52.進む道
食事の準備を手伝いながら、屋敷内の家事をしながら、ヤハトといっしょに魔力の動かし方を学んで過ごした。多分投網は網のように薄くなく、そのせいで魔力を使いすぎたのだと結論づけた。魔力の動かし方が上手くなれば少ない魔力でうなぎを捕まえられるはずだ。
フェナの魔力、超うなぎ。
そうして神殿教室の日になったので、そのままバルとヤハトに神殿まで送ってもらった。
「ありがとうございました」
二人にお礼を言って教室に向かった。
「みんなおはよう」
外は木枯らし吹き荒れる状況だったが、部屋はしっかりと温めてあった。コートやマフラーを脱ぎながら子どもたちに挨拶をすると、皆一斉にこちらを振り返る。ニールたち三人には事前に今回のお迎えはいらないと伝えてあった。
「シーナおはよう!」
子どもたちが口々に挨拶する中、普段は少し離れたところで大人しく座っているシアがそばまでやってきた。
「ほら、ちゃんと言わないと」
ニールがせっついているので、そちらへ向き直った。
「なあに?」
「あのね、」
うつむいて言葉を紡ごうと必死であるので、優しく(当社比)微笑んで待った。
「あの、お仕事の話ありがとう」
「んん?? お仕事?」
話が見えない。
「シーナが斡旋してくれたんじゃないの?」
ニールが言ってくるが、
「斡旋? ここにきて1年経ってない私にそのようなコネがあるとお思いか?」
一番コネがあるのは神殿だと思いますよ。
「ええ?」
ミリアも戸惑っている。
こちらも話が読めない。就職先の話なのか? シアは魔物の気配にも敏いらしいし、魔力があるってことだから、組み紐?
「どんなお話が来たの?」
「フェナ様のお屋敷の……」
フェナ?
「って、あれか! 料理補佐!」
「料理補佐?」
んん? 違うのか?
「フェナ様のお屋敷は、魔力で動かす道具が沢山あるから、留守のときも魔力を注げる者が欲しいって。私はわりと魔力があるから」
「この間、狩猟祭で会ったときから候補に上がってたらしいよ!」
そう言えばあのときやたらとジロジロ子どもたちを見ていた。
「そっかあ、おめでとうシア。フェナ様の扱いが酷くて辛くなったら言ってね」
バルに進言します。
「フェナ様、怖い?」
「んー、何を言い出すかわからないから怖い。別にぶったりするような人ではない。それ以上にソニアさんが優しいから大丈夫かと」
考えているの結果がここへ繋がるのがなんだか嬉しい。
「ミリアも服飾の店に住み込みで働けるよう決まったし、これでみんな進路が決まったな!」
うわぁ……齢七歳で進路、とか。おばちゃんちょっと胸が痛い。だって八歳から働くんだよ。小学生三年生。
小学生なんか、学校から帰ったら宿題やりなさいって言われてるの無視して遊びに行って帰ってきてゲームしてご飯食べて慌てて宿題やるんだよ。
頭の中、遊びとご飯しかないよ。
それがこの世界じゃもう自分の食い扶持を稼ぐように仕事をしだすのだ。
重労働なら、体を壊して死ぬのも早かろう。
それでもシーナにできるのは応援することだ。
「三人ともおめでとう」
子どもたちに送ってもらう。久しぶりの店だ。
「おかえり」
「ただ今戻りました〜あれ、ミミリ?」
お休みの店に、姉弟子がいた。
「おかえりシーナ」
ミミリは淡いオレンジの髪色をした、長身の女性だ。シーナとそう変わらない年齢だったはず。旦那さんもいたと思う。
「お休みの日に珍しいですね」
「ああ、シーナには言ってなかったわね。私、来年から独立するのよ」
「え、そうなんですか! それはおめでとうございます。お店は近いんですか?」
「少し離れるかなぁ。自宅ごと海の方に引っ越すから。マヨネーズの秘密は家族にも漏らさない。自宅で作るときはみんな出払っているとき。自分用のみにする」
キリッとイケメンな顔をして語っているが内容がアレである。
「お引越しとか手伝いますよー」
「組み紐師の引っ越しに他の人間が手を貸す必要はないよ」
ガラが笑う。
ミミリも笑顔で頷いた。
「私の専属精霊使いが総出で手伝ってくれるの。その人数の多さが、その組み紐師の箔になる」
花嫁か!?
華々しく婚家に行くみたいな? ちょっと格好良いなぁ。
「そうなんですねぇ」
「冬はみな街にいるからね、連絡もしやすいんだ」
実は前々から表に張ってあったらしい。読めないから全然気づかなかった。当日の荷運びにも参加の返事を多数もらっているそうだ。
「今は店分けの話をしてるから、部屋に行ってて」
「了解です」
年が明ければまた少し環境が変わりそうだ。
シーナ自身もなにか目標を立てる等をして、少しずつ変化を重ねていかねばと思う。
まずは魔力操作。何としてでも、フェナの魔力を捕獲したい。きれいに這わせるのはそれからの問題に思える。あとは、フェナ以外の組み紐を作ってみたい。いっそのことヤハトにお願いしてみるか? ガラの組み紐を作ることは禁止されているのだ。本数がオーバーの上に、魔除けなどの一般的な組み紐ではないからだ。精霊使いとして登録している者の組み紐しか作ることはできない。魔力寄せの練習はできるが。
迷惑なのはヤハトの時間を奪うことだろう。
美味しいもの用意すればなんとかなりそう。
冬の間なら多少は時間を融通してもらえるんじゃないか? ガラに相談してみよう。
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