49.パスタマシーン
あの後夕方も近いにも関わらず、ヤハトがアランブのドライフルーツを買いに行かされ青い天然酵母作りを始めた。
すでに作ってあった天然酵母を見せて、こんな感じになるはずだと説明する。聞いていたのはバルとソニア。バルはどこを目指しているのか。
食パンも焼きたいから金属の枠を作ってもらうことにした。これは明日金属加工工房に突撃する。おろし金を頼んだのでそのままチャムのところに聞いてみるそうだ。フェナがお得意様になって喜ばれるのか、それとも泣かれるのか、わからない。
冬になり、フェナのお屋敷も昼がメインで夜は簡単なものを食べる。寒いからオニオングラタンスープを提案した。オニオンじゃなくてキリツアグラタンスープか。
お野菜とソーセージをグツグツしたスープ。コレは多めに作っておいてまた明日の朝ご飯だ。そのうちのスープを、キリツアをバターでしんなり色が変わるまで炒めたところに入れる。
そして固いパンと、チーズを乗っけてオーブンへ。オーブンいいなぁ。羨ましい。
あとはポテトサラダを作った。マヨネーズは神様です。キリツアグラタンスープはなかなかの出来だった。固いパンもこうすれば美味しい。
その夜はしっかりと暖められた部屋でぬくぬく眠った。フェナのお屋敷はこれがいい。ベッドも綿がふんだんに使われていて客間サイコーである。
朝は残りのスープとジャムとパン。温かいお茶が美味しい。
そしてバルとヤハトを伴いチャムの工房へ行った。
「おはようございます親方」
「おう、シーナか。と、フェナ様のところの……」
「また注文をお願いしたい」
三人は奥へ通された。
加工場の側に商談用の部屋があるのだ。
「それで? この間のオロシガネとやらかい?」
「いや、設計からお願いすることになるんだが……」
そうやって打ち合わせ通りにバルが説明する。
ある程度棒で伸ばしたパン生地を、均一の厚さにしてさらに均一の太さに切断したいと。
一度に出来る量はそこまで大きくなくてもいい。
説明してるのはバルなのに、親方はシーナに厚さは? とか、均一の太さとはどのくらいだ? とか聞いてくる。
「太さはもしできるなら刃を付け替えたりで色々
太さを変えられる方が良いし、分解して洗えるようにも……て、私の注文じゃないのに」
「新しいもん作るのはシーナが関わってるってわかるんだよ。あんまり余所に頼みに行くなよ。商業ギルドが狙ってんぞ」
「げぇー」
気をつけなくては。面倒なことに巻き込まれるのは嫌だ。
「試行錯誤がいりそうだから、この冬中に試しながら作るでいいか?」
「構わない。もう一つ茹でたパテラを潰す物が欲しいんだ」
「これくらいなら直ぐかな。こっちを弟子に先にやらせよう」
わりとすんなり請け負ってくれた。食パンの型も問題ないようだ。
昼をガラが食べに来るので用件が終わったらさっさと帰る。バルがパスタを。ソニアがパン。シーナがメインだ。
「いつも私がメイン……もうネタ切れですよっ!」
といいつつ、せっかくガラが来るのだからあまり家では作れないものを作ってあげたい。となると、オーブンを使うか揚げ物にするか。
「コロッケにしよう」
ひき肉の代わりにベーコンを使い、味をしっかりつければソースもいらないだろう。
「ご招待いただき光栄です。こちらシーナが作ったジャムになります。お口に合えばいいのですが」
うふふと、ガラがやってきた。
コロッケのいい匂いが玄関まで漂っているので、ガラはご機嫌だ。ゴードに案内されて食堂にやってくる。
「いらっしゃい、ガラ」
「お邪魔します、フェナ様」
テーブルに並ぶ見たことがない食事に目を丸くしている。
「あらこれはすごいわね」
睨まれてもどうにもならないんですよ。ガラの店ではどうしたって無理なものがある。パスタは面倒くさい。
食事中ずっとあらあらといい通しのガラに、そうだろうそうだろうと自慢げなフェナ。
フェナは一つも作ってませんが?
「このパンは、どうするつもりなの?」
「どうするつもりとは?」
「マヨネーズと同じ扱い?」
「そうですねー、腐らせたもの使ってお腹壊したと訴えられでもしたら面倒なのと、日持ちが各段にしません。だから、門外不出かな?」
「フェナ様に情報料はもらったのよね?」
んん?
「もちろん言い値を支払う予定だ」
んんんん?
「あんまり考えてなかったです」
四人からアカンやろって目で見られるのは辛いな。
しかしもうお金は別に必要ない。今のところ。
「お金よりもパンを作ったら回してもらうとかなんですけど、それってフェナ様よりソニアさんとかバルさんの負担がでかくなるだけなんですよねー」
確かに、とフェナ以外の三人が頷く。
「パスタだってパンだって、ソースだって天然酵母だって、全部基本的にソニアさんに任せるんですよね? 私のせいで彼女に負担がぐんと増えて申し訳ないんですよ」
「で、結論は?」
「早く料理補佐を雇ってあげてください」
「それはすでに検討済みだ。シーナへの情報料にはならない」
「雇うってことですか?」
「そのつもりだ。どういった経路からにするか相談中」
ならば、現物支給にしてもらおうか?
「じゃあパンを焼いたときのおすそ分け。ウスターソースを作ったときのおすそ分けがいいです。パンは毎回じゃなくて構いませんし」
「わかった。店まで届けさせる。たまにトンカツをパンに挟んだものにしたりすればいいんだろう?」
「それは嬉しいですね。お店で揚げ物はやりにくいので」
「もっと要求できるものがあるのに」
シーナとフェナの会話に呆れたように漏らすガラ。
「今の生活は十分なので思いつきません。あ、今回の滞在期間もう料理したくない」
「えーーー」
フェナはご不満のようだが、店でも食事当番だし飽きてきてる。
やれやれとガラがパンをちぎって食べる。
一つだけ気になってたことがあるのだ。
「皆さん青いパンは美味しそうに見えますか?」
チキュウ種のシーナにとっては食欲減退色であった。
ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。
青くて許されるのはアイスとか氷菓子だけだと思っております。




