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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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59/280

59.護身用魔導具

 それだけのものを着るならと、ガラがまた化粧をしてくれた。ナチュラルな感じでお願いしたので先日よりは本体とかけ離れてはいない感じになったと思われる。

 物語の中なら馬車でお迎えなのだろうが、なにせこのシシリアドはアップダウンが激しく段差も多い。貴族だろうと徒歩である。

「やあ、とても似合っているね」

 顔面偏差値マックスに褒められて尊死しそうである。今日もイケメンキラキラ。服装は騎士というよりは、冒険者たちとそう変わらないが、これで正装とかしたら、卒倒する女子たちが山盛りでることだろう。

「それでは、帰りも店までお送りします」

「よろしくお願いいたします」

「いってきま~す」

 薄手の上着も買って正解だった。ワンピースのみではかなり寒かったと思う。丁寧に扱えばまだまだ先まで着られるだろう。良い買い物をしたと気分が上がる。

「領主様はいったいどんな用なのでしょう?」

「内緒にしておくように言われてるんだよ。すまないね。だけど、決して悪いことではないから安心して」

 驚かせたいタイプの領主か。

「あと、私に敬語は必要ないよ」

「でも、貴族様ですよね?」

「私には爵位がない。貴族の次男だ。シーナと変わらない」

 冷や飯食いということか。色々と複雑そうである。

 しかしこの尊い顔を前にして敬語にならなずにいられるか、いや、無理だ。

「努力します」

 絞り出すようにシーナが答えると、彼はとても楽しそうに笑った。

「そうそう、私の名はアルバートだ。言ってなかったね。何かあれば私の名を出してもらえれば取り次げる。困ったことが起こったら思い出してくれ。まあ、フェナ様もいらっしゃるしガラもしっかりした人だそうだから大丈夫だと思うが、フェナ様が留守の時にどうしようもなくなったら頼ってもらえればいい。領主様からもシーナには協力するよう言われている」

「ありがとうございます」

 アルバート、か。なにかとんでもなく困ったら頼ろう。

 そうこうしているうちに、屋敷へ辿り着く。こんなに早くまた来ることになるとは思わなかった。門の兵士がアルバートに敬礼する。やはり敬語必須な立場だろう。

 そのまま待たされることなく領主の執務室まで通された。

「やあシーナ、急に呼び出して済まないね」

 奥の大きな机から立ち上がり、入り口で立ったままのシーナの手を引きソファに座らせた。アルバートは壁際へ立っている。

「先日はお砂糖をありがとうございました」

「あれくらい、君の功績に比べたらどうということはない。それより、冒険者の件は本当にすまなかった」

「いえ、領主様に頭を下げられるようなことではありませんので」

 シーナが慌てて言うと、領主はいや、と首を振る。

「君の状況をもう少し正確に把握すべきだった。人の目がある昼間しか外に出てはいなかったようだから、油断していた。こちらの落ち度だ。君は、街をあげて守らねばならない存在なのだ」

「フェナ様の件ですね」

「聞いているのか」

 少し驚いたように言う。

「歯に衣着せぬ友人がいるので」

 ずっと難しい顔をしていた領主が、少し表情を緩める。

「友人と呼べる相手がいるのは良いことだ。せっかくやってきたのだから、少しでもこの世界のことを気に入って欲しいと思っていたのだが……」

「世界のことはわかりませんけど、シシリアドの街は好きですよ。みんな親切にしてくれるし、組み紐も面白いし」

「そうか、それは良かった」

 とても優しい表情で、フェナがらみの打算があることを忘れてしまいそうになる。

「さて、聞いているのなら話は早い。我々は君を全力で守りたいと思っている」

「ありがとうございます」

 フェナのおもちゃポジションはとてつもない価値がある。

「そこで、護身用の魔導具を、私の精霊使いに作らせた。アルバート!」

「はっ!」

 執務机の上にあった木の箱を、アルバートが持ってきた。

「開けてみてくれ」

 木箱の中にはシルバーの指輪が入っている。模様がリングに描かれていて、小ぶりの緑色の石が嵌っている。

「この間も、ちょうど休みで近くにいたアルバートが間に合わなかったら大変なことになったと聞いている。この魔導具は、大怪我を負うような危機的状況に陥ったとき、相手から受けたダメージをそのまま相手に返すものだ。少しぶつかった程度では発動しないから、人混みでつけていても問題ない。あくまで命の危険があるような攻撃を受けた時にだけ反射する。同時にこちらに君の危機を知らせる役目もある。相手の力にもよるが、何回かは耐えるし、力が大きければ相手が動けなくなる。その間に逃げてほしいし、こちらも駆けつけることができるんだ」

 小さな指輪なのに、ずいぶん高性能な魔導具らしい。

「もらってくれるかな?」

 イエスでしかないし、イエスしか受け付けられないのだろう。

 シーナが頷くと、アルバートが木箱を受け取り指輪を取り出した。

「最後に魔力を通さないといけないんだ。利き手は?」

「右です」

「ならば左手を」

 そういって、アルバートがシーナの傍らに跪き、左手をとった。薬指に嵌めようとするので無駄に動揺する。

「問題が?」

「いや、えーと、人差し指でも?」

「構わないが……」

「薬指は、結婚指輪をする指なので」

 ここは地球ではないのだから気にすることなどないだろうと、脳内で己を罵る。ものすごく余計なことを言っている。

「そうか、……ならば人差し指に」

 シーナの動揺がアルバートにも伝わって申し訳無さが加速する。

 指なんてどこでも構わないのに!

 だがこの、好みのイケメンに跪いて指輪をはめられるシチュエーションに、シーナ自身が耐えられなかった。罪深さしかない。

 サイズが合ってない指輪だったが、石の上にアルバートが手をかざすとほんのり暖かくなって、リングがすっと小さくなり、ピッタリのサイズになった。

「水を触るようなときでも、外さないでくれ。石が欠けたりするようなことはないので安心して欲しい」

 領主からさらに説明が追加された。一度つけたらもう外さないやつだ。

「本当にありがとうございます」

 これがあればひとまず安心だ。正直いつも誰かについてもらって外に出るのは迷惑をかけすぎると思っていたのだ。

「このあと、食事時だから昼食を用意させていたのだが、私に用事が入ってすぐ出なければならなくなったんだ」

「お気遣いなく……」

「せっかくだから食べていってくれ。アルバート、君がお相手をしろ」

 忙しいのだろう、立ち上がりながらそう指示する。アルバートも木箱を机に置いて追いかけようとする。

「お出かけなら私も……」

「お前の今日の使命は彼女を最後まで送り届けることだ。こちらの護衛は十分だから、きっちり最後までやり遂げなさい」

「わかりました」

 失礼するよと笑って領主は部屋を出ていった。外に控えていた、アルバートと変わらないような服装の男を従えていく。彼もきっと護衛の一人なのだろう。

「それではシーナ」

 そっと手を差し伸べられる。

 そうなるともう手を出すしかなくなり、左手を彼の手に乗せた。

 緑色の石がキラリと輝いた。



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恋愛偏差値が低いとこうなります。


魔術具と魔道具と魔導具が入りまじっているので、魔導具です! 正しいのは魔導具です……

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