50.魔力の追いかけっこ
青い食べ物はそこまで問題ではないそうだ。解せぬ。暖かくなりフルーツが沢山出てきたら、違う種類の、りんごのようなものとかで試してもらう。
ガラは明るいうちに帰り、午後からはフェナの組み紐を作ることになった。
フェナはソファに座って、シーナは丸台を間に挟んで椅子に座る。
フェナの糸は六種類。
火水風地光闇。
淡いピンク、淡い紫、淡い緑に白色。光と闇は金と銀だが、ラメが入っているように光に当たると輝く。
本来の色寄せはフェナの手を浸した魔力溜まりに糸を浸し、そこから這い上がってくる相手の魔力と同じ配分の魔力を押し返しながら、一番反発のない強さを探る。ぴったりだと魔力を流したときになんの反発もなく自分の魔力がうまく収まるような感覚を得られるのだ。
シーナとフェナは魔力の色が同じ。
これはほんとうにこの世界中を探しているかいないか、珍しいどころの話ではない。奇跡の域だった。
色合わせをしなくていいので問題は、糸への魔力の這わせ方だ。魔力溜まりから相手の魔力を吸い上げながら、シーナの魔力を使って糸を編む。編む時に糸を動かせばどうしても魔力が振り払われてしまう。それをさせないためにフェナの魔力をシーナのもので覆って逃さないように編み目に這わせる。
「では始めますね」
フェナがたっぷりと魔力溜まりに魔力を注いだのを見て、シーナは持ってきた自分の魔力で作った糸を魔力溜まりの中に浸した。色は6色。模様は割と単調だ。紋様を編み込むものではないからだ。六色のラインが出来るよう、編み目の大きさを揃えてあとはフェナの魔力を逃さぬように。
しかしフェナの魔力は本当に捕まらない。水銀みたいにプルプルと震え、摘もうとしてもプルンと二つに分かれてしまう。
つるん、つるん。
コレでは埒が明かない。
捕まえようとするからいけないのか。押してダメなら引いてみなで、少し自分の魔力を抑えると、グワッと圧を増し、こちらを飲み込もうと勢力を増してくる。
危ない。油断できない。
額を伝う汗が目に入る。
視界がぼやけるが魔力の色はよく見えていた。だから気にしない。
フェナの魔力はあれだ、うなぎだ。つるんと、捕まえたと思ったら逃げている。うなぎはどうやって捕まえるんだっけ? 指でキュッとやってる動画を見た気がする。つるんつるんと手の中をすり抜けていく。
ああもどかしい。
鬼ごっこだ。
魔力を捕まえなくてはならない。だが、油断すれば鬼にとって食われる。
しかし、先日ガラで色寄せの練習をしたおかげで、魔力をよく感じ取れた。
フェナとシーナの魔力の色がそっくり過ぎて、感じ取ることの出来なかった魔力の圧を、わかるようになったのは素晴らしい進歩だ。センスと経験。言われていた言葉が理解できる。
捕まえようとすれば逃げて、気を抜けば食われる。
ああ、違う。捕まえようとすれば逃げる。逃げ道を塞いでやるか?
そうだ。うなぎは待ち構えて捕まえるのだ。
自分の魔力をぐっと押し広げ、こちらに持っている糸の端から魔力溜まりへ向かって、大きな投網を広げるように。
逃げ場をなくし、そして逃げるならここだと糸へ誘導すれば!!
「シーナ! 終わり! シーナ終わりだ! ヤハト!!」
突然肩を掴まれ後ろに倒された。
「ふぇ? あれ?」
上から覗き込むヤハトの顔がボヤけている。
起き上がろうと身体に力を入れるが、手足がどこにあるかわからない。
「部屋へ」
ヤハトは眼の前にいるが身体が宙を浮いた。多分バルだろう。
身体の周りを水滴が渦巻いた。【洗浄】だ。
上と下が不確かなまま降ろされた場所はシーナの部屋のベッドだった。
ベッドの端に腰掛けたフェナを視線だけを動かして確認する。
「進歩しすぎだシーナ。お前のやり方に技術と魔力操作が追いついていない。魔力を使いすぎている。今日はもう寝なさい」
額に当たる手は、予想外に硬かった。
「おやすみシーナ」
目が覚めると、あたりはすっかり明るくなっていた。昨日は失っていた手足の感覚がしっかりとつかめる。自分の魔力もともに溶け出していた器を取り戻したような気分だ。
しかし、あれは。
「気持ちよかった〜」
すべての感覚が魔力に乗って駆け巡る。気持ち良すぎて困った。
あれはやってはいけない方法なのかもしれない。
技術が追いついていないと言われた。
いや、たぶん最後行き着くまでに魔力を使いすぎていたのだ。初めからアレならばフェナの魔力を捉えられるかもしれない。
怖いという気持ちはない。
興奮を抑えきれないと言ったほうが近い。
はぁぁぁと息を吐く。
「よし、今日ももう一回だ」
「ダメ」
にべもなく断られた。
「ダメったらダメ」
ガッツリ断られた。
「で、でもこう、あとちょっとでなんかこー! 魔力も全回復してますたぶん!」
ソファに寝そべりくつろぎながら、フェナはシーナを睨めつける。
「魔力全回復……してるのはほんと不思議だけど、とにかくダメ。普通は魔力枯渇寸前まで使ったら五日は寝込む。むしろ寸前まで使おうとするおバカはいない。今回は魔法としてでなく組み紐に使ったから体力消耗の仕方が違うからか、すぐ回復して動けるのかもしれないけど、とにかく五日は編むの禁止」
「ええー!!」
バチッと眼の前で火花が弾ける。フェナが右手をこちらに向けていた。
「自分がどれだけ危険なことをしたかわかってない。ガラにしこたま怒られろ」
えー、と小声でつぶやくとまた小さな火花が鼻の先で散った。
「最後の魔力の使い方と勢いがすご過ぎて、止めるのが間に合わなかったらと思うとゾッとする。とにかく、次はしっかり回復してからだ」
「せっかくあと少しだったのに」
「何があと少しだ。編む手が完全に止まって魔力だけを総動員していたくせに」
「フェナ様の魔力がうなぎすぎるからいけないんですよ〜」
「わけがわからん。バル! これをもう一度ベッドに放りこめ!」
逆戻りである。
ついてきたヤハトもなんだが仏頂面をしている。
「元気なのにー」
「魔力枯渇したら死ぬのにアホだろ」
「そんな話は聞いていない」
「当たり前過ぎて誰も教えてないんだな」
枯渇なんて、糸作りのときも特にそんな感覚はなかった。
「フェナ様の声が聞こえる前に、ヤハトが部屋を飛び出していった。魔力が渦巻いていたそうだよ」
「あんな危ない使い方するやついねーよ。寝とけ」
そう言い捨てて部屋を出ていく。その後ろを見ながらバルが優しく言う。
「心配してたんだよ。何度も部屋に様子を見に来てた」
「それは、ごめんなさい」
「あと、勘違いしてる。シーナが寝てたのは半日じゃなくて一日半」
どうりで、トイレへ駆け込んだはずです。
ブックマークありがとうございます。
まりょくがそっくりだからこそ、引っかかりがないのでなおのこと捕まえにくい。
たぶん?




