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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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カリューゲリラ訪問② お前はツッコミ役じゃねーのかよ!!

 大勢に見送られ、門を出る。

 情報統制の意味があるのかというくらい堂々とした出発だ。まあ、どうせある程度はバレているという事なんだろう。


 クリナの背に揺られ、のどかな風景に目をやる。

 日は高くなり、雪と青空のコントラストが美しい。壮大な山々の姿は一日眺めていても飽きなさそうだ。

 ちら、胸に抱いたカゴの蓋を開けて中を見てみる。チーズとパン、ナッツを蜜で固めたもの、それから紙袋が入っている。紙袋を開いてみると、薄切りにした林檎を乾燥させたらしいものが入っていた。


「あ、林檎のドライフルーツ。こんなのあったんだ」

「もう昼飯を物色とは。行儀が悪いですねミカ」

 何やら髪に頬をすりすりされている。

 もしや、口が悪かったり行儀が悪いのがタイプだったりするんだろうか。野次三人衆の事も意外に気に入っているみたいだし、実はそうなのかもしれない。

「もう。まだ食べませんよ。見てただけです」

 紙袋を閉じてカゴに入れ直す。お昼が楽しみだ。

「あの、僕は、ミカの取り繕っていない様子を見ると安心するだけです。決して素行の悪い輩を好いている訳では」

「そうですか、以前罵られたいような事を言ってたので、そうなのかと」

「それは…まあ…そうというか、ミカの暴言は、少し癖になる部分もある、といいますか」

「へえ…」


 何となく、ザコルの様子が落ち着いてきた気がする。

 過剰に恥じらう場面も減ったし、こういう天然変態発言も戻ってきた。昨日も平然とにおい嗅ぎまくってたしな。そう思えば、あのリハビリもそれなりに効果があったんだろう。何しろ口付けで失神し添い寝される以上に恥じらう事などそうそうない。


「…………そう、客観的な事実を独り言で呟くのはやめてくれませんか。ですが、何といいますか、以前より僕の事を雑に扱ってくれるようになりましたよね」

「えっ、雑? ごめんなさい、そんなつもりは」

「いえ、いい傾向だと思っているだけです。あなたは、僕を大事にし過ぎるきらいがあるので」

「大事にし過ぎる、そうですかねえ…。でもそれって、ザコルも同じようなものだったのでは?」

 少なからずヤンデレ発言もしていたように思う。

「そうでしょうか? …いえ、以前は気持ちを持て余して暴走していた自覚はあります。今は気分的に落ち着いているだけで、ミカの事は変わらずずっと大事です」

 むきゅう…。喉の奥から変な音が出た。今のを耳元で囁くのは反則だ。顔を突き合わせていないからまだいいものを……

 顔……。

 ばっと後ろを振り返ったら思いっきり顔を逸らされた。



「馬に乗った途端イチャつき始めんなバカップルめ」

 じと、という視線は隣をゆくエビーからだ。

「エビーは私達の事をほーんと雑に扱ってくれるようになったよね」

「この四人じゃツッコミ役が足りねえんすよ! タイさんはニッコニッコ眺めてるだけだしさあ!」


 近くを警護しているイーリア付き小隊の人々が苦笑している。エビーの言う通り、彼らの前でイチャつくのはあまりよろしくないかもしれない。


「別にいいでしょう。どうして今更遠慮などしなければならない」

「出たよ…。この変態最終兵器めが。吹っ切れたみたいな顔しやがって。いいかよ、あんたがしっかりしてくれねーとシータイ出られなかったんだかんな!」

「はい。その節は大変迷惑をかけました」

「素直かよ! 調子狂うんですけど!?」

 ギャイギャイギャイ。通常運転、彼らは今日も仲良しだ。


 ふと、嫌な気配を感じて目線だけ横にやる。

「ミカ」

 また耳元で囁かれ、ザコルが手の平の中をそっと私に見せる。

「投げてみますか。あなたとそのカゴは落とさないので心配しないでください」

 私は小さく頷くと、ザコルの手の平から鉄の飛礫を受け取り、嫌な気配めがけて鋭く投げた。

 ギャッ、短い悲鳴ののち、藪の中を並走していた気配がその悲鳴に集中する。ザコルが馬を停めると、周りも一緒に止まった。


 ガサガサ、その気配達が藪の中から何かを引きずって出てくる。

「いやはや、ミカ様の投擲の腕がここまでに仕上がっていようとは」

「あの短期間でこの精度! 流石ですな!」

 揃いの十手を持った同志達が縛り上げた曲者を小隊の者達に引き渡す。その後から慌てたように出てきたのは……

「ちょ、ちょちょちょちょっと!! 氷姫様! 曲者の始末は俺の仕事なんですけど!? てかこの人達何ですか!? 水害支援に来てる商人の人達ですよね!?」

「何だお前モグリかよサゴシ。同志の皆さんっつったら本職顔負けの隠密部隊に決まってんだろ。あとこちらの姉貴様は最終兵器仕込みだかんな。飛礫で曲者仕留めるくらいわけねーよ」

「エビーまで何言ってんの!? お前はツッコミ役じゃねーのかよ!!」

 顔を見るのは初めてとなる、テイラーの隠密サゴシだった。



「お久しぶりですね、サゴシ殿。シータイへはいつお入りに?」

「タイタ、さん…。シータイに入ったのは昨日の夜ですよ…。なんか色々あったみたいですね。大変だったって聞きました」


 サゴシはアメリア達からほぼ三日遅れでシータイに入り、ざっくりとしか事情を聞かされぬまま私の護衛につかされたらしい。

 彼には状況説明の時間が必要と考え、比較的体躯の大きいタイタの馬、ワグリに二人で乗ってもらう事にした。


「てか、あの同志? の人らに周辺の警戒任せちゃっていいんでしょうか。俺、任務放棄になりません?」

「ミカ殿のご指示ですから。問題はないかと」


 おそらく、同志だけでなくサカシータの手の者も気配を殺してついてきているはずだ。

 私なんぞに気取られるような練度の低い曲者はともかく、もっと脅威になりそうな曲者は見えないところで始末されている事だろう。


「氷姫様…。テイラー邸で鍛錬されてる時から思ってたけど、一体何目指されてんだよ…」

「サゴシ殿は、今朝の鍛錬はご覧になりませんでしたか」

「はい。あんま時間なかったし、装備整えたり、この辺りの地形とか頭に叩き込むのが精一杯で」

「素晴らしい職務意識ですね。ご一緒できて光栄です」

「い、いえこちらこそ…? てか、反省してます。むしろ鍛錬見に行きゃよかったって。ミスったなあー…」


 サゴシは頭を掻く。急な命令でも、彼なりに精一杯下準備をしてくれたのだろう。真面目そうな印象を受ける。


「サゴシ、サカシータ領の人はただの町民でも百戦錬磨のツワモノばっかりだ。現役の人らの実力は俺も計り知れねえ。みんなザコル殿みたいだと思っとけよ」

 訳知り顔のエビーの言葉に顔色をなくし、そっと周りの小隊の人々を伺うサゴシ。

「マジかよ…。なあ、俺、要るか?」

「お前は何かあった時の伝令もすんだろが。あのお二人は人見知りだかんな、俺らしか側にいてやれねーんだ」

「人見知り…?」

 サゴシの視線が私とザコルの方に向く。

「どうも、人見知りの氷姫です」

「えっ、あ、申し訳ありません不躾に」


 そう言ってペコペコとするサゴシは隠密らしく、黒っぽい装束にザコルと同じような腰ベルトと、斜めがけのピタッとした薄いボディバッグのようなものも着けている。頭に巻いた黒布から覗く髪色は明るい金髪のようだ。目立つ色なので隠しているのだろう。

 雰囲気から察するに、彼もまたエビー達と同じくテイラー家とは『長い付き合い』の一人のようだ。ハコネが『尋問するまでもない』と判断したのなら間違いない。


「気負わず話してくれていいよ、呼び方も変えてもらっていいし。こちらはサゴシと呼んでも構わないかな」

「もちろんです。では、タイタさんに倣い、ミカ殿と呼ばせていただきます」

 彼は再び丁寧に頭を下げてくれた。



 サゴシには、今までの経緯や、深緑の猟犬ファンの集いの事、これから行くカリューの現況などを判る範囲で丁寧に説明した。


「…そんな訳でね、カリューの見どころはザコルが破壊した城壁と巨大鎚と屋根ぶち抜いた集会所だから。分かった?」

「は、はい、分かりました…?」

 サゴシが疑問符いっぱいの顔で首を傾げる。

「何の布教してんだ姉貴は! もっと大事な事いっぱいあんだろ!?」

 エビーが噛み付くように突っ込んでくる。私はふるふると首を振った。

「これ以上に大事な事などないのだよ。あの城壁と鎚だけでも絶対に見てもらわないと」

「ミカ殿のおっしゃる通りです」

 うんうんと真剣な顔で頷くタイタの様子を見て、サゴシは何を言えばいいのかと微妙な顔をしている。


「サゴシ」

「は、はい猟犬殿!」

 そんな彼は、急にザコルから声をかけられて飛び上がった。


「いいですか。壁とか鎚とか、そんなものは別に見なくていいです。人見知りだというのは事実かもしれませんが、過度に気遣う必要もありません。僕らは職務でここにいるのですから、君も自分の仕事を全うしてください」

「分かりました!」

 サゴシはピンと背筋を伸ばし、隠密らしからぬ敬礼で応える。


「……で、君の得意な獲物は何ですか」

 ……。一瞬サゴシがきょとんとする。

「…はっ、え、獲物、ですか…? そうですね、吹き矢とか…」

「吹き矢! 後で見せてくれませんか! 僕は吹き矢は持っていないんです!」

「えっ、吹き矢をですか? 特に変わったものでは」

「それでも特注でしょう! もしよければ実演も…」

「もおお兄貴は何やらそうとしてんだ!! あんたじゃあるまいし、普通の工作員は手の内隠すんだぞ!?」

 エビーがザコルにドングリを投げつける。ペシコーン、と珍しくザコルのこめかみに当たった。


「そうですか…。確かに、そうですよね…。無理を言ってすみません、サゴシ」

 しゅん。手の内など無限に持っていそうな最強工作員が肩を落とす。

「ちょ、落ち込まないで、ふ、吹き矢くらいお見せしますから! 大した手の内じゃありませんから!」

「いいんですか!」

 慌てて約束してしまうサゴシに、顔を輝かせるザコル。

「いや、どっちもチョロすぎだろ。兄貴は味方で同業ってだけで心開きすぎじゃねーすか…。人見知りどこいった」

 ツッコミが追いつかねえ、とエビーが嘆息した。



 途中軽い休憩を挟みつつ、サクサクと道程をこなしていく。最初に仕留めた曲者以降はトラブルらしいトラブルもない。

 強いていえば、休憩中にサゴシの吹き矢を見せてもらったザコルがはしゃぎ過ぎてエビーにはたかれたくらいか。

 しかし、金属製の長細い筒に小さな矢をセットするタイプの本格的な吹き矢には、私やタイタも大興奮だった。それを構えてみせてくれたサゴシもスナイパーさながらで格好いい。何だかんだ付き合いのいい彼とは仲良くやっていけそうな気がする。


「トラブルが少ないのは事前の情報統制のお陰もあるでしょうが、この雪で曲者自体減っているのもあるでしょう。雪は機動力も、時に命も奪う。特に、領外から来た者が雪の中で潜伏するなんて自殺行為ですから」

 そこらで勝手に凍死した者もいるのでは、とザコルは語った。

「なるほど。じゃあ、アカイシの国境での攻防はどうなるんですか? あっちはもっと過酷な状況ですよね」


 いかにも三千メートル級といった山が連なるアカイシ山脈を見上げる。慣れない者は足を踏み入れただけで即遭難しそうだ。


「あっちも真冬は休戦状態になります。砦の見回りは続けますが、父や六兄はそろそろ撤退して来ると思いますよ」

「じゃあ、そろそろお会いできるんですね」

 イーリアの話によれば、サカシータ子爵オーレンは私の持つ能力を正確に把握する術を持っているらしい。

「……ミカの心の準備ができてからでいいんですよ」

「いえ、できてますよ。知る覚悟は、ちゃんと」


 どうせ知らなければこの世界に居留まる努力などできないから。

 私はこれから、自分の存在がどのようなものであれ、ザコルの隣にいる未来を選択していかなければならない。彼のためと言い聞かせて逃げるのはもうナシだ。

 私は私の意思で彼を選び、そのために自分を受け入れると決めたのだから。



 木々と雪の向こうに、カリューの城壁が見えてくる。

 城門の前や城壁の上にたくさんの人々が集まっているのが見える。

 おーい、と手を振る彼らに、私達も大きく手を振り返した。



 ◇ ◇ ◇



 情報統制なぞどこへやら、大歓声で迎えられた私達は、何台もの荷馬車と共に城門裏に広がる広場へと案内される。

 広場は既に雪が踏みしめられ、騎馬や重い荷馬車でもスムーズに入ることができた。


「クリナもそうだけど、キントやワグリも雪道は平気なんですねえ。馬には詳しくないんですが、テイラーとは全然違う気候なのに、この子達は戸惑ったりしないんですか」

 雪の上でも平然と進む三頭を見て、ふと頭に浮かんだ疑問を口にしてみる。

「この三頭なら大丈夫でしょう。元々サカシータ生まれの馬ですし」

「えっ、そうなんですか!? 初耳です!」


「僕がテイラーに仕えるようになった頃、父が礼だと言って何頭かセオドア様にお譲りしたんです。うちの領の馬は、一説によると魔獣の血をひいているとも言われていて、強く逞しく、速く長く走れるので有名なんですよ。中でもこのクリナは抜きん出た速さと持久力を誇ります。人間二人と荷物を乗せてサカシータまで休みなく進めるとすれば、この馬以外にはあり得ないと言って借りてきました」


 魔獣の血をひく馬か。なんてロマンがあるんだろう。

「クリナ、そんなエリート馬だったんだねえ。もちろんすっごい早くて力持ちなのは知ってたけどさ。里帰りできて嬉しいね」

 ぶるるっ、どこか得意げな彼女の様子に思わず笑ってしまった。

 彼女自身の言葉は分からないが、もしかしたら私の言葉は本当に通じているのかもしれない。魔獣の血をひくかもしれないのならば尚更だ。



 カリューの広場にはさらに多くの人が待ち受けていた。一部の元避難民達の顔ぶれもあって、皆一様に笑顔だ。元気そうで安心した。

 ザッシュと中田の姿を探していたが見当たらない。中田はよく分からないが、ザッシュは町中で設備のトラブルがあり手が離せないらしいと町民の一人が教えてくれた。


「皆の者、ちゅうもおおおく!!」

 あ、デジャヴ、と思ったらまた拘束された。んんー!! と口を押さえられてジタバタする私を見てサゴシが引いている。


 イーリアの口からジャムの病気予防効果が語られ、それが全て私が知識を元に考えた事だと紹介される。

 賢姫ミカバンザーイが一通り済んだところで拘束を解かれ、皆の前に押し出された。

 一瞬、何を言うべきか頭から飛んだ。が、町民達のキラキラした瞳が目に入り、何とか我に返る。


「…えっと、コホン。このジャムはですね、シータイの林檎農家さんのご厚意で大量の傷物林檎を譲ってもらい、ザコル様がファンの集いの方々に頼んで大量の瓶を取り寄せ、峠の山犬夫妻に、シータイの町長屋敷の使用人達、あちらの水害支援部隊のスタッフ、うちの妹アメリア、テイラーの騎士や侍女達、そしてザコル様と、多くの方々が協力してくれたお陰で用意する事ができました。壊血病などの予防効果が見込める事は先ほどイーリア様がおっしゃった通りですが、確実に予防できるとはまだ言えません。砂糖や蜂蜜を一切加えていないので、保存性も良くないです。なので! いくつか約束してほしい事があります!! いいですかー!?」


 いいともぉー!!


「暖炉の側など、暖かい場所に放置しない! 瓶は必ず涼しい場所で保存することー!!」


 おー!!


「真冬を待たずに食べきらない! 毎日スプーン数杯まで! 少しずつ食べることー!!」


 おー!!


「もちろん、これだけ食べててもダメですからね!! あくまで栄養補助食品です!! パンや乳製品など、何でもバランスよく食べることー!!」


 おー!!


 いちいち拳を挙げて返事をしてくれるカリュー町民。ノリがいい…。


「もう一度言いますよー!! 冷暗所! 少しずつ! バランスよくー!!」


 冷暗所!! 少しずつ!! バランスよくー!!


「これらは立て看板にでも書いて置いてもらいますからね!! 絶対に守ってくださいよお!!」


 おおおおおおおおおー!!


 ふう、やり切った…。

 これだけ言えば、七割から八割くらいの人は守ってくれるだろう。完璧を求めてはいけない。必ずやらかす人が出る。暖かい場所に置いてカビを生やす人や、短期間で食べ切ってしまうような人が必ず出る。

 だからこそ、シータイに帰ったらすぐ予備のジャム作りをするのだ。



 集まった群衆が行儀よく並んでくれたので、イーリア付きの小隊の人々と私達で手分けし、ジャムの瓶を原則一世帯に一つずつ、家族の多いところには二瓶ずつ配っていく。

 私やザコルは握手を求められるのでそれにも応じ、お互いに励ましの声を掛け合った。


 配り終わると、カリューの町長シモノから立て看板に載せる文章を相談された。先程の三原則に加え、スプーンは毎度清潔なものを使えと書き加えてもらう事にする。舐めたスプーンを入れて放置して食中毒になる人もいそうだからだ。

 この世界に冷蔵庫は無いが、この寒さなら適切に保存すれば一ヶ月くらいはもってくれるだろう。一ヶ月でも口にし続けていれば、真冬の体内ビタミンC不足はかなり緩和されるはずだ。


「よし、次は薪ですね!」

「薪?」

 結局、再度隠れるタイミングを失ってジャム配りを手伝っていたサゴシが不思議そうに訊いてくる。


 彼は黒装束で来てしまったのもあって、この雪の中に潜んではかえって目立つとザコルに指摘されていた。サカシータの隠密や奇襲部隊などが使う白っぽい軍服があるから、シータイで貸してもらえるように計らうとも。

 エビーの言う通り、味方の同業に手厚い最終兵器様である。


「カリューではね、備蓄していた薪の大半が流されちゃったんだよ。今あるのは、あの荷馬車を引いてきてくれた山の民が急いで切り出した生木ばかりなの。それだと燃えにくいし危ないって聞いたからさ、魔法で乾燥が進められるように練習してきたんだよね」

「魔法で、乾燥を? 凍らせるだけでなく、湯も沸かせるようになったとは聞きましたが、乾燥させるとは、どういう…」

 いまいちピンとこなかったのだろう、サゴシがまた疑問符だらけになる。


 同じようにピンときていなさそうな町長シモノがいくつかある薪置き場を案内してくれるという。山の民が切り出してくれた分は、まだ薪として切り分けていない丸太もあるそうだ。


「私も見物させてもらうぞ。山の民も同行したいと言っているが、どうする」

「もちろんどうぞどうぞ」

 イーリアの言葉に頷けば、山の民神官ラーマと山の民の男衆がすぐに集合した。そして仰々しく整列して頭を下げられる。

「聖女ミカ様の起こされる奇跡に立ち会うご許可をいただきました事、光栄の至りに存じます」

「相変わらず堅いですねえ、ラーマさん。私の方はもうあんまり堅くしてあげませんからね。もっと軽いノリでお願いします」

「か、軽いノリ」

「さあさあいっくよー! ゴーゴー!!」

 先陣切って駆け出せば、ザコルに取り押さえられた上、シモノに「そっちじゃありません」と突っ込まれた。



つづく

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