不吉な日とは言わせない
今日は私がこの世に生まれた日である。
はっぴーばーすでぃ、と言うらしいが、生憎年老いた私には縁遠いものだった。
生まれた日なんてのはただの記号。
それに一度だって生まれてきた事に喜びを見出したことなどない。
偏屈だと言われて大いに結構。
しかしそんな私が今ではこうしてはっぴーばーすでぃを楽しみにしている。
五年前。
私の面倒を見てくれる職員が何やら騒がしいと顔を顰めていた時だ。
同時期に入居したアキラさんがこそっと「今日はニキさんの誕生日ですよ。連中がご馳走を用意してくれてます」と耳打ちしてきた。
「たんじょうび? ここの連中はわざわざ祝いたがるのか? ただでさえなんの利益にもならない世話をしているのに」
「こういう時は素直に祝ってもらった方がいいですよ。いらないなら俺がいただいちゃってもいいですし」
ぺろりと舌を出したアキラさんに「構わん」と答えた、数分後の俺は前言撤回することとなる。
「ニキさん、はっぴーばーすでぃ! 今日はいつもより豪華なお食事ですよ」
控えめにいって最高だった。老いぼれ向けの柔らかい食事類だが、味は脂がのった魚そのもので夢中で食べてしまった。
「ニキさんご機嫌ですね。そうしたら少しだけ身体触らせてもらいますよ」
ご馳走の手前、仕方なしに職員のぼてぃちぇっくとやらに付き合った。
(毎日こんな食事だったらいいのに)
不満げに睨むが職員はへらへら笑うだけで、何も汲み取りはしない。
「美味しかったですか? それじゃあまた来年元気に過ごしてくださいね」
それからというもの、私ははっぴーばーすでぃを迎えるのが僅かな人生の楽しみになった。
四月四日。四は不吉の数字。黒猫は不吉の象徴。
野良として生きていた私にとって、忌まわしい象徴だったが。
「黒猫の子を家族として迎えたい……? はい! 是非! とってもいい子なんですよ!」
どうやら世界はまだまだ捨てたもんじゃないらしい。
ただ──ここでねこちゅーるが食えなくなるのは惜しい。