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88.揚げ餃子

「アル……こんにちは」

 アルバートへ声をかけようとして、エドワールもいることに気づいた。危ない危ない。推しセンサーが働いてしまった。

 バルと領主のエドワールが話をしているようだ。

「やあ、シーナ」

 と、エドワール。相変わらず気さくな方だ。

「何かあったのか?」

 とは、バル。珍しくギムルに送られてきたからだろう。

「あ、いえ、まずは領主様のご要件が先かと」

 明らかに、訪問してきているが、門前払いをするためにバルが対応しているといった図式だったのだ。

 アルバート他、領主のエドワール以外はみな困った顔をしていた。中には少々不快そうな顔をした護衛もいる。

 シーナの後ろでギムルが固まっていた。

「こちらは今膠着状態でね。少し困っているんだ」

 言われているバルも困っていた。と、屋敷の方からヤハトがやってきた。

「忙しいから無理って言ってこいって言われた」

 ヤハトの言葉にエドワールとバルははぁと溜息を漏らす。

 察する能力の高い日本人てあるシーナには、これがどんな事態なのかすぐにわかった。

「フェナ様、雫葬(しずくそう)面倒くさいって言ってるんですか?」

 こっそりアルバートに訊ねると、彼は苦笑し頷いた。そのやり取りは皆にも聞こえている。

「面倒くさいと言うよりは、拗ねてらっしゃるんだ。この街に来たとき、一番色の合うベラージ翁の組み紐(トゥトゥガ)を希望したんだが、もうその時点でかなりの高齢で新しい精霊使いの組み紐(トゥトゥガ)は受け付けてくれなかったんだ」

 それ以来ずっと拗ねているんだよ、とバルが困った様子で言った。

 フェナと色が近いなら、シーナとも近いのか。亡くなる前にあってみたかったなぁと思った。

「フェナ様しかできないんですか?」

「そういう訳では無いが、その土地にいる一番強い精霊使いが執り行うのが慣例なのだ。光と闇を持っているのならなお良い。そして、それが死者への餞となる。敬意であるとも言える」

「バルさんも、そう思うんですか?」

「フェナ様の意に沿わぬことをさせられるとは思わない。が、ベラージ翁はシシリアドに貢献されていたと聞いている。政治には関わらないが、冬の食料を満足に蓄えられないものへの施しや、夏の水の精霊石の寄付など、かなり尽力されていたと聞いているよ。この街に来たときに、宿屋で揉めていたらこの屋敷の貸出の話を通してくれたのもベラージ翁だ」

 揉めたのか。さもありなん。めちゃくちゃ世話になってるし。

「へそを曲げてるのはフェナ様だけなんですね……じゃあ、ヤハト、フェナ様に厨房をおかりしていいか聞いてくれる? ヤハトはフェナ様が出かけるとしても暇よね? お肉のみじん切りとか手伝ってくれない?」

「ん、いいけど?」

「今日は雫葬とやらがあるらしいじゃない? 師匠(せんせい)に言われて店のプライドを掛けた料理をすることになったの。外でつまめるものっていう制限があるからなかなか難しいんだけど、新しい物も用意しようと思ってて、ソニアさんやシアにも手伝ってもらえたら嬉しいな」

「まあたぶん大丈夫」

「ただね、これは、雫葬が終わったあとにみんなに振る舞う料理なの。量を作らないといけないし、短時間でどのくらい出来るかもわからないから、つまみ食い禁止。食べるのは雫葬のあとの広場でね」

「ん、ん? ああ! わかった。伝える」

 シーナの言いたいことを正しく理解したヤハトは弾丸のように飛び出し、やがてとっても不機嫌なフェナを伴ってやってきた。

「君はいつから私を動かすようになったんだい?」

 口を尖らせジト目でシーナを見る。

 ここまで来たのだからあと一押ししておこうか。

「私はただ、厨房を借りに来ただけですよ。あと、お手伝いの手がたくさん欲しかっただけです」

 ニコニコと答えるが、フェナの眉間の皺は消えない。

「ただそうですね、私の故郷では結婚式と葬式が重なったら葬式優先です。結婚式のお相手には後日またお祝いと謝罪に訪れます。なぜなら、別れができるのはもうその時だけだからです」

 フェナの瞳を真っ直ぐ見る。

「今日で最後です」

 じっと見つめ合って、フェナの美しい銀色のまつげに負けそうな頃、ようやく長い溜息をついてフェナの方から目をそらされた。

 勝った。

「ギムル、買い物内容変更。小麦粉と強力粉をたくさん。あと、うちから砂糖壺一つ持ってきて。領主様に頂いたやつ。それと、チーズ、そんなに臭みのないやつがいいな。あと肉! 豚系の肉が欲しい。それとキリツア」

「豚肉と粉系は食料庫のものを使えばいい」

 バルが横から提案してくれたので素直に受け取ることにした。

「時間との勝負なので、お先に失礼する非礼をお詫びいたします」

「ああ、シーナの料理、私も楽しみにしているよ」

「はい、それでは。ギムルも急いでね!」

 突然の領主様に固まっていたギムルも、早くこの場から逃げ出せるように促してあげる。

 そして、シーナはヤハトと共に厨房に向かった。


「今日はとっても時間がないので、頑張りましょう!」

 話をしたらソニアは喜んでと手伝いに参加してくれた。ソニアには揚げパン砂糖まぶしをまかせることにする。

「油をしっかり切ることが大切です」

 食べるのは夕方になってからだ。出来上がったものは冷暗所に移動する。食料庫は腐敗防止の魔術具もあるらしいので、ちょうどよかった。

 ヤハトと作ったときは長めに作って、生地をひねって揚げてみたが、今回は短めでひとひねりにすることにした。なんとなくひねりたい。

 そして、シーナたちはまず大量の生地を作ることにした。分量は例のごとく覚えていないが、だいたい強力粉薄力粉が同等。水でなくお湯を使う。ボウルに入れてフォークで混ぜる。ベタベタしないいい生地具合になったら、少し寝かせる。生地はたくさん必要なので、その間に次の生地を作った。時間を置いたら棒状にして、ぶつ切りに。粉の上で丸く広げる。丸く広げるのをシアに任せて、シーナとヤハトは無心になって皮を作った。最終的に三百枚を越えたので、キリツアと肉で餡を作り、包む。面倒なのでひだを作るのはやめた。

 あとから塩などを付ける必要がないように、餡には味をしっかりつけた。チーズはベーコンも一緒に包んだ。

「協力ありがとうございます。もし良かったら味見してね?」

「え、味見禁止じゃないの?」

「そんなの、フェナ様引っ張り出すための嘘に決まってるでしょ。ほら、冷めても結構美味しいな」

 シーナが食べるとヤハトもシアも美味しそうに頬張る。

「肉の方もチーズの方も旨い」

「たくさん食べてしまいそう」

 ひょいひょいとつまめてしまう大きさなのが罪深い。

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