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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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51.異世界の休養は暇

 ガラが様子を見に来て、説教タイムが始まった。

 どんな使い方をしたのだと問い詰められ、昨日の行程を最初から説明させられた。

 となりでヤハトが、顔が真っ白だったとか、糸はほとんど編まれていなかったとか、余計なことしか言わない。黙れ小僧……。

「フェナ様の魔力が逃げ足が早いんです」

「逃げ足ってのは初めて聞いたけど」

「追い込み漁をしようと思ってがばっと投網を広げたら何か魔力使いすぎたらしいです」

「説明が抽象的過ぎてほんとにわからない」

 最終的にはガラが頭を抱えた。

「とにかく、その投網? はやめなさい。フェナ様から聞いた情報を合わせるとそれが魔力の使い方をぐっと進めたようだから。フェナ様も気をつけてくださるそうだし、ここで練習するときは魔力の動きに敏いヤハトもついてくれる。何度も説明しているけど、魔力の這わせ方は人それぞれ。感覚で掴んでいくしかない」

「はーい」

「まだ編み始めて一年経ってないのよ。焦ることなんてないから少しずつ経験を詰みなさい。今回のように急に伸びるとは思わなかった。倒れたと聞いたときは驚いたわ」

「ごめんなさい」

 仕事は始まってしまうが、そんな状態のシーナがやる仕事はないので、もうしばらくここで世話になれと置いていかれた。

 こちらに来てこんなにも何もしなくていいと言われたことはなく、久しぶりに惰眠を貪ることにした。

 が、それもすぐ終わる。体の調子は本当に悪くない。

 つまり、暇だ。

「暇つぶしの読書とか、YouTubeとか、スマホゲームとかなんもないんだもん……」

 仕方なく部屋を出て、屋敷内をウロウロする。もう料理の手伝いでもしている方がましだ。

 キッチンを覗くも誰もおらず、さらにウロウロして居間の一つへやってきた。そこは珍しく土足厳禁の部屋で、床には高そうなふかふかの絨毯と、たくさんのクッションが敷き詰められている。

 その片隅にヤハトが座り、横にはフェナが寝そべっている。

「また起きてウロウロしてる。寝てろと言ったよね?」

「寝すぎてこれ以上は無理です。何しているんですか?」

 答えながらシーナは部屋に入り近づくと、ヤハトは目を閉じたままあぐらをかいていた。

「弟子の訓練を見張るのは師匠の役目」

 まぶたが動いている。こちらの話は聞こえているようだが、ヤハトは反応しなかった。

「訓練をしてるんですか?」

「今は魔力の効率的な動かし方を学んでるところ。精霊を使うには魔力を餌にしないとだから、魔力の与え方で精霊の動きが変わる」

 全然わからない。

 ただ、ヤハトの周りがなんだか歪んで見える。

「魔力量は持って生まれたものがある。つまり限界がある。あとはどう少ない魔力で精霊に言うことを聞いてもらえるか、だ」

 体内の魔力は最近だいぶわかるようになっていて、先日の魔力枯渇からは各段に意識できるようになった。今も意識すればシーナのみぞおち辺りにある魔力を動かせる。

「こら、魔力使うのは禁止」

 お腹に両手を当てていると、フェナに睨まれた。

「もう二、三日は魔力を動かさないように」

「今は私が魔力を動かしたってわかったんですか?」

「魔力が見えるって言ったろ? シーナと私の魔力はそっくりだから、自分の魔力が自分の預かり知らぬ場所で動いているようですごく気持ち悪い」

「ひっどい」

「だー!! うるさいっ! フェナ様もシーナもうるさい!」

 カッッと目を見開いてヤハトが怒鳴る。

「ご、ごめん」

「この程度で気を散らすな、未熟者め」

 さっさと続けろと火花が散り、不満そうなヤハトはまた目を閉じた。消えてた体の周りのもやが現れる。

「魔法を使うときって、呪文はないんですか?」

「呪文?」

 視線はヤハトから動かさずに、フェナが首を傾げる。

「我が名において精霊に命ずる、とか、ファイアーボール! とか言いながら精霊を使ったり」

「何それ、面白いわね。シーナの世界はそんな風に魔法を使うの?」

「私の世界には魔法なんてありませんよ。ただ、ゲームや小説が山程あります。紙も安いし印刷技術もすごいです。流通も整備されてるから、娯楽はたくさんありましたし。想像の物語で魔法が語られているんですよ」

「へ〜、シーナの世界、楽しそう」

「まあ、楽しかったと思いますよ」

 娯楽は山程。趣味を持てるって、ここではかなり余裕がないと無理だ。基本働いて、今を生きるって感じ。

「呪文なんてものはないね。隠蔽の陣を書いたり、組み紐にも紋様があるけれど、精霊を扱うときは頭の中で思い描くだけ。だいたい、精霊に言葉は通じないだろ?」

 術者のなんかしらを高めるとかそういったこともないらしい。残念。

「我々ですらいくつもの言語を持つんだ。魔物や精霊も一つの言語で通じるかなんてわからない。言語であるかすら、わからないよ」

 ごもっともである。と、同時に少し残念。自分ももしかしたら魔法を使えるのでは! などと思ってしまったのだが、難しそうだ。

「明後日くらいからなら、ヤハトといっしょに魔力の動かし方を練習するならしていい」

「練習したらフェナ様の魔力捕まえられます?」

「さあ、魔力は這わせるんだろ? ガラの組み紐(トゥトゥガ)作りを見てても捕まえられているようには見えなかったが……」

 うなぎなんだよなぁ。

「魔力を思ったとおりに動かせるよう練習させてください」

 うなぎ漁頑張らねば。

「少しずつやってけばいいんだよ。シーナは金の心配もなくなったし、世界にも魔力にも五年くらいかけて慣れてけばいい」


 



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スマホもYouTubeもなくて、何をしてるんだろうと思う。


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