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75.クレープシュゼット

 フェナが依頼を終えて帰ってきたと聞いた翌日、ヤハトの迎えが来た。

 昼近くだったので、応接間でなくそのまま昼食となった。

「それで?」

 帰ってきたら屋敷に呼んでくれ、相談したいことがあると伝言しておいたのだ。

「領主様の再婚のお話を聞きました。そこで、クッキーを出したいと言われたんです」

「別にいいんじゃない?」

 キョトンとしたフェナが、サラダを食べながらそう言う。

「クッキーのレシピを教えるのはいいと思うんです、私も。なんなら、フェナ様の領地の茶葉を使えばさらにいいかなとも思ったんですけど、それだけでいいのかな、って」

「それだけ、とは?」

「クッキーを出す理由が、自分の見栄だと領主様がおっしゃっていましたけど、それよりも、他の同じくらいの力だった領からの妬みとかを振り払うためっていう方がたぶん、重い理由だと思うんです」

「ふむ、続けて?」

「フェナ様というアドバンテージからの、私の索敵の耳飾り、羽毛布団、ここで差をつけて、面倒な妬みを振り払って一気に上に行きたいのかと」

「羽毛布団……私に教えなかったよね」

「えっ、でも、フェナ様ももう持ってるって」

「シーナから話がなかった」

「いや、売り出す前に言えないというか、私の預かり知らぬところで話がもうついてたんですよ、あれ。で、売りに出すってなったら即フェナ様のところに持っていったらしいし……て、話がズレてる!」

 予想外のところでわだかまりができていた。

「なので、クッキーだけじゃない料理関係で、もう少し追いすがってる辺りを蹴散らしたほうがいいのかなぁと」

「その話をなぜ私に?」

「領主様に言えばそりゃ、ぜひにと言われるだろうし。私が話をできる貴族はフェナ様くらいだし、フェナ様は私の料理の味も知ってるからご意見いただけるかなと。あと、一応親戚の親戚にもなるし? まあすでに親戚らしいですけど」

 ふむ、と言ったまま、フェナは黙って料理を食べた。

 しばらく無言の時間が続く。

 考えがまとまるまではソニアの昼食を堪能する。といっても、昼はわりと簡単。サラダとスープと鶏肉の食パンサンドだ。冬ではないのでフェナの屋敷は朝と昼が軽め。

 食後のお茶が出てきたところでようやくフェナが口を開く。

「多少の料理はいいと思う。そのレシピを寄越せと言われたらどうするの?」

「領主様に丸投げですね。渡したほうがよい場合ならガッツリお金取ってもらったらいいですけど、チキュウ種の落とし子(ドゥーモ)なら、たぶん知ってるようなレシピなのでとりすぎは危険です」

「それで? 具体的には?」

「マヨネーズは卵の高騰が危ぶまれるので絶対に流しません。あと、天然酵母もカビてるのと発酵しているのの違いがわからないと危険なので、やるとしたらソニアさんに頑張ってもらって、パン種を渡すところからですね」

「そうだね。パンは、すごい反響だと思うから、危険すぎるまであるかも」

「まあ簡単で問題も起こりにくいのは揚げ物系かなと。唐揚げとか、コロッケとか。ポテトじゃなくて、パテラの揚げたのとか」

「そこら辺は、確かに教えることになっても教えやすそうだし、わりあい知っていれば簡単な物が多い。揚げ物自体が珍しいから、評判にはなると思う」

 ここで、料理の手順を知ってるバルが口を挟んだ。

「あとは、デザートが貧相なのでそこでガッツリ稼ごうかと」

「デザート? クッキーでなく?」

「はい。デザートです。立食でなくコースで出すんですよね? クッキーって、お茶請けでしかないし、コースのデザートとしてはイマイチですから」

「それは、どんなものが見てみないとね」

 フェナがニッコリと笑い、午後からデザート作りとなった。


「本日は、クレープシュゼットもどきを作ります」

 何回目だろうこのお料理教室。

 クレープ生地はまあ適当で出来ると思うし、こういったもの食べたことない人たちだから普通に美味しいと思う。

 オレンジに似た柑橘系のフルーツも準備してもらって、絞ってジュースにした。

「生クリームてあります?」

「あるわよ」

 よく学生の頃自宅でアイスクリームを作ったので分量は覚えている。手作りできるの楽し〜の時期だった。ただ問題はこちらにミリリットル表記はないという問題。

 自分の中の秤を呼び起こし、多分このくらいだろうの量をそれぞれ計った。卵と砂糖をすり混ぜ、牛乳と生クリームを軽く火にかけ、二つを合わせる。

「料理系精霊使いのヤハトくん! この液体の温度を徐々に下げて、氷ができるような温度にしたい」

「ぇぇっ……火は得意だけど水系はなぁ。細かい温度調節難しいかも」

 火は現在の温度から上げるのを得意とし、水が現在の温度から下げるのを得意とするらしい。

「じゃあ、ソニアさん、氷ができるような設備ってあるんですよね?」

 前にお酒に氷を出してくれた。

「あるわよ。小さいけれど」

「少し固まり始めたら全体をかき混ぜてっていう作業をしないといけないんです」

「それは難しいかもしれないわ、一気に水を凍らせる装置なのよ」

 冷凍庫はない。

 となると、フェナに頼るしかなくなった。

「私のこの労力に見合うだけの物なんでしょうね?」

「上手くできたら、初めての出会いだと」

 なだめすかしてなんとか作ってもらえた。その間にクレープ生地を焼いておいたので、ここからは一気に仕上げる。

 砂糖と水でカラメルを作り、少し温めておいたオレンジジュースを入れる。そこへ四つ折りにしておいたクレープ生地を入れて絡めたら皿へ。アイスとオレンジもどきを飾ったら出来上がりだ。

 ミントのような葉を見つけてないので彩りは我慢。

「火を通す時に少し香りのよいお酒をふりかけてもいいですね。さあどうぞ」

 生クリームを泡立てても良かったかもしれない。

「フェナ様! どう!?」

 ヤハトがひとくち食べたフェナに感想をすがる。

「……これ、教えるのもったいなくない? てか何なのこの冷たいの!」

「アイスクリームです。美味しいでしょう?」

「ヤハト、おまえ、水を勉強する気になるよ、これ」

「マジか! シーナ早く! 早く俺にも!!」

 練習がてらとソニアが作ったり、シアも挑戦して皆で美味しく食べた。



ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。

とっても励みになります。


クレープシュゼット、美味しいですよねぇぇ……

この世界に落とし子たちはもっとご飯を持ち込んでないのかちょっとアレなんですけど、ご都合主義といった感じで。


ここらへんから領主再婚編ですね。

領主再婚編のクライマックスが95話くらいです。

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