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77.お屋敷勤め

 ガラに説明をして、近いうちに領主様の御屋敷に呼ばれるかもしれないと告げると、呆れた顔をされた。

「面倒は嫌だと言っておきながら、面倒事に自ら足を突っ込んでる気がするんだけど?」

「自分でもよくわかってます」

 わかっているのだが、なかなかどうして加減が難しい。

 まあ仕方ないわねと、しばらくは組み紐(トゥトゥガ)を編ませてもらうのをやめることになった。その代わりに、フェナの組み紐(トゥトゥガ)を久しぶりに編むことにした。

 どうせ結果の報告もあるしと、早々に屋敷へ向かう。

「それではよろしくお願いします」

 そばにはヤハトが待機している。真剣な面持ちで、こちらまで緊張してしまいそうだ。

 丸台の魔力溜まりに、フェナがたっぷりと魔力を注ぐ。六種類の糸をしっかりつけたらうなぎ漁の始まりである。

 前回捕まえようとしたら逃げられて逃げられてで無駄な魔力を使ったので、今回は止めるように言われた追い込み漁をするのだ。ただ、小規模局地的。編んでいる糸の根元をなるべく小さな範囲に魔力の網を広げる。

 冬からずっと、魔力の動かし方を学んできただけあって、かなり自分の魔力を薄く広げることができていた。

 が、さすがはフェナの魔力。こちらの隙をぬって逃げ出していく。

「ああああーー」

 網の目から、ぷるんぷるんと外へ漏れ出していくのだ。

「やめてくださいフェナ様ぁぁぁ」

「私は何もしてないわよ」

「ほんと、性悪な魔力だぁぁぁ」

「人聞きが悪い」

「人の言うことなんて気にしたことないくせにぃぃ」

 結果、やはり均一に糸に魔力を這わせることができず、魔力がボコボコと歪んだ組み紐(トゥトゥガ)が出来上がった。

「うう……フェナ様の魔力本当に言うこと聞かない……」

「でも前よりずっとましだよ」

「仕事に使えないならアウトですよ」

「まあ、使えないね。アイスクリーム作るくらいになら使えるよ。アイスクリーム作ろうか」

 かなり気に入ったらしい。

「牛乳温めた時に茶葉を入れたら紅茶の香りのするアイスクリームが出来上がるかもしれませんね」

「バル!」

 すぐさま指示が下る。

 やってきたバルに、紅茶を煮出して、その後茶漉しで漉してアイスクリームを作るように言う。茶葉に持っていかれる分少し牛乳を多めに。もし出が悪かったら、少量の湯で濃く煮出して牛乳に後から混ぜる方式もあることを伝えた。

 アイスクリームは彼らに任せて報告だ。

「話の流れで、多分泊りがけでお料理教室をすることになりそうです」

「工夫を重ねるのは料理人の役目だろ?」

「そうなんですよねー。コロッケのピーネソースがけと、クレープシュゼットと、アイスの作り方教えて終わるつもりだったんですけどね」

 一日でハイさよならのつもりだった。

「マリーアンヌ様が強敵っぽいです。無邪気に興味の赴くままやりたいことを並べる…………フェナ様の親戚」

 ああ、親戚だ。

「私が領を出た頃には、まだ生まれてなかったから」

「つまり血の証」

 血統かぁ……。

「何か気をつけておくことはありますか?」

「んー、本人はさておき、周りの側仕えは常識的な貴族の考え方をするものが多いから、まあ、相手がいくら気さくでも、弁えておきなさい。シーナは落とし子(ドゥーモ)だからわりあい大目に見られるだろうけど」

「心に留めておきます」

「まあ困ったら呼んで」

「ありがとうございます」

 バルの指示の元、紅茶のアイスが作られた。ヤハトの紅茶の香りを閉じ込める腕も格段に上がっていて、ふんわり紅茶の香りのするアイスはなかなか美味しかった。


 それから十日ほどして、正式な招待を受けた。

 アルバートが迎えに来てくれて、客室へ通される。と言っても荷物はほぼないのだが。

 部屋には側仕えというよりはお仕着せを来たメイドが待っていた。

「申し訳ないのですが、お屋敷にいる間はこちらで用意した衣装でお願い致します」

 ようは、古着でウロウロするなと言うことだろう。だが問題があった。

「ドレス!?」

 ガラやシーナの持っていたアオザイに似た衣装とは違い、どちらかというとマリーアンヌの着ていたようなドレスが用意されている。彼女ほどフリルや布の使う量は多くなく控えめであったが。

「着替えをお手伝いします」

「いやいやいや! こんな高価な服着られません」

 というか、動きにくそうでお断りだ。

「しかし、着替えていただかないと……」

「お料理を教えたりしなければなりませんし、動きやすいほうが助かります。どちらかと言えばあなたの着ているような」

「ですがこれは使用人の服です」

「使用人みたいなものですから! 間違ってもお客様ではありませんよ」

 断固拒否の姿勢を見せたことにより、無事メイド服を手に入れた。紺色スカートは膨らむことなくすっと真っすぐくるぶしまであり、白のエプロンをする。いわゆるメイド喫茶のような華美なものではなく実用的だった。

 アルバートは本来領主の護衛なのだが、シーナがここにいる間はなるべく一緒にいてくれるらしい。

 仕事の邪魔をしているようで申し訳無かったが、物事が円滑に進むためだからと笑顔で言われた。

 ここのところアルバートの笑顔を独占しているようでならない。尊死寸前である。

「メイドの服を着ているシーナも新鮮だね」

 字面である。

 アルバートの言葉になんの含みもないことはわかっているが、地球の、日本のオタク文化を把握している身としては、なかなかのセリフで反応に苦しむ。

 その後は着替えを手伝ってくれたメイドさんとは別れ、アルバートの案内で屋敷内の説明を受けた。

 先日、パーティーを開催した広間や応接室のあるこちらの建物が本館で、領主の自室もこちらにある。庭を挟んで東側にある建物が東の宮。今はマリーアンヌが住まいにしている。まだ式を上げていないので、屋敷をわけている。

 本館の北側に使用人たちが住まう建物がある。シーナは一応客人なので本館に客間を用意してくれたらしい。ただ、マリーアンヌがごねていて、自分の宮に呼んでいるという。

 お断りして欲しい。

 どのくらいの滞在となるかわからないが、のらりくらりとかわし続けていきたいものである。

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