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79.ソース

 火傷はしたが、味は良かったようだ。

「この衣がサクサクでいいなぁ」

 他の料理人たちも分け合ってコロッケを食べた。

 もちろん推しにも差し出した。

 アルバートも気に入ってくれたようだ。

「パテラに衣をつけましたが、鶏肉でも出来ますね。まあこの衣と揚げる事を知った料理人たちが他のものでチャレンジするのはご自由です。ただ、これだけだと結婚式の料理には華やかさが足りないかなと思うので、ピーネでソースを作りましょう」

「ふむ……十分新しい料理で目を引くとは思うが、聞こう」

 バルバトがピーネソースの準備を始めた。

「味の調和を目指して細かい調味料の調整は任せますね」

 油とみじん切のキリツア、湯剥きしたピーネの角切りを炒め、それらを塩コショウさらに砂糖も入れて味を整えるだけだ。工夫は丸投げ。

「ソースを煮詰めて煮詰めてとろみが付くくらいにしてもいいと思います。なんなら形が残らないくらいに煮詰めて裏ごししてもいいかもです。種は入らないようにしたほうがいいかと」

「中央にコロッケを、その周りにソースを広げて出してもいいなぁ。好みでソースを加減できる」

 バルバトとザッカスだけでなく、他のコックたちも盛んに意見を交わしている。ピーネソースに入れる香辛料の吟味や使うピーネの種類など、楽しそうだ。

 ムキムキだけど頭の中は筋肉じゃなくて料理のことでいっぱいらしい。

 楽しそうだからさらにアイデアを投下することにした。先程のステーキのソースの話だ。

「先日頂いた昼食に出てきたお肉のソースなんですけど、チカの実漬けをステーキを焼いたフライパンの油と合わせただけですよね、あれ」

「そうだな。昔から肉はあれだ。領主様が塩コショウよりチカの実漬けの方を好まれるのだ」

「あれより美味しいかもしれないソース、作ってもいいですか?」

 ズン、とバルバトとザッカスがシーナの前に一歩踏み出す。

「あれよりも美味しいだと?」

 これは怒らせたか? と思ったがもうあとには引けない。お肉を美味しく食べたいのだ。ウスターソースは面倒だから教えないけど。

「試してみません?」

「楽しみだなぁ。何がいる?」

 色々諦めて翻訳機フル回転で準備をしてもらうことにした。本当は現地のものの名前で覚えたいのだが、未だにニンニクに会っていない。

「ゼガの搾り汁、リンゴ、あればモモ、ハチミツ、砂糖、チカの実漬け、ニンニク、ゴマ、くらいかなぁ。あー、キリツアもこのおろし金で、すりおろしてもらえます?」

 リンゴもすりおろしだ。

 少し煮詰めたほうが良さそうな気もする。リンゴあたりは火を通したほうが甘みを増しそうだ。

 さすが料理人たち、手際がいい。

「これも漉したほうがいいのかなぁ」

 と呟けば、すぐさま準備をする。最後にゴマを少しだけ潰して混ぜたら焼肉のタレの出来上がりだ。

 小さなスプーンで味見をしたバルバトが、カッと目を見開いた。

「肉だ! 肉を焼け!」

 そして、焼いた肉につけて食べると唸りだした。

「お肉のタレは少し甘みがある方が美味しいです」

「……今夜のメニューに加えていいのか?」

「私も食べたい!」

「それはもちろんだが……アルバートよ、これは、タダで貰っていいレシピなのか?」

「……シーナから頂いたアイデアは全部書き出しておいてください。今回の件は、まとめて報酬を払うと領主様がおっしゃってました」

「いっとくけど、とんでもねぇ額になるぞ。嬢ちゃんも言ってたが、コロッケだけじゃねぇんだよ。周りにつけて、揚げるって手法に金を払わなければならんやつだ」

「そこら辺も細かく記録をお願いします」

「お金はそんなにいらないんですけどね」

 索敵の耳飾りすごい。毎月の報告がうなぎ登りで未だに止まらないのだ。流石にそろそろ打ち止めだとは思うのだが、耳飾りの商品登録分もなかなかにすごい額になっている。

 「とりあえず領主様の耳には入れといてくれ。他にもデザートになんか新しいレシピがあるんだろ?」

「ありますねぇ」

 しかもクレープという新しい風が。あれこそ、色々なパターンがある。ホット系もできる。クッキーも教えるからやっぱりアイスは黙っておこう。精霊使いが必要になる。

「まあ今日のところはここまでだ。デザートはまた明日にしてくれ」

 そろそろ夕食の準備をしないと間にあわない時間だ。

「このオロシガネってやつ、借りてもいいか?」

「あ、それはどうせコロッケに使うから、さしあげるために新しく作ってきたやつです。ほんとは用途毎にもう少し目を粗くしたり細かくしたりしないとですね」

「……これの代金もつけないとな」

 律儀だ。


 さて、夕食はまた部屋に持ってきてくれるらしい。領主様からのお誘いは毎晩だと困るし事前にお断りしておいた。一人の方が気楽でよい。

 そして今回、実は一つ条件を出したのだ。

 それが、風呂である。

「毎晩お風呂サイコー」

 領主様のお屋敷のお風呂も大きなお風呂だった。

 メイドさんたちがずらりと並んでお手伝いをしますとか言い出したが、お断りした。

 石けんで頭を洗ったあとギシギシになるので少量のお酢だけはお願いした。この髪の毛ギシギシどうにかならないかなぁと毎回思う。これなら、髪の毛だけは洗浄の組み紐(トゥトゥガ)にしたほうがマシなレベルだ。

 風呂から上がるとメイドさんたちがまたもやお手伝いをするため待機していた。髪の毛の香油だけお願いする。

 お肌に塗るクリームも準備してくれていたのでちょっと試してみることにした。

 とはいえ、こちらの世界に来てからお肌の調子はとてもいい。プルンプルンの赤ちゃんの肌とは言わないが、水で顔を洗っても、冬の木枯らしに吹かれても、まったくかさかさになったりしないのだ。

 ポカポカの大満足で部屋に戻るとテーブルに料理が並べられ、ベッドには肌触りのよい寝間着が置いてあった。

 即席焼き肉のタレはいい仕事をしていた。キリツアは濾さないで、後から入れたほうがいいかもと思いながら、お盆に食器を乗せて返しに行くと、バルバトとザッカスがまた罵り合いながら片付けをしていた。

「嬢ちゃん! 領主様もあのタレには大満足だった。コロッケも美味かったとよ」

「それは良かったです。明日は朝食の後に次のレシピでいいですか?」

「おう、よろしくな! とっとと寝ろよ!」

 言われなくても、風呂に入り、満腹になったシーナはもう眠くて仕方ない。午後はほとんど立っていたから余計にだ。

 寝間着の肌触りの良さに、こんないいものを着たら今後どうしたらいいんだろうと戦慄しながら、眠りについた。


 

 

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戦う料理人のイメージは某漫画の料理人。

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