カリューゲリラ訪問① ふふっ、隠密たくさん
その後、そのままアメリア達も一緒に食堂で夕飯をとり、今まであまり交流のなかったアメリアの侍女四人とも言葉を交わした。
彼女らはハイナ、ジーナ、ナーナ、シイナといい、テイラー邸内では『ナーの一族』というあだ名で親しまれているのだとエビーが…
「そんなあだ名で呼ぶのはエビーだけよ! 氷姫様におかしな事をお伝えしないでちょうだい!」
「あな恐ろしや、ナーの一族のお怒りを買ってしまった」
「おだまりなさいエビー!!」
「今日という今日は」
鉄壁の侍女軍団の表情をも崩すとは、流石はエビーだ。
そんな彼女らを代表してか、食事を終えて食堂を出る際にハイナから封筒を一つもらった。
「こちらは侍女長…ホノルより、氷姫様にご確認するようにと仰せつかりました。お手数ではございますが、数日以内にご回答くださいませ」
アンケートか何かだろうか…。よく分からないが、ホノルの指示ならばと頷く。
ホノルってアメリア付きの侍女長だったのか。それは初めて知った。
食後は、アメリアのために風呂を沸かしたついでに湯浴みし、その後はアメリアかハコネの話を聞くつもりでいたのだが、今日こそはさっさと休めと言われてしまった。
それならばとイーリアやマージを訪ねたが、同じような事を言われて帰されたので大人しく部屋に戻る。
「さあ、ここで目隠ししてますからザコルは清拭してください。そこで」
私は自分の座る椅子の目の前を指す。
「…あの、ここでですか? いくら目を隠したって、平然とこっちを向かれているのは気まずいのですが…」
「へえーそうですか。いつでしたかねえ、布一枚隔てたとこで人の清拭の音を平然と聴き、あまつさえ平然と話しかけてきた人がいましたが。そうそう今更じゃないですか」
「うぐ…、き、昨日入浴しましたし、今日は別に清拭なしでも」
「早くしないと目隠ししたままにおい嗅ぎますよ。あーいいにおいだろーなー」
「うるさい! 清拭すればいいんだろう清拭すれば!! 目隠しなんてしなくていいからあっちを向いてろ!!」
どうやら、目隠しそのものが何か彼の琴線に引っかかってしまうようだ。あまりいじめるのもどうかと思い、素直に目隠しを外してザコルに背を向ける形でソファに座った。
ハイナから受け取った封筒を開けてみる。
「…その封筒、何なんですか」
背後からごしごしと体をこする音が聞こえる。よほど念入りに清拭しているらしい。清潔にするのはいい事だ。
「うーん、婦人科の問診票みたいな感じですかねえ…」
「フジンカ?」
いつが最終だとか、痛みはないかとか、不正出血はないかとか…。ペンを取り出してさらさらと回答を書きつけていく。
「ええと、つまり女性としての機能が正常に作動しているかどうか確認したいようです。わざわざ書面におこさなくたって、口頭で訊けばいいのに」
「それ…っ、僕の耳に入れないためにわざわざ書面にしたんじゃないんですか!? 何故内容を僕に話してしまうんです!」
「ザコルが訊くからじゃないですか」
女性としての機能、という一言で理解できるとは意外だ。詳しいんだろうか。
「べっ、別に詳しいわけじゃありません。オースト国軍にはあまりいませんが、諸外国の軍には女性の兵士がいるところもあるんです。中には、不憫な扱いをされているのもいて…、それで…」
ふむ。男性ばかりの軍では女性の生理症状に理解がなく、下着などの融通を利かせてもらえずに垂れ流しとか、悲惨な目に遭う女性従軍兵士がいるという話はネットニュースか何かで読んだ事がある。男性から見ても、まともな神経を持った人ならきっと心痛む光景なのだろう。
「ミカ。何か困った事があるなら早めに、具体的に指示をください。僕に察する機能はありません」
「正直ですね…。大丈夫、こればかりはザコルに察しろなんて酷な事は言いません。そういう時は少し部屋を出てくれないかとか、誰か女性を呼んでくれとか頼みますから、詮索せずに従ってくだされば幸いです」
「分かりました。言っておきますが、僕への気遣いは不要ですからね。ミカが嫌な気持ちにならないならそれでいいんです」
「はい。その気持ちはありがたく受け取らせてもらいます」
問診票を折り直し、封筒にしまった。
お互いに背を向け合いながら順番に着替えを済ませ、洗面と歯磨きもする。部屋に置かれた水差しからカップに水を注いで温めていると、ザコルが受け取ってローテーブルに並べてくれた。ソファに並んで座り、白湯をすする。
こういうちょっとした家事めいた事を自然に手伝ってくれる所は、紳士というより、一人暮らし歴の長い男性という感じがする。まあ、実際そうなんだろうが。
「何ていうか、ザコルといると楽です。一生でもこうしてのんびり暮らせそうな気がします」
ぶはっ。カップに口をつけていたザコルが吹いた。今のどこに動揺させる要素があっただろうか。
げほげほと咳き込む彼の背中をさする。そのまま背中に抱きついて鼻をすり寄せたらビクッとした。
「すんすんすんすんすんすん」
「謝る! 謝りますから許し」
「許しません。みんなの前で変な声上げちゃったじゃないですか」
「それは本当にごめんなさい! 本当に、ただ抗えなくて、つい」
…へえー。ついね、つい。
「じゃあ、におい嗅いでもいいですよ。今なら好きなだけ」
「えっ、 本当ですか!」
「えっ?」
「えっ?」
………………。
そろり、と私は立ち上がり、ベッドに移動する。
「ん」
と両手を広げると、意外にも大人しくベッドにやってきて抱き締めてくれた。昨日のようなやりとりはもうしなくていいらしい。
……というか、においを嗅がれている。嗅ぎたい欲が羞恥を上回っただけか…。
散々猫のように吸われた後。
満足げなところの隙をつき、魔力譲渡を行うとしっかりフリーズしてくれたので、ぽて、と横に転がして勝手に懐に入って眠った。
◇ ◇ ◇
翌朝はよく晴れ、鍛錬と手合わせが一通り終了する頃には銀世界の上に見事な朝焼け空が広がった。
昨日は曇っていたせいで山もよく見えなかったが、今日は雪を冠したツルギ山とアカイシ山脈がはっきりと浮かび上がっている。
「なんと壮大な風景か…! ここは素晴らしい土地ですね、ザコル殿!」
「はい。この山の景色の良さが解ってもらえるのは嬉しいですよ、タイタ」
真っ直ぐに感動を口にするタイタに、周りにいた領民男性達もどこか嬉しそうに笑っている。
「うちの姫が、雪が積もったら雪合戦ってのをやろうって言ってんすよ。ドングリの代わりに雪玉を投げ合うらしいんすけど」
エビーがそんな男性達に提案する。
「何だそりゃ、子供の遊びみてえだなあ」
「そう言って、ドングリ合戦もめちゃくちゃ楽しんでただろお前」
「はは、ちげえねえ」
「ミカ様ぁー、雪合戦ってのはどうやるんだ、教えといてくれよぉー」
今日も平和だ。
「何が平和ですか、こないだの戦からまだ三日目ですよ三日目! 平和を実感する段階じゃないです!」
「危機意識が高いねピッタ。うんうん、大事な事だよ」
「意識上げていきましょうよお…!!」
このピッタが所属するアーユル商会の面々がモナの工作員と聞いてからは、彼女らを初めとした同士村スタッフ巻き込まないようにしなければと気負いすぎずに済むようになった。
もちろん巻き込むつもりはないだが、有事の際でも適切な行動ができる者がついていると考えれば、これ程心強い事はない。おそらくセージのアロマ商会スタッフも身を守る心得くらいあるだろう。彼らは、私が思うよりずっと強かで逞しいのだ。
「うんうん。安心安心」
「何が安心なんですかあ、私が心配してるのはミカ様なんですよお…!! お願いですから、猟犬様を振り切って追いかけっこするだなんて遊びは金輪際やめてください!!」
「あれはもうしないよ。エビーに大説教くらったし、タイタまで怒らせちゃったし」
『当たり前です!!』
ピッタのみならず同士村女子五人の声が揃った。
「ミカお姉様、今日のおリボンは深緑色なのですわね。花の刺繍が映えてお洒落ですわ。昨日の若草色も素敵でしたけれど」
「ああ、これは確かユーカが選んでくれたリボンですよ。昨日のはピッタが選んでくれたリボンだったはずです。ふふっ、みんな気を遣ってくれたのか、ザコルが選んだ二本以外は全部緑系統で」
アメリアが急に後ろを振り返る。
「ユーカ! カモミ! わたくしにもリボンを選ばせてちょうだい!」
「かしこまりましたアメリ様! 後でお持ちいたしますね!」
アメリアによれば、アロマ商会はテイラー領都にも支店があり、全国的に人気の高い手芸店なのだそうだ。ユザ○ヤみたいな感じなんだろうか。いや、本当に大企業なんだな。
「皆の者! ちゅうもおおおおく!!」
イーリアのアルトボイスが響く。解散気分だった人々が何だ何だと姿勢を正す。
「先日から、我らが聖女ミカが傷物林檎を集め、ジャムへと加工している事を耳にした者もいるだろう!」
あ、嫌な予感。と思った瞬間、ガッと腰と口に手を回され、手も足も口も出なくなった。
「んーむむむー!?」
「聖女はただ食糧の足しにするためにそうしている訳ではない。異世界で培った知識をもとに、被災地であるカリューにおいて、冬場に起こりうる病を予防せんとして…」
そこからはイーリアの口から壊血病予防対策の説明が朗々と語られ、周りの人々がほうほう、なるほどそうだったのかと頷く。
「我らが聖女、いや賢姫とでも呼ぶべきか! 今この瞬間も我らが同胞を救わんと、その知識と力を惜しみなく奮ってくださっている! 皆の者、我らが賢姫に捧げよ!! 最大の感謝と尊敬、そして忠誠を彼女に!!」
うおおおおおおおおおおおおお
「賢姫ミカ、バンザーイ!!」
『バンザーイ!!』
バンザーイ、バンザーイ、バンザーイ…………
何これ…。
「ミカ様よお…、戦の後は大人しく町長屋敷に引っ込んでんのかと思ったら、ジャムなんか作ってたのか。たった二日でこんなに…。荷馬車何台分になるんだこりゃ」
「相変わらず働きすぎだろ」
「出稼ぎの期間工だってこんなに働かねえぞ」
野次三人衆がどんどん運ばれてくる木箱を見てどこか呆れたように言った。賢姫だなんだという騒ぎは、半分ノリみたいなものらしい。皆の態度が変わらない事に少しだけ安堵する。
出荷作業場にて、ジャム瓶が林檎出荷用の木箱におが屑とともに梱包し直されていく。野次三人衆ももちろんその手伝いをしてくれている。
「私はそんなに働いてませんよ。色んな人が手伝ってくれたんです。うちの護衛達はもちろん、山犬ご夫妻に、アメリアとテイラーの騎士や侍女、同士村の子達、屋敷の使用人も。ザコルなんて手元が見えないスピードで林檎捌いてくれて。ふふっ」
あの冗談みたいな光景は、いつかみんなにも見せてあげたい。
「ミカ様以外の貴族の方々まで作業に加わってくださったのか。それにしても、まさかあの大量の傷もんを全部加工しちまうとは…」
林檎農家のおじさんまで呆れ顔だ。
「いやいや農家さん、あの莫大な量を容赦なく運び入れてくれたのはそちらじゃないですか。屋敷まで運んでくださってありがとうございました。大変だったでしょう。それと、林檎はまだちょっとだけ残ってますよ、瓶が尽きただけで」
「そうか、じゃあまた届けてやっからな! 瓶も集めといてやらあ!」
「まだあるんだ…。シータイの林檎生産量こそほんと『まさか』って感じですよ」
大瓶にして千二百以上も作れるなんて、元の傷物林檎の数がどれだけあったのかという話だ。正規品はその何倍になるんだろう。
「なに、今年は豊作だったのさ。作付け広くした影響もあってな。近々、モナの方も林檎酒工場を拡大すんだって言うからよう」
「来年から徐々に注文が多くなるって言ってたけどねえ、今年は傷物だけじゃなく、正規品も大量に余らすとこだったんだよ。あの戦で大分落ちて傷物になっちまったけど…。少しでも無事なのをと必死に拾い集めたのが、こんな風にジャムにしてもらえて、カリューの人らを救う薬にまでなるなんて。あたし達ね、本当に嬉しいんだよ」
「ありがとなあ、ミカ様」
「い、いえ…っ。こちらこそ」
農家の夫妻に笑顔を向けられ、私はぐっと込み上げるものをこらえた。
いくら余らす予定だったと言っても、せっかく育てた林檎を傷物にされたのには憤っただろうし、悲しくもあっただろう。
それでも戦を呼んだ一因である私達を責める事なく、林檎を救ってくれたと感謝さえしてくれる彼らには、農家としての矜持と強かさ、そして本物の優しさが垣間見えた。
「ねえミカ様。そのマフラー、自分で編んだのかい? 早いねえ、もうできただなんて」
おが屑を箱に入れている年配女性が私に声をかける。
「えっ、あっ、もしやこの毛糸を紡いでくださった方ですか!? こっちもずっとお礼が言いたかったんですよ! 急いで紡いでくださったそうでありがとうございました!! それとこのマフラーを編んだのはザコル様です!」
「は、ザコル様が!?」
「はい。昨日、二時間くらいで五本も」
「二時間でマフラーを五本!?」
どよどよどよどよ…。
その場にいた女性達が顔を見合わせる。もしや、みんな紡ぎ手なんだろうか。
「二時間ってのはとても信じられないけど、それと同じのを五本っていったら、毛糸玉五十玉以上は使ったろう。前に渡したのは使いきっちまったんじゃないかい」
「え、あ、そうですね。でもピッタ達が貰ってきたのはまだ…」
「あんなんじゃ絶対に足りないよ! みんな! 午後はまた紡ぎ車持って集合だ!」
あいよお! と威勢のいい返事が上がる。
「ちょっ、今度はちゃんと代金受け取ってくださいね!? 皆さんの手間賃も乗せて!」
あー、はいはい、と適当に頷かれる。これ、絶対受け取らない気だ。
「おいおい、そこでじっと気配消してる英雄様よう、お料理に編み物までしてんのかぁ? 似合わねえなあ!」
「そうまでしてミカ様の気ぃひきてえのか!」
「必死かこのスカシ野郎!」
野次三人衆が私の後ろでずっと黙っているザコルに絡み始めた。彼らの辞書に不敬とかいう単語はない。
「編む作業は単純に得意だったというだけです。…それから、僕はこの町の林檎が好きなんです。傷物がもったいないという、ミカの言葉はすとんと胸に落ちた」
ザコルの素直で穏やかな反応に肩透かしを食らったか、うっとたじろぐ野次三人衆。
「それに、僕が作業しただけミカの仕事が減りますから。そうすれば、ミカがのんびり過ごせる時間も増えるでしょう」
うぎぃ、と三人衆の喉から変な音が漏れ出る。
「ほへ…」
私の口からは気の抜けたような音が漏れ出た。
モッタイナイ精神に共感してくれたばかりか、私がのんびりできるようにとか、そんな事を考えて手伝ってくれていたなんて。
林檎の加工も編み物も、前のめりなくらいに取り組んでくれた彼の姿が思い浮かび、じいんと胸が温まる。
「…おめーらの負けだ。おめーらもちったあ男磨けよ。野次ばっか飛ばしてねえで、女気遣う言葉の一つでも覚えろ。な?」
農家のおじさんが三人衆の肩をポンポンと叩いた。
「ザコル様、うちの林檎、昔っからつまんでくれてたって言ってたもんなあ…。そこまで気に入ってくださっていたとは…」
「ええ、落ちたのを勝手に拾っていた分際で何ですが、毎年秋を楽しみにしていました。ここの林檎に比べると、王都で食べる林檎はどうにも味気なくて」
ただ甘党なだけかと思っていたが、ここの林檎が特別好きだったのか。もしかして蜂蜜や牛乳も…。
「農家冥利に尽きるってものねえ。いつもここを走り抜けてた子が、すっかり大きくなって」
林檎農家の夫妻は、相変わらず表情の少ないザコルを見上げて微笑んだ。
エビーとタイタ、それに馬丁の少年が馬を引いてやってくる。
「あ、クリナ! 久しぶり! 元気そうだね!」
ブルルン、と牝馬のクリナが鼻を鳴らして返事をくれる。
「姐さん、カリュー行きは昨夜の時点で決まってたんすけど、報せるのが遅くなってすいません」
「報せなかったのは敢えてでしょエビー。別に私は構わないよ。護衛が把握してるならそれで」
昨日はやけに早く寝かされたが、私達抜きでカリュー行きの件とさっきの公開処刑について打ち合わせでもしていたのだろう。
前回は、三日後と決めたのがどこで漏れたか、その前日あたりからカリュー周辺に曲者が湧きに湧いていた。中田に言わせれば『狙われすぎて草』状態だったらしい。
だったらいっそ抜き打ちで出発したほうが曲者も少ないのかもしれない。私にさえ報せなかったのは、そういった情報統制的な意図もあったと考えるのが妥当だ。
「薪の件もこちらで報告しておきました。イーリア様も町長殿も、いたく感心なさっておられましたよ」
タイタが抱えていた布包を指し示す。
「てことは、あっちでは薪も乾燥させちゃっていいって事ね」
「体調にはくれぐれも気をつけるようにと仰せつかっております」
「もちろん。今回は充電もたっぷりだし、心配いらないよ」
「じゅうでん…?」
充電池、もといザコルをちらっと視線で指し示す。プイ、と気まずげに顔を逸らされる。
「何かあっても補給できるって事」
「補給…ああ!」
ぽん、とタイタが拳を打つ。
「それはようございました! それならば安心ですね!」
「なっ、何を喜んでいる!? 君は風紀の乱れを止める役なんだろうが、このお転婆を何とかして諌めろ!」
昨日、ベッドの上で三十分くらい思いっきりにおい嗅いでた人が風紀とか何言ってるんだろう。
そう敢えて独り言を呟けば、ザコルがビクッとしてこっちを見た。
「はいはい、行くぞバカップルども。さっさと馬に乗りやがれください」
エビーが雑に話を締め括り、弁当が入っているらしいカゴと水筒を手渡してきた。
今日の引率はモリヤ達シータイの衛士ではなく、イーリア率いる小隊だ。荷馬車の方はお馴染み、山の民の男性達が指揮を執る。
「ミカ。昨日はよく休めたか」
「はいイーリア様。万全の体調です」
「何よりだ」
イーリアはそんな言葉だけかけると、先頭となる隊列の方へ颯爽と戻っていく。
「ミカお姉様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「アメリア…」
「わたくしの事は心配ご無用でしてよ。ピッタ達と編み物の続きをする約束ですの」
アメリアの背後には侍女ハイナの姿もあったので、昨日彼女から渡された封筒を返しておく。
その隣にいたハコネが口を開く。
「ホッター殿。テイラーからはもう一人つける。サゴシという隠密だ。護衛隊の者ではないが、貴殿の周辺を護らせ、何かあればこちらへの伝令も果たす事になっている。基本的に近づく事はないと思うが、用があれば名を呼ぶといい」
「へえ、隠密。そんな人も一緒に来てたんですね。分かりました。よろしくお願いしますね、サゴシさん」
さわさわ、と近くの藪が動いた。何というかデジャヴだ。
「……えっと、同志の皆さーん、今回ってもしやついてくる感じですかー?」
さわさわさわさわ! と色んなところの藪や木が元気に揺れた。
「ふふっ、隠密たくさん」
「サゴシ必要すかね、これ」
さわさわ!! と近くの藪が強めに動く。エビーの言葉に文句を言っているようだった。
つづく




