72.来訪者
起きたら朝食の準備はもう終わっていた。
鐘で起きるのは本当に無理だ。起こしてくれと頼むのを忘れていた。
昨晩のスープと今朝は天然酵母パンだった。しかも青くない! 周りは焼けている色で中は白かった!
「他の果物で天然酵母成功したんですね」
「そうなのよー。私たちは青くても美味しそうだけど、シーナさんは美味しく感じないんでしょう? こちらの方が喜ぶかと思って」
「ありがとうございます。嬉しい」
しかも食パンに成功している。バターを塗ってジャムを乗せて食べた。大満足。
焼き立てパンをさらにトーストするとかなり美味しい。中はふわふわ外はサクサクだ。
「午前中キッチン借りてもいいですか? クッキーを焼きたくて」
「ええどうぞ、お手伝いいる?」
「美味しく焼けたらまた焼いてって言われるかもしれないから、見ておきます?」
「確かにそうね」
とはいえ、簡単なのだ。
「まずは優秀な調理精霊使いのヤハトくん!」
「なんだよその肩書は!!」
「まあまあ、このボウルの中の空気も逃さないで茶葉を粉々にしてくれる?」
つまり、紅茶のクッキーを作る。
昨日購入した二つのうちの香りが強い方を使ってみる。
「香りを逃がしたくないって言えばわかってもらえるかな?」
風の精霊使い、フードプロセッサーやコーヒーミルになって便利だ。
隣でソニアに生地を作ってもらい、最後にまたもや空気を逃さないでとヤハトに頼んで生地に茶葉を混ぜ込んだ。手早く型を抜いて焼く。
それでも香りが残るかはわからない。紅茶のリキュールを混ぜたりも多いらしいが、この世界では見つけていない。
「うまく香りがのるかはわからないんですけどね」
そうやって出来上がった頃、来客があった。
ゴードが対応をし、応接間に通す。ソニアは慌ただしくお茶の用意をする。
「街の人?」
こうなると大人しくキッチンに待機なので、少し冷めたクッキーを試す。
「うわ! 香りがちゃんと残っててこれはいいわ〜」
ヤハトの風魔法のおかげだろうか、とってもよい。
「コレ作るときはヤハト手伝ってあげてね!」
「おう!」
シアとヤハトとシーナ三人でクッキーを楽しんでいると、バタバタと音がした。
「ヤハト! フェアリーナ様はどこ!?」
「げぇぇ!! 客ってケイティかよ!」
座ったままヤハトが顔をしかめる。
現れたのは長い金髪の女性だった。二十代に見えるが、たまにガラのような年齢不詳がいるからわからない。冒険者のような服装だが、なんというか品がある。服が全体的にきれいなのだ。袖がゆったりしたものなので、精霊使いかもしれない。
「えーと、フェアリーナ様?」
「フェナ様のこと。貴族がフェナなんて短い名前のはずがないだろ」
ヤハトが言うが、そんなのは知らん。
「こちらにはいらっしゃいませんが」
ヤハトが答える気がないので代わりに言うが、彼女は不満そうだった。
「いないのは見ればわかる。どこにいるかと聞いているんだけど?」
さあ、なんて答えは望んでいないのはわかったので、ヤハトを見る。
「わからないの?」
「フェナ様が会う気があるなら来てるから、会う気がないんだろ? なら、俺も知らね」
「まあそうよね」
シーナたちの態度にケイティはイラつきを隠せない。
「それが使用人の態度なの?」
「俺弟子であって使用人じゃね〜し」
「私も使用人じゃないですし、フェナ様の位置はわかりません。」
シアは使用人だけどまだ幼いし眼中に無いらしい。
ケイティの目が不審者を見る目になる。
「キャスリーン様、ここにいらっしゃったのですか」
バルが入口から顔を覗かせた。
「フェアリーナ様は?」
「……逃げましたね」
バルは多少言い淀んだがハッキリそう告げる。
ビクリとシアが身を固くしてシーナの後ろに隠れた。たぶん、ケイティの漏れ出す怒りの魔力に恐怖を感じているのだと思う。ニールたちが、シアは気付きやすいといってた。
ちらりとヤハトを見ると、まるでどこ吹く風だった。
バルは困ってる。困ってるがこれ以上何も言えないでいる。
誰が話を進めるのだろうと、動くに動けないでいた。まあ、本人が何かしらのアクションを取るしかないのだが。
「バル、新しくお茶入れて」
「わかりました」
プイッとキッチンを出ていくケイティ。その後を追うバル。
シアはまだ怯えているのでシーナが湯を沸かす。
すると、ソニアがするりと戻ってきた。
「フェナ様には困りものねぇ。対応せずに出ていってしまったわ」
そう言いながら新しいお茶の準備をして、先程出した茶器を下げてきたバルに渡す。
「よろしくね」
まあ、あの人の相手はしたくないだろうなと思う。案外ソニアが強い。
「クッキーちょうど焼けたからお茶菓子にしていいですよ」
と、差し出せば、素敵な小皿に三枚乗せた。ご機嫌取りに使ってもらおう。
バルを送り出して、四人でまたクッキーを焼きながらお茶とともにつまむ。
今度はソニアが持ってきた香りの強い茶葉を砕いて入れた。
「何も入っていないプレーンなものもいいけど、この間作ってくれたドライフルーツが入ったものや、この茶葉の香りがするものもいいわね」
「こうなってくると好みになるんですよね。お砂糖控えめにして、香辛料を入れるようなものもありましたよ。チーズと胡椒とか」
「あら、甘くないクッキーも美味しそうね。携帯食みたいになるわね」
「それも食べてみたい! 作って!」
「分量というか、割合の比率覚えてないの。失敗たくさんするかもだけど、やってみるー?」
「うん!」
料理系精霊使いのご機嫌はとっておくべきだろう。今度試してみよう。
そんな事を話していると再びバタバタと音がした。ケイティだ。
「コレ作ったの誰!」
「はーい」
考えなしにお裾分けしたらこうなってしまった。
「レシピを……」
「門外不出でーす」
「金なら出すわ」
「もうお金はたくさんあるのでいらないです」
なんですって!? みたいな顔で固まってる。
「食べたかったらこちらでたくさん食べて行ってください。まだ焼いてますから」
追加のクッキーがまたいい匂いを漂わせている。
「あなた一体何者なの?」
「索敵の耳飾りの発案者」
「落とし子でーす」
ヤハトの簡潔な説明に乗っておいた。
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どーも、ドゥーモですは、シーナの中だけの鉄板ネタ……。みんなにはどーも、が翻訳されてしまうから。
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