57.招待状再び
色見本を店頭に並べるのはもう少し先にしようと話し合った。やはり色寄せは難しい。何人か色の似ている二色持ちに、こちらから話を持ちかけ練習をお願いするということになった。
ガラや兄姉弟子の中から探す。
本来は、自分の顧客を取られる可能性がある行為に、嫌がられることなのだが、兄姉弟子は快く同意してくれた。
「すみませんがよろしくお願いします」
「シーナがどれだけ金持ちで接触を図りたい相手だろうと、今の腕じゃ到底客を横取りできるレベルじゃないから構わん」
全員の見解だそうだ。
ヒドイ。
まあその方がよい。と、己に言い聞かせて練習させてもらうことにする。
年が明けると、本当に厳しい吹き下ろしがピタッと止まった。周囲の店も一月一日から営業を始めたようで、ガラの店にも客がポツポツやってきた。流れの冒険者も冬の間に使い切った組み紐を改めて作り直し、旅立っていくらしい。
何人かシーナを指名してきたが、体調不良だし、まだまだ専用を編める腕がないと追い返されていた。つまり、シーナは裏でせっせと色寄せの練習である。魔力溜まりにあるガラの魔力と戦っていた。
半月もすれば流れ者は北に行くらしい。
北の方が実入りの良いダンジョンが多いらしい。資源豊富な森もあるとかで、北寄りで活動する者がほとんどだという。
宿屋も少し余裕ができ、今度は行商人のためのものとなる。
壁の外の仮設宿屋は順次取り壊される。
神殿教室にはやはり通うべきだろうと言うことで、年長の子どもたちが送り迎えしてくれることになった。シーナは一年間よろしくお願いしますと二人に魔除けの組み紐を贈った。
そして、領主からの呼び出しにあった。
「えええ、今更索敵の耳飾りのこと怒られるのぉ!?」
招待状を持ってきた金髪イケメンの前で顔を覆うと、彼は違うと笑う。
「怒られるわけじゃないから、安心して」
わんこ系の笑顔とかご褒美……眼福。
「服装も普段着で構わない。五日後三の鐘がなる頃に迎えに来る」
「よろしくお願いします」
とは言うものの、
「師匠! 着ていく服がありません!」
「確かに、いくら普段着でいいと言ってもねぇ。ヒラウェルのとこ、今から行ってらっしゃい。ギムル! 手空いてるでしょ、送ったげてくれる?」
ヒラウェルの店までは大通りを行くだけなのだが、まあ確かに今日もシーナ指名の冒険者がやってきた。申し訳ないがお願いする。
「普通は一発当てたら隠居するんだよ。護衛雇って。でもシーナはなぁ。人と関わりを持ってたほうがいいだろ? 不便だろうけど頑張れ」
道中ギムルにそんなことを言われた。
確かに、この物知らずの状態で人との関わりを断つのは怖いし、何よりフェナの組み紐を編めるようにならねばいけない。
店の前でギムルと別れ、扉を開ける。
「あらシーナ。いらっしゃい。春物買ってくれるの?」
相変わらずきれいな店内だ。少し置いてある洋服が変わっているのは、年が明けて風が止んだからだろう。
「それが、領主様にお呼ばれして、着ていく服がないの」
「あらあらまあまあ! 私、選んでいいのかしら?」
ヒラウェルの目が怖い。
「お、お願いします……」
そこからは完全にお人形モードとなった。
「シーナは黒髪に黒い瞳だから、はっきりした色の方が似合う? いや、ここらへんもなかなか……」
基本先日ガラに借りたアオザイのようなワンピースタイプなのだが、使っている布や刺繍の多さがなかなかのドキドキのお値段な気がする。ガラがフェナからの支援金の一部だと渡してくれたのは金貨五枚。大丈夫だろうか?
「今の季節薄手の上着もほしいわよね〜どーしよー、楽しぃ〜お値段考えなくていいのがサイコー」
「考えて!! ちゃんと考えて!」
最終的に水色系と、ピンク系の二つに絞られた。グリーンは肌色に合わない色しかないと却下を食らった。
「どちらにもこのクリームの薄手のコートは似合うから。あ、靴はこれね! カバンどうする?」
水を得た魚のヒラウェルの圧がヤバイ。
「き、金貨五枚以内……」
「あらそれだけあれば余裕よぉ。で、どっちの色がいい?」
「ピンクはもう着れる年じゃないと思うんだが」
「似合えば年によって着られる着られないはないと思うし、あなたお化粧しないと基本十七、八までよ、上に見られて。なんなら十二、三。だいたいこのピンクは落ち着いてる感じのピンクだし。ピンクにする?」
刺繍がかわいいなと思ったのはピンクの方だが、ぐぬぬ、大人っぽく見られたい願望。どれだけ頑張ってもあの金髪イケメンの隣を歩くのだ。引き立て役である。せめて、年齢だけでも上げたい。
「水色で……」
「そうなの? 欲しいものを買ったほうがいいわよ? まあこれもきれいめで素敵よね。生地はこっちの方が上だし。カバンもつけて、金貨四枚と銀貨一枚ね」
よんじゅういちまんえんのお買い物をぽんと出来るようになりました。
今度はヒラウェルが店の戸締まりをして送ってくれた。
「なんで呼び出されたのかしらね」
「索敵の耳飾りの件でのお叱りではないようですよ」
あらーあれはグッジョブでしょぉ〜と笑う。
翻訳機が今日も頑張ってる。グッジョブてなんだ、グッジョブって。
「まあ何にせよ領主様もあなたをぞんざいになんて扱わないだろうし、気負わないで行ってらっしゃい」
今回もガラに良い色じゃないと褒められた。
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
とってもうれしいです。
領主様とのお話が始まります。




