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73.フェナの見合い

「ほんとにまったく、逃げ足が早い」

 喋りながらも優雅に食べ続けるケイティのそれは、一種の芸の域だった。

 応接室でなくキッチンでお茶を飲む。ここで食べていってとは言ったが、屋敷でという意味だったのだが、彼女はキッチンでクッキーを堪能している。

 そろそろ昼食を作る時間なのだが、さてどうしよう。

「あなた達がきちんと挨拶に顔を出せばシシリアドまでくる必要なんてなかったんですからね!」

 ヤハトはもちろんクッキー試食継続中で、今はバルも隣に座らされて説教を受けていた。

「なんのためにわざわざ指名依頼を出したと思ってるの」

「やっぱわざわざ指名してるよなぁ!」

「当たり前でしょ! 確かに魔物は出たし謎だしとても強い種類だけど、うちの人間が総出でかければ倒せるわよ」

「だからフェナ様が警戒して、追い風二倍で普通追い風でも一週間かかる旅程を二日に縮めて、ついたらすぐ倒して、そのまま追い風倍速で帰ってきたんだよ! 流石に今回はキツすぎたし!」

「到着までまだまだかかると思ってたら到着の連絡が来て、慌てて出向いたら帰ったあとだったときのご両親の気持ちわかる!?」

「めっちゃわかる」

 ヤハトがギャハハと笑った。

「あの手この手で見合い話用意してるから悪いんだろが」

「貴族の子女が結婚適齢期とうに過ぎて、まだ未婚なのが問題なのよ」

「フェナ様と結婚できる男なんていないだろ……想像つかねぇよ。見合い相手もよく受けたな」

 フェナの結婚というパワーワードに、シーナもこの場を動けなくなっていた。

 話の流れとしては、つい昨日帰ってきた依頼の話のようだ。つまり、フェナたちはフェナの故郷に行ってきたということだろう。

 紅茶の産地なのか。

「はいはい、お嬢様。そろそろ昼食の支度をしなければなりません。応接室へお戻りください。客間も用意していますがそちらになさいますか?」

「領主様にご挨拶をしないといけないから行ってくる。どちらに泊まることになるかはわからない。というか今回は見合い話だけじゃなかったから、あとで話があるから絶対屋敷にいるようにフェアリーナ様に言っておいてちょうだい!」

「伝えることは伝えますが」

 とはバル。

「あと、シーナ!」

「はい!」

「クッキーの日持ちは?」

「んー、一週間くらいですかね。湿気ちゃうし」

「土産に持って帰るから作っておいて!」

「えー、門外不出なのに」

「レシピは聞かないしここでしか作れないものだと言っておくわよ! うちの子どもに食べさせたい」

「仕方ないですねー」

 おこちゃまになら、作るしかない。

「じゃあ行ってくるわ」

 嵐のような人だ。パワフル。

 追加のクッキーはまだ午後からと言う話になった。

 片付けをして昼食の準備を始める。

 バルはフェナの行き先に心当たりがあるらしく迎えに行った。

「それにしても、キャスリーン様もかなりの風の精霊の使い手てこと?」

 フェナたちの後を追って一日後に現れてるのだ。

「風しか使えないけど、風だけなら俺より上だし、一人の追い風ならかなり無茶できるからなぁ」

 それこそ飛ぶように移動するらしい。

「楽しそう〜空を飛べるなんて羨ましい」

「空飛びたいの?」

「人が単独では飛べない世界から来たからね。ドリームだよ」

「飛ぶ?」

「えー! あー、今度! 今度少しだけやってみたい。箒に乗って飛びたい!」

「箒??」

 ロマンですよ、ロマン。


 お昼を食べたあと、せっかくだから胡椒とチーズのクッキーも試してみることにした。最初に作ったものはチーズが強すぎたので少し抑えて二度目に作ったらなかなかの物ができた。紅茶のクッキーは、もうソニアとヤハトがいれば作れるので、任せて帰ることにする。

「今度はジンジャークッキーも作りたいなぁ」

「材料は?」

「シナモンと、ジンジャーだからえーと、シナモンはいくつか買った中のだから、現物持っていって店の人に聞くやつかな。ジンジャーはゼガね」

「なら、次は市場に寄ってからだな」

 バルの言葉に頷くが、そんな暇はあるのだろうか。

「最近はみんな狩りに出掛けることが多くなったし、クッキーはいつでも作れるので、時間のある時でいいですよー」

「フェナ様が退屈しないのが一番だから。シーナが何か作ってるときは機嫌よく待っているので助かるんだ」

「フェナ様は、退屈しだすとどうなるんですか?」

「他の狩人の邪魔になる……」

 手っ取り早く近くの森で憂さ晴らしの乱獲をするので、圧倒的強さを誇るフェナの前では皆何も出来ずに狩りのバランスが崩れるそうだ。

「そんなときの指名依頼はありがたいんだが、今回は呼び寄せるためなのが丸わかりだったからなぁ」

 お見合い話をするために指名とは、ずいぶんと必死だ。

 しかし、フェナと結婚。

 罰ゲームか何かだろうか。

「フェナ様と結婚できるような男性って、仏様かなにかですね」

「ホトケサマ?」

「えーと、故郷にはいろんな宗教があって、みんな信仰している物が違ったんですけど、その中のひとつですね。神様、この世界でいうと世界樹様なんでしょうが人とは違うからなぁ。そこから、仏様は、こー、全てを許すみたいな、何されても怒らないとか、そんな抽象的な意味合いの人のことですね」

 説明がなかなか難しい。宗教的な仏様よりも、悟りを開いた素晴らしい人的な意味がでかい。

「ホトケサマか」

「度量の大きい人じゃないと到底無理ですよね〜」

「そうだな、無理だろうなぁ。結婚して家にいるタイプでもないし」

「ましてや子どもなんて……」

 無理だな、絶対無理だなとそんな話をしながら帰路についた。


 


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ブックマークありがとうございます!


タイトル詐偽になってるけれど!

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