60推しとの昼食会チケットゲットだぜ
領主様のお屋敷の食事は、かなり美味しかった。おもてなし料理なのだろう。パンは相変わらず固いけれど。たぶん、スープとか、具材山盛りで作ったあとに、具材別に食べる人がいるのだと思う。それくらい出汁が出てた。入ってたソーセージスカスカじゃなかったから、入れ直してるやつ。まさかコンソメ。
しかし、イケメンを目の前に食事とか、今日はご褒美が過ぎる。
「私の国には貴族階級がなかったので興味深いです」
アルバートは地方で暮らす家族がいる。伯爵に仕える子爵の息子ではあるが、伯爵から任された土地は狭く、なかなかこれという特産もない。家督は長男が継ぐ。娘は、言ってしまえば政略結婚の手駒だ。長男以外の男子は自分で生活の糧を探す他ない。息子たちの世話をするほどの余裕がない。士官学校へ行き、宮廷で働くようになるか、他の伯爵子爵の元に仕えるか。とにかく領地を出る他なかったという。
アルバートは士官学校へ行き、王宮で仕える事も考えていたが、学友がシシリアド領主の長男で、シシリアドに来ないかと誘われたそうだ。
「ここは過ごしやすいし、なかなかに良い選択だったと思っているよ」
「貴族の方も大変なのですね」
家族で一緒に暮らせないとか、貧乏伯爵とか、苦労したんだろうなぁと、同情を寄せる。
これだけ顔面がおよろしいなら、恋人なり、奥さんなりいるかと思ったら、それすらないらしい。
「えええ!? なぜ……」
驚き過ぎのシーナに、アルバートは苦笑する。
「端的に言えば、金が無い土地もない私には、貴族としての魅力はゼロなのさ」
「えええ……」
嘘だろう。見る目がないというか、見た目しかないってことか。いや、護衛やなんやらの実力はあるのだろうが、貴族の婚姻において、それ以上に土地と財産だというわけか。
もったいない。その一言に尽きる。
アルバートレベルなら、隣に可愛らしい奥様でも、きれい系でも清楚系でも何でもいけるし、何ならセット販売で爆アドぶち上げる事もできるだろうに。
不満が顔に出てしまったのだろう、小首をかしげる。
それがまた神々しい。
胸が苦しくなる。これは、完全にアレだ。シーナはやられてしまってる。
完全に、アルバートが推しになってしまったやつだ。
実は、地球でも推し活をしていた。
組み紐もだいぶやったが、推し活もだいぶやった。推し色の組み紐を作って、同じ推し活仲間に渡しまくった過去あり。みんなに滅茶苦茶喜ばれた。ネットを通じた推し活仲間とお揃いでつけていた。もちろん一般人にはわからぬように。
「大変でしょうががんばってくださいね! 応援してます!」
突然のシーナの宣言に、アルバートは戸惑いながらもありがとうと言った。
「そう言えば、学友の、領主様の息子さんは今もシシリアドにいらっしゃるんですか?」
「いや、彼は今王都で仕えてるよ。あと五年くらいしたらこちらに戻ってくるんじゃないかな?」
次期領主として父親から色々と学び、次第に交代していけるよう準備するらしい。
「そうしたら今度はそちらの補佐とか?」
「そうだね、彼を支えていければいいと思うよ」
「いいですね、そういったお友だち同士の友情って」
「シーナも友人ができたとか」
「おかげさまで。まあ基本ここの人は私に優しいですけどね」
落とし子だから。基本的に皆優しい。最初の接触からもう優しいのだ。ただその優しさは、シーナへではなく、落とし子へのものが大半だ。
「故郷に友人は?」
「いましたよ。でも、仕事が忙しかったりで、なかなかリアルでは会えなかったですね」
あの頃に比べたら、仕事環境は雲泥の差だ。
「リアル?」
「えーと、実際会うてことですね。故郷では実際に会わないでも連絡を取り合うことができるんですよ。どんなに遠くの距離でも話ができたり、あとは、自分の場所から接触できる大きな、伝言板みたいなものがあって、そこに書き込むと、徒歩で十日の距離の場所にいる友だちに、私の伝言を見てもらうことができるんです」
言っててものすごいことだなと感心する。科学技術ってすごい。
「実際に会わずとも、連絡を取ることが出来る友人が、いるのか」
「そうです」
みんな元気にしているかなぁ? 自分のことはどんな風に扱われているんだろう。
一人暮らしだったから、突然消えてまず異変に気づくのは会社。そこから親に連絡行って……ヒィ……推し活グッズ全部見られるっ……ヒィ……。いや、やめよう。不毛だ。何を見られてしまうかなんて、今更、今更考えたとて、だ。
せめて娘は生きて別の世界でまた推し活始めましたと伝えられればいいのだが。
「シーナの故郷の話も私には初めての話ばかりで面白いな」
お前、面白いな。と笑う乙女ゲームの攻略対象のようなアルバートである。
「羽毛布団の件も聞いたよ。何か生活に役立てるようないいものがあったらまたぜひ誰かに話してシシリアドでも作ってみてくれ。もちろん私に話してくれてもいいが」
「アルバートさんも羽毛布団知ってるんですか!?」
「私ではなく領主様が。商業ギルド長と服飾ギルド長がやってきて、領主様に献上していったよ。かなり暖かかったらしいね。驚いてらっしゃった。厚さがあるのに軽いのもいいとおっしゃっていたよ」
「そうなんですよね、軽いのが本当に良いんですよあれ。ちなみに、身体の上に布を被ってから羽毛布団をかけるよりも、羽毛布団を被ってからその上に布をかけるほうがさらに暖かいです」
大切なのは空気の層。
「それは、お伝えしておくよ。今日急に食事に出られなくなったのもその件だと思う。近々王都へ荷物を運ぶらしいんだ。陛下に献上するために」
陛下とは、王様のことだろう。話がとてつもなくデカくなってきた。
「君の名がまた広まってしまうかもしれない……指輪は絶対に外さないように。シシリアドにいれば、私も何かあれば駆けつけるから」
羽毛布団の対価は、金ではもらわなかったが、悪い輩はそれを知らない。
「危険度マシマシですね」
「外出は一人であまりウロウロしないことをおすすめするよ。まあ、大通りなら問題ない。市場も人の目が多いから大丈夫だと思う。細い通路、路地には近づかないように」
「……はい」
「休みが合えば、私がなにかに付き合うこともできるから。フェナ様たちがいらっしゃらないときは遠慮せず声をかけてくれ」
それはダメだ。罪深い。推し活とは、少し離れたところからするものである。とりあえずクッキーを貢いだら少し距離を置かなければ。
ブックマーク、評価、有難うございます。
アルバートの容姿設定をFF16のジョシュアにしたので私の中でも推しになりました。




