表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

800文字ショートショート

不吉な日とは言わせない

作者: 一色 良薬

 今日は私がこの世に生まれた日である。

 はっぴーばーすでぃ、と言うらしいが、生憎年老いた私には縁遠いものだった。

 生まれた日なんてのはただの記号。

 それに一度だって生まれてきた事に喜びを見出したことなどない。

 偏屈だと言われて大いに結構。

 しかしそんな私が今ではこうしてはっぴーばーすでぃを楽しみにしている。

 五年前。

 私の面倒を見てくれる職員が何やら騒がしいと顔を顰めていた時だ。

 同時期に入居したアキラさんがこそっと「今日はニキさんの誕生日ですよ。連中がご馳走を用意してくれてます」と耳打ちしてきた。

「たんじょうび? ここの連中はわざわざ祝いたがるのか? ただでさえなんの利益にもならない世話をしているのに」

「こういう時は素直に祝ってもらった方がいいですよ。いらないなら俺がいただいちゃってもいいですし」

 ぺろりと舌を出したアキラさんに「構わん」と答えた、数分後の俺は前言撤回することとなる。

「ニキさん、はっぴーばーすでぃ! 今日はいつもより豪華なお食事ですよ」

 控えめにいって最高だった。老いぼれ向けの柔らかい食事類だが、味は脂がのった魚そのもので夢中で食べてしまった。

「ニキさんご機嫌ですね。そうしたら少しだけ身体触らせてもらいますよ」

 ご馳走の手前、仕方なしに職員のぼてぃちぇっくとやらに付き合った。

(毎日こんな食事だったらいいのに)

 不満げに睨むが職員はへらへら笑うだけで、何も汲み取りはしない。

「美味しかったですか? それじゃあまた来年元気に過ごしてくださいね」

 それからというもの、私ははっぴーばーすでぃを迎えるのが僅かな人生の楽しみになった。

 四月四日。四は不吉の数字。黒猫は不吉の象徴。

 野良として生きていた私にとって、忌まわしい象徴だったが。

「黒猫の子を家族として迎えたい……? はい! 是非! とってもいい子なんですよ!」

 どうやら世界はまだまだ捨てたもんじゃないらしい。

 ただ──ここでねこちゅーるが食えなくなるのは惜しい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ