キリッ。

「今可愛いと言いかけましたか」

「言っていません」

 キリッ。


 ふうー…。私は息を吐き出した。

「カッツォ達も、いいね?」

「もちろん。俺らだってテイラーの騎士で、氷姫護衛隊ですから。やっと肝心なとこに迫れるかもしれないんでしょう。仲間外れはナシですよ」

 幼馴染騎士トリオは揃って頷いた。


「ザコル、今更ですが、この部屋って防音が甘いとか言ってませんでしたか」

「そうですね。ですが、エビーが」

 エビーの方を見たら、大丈夫とばかりに頷いた。

「この部屋の近辺はこの時間、人払いかけてくれるようメイド長に頼んでおきました。それを振り切って盗み聞きするようなのが現れりゃ兄貴が気づくっしょ」

 ザコルが頷く。今、この部屋の周りに人の気配はないという事だ。


「ミ、ミカ殿。俺はどうしましょう」

「タイタ? え、もちろんここにいてよ。どうしたの」

「俺はあの日、オリヴァー様と共に邸を出ていて、あなた様が拘束されるまでの流れなど詳しい事は何も…」

「まあまあ聞いててよ。君は私の騎士なんでしょ?」

 タイタがキュッと唇を引き結ぶ。そしてこくりと頷いた。


「よし。では。ここにサゴシくんの公開尋問を始めさせていただきます」

 何で私が仕切る事になってるんだろうな、と、優雅にワイングラスを傾ける騎士団長を横目に見つつ、私は開会の宣言をした。



 ◇ ◇ ◇



 あの日。

 私が十五連勤で疲れ切った足で、コンビニに向かおうとしていた時だった。

 突然足元が光り、私は地面に引き込まれてしまった。そうして気がつけばアメリアの部屋にいて、間もなく拘束されるに至った。

 そんな、事件か事故かも判らないあの日の出来事…。


「あの時、俺が天井から見ていた事をそのままお話しします。ただ、先に言っておきますが、誰が犯人でというような事ははっきり申し上げられません。俺の主観も少なからず混ざる事になりますので、ご承知おきを」

「もちろん構わないよ」

 では…。とサゴシは軽く咳払いし、話し始めた。



 あの日、サゴシは自分の上司からの指示で、朝からアメリアの護衛補助という名目で彼女の部屋の天井に潜んでいた。

 護衛補助が名目ではあるが、実質的にはアメリアの周囲の監視だったらしい。


「監視?」

「はい。第三騎士団の連中が余計な事をしないかどうかの監視です」

「余計な事…。あの、いきなり話の腰折ってごめんなんだけど、第三騎士団って何? 実は私、そんなのがいたとは今日初めて聞いたんだよね」

「あの、俺も存在は知っていますが、その性質まではよく…」

 タイタも控えめに挙手して言った。


 サゴシはハコネの方に視線を移した。

「ハコネ第二騎士団長。お話しして問題ないんですよね?」

「ああ。ホッター殿は既にお嬢様から直接事情を聞かされているからな。タイタも問題ない」

「なんだ、お嬢から聞いてるならほとんどお知りではないですか。やはりミカ殿は主家の一員も同然ですよ。ミカお嬢様とお呼びすべきですかね?」

「やめれ。大体もうお嬢様って歳じゃないし」

「とてもそうは見えないからいいじゃないですかお嬢様」

「ぐいぐいくる! 急に何なのこの子!」

 私はシュッとタイタの後ろに隠れた。

「おい、いい加減にしとけサゴ…」

「サゴシ」

 ぶわ。

「ああああビリビリする!! なんだこの殺気すげえええ流石は伝説の工作員半端ねえええ!!」

「ほらみろマジに殺られんぞ」

「ちょっともう!! 話が進まないから!! 第三騎士団の事から早く話して!!」

 その後も無駄な茶番を挟みつつ、サゴシや他のメンバーからも聞き取りを進めた。



 まず、第三騎士団とは、アメリアのためだけに作られた護衛専門の騎士団だったそうだ。だった、と過去形なのは、現在はほぼ解散状態にあるからだ。

 例の召喚騒ぎの時にアメリアの周りを固めていた高年齢層の騎士達はその第三騎士団の所属らしい。驚く事に、あの場にいた侍女やメイドなどの女性陣も『女騎士』として在籍していたようだ。武術の心得はあったそうなので、いわゆる戦闘メイドとか呼ばれる類の人達だったのだろう。


 また、第三騎士団はテイラー伯であるセオドアではなく、ばあやとその側近によって選出された騎士団でもあったらしい。給与や実費などに関しても王家から秘密裏に支払われている支援金から賄われていた。要するに、テイラー伯爵家よりも王家の意向を優先して汲む騎士団だった、というわけだ。


「えええ…アメリアって超ガッツリ王家から干渉されてんじゃん…一体何のために」


 第二騎士団自体、アメリアが王位継承を選んだ時のために集めた者が多いのだろうと推測していたのだが…。王家はそのテイラー家の息のかかったもので取り巻くのを良しとしなかった、という事だろうか。

 それは、アメリアを王位から遠ざけるため? それとも逆に担ぎ上げるため? 継承をめぐる争いから護ってやるため? 一体どういうつもりで干渉していたのだろうか。


 ハコネが憂いを隠さずに頷いた。


「王家の真意までは判りかねる。出生の事を考えれば完全に野放しにされる事はないだろうが、流石に過干渉だとは誰しもが思っていた事だ。しかも、第三騎士団が結成されたのはお嬢様が対外的には十歳になられた年。実年齢としては十二から十三、時期としては今更だとも言えるし、これから社交界に出ていく年齢だというのに、周りを王家の息のかかった者で固めるなど逆に目立つ要因になりかねない。それまでは奥様、サーラ様のご意向通り、同年代の平民相手に社会性を育みつつ、ただの伯爵令嬢としてのびのびとご成長なされていたというのに…。ばあや殿もそうした育児方針には賛同していると思っていたのだがな」


 ばあや。王家からアメリアの守護と育成のため預けられた『少しだけ怪我をしにくくする力』を持った魔法士の女性。彼女は王妃エレミリアの出生国であるメイヤー公国からやってきた従者の一人だ。アメリアによれば、育ての親であるセオドアやサーラも彼女を頼りにしていたという話だったが。


「その王家の息のかかった人達でアメリアの周りを固めるって、ばあやさんの本意だったんですかねえ」

「どうだかな。少なくとも、ばあや殿の立場では王族には逆らえまい。個人的な思惑がどうであれな。セオドア様やサーラ様も、王族の命令ともなれば無視はできない。こいつら平民の幼馴染や、平民の俺が率いる第二騎士団は教育に悪影響だとかいう曖昧な理由で遠ざけられるようになった。お前達もアメリアお嬢様を心配していたのではないか?」

「ええ、でもまあ、お嬢はその頃からちょっとずつ茶会とかにも出るようになって忙しくなっちまったし、貴族令嬢のお友達もできたみたいだったんで俺らの方はそこまで心配はしてなかったすよ」

「お嬢、たまに脱走して俺らとも遊んでたしな」

「抜け出してくんのはいいけど、部屋に戻らせんのが大変なんだよな」

 幼馴染達が懐かしそうに笑い合う。引き離されても彼らの友情は揺らがなかったようだ。


「まさか、アメリアお嬢様のご出生にそんな秘密が…」

 タイタは、アメリアが現王とサーラの姉、セーラとの間に産まれた子と知って驚いている。

「まあ、アメリアは今のところただの伯爵令嬢として生きたいみたいだから、心にしまっておけばいい事じゃない?」

「それはそうですね。生まれはともかく、お育ちは紛れもなくあのご両親のお子でいらっしゃいます。皆の、複雑な身の上のお嬢様を心配し、幸せを心から願う気持ちはよく解りました。これからも、お望みの生き方を貫けるようお支えしていかねばなりませんね」

 タイタは驚きはしたようだが、あっさりと笑顔に戻ってそう言った。

「うん。タイタの言う通りだと思う。私も彼女の選択を支えていけたらと思うよ」

「へへっ、タイさんならきっとお嬢や俺らの気持ち、解ってくれると思ったぜ」

 エビーがそう言うと、他のメンツも嬉しそうに笑った。



 やっと本題に入る。

 サゴシはその日、天井から部屋全体を何時間も監視に当たっていた。召喚の直前まで、誰もが何事もなく穏やかに過ごしていたそうだが、侍女達が不自然に歩くのを避けている箇所があるなとサゴシは感じていた。


「侍女達が…」

「イコール、侍女達だけが何かを知っている、というわけではないと思います」

「それはそうだね」


 あの邸の中では通常、騎士は部屋の隅で控えているだけだし、メイドも侍女や主人の指示があるまで勝手に動けない。ばあやも侍女という立場だが脚が悪く動き回れなかった。

 言ってしまえば、あの場にいたアメリア以外の全員が何かを知っていた可能性もあるわけだ。


「あくまで、俺の主観ですが。侍女達が明らかにお嬢とばあや殿のいる場所を結ぶ最短距離でもあるはずの、とある場所を通るのを避けているんです。俺にはそう見えました」

 そのとある場所というのは魔法陣が張られ私が現れた場所か。

「俺は当初、そのあたりに床の軋む箇所でもあるのかと思って見ていました。いつもはばあや殿の揺り椅子が置かれている場所でもありましたし。丸型の毛並みのいい絨毯が置かれてもいましたから、無意識に踏むのを避けているだけかとも。その日はばあや殿の椅子は続き間の方へとやられていました。お嬢から少し遠ざかっただけですぐに癇癪を起こすばあや殿にしては、静かだなとも思っていました」


 ばあやの症状はかなり進行していたようだ。不穏な状態になると周りに暴言を吐き、手がつけられないくらい暴れる事もあったらしい。だから周りも彼女への対応を慎重にしていた。物音や椅子の場所一つとってもそうだったという。


「その、丸型絨毯の上に魔法陣が現れた、と?」

「そうです。突然の事でした。その上を誰も通らない以上の不審な動きもなく、誰も視線さえ向けていないタイミングでの事でした。強いて言えば、ばあや殿が目を覚ましたのに気づいた侍女の一人が立ち上がった瞬間だった。魔法陣の輝きを見た騎士の一人が『魔獣か!?』と叫びました。一番年嵩の騎士でした」


 魔獣か、と言ったのは男性の声だった。そう言ったアメリアの証言とも辻褄が合う。


「一番年嵩…ああ、俺らを毛虫かなんかだと思ってるあのクソジジイな。確か、五十代後半の人すよ」

「年齢的に、魔獣の召喚ならば見た事があってもおかしくないですね。口をついて出ただけかもしれません」

「勢いで余計なこと言うのにゃ定評のあるジジイでしたからねえ」

 エビーとザコルが言葉を交わす。


「魔法陣は恐らく、あの絨毯そのものに仕込まれていたんではないでしょうか。現物はどこかに持っていかれたようで後から確認まではできませんでしたが、あの絨毯には、一部焦げたような変色が見られました。元々明るい鷺色の絨毯でしたから、余計に目立って見えたんですよね」


「……全く聞いていませんが」

 ザコルがハコネを睨む。

「俺も聞いていない。床に痕跡は残っていなかった、としか報告書には書かれていなかったし、実際に魔法陣が現れたという『床』を見分もした。そんな絨毯があったなどとは全く聞いていないな」

 ハコネはサゴシを睨む。

「俺はちゃんと報告しましたよ。クソ上司っていうか、ジンベ隊長に。第三の介入でもあったんじゃないですか」

「ジンベ、あのクソ野郎…」


 第三騎士団の件に限らず、テイラーも一枚岩ではないという事はよく分かった。セオドアがどこまで把握しているのかも気になるが、とりあえずその辺りの議論は後でもいい。


「続きを聞きましょうよ」

「そうだな。サゴシ、頼む」

 ハコネというよりは私に頷いて見せたサゴシは、話を再開した。


「その年嵩の騎士が魔獣かと叫んだ直後、光の中に人影が現れました。剣に手をかけた騎士達も、魔獣ではなくいかにもか弱そうな女性が現れた事で一瞬躊躇したんでしょう。お嬢や侍女が叫んでも動き出せずに固まった。なので、俺は天井から降りました。人か魔獣かはともかくとして、まずはお嬢との間に入ろうと咄嗟に……まあ、俺があの部屋を監視してたのはバレたらマズかったんですけどね。ははっ」

 乾いた笑いだ。

「怒られたんだね…」

「はい。他にやりようはあっただろうと滅茶苦茶怒られました。でもセオドア様には感謝されたんで問題ありません。ていうか、本当に魔獣だったらお嬢もあいつらも詰んでただろと思うんですが、偉い人にはそれが分からないみたいですね」


 なんか某ロボットアニメのセリフみたいな事言ってる。…意外に鋼メンタルなんだな。

 動揺すると後引くタイプだと自己申告していたが、その程度の叱責ではそもそも動揺なんかしないってことだ。


「俺はばあや殿が『魔獣だから隔離して信頼できる腕の者に見張らせなさい』とか言ったらしい場面には立ち会ってません。ミカ殿に抵抗の意思がなさそうなのを確認して、その場にいた騎士の数人と共に部屋から連れ出しましたから。最初は同じ建物の地下牢に入れるとか騎士共が言い出したんで、もしも渡り人だったらどうすると言って、別棟にあった貴人用の座敷牢へお連れしました」

「へー、そうだったんだ。混乱してたから全然話聞いてなかったけど、サゴシがあの部屋に私を入れてくれたんだね。ありがとう、おかげで超快適だったよー」


 既に懐かしい、あの居心地抜群の座敷牢生活。ひたすらゴロゴロして読書だけしていればよかった。毎日がバカンスだった。


「…座敷牢に収容されて感謝とかしないでほしいんですが、ロクな寝具もない地下牢なんかにお連れする羽目にならなくてよかったです。下手をすれば、命の危険に晒すところでしたから」

 以前ハコネとザコルから聞いた限りでは、どうやら私は過労死寸前だったらしい。それなら確かに、環境の悪い場所に放り込まれたらそのまま死んでいたかもしれない。

「座敷牢でも死にそうだったがな…。俺も、このまま衰弱死されたらどう主に報告したものかとハラハラしたぞ。かろうじて医者は呼べたが、女手も借りられず、俺が直接手を出して世話をするわけにもいかんかったしな」


 確かに、召喚されて一日二日は着の身着のままで寝ていたような気もする。布団の中でストッキングを脱いでスカートやブラのホックを緩めるくらいはしたと思うが、布団をめくられても恥ずかしい思いをするだけだったし、放っておいてもらえて良かった。


「ハコネ兄さんもとんだ災難でしたよねえ。どうせその第三騎士団だかの人に押し付けられたんでしょ?」

 ハコネに、何で分かるんだ、みたいな顔をされた。何でも何も、ミイがエビー達の話を盗み聞きして教えてくれたからだが。

「…まあな。しかし俺でよかったとも思いたい。第三騎士団の連中は全員嫌な上司に顔が似ていたらしいな?」

「ふふっ、そうなんですよ。嫌すぎて忘れてたくらいなので、彼らに監視されたり毎日訪問されたりしたら、それこそ気が狂って死んでたかもしれません。思えば、サゴシがそこにいて、第二騎士団のお世話になれて、私ってホントにラッキーですよね」


 氷姫護衛隊も第二騎士団の中から選抜されている。カニタを始めとした裏切り者も混じっていたようだが、今目の前にいる気のいい騎士達をつけてもらえただけでも幸運と言える。


「何度でも言いますけど、その状況をラッキーとか言えるのマジでやべーわ」

「ええ、そればかりはエビーに同意するほかありません」

 両隣から呆れた反応をされてしまった。

「なにようタイタまで。私、過労死するとこだったんだよ? 召喚でもされなきゃコンビニに辿りつく前に野垂れ死んでたかも。既にその時点でラッキーでしょ…うわっ!?」

 座っていた椅子が浮いたので思わず声が出た。


「話もあらかた終わったようですしもういいでしょう。ミカは回収します」

「ちょっ、また椅子ごと私を持ってくつもりですか!? いい加減に」

 背後の天然最終兵器にクレームを入れようとし…

「そうですよ!」

「えっ」

 声を上げたのはサゴシだ。思わぬ人からの援護射撃に混乱しかけ…

「順番的に次は俺の隣じゃないですか!?」

 混乱しかけたものの、援護射撃ではなかった。


「お前何言ってんだサゴシ…」

「だってエビーやタイさんばかりズルいじゃないですか。俺はもう平気なんでしょう。だったらこちらにもぜひ!」

 サゴシが自分の隣の席をビシッと指し示す。


「…ねえサゴちゃん。ホントに何言ってるの? 君はもう平気っていうか、なんか近くにいるのに慣れたくらいのレベルだよ。エビーやタイタと同じ土俵に立てたと思わないでくれるかな」

 にこ。

「ひぇ…吹雪の幻影が見える!!」

「ヒュン」

「では」

 ぐん。椅子が高度を上げた。

「お、お待ちくださいザコル殿! それ以上の高さに上げてはミカ殿がお怪我をなさります!! 天井に頭がつきますから…!」

「そんでどこいく気だ席に戻れ変態魔王!!」


 わーわーわー。ドタンバタン。

 ガチャ。


「何と言われようと次は俺の番です! もっと俺に慣れるためにも近くに座ってたらいいじゃないですか!」

「なんでめげないのこの子…」

「まとわりつくなサゴシ。いくらミカの心が広いからって調子に乗るな」

「おまいう!! おまいうなんですけど!?」


 わーわーわーわーわー。


「静まりなさい」


 ぴた。

 シーン……

 耳鳴りでもしそうな静寂が訪れる。


「ザコルはミカお姉様を降ろしなさい。それと、エビーとタイタ以外の者達はどうしてサゴシを止めるでもなく呑気に座っているの」

 いつの間にか、というか普通に部屋に入ってきていたアメリアがジロリと机の方を睨む。


 ハコネがワイングラスを置き、席を立って一礼した。

「その変態を止める人員が増えたのは喜ばしいと思いまして」

 カッツォ達も立ち上がる。

「珍しくサゴシが生き生きしてるんで、なんか、良かったなと思いまして」


 わなわなわなわなわな。


「良いわけありませんわ!! お姉様に執着する者がまた一人増えているではないの!! お姉様もこのサゴシに何を言ってしまったのです!!」

「何って…。もう絶対逃がさん洗いざらい吐けと脅しただけですが…」

「ほら! ミカ殿が俺をもう離さないこれからもよろしくって言ってくれたんですよお嬢!」

 ポジティブ解釈だ。

「あの気を抜いたら殺られそうな圧にも惚れました! 俺、もうあのクソ部隊に戻らなくていいですか! いいですよね!?」

「あなたは我が家の最奥を担う隠密でしょう!! 職務に矜持は無いのかしら!?」

「矜持くらいありますけど別にいいでしょう、この方だって主家の一員になったんですから。よって俺はこの怖カワイイ生き物を守るのに専念しますね」

「隠密って変態ばかりですの…!?」

 アメリアが頭を抱える。


「すみませんアメリア。私も、サゴちゃんがこんな感じの変態だとはつゆ知らず」

「まあ、サゴシは色んな意味でテイラーの闇すからねえ…。俺ら幼馴染ん中でも抜きん出て異質な奴すよ」

「そういう事は先に言っといてくれるかなエビーくん」

 じろ。

「すんません、サゴシの真意っつうか何の任務背負ってきてんのか判断つかなかったんで…。まあ、無事姐さんの配下に加わった事だし、その最終兵器とも気が合いそうでよかったじゃないすか」


 エビーがザコルを見る。ザコルは未だに私が乗った椅子を掲げながら首を振った。


「いくら気が合いそうでもミカの隣を狙うなら容赦はしません」

「だから順番だって言ってるじゃないですか。どうせザコル殿はミカ殿の特別なんですから、心の広いところを見せてくださいよ」

「嫌です」

 ガチャ。…ブォン、ドッ!!

「わっ」

「きゃあお姉様…!!」


 扉が再び開いたかと思えば風切り音と共に鈍い音が響いた。ザコルの胴体に大きな鉄槌が直撃したらしい。ザコルは一歩も動かなかったが、流石の衝撃に私が椅子から投げ出されるとすぐ、逞しい腕にフワリと受け止められた。

「お怪我はありませんか」

「もちろんないよ。ありがとうタイタ」

 無駄のない動きでサッと地面に降ろされる。ほっ、とアメリアが胸を撫で下ろした。


「驚かせてすまない、アメリア嬢」

 ザッシュがアメリアに頭を下げる。

「いえ、わたくしはいいのですが…」

「何するんですシュウ兄様。ミカが落ちたじゃないですか」

「ミカ殿なら自力でも難なく着地できたろう。それより人が暴れている音がすると聞いたのでな、責任者を連れてきたのだ」

「責任者?」

 ゴスッ。

 私がザッシュの後ろを確認する間もなく、イーリアの剣の鞘がザコルの脳天に直撃した。



つづく

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