46.魔除け
十一月にはいった。さらに寒さが加速した。気温はまだそこまでじゃないのかもしれないが、風が冷たく厳しいので体感温度がぐっと下がっている。
冬の間仕事がないと家でできる仕事をするそうだ。編み物や小さな木の細工。家族で身を寄せ合って過ごす。食事の回数を昼と夜に二回に、または昼間の一回に減らし、保存食をなるべく長く保たせるようにする。
弟子たちも五日休み、五日店を開ける。十二月十三月は十日休むこともある。
それほどに冒険者の狩りが減る。
最初の一日は、ガラによる色寄せの練習となった。組み紐を編む途中で少しでも相手の魔力に自分の魔力の出力を調整するのだ。精霊は六つ。光闇火水風地の精霊。
このバランスを相手の魔力に似せる。
誰でも必ず六つの魔力は持っているが、偏りがある。
自分の魔力を正しく知り、相手の魔力の数値に調整を入れる。
ガラは、これに関してセンスの塊だそうだ。
「フェナ様の組み紐だけを作っていればいいわけじゃないから、まあ頑張りなさい」
フェナの場合この色寄せの必要が皆無。あとは滑らかに魔力を糸に這わせる作業のみ。本来は色寄せと滑らかに編み込むことをしなければならない。とにかくフェナで滑らかに這わせる練習をし、しばらくはガラの魔力に寄せる練習をすることになった。
次の日は神殿教室だ。行きはガラも神殿に用事があるとついてきてくれた。
いつも通り読み書き計算のあと、昼食。ニールとニックがごたつき、まあまあとなだめに入る。
同い年で張り合いたいお年頃なのかなぁと温かく見守っている。
さて帰るぞという段階になり、年長組の三人がやってきた。
「シーナ、送っていってあげる!」
「ローディアス様にも許可をもらったよ」
「冬はやることが減るから暇なんだよ~気晴らしに」
大丈夫だよと断るが、手を引っ張られて教室の外へ連れ出される。
三人は色々と話しながらシーナの両手を取り先へ行く。
「お店の場所知っているの?」
「知ってるよ! お使いなんかで外にも割と出るし」
「街のどこに何があるかは知っておかないとね」
ニールとミリアが答え、シアが頷く。
と、急にシーナの左手をぎゅっと掴み身を寄せてくる。
「シア、どうしたの?」
「いる?」
「うん……」
「なになに?」
ミリアがもう一方のシアの手を握り、ニールが強くシーナの右手を引っ張る。
「急いで」
バタバタと四人は連れ立って先を進んだ。店の近くまで来てようやく止まる。
「なんか怖い人いた?」
周りに人は見えなかったが、子ども目線で見えたのか?
「違うよ、シーナ。魔物がいたんだ」
「えっ」
キョロキョロとあたりを見回すが、何も見えない。
「シーナは魔除けをしているから見えないよ。あのね、細い道への暗闇とか、物の陰とかそーゆうところにいるの。目が合うともっと暗い場所にいつの間にか誘導されるの。それで、闇の中に引きずり込まれちゃうの」
「夏は日差しが強いから、昼間なら大丈夫だよ。夕暮れとか、夜とか闇が深いときは危ないの。だから夜外に出る人はみんな魔除けをするよ。家の中は不思議と出ないんだって。あと神殿の敷地内も大丈夫。シアが、かなりわかるから、俺達もシアと外に出るときは大丈夫。教えてくれるからすぐその場から離れるしね」
「冬は太陽の光が弱まるから、昼間もあんまり物陰には近づかないほうがいいのよ」
シアがそう言って笑った。
店まで来た子どもたちをそのまま帰すのは心苦しいが、ここでまた神殿まで送るのは本末転倒だし、ガラが駄賃代わりにあの硬いパンを渡して送り出していた。もう少し良いものをと思ったが、なかなか難しい。
飴のようなあげやすいものがあればいいが、砂糖は高価である。
「師匠闇に潜む魔物って見たことありますか?」
「あら、会ったの? 私は兄が闇に誘われてしまったから、親が小さな頃から魔除けの組み紐をしてくれていたから、見たことはないの」
さらりと語られる事実に返事ができなかった。ガラはそれに気づかずに続ける。
「シーナもつけていってるんでしょ? 子どもたちが気づいたのね。呆けてふらふらしてる人を見つけたらさっと触れてあげなさい。魔除けの組み紐をしている人に触れられればすぐに正気に戻るから」
「危ないから子どもたちに送ってもらうのは止めま……」
「送ってくれると言うなら送ってもらったほうがいい。あなた、物陰で人が苦しそうに唸っていたら、何も考えずに直ぐ側に行くタイプでしょ。その人の身なりやなんかも見ずに」
ぐぬっ。
「魔物には攫われないだろうけど人に攫われるタイプだわ」
否定ができない。家はすぐそばだと言われたらそこまで送ろうとしてしまうタイプだ。
「でも、魔物が……」
「冬だから昼間にもうろついているけど、普通なら昼間には現れないものよ。子どもたちも魔除けをしているあなたと触れていたら平気でしょう」
だが、その帰り道はどうするのか。それ以外のお使い中にであったら。
「師匠、この冬送ってもらうお礼に、三人に私が作った魔除けの組み紐をプレゼントしてもいいですか?」
「……あの三人にだけ?」
「うっ……来年は三人はもう仕事を探すらしいし、来年からは次の年長の子どもたちに送り迎えをしてもらうからその子たちに」
「そうやって毎年年長の子どもたちに魔除けをあげるの?」
無闇に施すものではないとわかっている。わかってはいるが。
「魔除けの組み紐はそう取り替えるものでもないし、孤児院の子どもも一番年上の子は年にいても五人くらいだし、その、行き帰りの護衛と思えば……」
ふぅんと声を漏らすガラ。
魔除けは五年は保つという。夜外を歩く大人ですらその程度なので、夜外をうろつかない子どもなら、子供時代は普通に保つので、親のある子は子どもが生まれたときに買うことも多いそうだ。
「きちんとローディアス様に話を通してからにしなさい。あなたが買って、渡すことになるのよ」
「はい!」
次の日さっそく三本の魔除けの組み紐を持って神殿に相談に行った。ガラもついてきてくれた。
朝の迎えからするという約束で無事組み紐を渡すことができた。
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ガラはちょろちょろぶっ込んでくる人。
あたりまえ、よくあることの感覚がシーナと違う。
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