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81.貴族の教育

 そんなとりとめもない話をしていると、昼食の時間になった。本館からメイドたちによって料理が運ばれてくる。朝と昼はこちらで食べるそうだ。

 夜は本館でエドワールと一緒らしい。

「シーナ、なんだか怖い顔をしているけどどうしたの?」

 怖い顔なのではない。悪いことを考えているのを誤魔化そうとした顔である。

「いえ、故郷とシシリアドとで、何かうまく活用できるようなことはないかと考えていました。怖い顔をしたつもりはなかったのですが」

 ふふと笑うとマリーアンヌは目を輝かせる。

「それで何か考えついたの?」

「一つ、誇れることを思い出しました。私はチキュウ種で、さらに日本という国に住んでいました。世界から比べるとわりと小さな島国なのですが、日本の識字率はほぼ百パーセントでした」

「ひゃくぱーせんと?」

「国民みんな、字を読める、ということです」

 ひらがなカタカナさらに漢字があるので完全には無理だ。漢字は読めないものも多い。だが、日常生活をする上で、戸籍を持つ日本人はほぼほぼ字が読める。

「子どもは六歳から十五歳まで、無料で学び舎に通うことができ、親は子を学び舎に通わせる義務がありました」

「それは、平民の話なのよね?」

「日本には貴族階級がありませんでしたからね。でもそうやって、平民の水準を上げることは国力に繋がるんですよ。優秀な人を育てることになります。ちなみにそのあと大体三年間は学校に通い、さらに専門的なことを学ぶ者も多かったですね」

 マリーアンヌだけでなく、側仕えたちもシーナの話に驚いていた。

「まあ状況が違うので、すべてが当てはまるわけではないと思いますが、貴族の人数に対して、平民の数は何倍、何十倍もあるわけですし、能力の底上げという意味では平民に目を向けるべきでしょうね」

 正直、いきなり全面的になど無理だ。それでも誰か一人でもこんな事例があるのだと知り、少しでも話題になればと思う。

「一応今、神殿で十日に一度位の頻度で読み書き計算を教えているんですよ」

「あら、神殿が?」

「はい。私もこの世界の常識を知るために通っています。素敵な試みだと思いますよ」

 ただ、今は神殿のボランティアの範囲でしか活動していないので、これ以上のことはできないのだ。

 一石は投じた。あとは波紋がどのように広がっていくかだ。暇なお嬢様がどんな事を考えるか、だ。少し時間を置かねばならないだろう。

「ところで、貴族の教育はどのようになっているんですか? 貴族階級などもあまり知らないので興味があります」

「貴族は、そうね、伯爵家なら家庭教師をつけるわね。伯爵は自分の治める領地を持つから、王都から離れた場所にいるしね。子爵も家庭教師をつけるけれど、数はそこまで揃えられないかしら。財力のある子爵ならば揃えられるかもね」

「子爵様は領地はないのですか?」

「子爵は、伯爵家の領地の中から一部の管理を任せられるの。親族であることも多いわ。フェナ様のご実家も子爵よ」

 貴族階級なんてまったく知らなかったのでそんな仕組みだとは思わなかった。 

「爵位は長男が継ぐのが習わしだから、次男以下の男子はわりと王都の士官学校や、精霊使いとして王都で暮らすことが多いわ。そのために王都に屋敷を持つ貴族が多いわね。長男も親が生きている間は爵位を継ぐことはできないし、士官学校に通って交流を持つようにすることも多いわ。エドワール様の息子のヴィルヘルム様も精霊使いとしての才能もおありだから、今は王都で仕事をしてらっしゃるわ。もう五年もしたらこちらに帰っていらっしゃるそうだけど」

 アルバートから聞いていた息子の話だ。

「ちなみにフェナ様は士官学校に行くと十一のときに王都に向かう途中逃げ出して行方をくらましたと思ったら、南の方で精霊使いとして名を挙げていたと聞いているわ」

「フェナ様……何やってるんですか、あの方は」

「初めて聞いたときは声を上げて笑ったわ」

 いや、笑えないだろう。

「あの容姿で目立たないはずがないのに、どうやって数年、家族にバレずにいたのか。本当に面白い方よね」

 そこを面白がれるのは、親戚だなと改めて思う。

「では、このシシリアドは、シシリアド領の中心で、周囲を子爵が治めているってことですか?」

「そうね、だいたいその通りよ。シシリアド伯爵領はそれほど大きな土地ではないから、内海の向こう側とか、もう少し東側とか、子爵は全部で五家よ。それほど大きくないけれど、最近影響力が増しているから、南の方の領に妬まれてるんだけどね。特に一番妬んでるのは、その、もともとフェナ様が名を挙げ始めた頃にいた領の伯爵ね。フェナ様は取られるし、冬の冒険者も、名のある冒険者が定住したがるのも今はシシリアドだから」

 これくらいは常識なのか、フェナのやんちゃを暴露したときほど、側仕えの動揺はない。

「あ、けど誤解しないでね。私がエドワール様を昔からお慕いしていたのは本当の話よ! もともと親戚筋で、五年ほど前にお兄様のいた王都のタウンハウスに遊びに行ったときお会いしているの。その頃から素敵な方だと思っていたのよ?」

 エドワールからしたら親戚の子どもを相手していただけだろうが、マリーアンヌはその紳士的な対応にトキメイたらしい。

 まあ、貴族なのである一定以上の顔面偏差値は保有しているのだろうが、マリーアンヌがオジサマ好みだったということだろうか。

「まあ、話はずれたけど基本小さな頃は家庭教師をつけて、男子は士官学校に行くことが多い。女子は家で花嫁修業よ。これがまたたいくつなのだけれど」

 お嬢様っと、後ろから叱責が飛んでいる。

「まあ政治の話なんかも一応勉強するわ。特にその時の時勢なんかはね。嫁ぎ先で恥をかくことになるから。私もまずはこの街の状況を把握したら、シシリアド内のあちこちへ行ってみないとね。私が嫁いでから大して何も変わらないなんてことになったら、それこそ恥さらしでしょう? シシリアドの力を上げていかないと。シーナもなにか良い案があったら教えてね」

 お貴族様も大変なんだなぁと、思いながらニッコリ笑顔を返した。

 


 


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