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47.成功は失敗の酵母

 現在卵を温める親鳥の気分。

 スープとじゃないと食べにくい固いパンに辟易してきたのだ。

 天然酵母作りを始めました!

 ブログで見たことはあるんだが、やったことはない。分量から何から全て手探りである。

 地球ではフルーツぶち込んでガシャガシャ混ぜれば数日でオッケーみたいなことを言ってたが、話はそう簡単に進まなかった。

 レーズンでやってたのを見たので、ドライフルーツならいけるんでは? と思ったのだ。

 冬が始まる前に、子どもたちに買ったあのお店で色んな種類を十粒ずつ。まずは出来るか試す。瓶は大きめのものを選んだ。

師匠(せんせい)! このドライフルーツなんて名前ですか?」

「モヌね、美味しそう」

 十粒が九粒になった。

 先日石版も買っておいた。紙はやはりもったいない。石版にモヌ、とカタカナで書いて発音的にはこうだという綴りと、色の特徴を記す。これは赤い切り分けた物なので元のフルーツはわからない。

 洗浄の組み紐(トゥトゥガ)で瓶をキレイにしてコップ一杯の水とモヌ九粒、さらに砂糖を匙で追加してよく振り混ぜた。

 あとは毎日ふり混ぜて、空気と触れ合わせ、温めておけばいい。蓋はしないとあったが、しないとこぼしそうなので、部屋に置いておくときは、布で蓋をして、周りを布でぐるぐる巻きにしておいた。部屋に戻り人肌に温めるときは、瓶の蓋をしっかりした。本当は逆が良さそうだが、抱えてるときこぼしそうである。そのかわり、多めに蓋を開けてふり混ぜた。

 そうやって、三日。


 カビが生えた。


「ぐぬぬぬ、最初から成功するとは思ってないがっ!」

 カビかオリかと言われれば、完全にカビのやつです。白いフワッフワのやつがもふもふしてる。ちょうど店を開ける時期で、バタバタとしていたから観察を怠った。失敗である。もったいないが捨てる。泡もそんなに出てこなかったから、このフルーツの相性もいまいちだったのかもしれない。


師匠(せんせい)! このドライフルーツなんて名前ですかね」

「パーリカね、美味しそう」

 十粒が九粒になった。

 前にもやったこのくだりである。

 分量は同じで。そして結果は同じ。泡立たないのだ。

「酵母菌ついてないのかなぁ。無駄なのかもしれない」

 とはいえ、諦めるにはあのパンは固すぎる。

「せめてこの買ってきたドライフルーツだけでも試そう。全部で五種類、あと三種類」


師匠(せんせい)! この(以下略」

 そうして五つ目の真っ青なアランブという謎フルーツに変化が現れた。

「泡だぁ!」

 水面にぷくぷく泡が現れた。

「やっと、やっとだ!」

 三回目から水も洗浄した。フルーツの表面を洗ってしまっては酵母菌が無くなるかもしれないので、せめて水だけでもと始めた。

 三日間抱きかかえふり混ぜしていると、アルコール臭と、フルーティーな香りがしてきた。ブログに書いてあったやつだ。

 四日目に泡が落ち着いた。きめ細かい泡だけになったので、今だと二つの瓶に分けた。一つの方にはドライフルーツと発酵液。もう一つは底にあったオリと発酵液。

「しかし、青か」

 オリは白ぽいとあったが、このオリは青い。

「まあ、異世界のものだし?」

 ドライフルーツの方にはまた水と砂糖を足してふり混ぜておいた。継ぎ足しできるか試すのだ。

 そしてオリと発酵液の方には事前に買っておいたパンを作るときの粉。これもまた手探りでだが、倍量くらいに膨らむはずだったので、少し控えめにでも水分多すぎてシャバシャバにならないくらいに入れてみた。

 そしてまたもや温める。自分の指何本分くらいの高さかを石版に書いて、お腹のところで温める。そのまま布団にくるまって、気づくとあのパンが発酵したときのちょっと嫌いな人は嫌いな匂いがしてきた。

 こうなればあとはパン作りの時に元種を放り込んでまた発酵させるだけだ。

 つまり、フェナのお屋敷に行かねば!

 ちょうどタイミングが良いというか、今日は十一月三回目の神殿教室だった。明日から三日間暇である。

師匠(せんせい)! フェナ様のお屋敷に行きたいんですけど、明日行ってもいいですか?」

「珍しいわね、自分から。使いを出して確認しないと」

 夏ならそこら辺にいる子供を呼び止めて、鉄貨を与えて頼むのだが、冬は子どももあまり外にいない。ここら辺は店が多いので住んているのは商売人とその家族くらいだ。

「隣のチムに頼んだら?」

「そうですね。行ってきます」

 隣の家は靴屋だ。穴が空いたからと言ってすぐ捨てない。靴は修理して修理して使うのだ。新品もあるが、どちらかというとお隣は修理がメインの仕事場だった。

「すみませーん! チムはいます?」

 声を掛けると赤毛をお団子に結った奥さんのネネと、今度七歳になる男の子、チムが出てきてくれた。今日はお隣もお仕事はお休みのようだ。

「フェナ様のお屋敷に言付けをお願いしたいんだけどどうかな?」

 チムは獣人の血が入っていて足がとても速いのだ。それでも聞いているのは本人よりもネネに対してだった。

「いいよ! なんて言えばいい?」

「フェナ様のお屋敷に伺いたいんですが、いつが空いていますか? こちらは早ければ早いほど嬉しいです」

 手のひらに鉄貨を握らせながらお願いすると頷いて駆け出そうとする。ネネが止めた。

「上着を着なさい!」

 走り抜けるチムを素早い動きでネネが捕まえる。

「よろしくお願いします」

「あいよ!」


 チムの言付けは本当に早かった。そしてあちらの対応も早かった。

「行こうか」

 チムからの返事はなく、バルが迎えに来た。

「嬉しいですけど、早すぎる」

「フェナ様が、何日か預かると言っているんだが

いいだろうか? 組み紐(トゥトゥガ)の練習をすればいいとも言っていた」

「今日だけでいいんですけど……」

「パスタマシーンの話もしたい」

「パスタマシーンってなに? なんか、美味しいもの作ってるでしょ」

「ぐぬぬぬ」

「暇で暴れだしそうなフェナ様の相手を一日でもしてもらえると助かる」

「本音がえぐい……」


 結局店の休みの間行くことになった。糸と丸台も持って、さらにカバンに酵母の瓶を二つ持って。

 ガラも美味しいものの匂いを嗅ぎつけたので、明日の昼を食べに来るらしい。まあ、ガラにはパンが上手くできたら食べさせてあげたかったのでちょうどいいのかもしれない。


 


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とうとう天然酵母作りに手をぢしました。

異世界転移系ではお約束過ぎるかなぁとおもいつつも、パン美味しくしたかった。

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