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86.初めての価値

 教えることは教え終わったので、そろそろ店へ帰ろうという話になった。

 当日も是非食事会に参加してくれと言われたが、さすがに貴族が招待されている中にシーナがいたのでは浮いてしまうのでお断りした。

 けれど、異世界の結婚式にはとても興味があるし、パーティの雰囲気もどんなものなのか見てみたい。貴族の装いも研究したい。新しい料理の反応も気になる。なので、当日会場の隅にこっそりいる権利をいただいた。これは純粋に楽しみである。お仕着せを着て、用事を頼まれたりしないような場所でひっそり見守る予定だ。

 お昼を頂いて帰ることになったのだが、その前にしなければならないことがある。

 マリーアンヌの髪飾りだ。

 あのあとも手を入れて、キラキラ光るように自前の光の精霊用糸を織り込んだ。簪からあわじ玉がぶら下がるようにしたのだが、これも少し反射してほしいので緑の糸に光の精霊用糸を混ぜ込んだ。我ながらこれがいい仕事をしていて、反射の量が絶妙なのだ。

 メイドにお願いして、マリーアンヌに渡せるか聞いてもらうと、すぐに東の宮に呼ばれた。


「これが髪飾りなの!? なんて可愛いの!!」

 そうだろうそうだろうという心の声は奥底に押し込める。

「たくさん糸を頂いてしまったので、何か出来ないかと思いまして」

「ねえ、つけてみたいわ!」

 側仕えたちに命じて櫛などを持って越させる。髪を結い上げるときから、紐を一緒に編み込んでもらい、亀の子結びで抑えてさらに簪で留める。そこからさらに大きなリボンを少し右に寄せてつけたら完成だ。

「マリーアンヌ様、これは本当に素晴らしいです」

「御髪に緑が映えて、この編み込んでいる糸も素敵ですね」

「マリーアンヌ様、これは、花嫁衣装にも良く合うのではありませんか?」

 口々に側仕えたちが褒めそやし、大きな鏡の前で四方から鏡を抱えて後ろの出来を見る。

「花嫁衣装の髪飾りには、キラキラが足りないんじゃありませんか?」

 宝石とか、もっと使うものじゃなかろうか。

「そんなことはありません!」

「この髪飾りはとても美しいです」

 意外にも側仕えたちが乗り気だった。

 我ながら良い出来だとは思っているのだが、ここまでマリーアンヌでなく側仕えたちが一致団結してくるとなにかがあるのではと勘ぐってしまう。

「緑の糸の中になにか混ぜものをしているのか、光が反射するのも良いですね」

 本気で気に入ってくれてるのはわかるので、まあ逆らうことはやめた。プレゼントしたのだから、あとはマリーアンヌが決めることだ。

「私の結婚話が進んだのは、シーナのおかげでもあるから、この髪飾りで結婚式をあげるのも良いなと思うわ」

 その場でくるりと回ってみせる。

 組み紐のリボンがふわりと揺れた。

「どうかしら、シーナ」

「気に入っていただけて光栄です。当日は花嫁衣装と髪飾り、楽しみにしております」

「このような髪飾りは見たことがありませんからね、当日まで極秘に事を運びます」

「マリーアンヌ様も当日まで我慢してくださいね」

「シーナ、結婚式後なら髪飾りの販売は良いですが、それまでは髪飾り自体を作らないでいただけますか? 組み紐の髪飾りをつけるのはマリーアンヌ様が初めてでなくてはなりません」

 ああ、と合点がいった。

 組み紐を使った髪飾りが、初めてのものなのだ。

 初めてのものの価値は高いと散々言われている。

 料理も始めてのものがたくさんある。その中でマリーアンヌも初めての髪飾りをつけているとなればさらにシシリアドの価値は上がる。

 髪飾りの可愛さと初めてが、側仕えたちをここまで興奮させたのだ。

「わかりました。髪飾りを作るとしても結婚式以降で」

 固く約束をし、昼食を一緒にとったら、ようやく店へ帰る時間になった。

 丸台や、増えた糸の束を持ってアルバートに送ってもらう。

 途中、チャムの細工工場に寄ってもらった。

「チャム〜無理言ってごめんねぇ……」

「シーナ……急すぎるよ」

「私もまさかあそこまですぐ作らせるなんて思ってなかったよぉ。これ、特急料金と口止め料。あの図面返して」

 手に金貨を握らせると、チャムは目を白黒させる。

「なんか大変なことになったの?」

「いや、たぶん半年もしたらまた頼むことになると思うんだけど、今はもう少し内緒にしておきたい。私的極秘プロジェクトなの」

 あくまでシーナの秘密ということにしておく。

 困った顔をしたチャムは、店の奥からシーナの手書きの図面を持ってきた。

「親方がシーナの注文には細心の注意を払えって言ってるから、まあ詳しく知ってるのは作った俺と親方だけだよ」

「ありがとうチャム!」

「危ないことはしないでね、シーナ」

 チャムはいつもシーナの心配をしてくれる。本当に良い子だ。

「危ないことしてるつもりはないんだけどね」

「私も注意を払うよ」

 後ろで黙って聞いていたアルバートが、チャムを安心させるように笑顔で言った。


 店はまだやっている時間だ。

 ガラも接客中かもしれないし、扉の前でお別れだ。

「長々とお世話をおかけしました」

「いや、こちらこそ。シーナをこちらの都合で振り回しすぎた。ただ、領主様も本当に感謝しているのだということは覚えておいてくれ」

「なかなかおもしろい体験でしたし、気にしないでください」

 筋肉系料理人面白かったし、お屋敷のスープはわりと鶏ガラ出汁をしっかりとってるというのが新しい発見である。

「次は八月くらいですね」

「そうだね、しばらく会えないのは残念だが、体に気をつけて」

「アルバートさんも」


 シャララン、と店の扉が鳴る。

「シーナ、おかえり」

 接客をしていない兄弟子がこちらを見て声をかけてくる。

「ガラは接客中だよ。荷物置いといで」

「はーい」

 やっぱり店はいいな。

 帰ってきたとき帰ってきたなという気にさせる。香りのせいもあるだろうが落ち着くのだ。

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


組み紐髪飾り本当に可愛い……

成人式とか絶対こーゆうやつ素敵だと思う。


ブックマークありがとうございます。

わーい50きた〜友だち(ブックマーク)100人できるかなぁー?

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