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58.手土産作り

 次の日、休みだったのでフェナに屋敷に行ってもいいかと聞いたらバルが迎えに来た。

 いつものパターンである。

 店から砂糖を瓶へ移して、薄力粉(たぶん)も持って行く。

「今日は何を作るの?」

 見送りをしてくれたガラに聞かれる。最近フェナの屋敷で作るものが気になってる様子。

「手土産を作りたいのですが、うまく出来るかわからないので、出来たら師匠(せんせい)にもお土産持って帰ってきます」

「手土産って、この間の?」

「そうですねー」

「そんな気を使う必要ないのに」

 命の恩人なので何度言われてもやめる気はない。

 バルが瓶を二つとも持ってくれる。

「卵ってありますか?」

「ああ。今朝売りに来ていたから大丈夫だよ」

「出かけてないときでよかったー」

「明後日から狩りに出る予定だったから、ちょうどよかったな」

 それはグッドタイミングである。さすがにフェナがいないときはキッチンを勝手に使うのははばかられる。

「狩りって依頼ですか?」

「そうだね。この時期少し厄介なのが森に出る。俺達が始末しにいかないと、他の冒険者たちも森に入りにくいんだ」

「気をつけてくださいね。上手に焼けたらおやつに持っていけるようにたくさん焼きますね」

「それは、楽しみだ」


 屋敷に着くと出迎えてくれたのはシアだった。

「久しぶり! お仕事大変? フェナ様にいじられてない?」

 いじめはしないだろうが不用意にいじることはしそう。

「みんな優しくて、大丈夫です」

「私は客のようで客じゃないから敬語じゃなくていいよー」

 シアは、隣のソニアの顔を窺う。ソニアも笑って頷いた。

「今日もお台所借りますね〜。あと、卵とバターをください。失敗ばかりしたら買って返します」

「フェナ様から好きなだけ使っていいって言われてるからいいのよ〜」

 ソニアさんが保管庫から卵を持ってきてくれる。

 今日は、クッキーを焼きます。

 よく作った、シンプルな型抜きクッキーだ。

 ただ問題は分量。分量が本当にわからない。何度も作ったあの分量を再現するのだ!

 こちらにも計量用のカップはあるので、まず卵一つに対しての量を感覚で思い出す。

 小麦粉は多分このくらい。バターはこれくらい。そして砂糖は薄力粉の三分の一くらい。

 持ってきていた石版にカップどのくらいか書いておく。

「バターは本当は常温に戻しておいたほうがやりやすいんですけど仕方ないのでぶつ切りにして気長にすり混ぜます」

「湯煎する?」

「いえ、溶かしたら駄目なんです。柔らかくして、ヘラでクリーム状になるように混ぜるんです」

 そばで真剣な面持ちでシアが聞いている。顔色や表情もいいし、今のところは上手くやっているようだ。

「ヤハトにやらせよう」

 精霊使いって便利です。

 バルに呼ばれたヤハトは、シーナの意図を正確に汲み取り、周囲の温度を少し高くするという芸当を見せてくれた。

 格段に混ぜやすい。

「ヤハト天才!」

「こんくらい誰だってできるし」

 褒められて照れてるのが可愛いしちょろい。

 次に砂糖を少しずつすり混ぜ、卵も少しずつ入れていく。本当は粉をふるいたかったがふるいがないので、泡だて器でよく混ぜておいた。それを加えてざっくりと混ぜたら、最後は手でこねる。少し粉っぽいので、牛乳を一匙いれた。いい感じにまとまった。

「これでしばらく置いておきます」

 キッチンに椅子を持ってきて、みんなで座る。

「シアはどう? まだお仕事始まってそんなに経ってないけど、困ったことはないー?」

 まあ、上司であるソニアの前でなかなか困ってるとは言えないだろうけど。

「覚えることがたくさんあるから、迷惑をかけてばっかり」

「あら〜そんなことないわよ。少しずつ覚えていけばいいのよ。ご飯を作るお手伝いをしてくれるだけでだいぶ助かってるわぁ」

「魔導具への魔力供給は、タイミングが難しいから少しずつゴードに教わればいい」

「魔導具? 陣でなく?」

「貯蔵庫くらいなら虫除けの陣で済むが、屋敷全体の警備になると陣より魔導具を使うな。ガラの店なら戸締まりに使っていると思うが」

 まったく知らなかった。今度聞いてみよう。

 シアが覚えた料理などを聞いているうちに良い時間になる。

 大きなまな板の上に打ち粉をして、その上にクッキー生地を置いた。

 麺棒で均一に伸ばしたら、型抜きだ。

 型は、またチャムに作ってもらった。わがままを言ってばかりだ。

 ハートと星と、葉っぱの形。とりあえず三つにした。ハートは馴染みのない形のようだが、まあ、基本なのでいい。

「こうやって、形を抜いて、油を塗った鉄板に乗せていきます」

 クッキングシートはさすがにない。

「シアもやってみて」

 型抜きクッキーはみんなで楽しめるのが良いところだ。

「砂糖まみれになってないドライフルーツを混ぜて焼いたりも出来ますよ。その場合は型抜きでなく、もう少し生地をゆるくして、スプーンですくって軽く抑えたような形の方がいいかもしれないですね」

 あとは焼き時間だが、こればっかりはわからないので割とこまめに覗いた。余計な時間がかかるけれど焦がしたくなかった。

 甘い香りが漂ってくると、ヤハトとフェナがやってきた。

「さあ、できましたよー。冷めてからのほうがいいんですけど、ちょっと味見しますね」

 甘さはちょうどいい。今は熱いのでホロホロと崩れるが、冷めればサクサクになりそうだ。

「味は大丈夫そうなので、冷めるまで待ってください」

「無理!」

 そう言ったフェナが腕を振るうとクッキーを入れた皿の周りの気温がぐんと下がる。

「ぇー、強引だなぁ。食感変わるかもしれませんよ?」

 熱とともに水分も放出してのあのサクサクだと思うのだが。

 それでも冷めたと言うことで、みんなそれぞれ手に取り味見をした。

「うまっ!」

 ヤハトはいつも素直な良い子である。

「悪くない」

 フェナも満足そうだ。

 ひとり手を伸ばせないシアに、ハートのクッキーを渡してあげた。嬉しそうに食べて、甘さに目を丸くする。

「こんな感じのお菓子ってあります?」

「ないね。また秘密のレシピが増えた」

 フェナは満足そうだ。

「お礼に持っていくし、師匠(せんせい)にも持っていきたいのでもっと作っていいですか? 今度狩りに行くんですよね? その時のおやつにも持っていけますよ」

「許可」

 ということで、みんなでたくさん作った。こちらの世界でシンボル的な形はないのか聞いたところ、世界樹を表す木と光のマークがあるらしい。それをクッキー型にするのもいいなぁと思う。

「お礼って何の話?」

「この間フェナ様より先に来てた金髪の男の人がいたでしょう?」

「ああ、領主のとこの騎士」

「あの人にお礼に渡そうかと」

「ふぅん」

「問題ありますか?」

「いや、確かにあいつがいなかったら今これを食べられていない。これをもらう権利はあるかもね」

 フェナ流の許可なのだろうか。ただ少し不満そうに見えたのは気にしないことにする。



ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


命の恩人にお礼をしたいシーナ

VS

シーナを救うことは当然のこと。領主の騎士なら当たり前のガラ

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