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39.冬支度のはじまり

 狩猟祭が終わり、普段の生活が始まった日の朝は、突然の騎士の来訪で始まった。

 お店の準備を終えて、そろそろ仕事を始める時間だと思っていたら、領主の護衛騎士が人夫に荷車を引かせてやってきた。

「領主様からお約束の砂糖です」

 先日直接領主から任せたと言われていたあの金髪イケメンだ。砂糖壺が荷車に五つも乗っている。体感だが、一つに二キロくらい入っていそうだ。

 十キロの砂糖だ、わーい。

 兄姉弟子も手伝ってくれて、次々と店の中に運び込む。

「領主様にお礼をお願いします」

「わかった。伝えておこう」

 一つは使い込み分の補填。残り四つはとりあえず貯蔵庫に置く。虫除けの陣が敷いてあるので砂糖を狙われることもない。パンの分量がわかったら、水とフルーツと砂糖を瓶に入れて天然酵母も試してみよう。本当に出来るのか不安だが。あと、寒い時期は少し難しいかもしれない。暖かい季節のほうが発酵が進みやすそうだ。

「シーナ、もう一つ砂糖壺寄越しなさい」

「別にいいですけど」

 世話になってるのでそれは全然問題ないが、あまりこんなことを言わないガラに首を傾げる。

「あなたも冬支度しないといけないでしょ。果物買ってきて、ジャムにするといいわ。あとはオイル漬けとか……二人分になるから、かなりたくさん作らないとだめね」

 いつでも新鮮なものが手に入った日本とは違うのだと思い知らされる。 

「ここら辺暖かいから、そんなこと全然考えてなかったです」

「そりゃ北の方に比べればね。雪は山の向こうでは降るけど、街にはほとんど降らないし。でも、野菜は収穫できなくなるから食料をしっかり準備しておかないと。肉は魔物がいるからちょこちょこ供給はされるけど、みんな寒いから最低限しか狩りに行きたがらないし。あなたは冬の間着るものも新調しないと」

 組み紐(トゥトゥガ)を作る冒険者もぐっと減るから、店を開くのも半分くらいにするそうだ。扉に張り紙をして、この日は開いていますよと事前に伝えておく。それが十一月、十二月、十三月の過ごし方だという。

「え、なんか、大変……」

「大変って、あなたの故郷は冬支度はないの?」

「故郷は科学技術が発達してるので年中野菜も栽培できるし、多少季節外れのものは高くなるのはなるけど、夏も冬も仕事はあるしみんな普通に生活してましたから」

「ずいぶん、恵まれてる土地なのね」

「というか、暮らしやすいよう創意工夫が凄まじいというか」

 ちょっと説明が難しいな。何がどうしてここまで違うのか? やっぱり電気か?

「魔法がない代わりに、万人が使える魔法のような道具を開発して、農業も畜産業も年中変わりなくおこなえるようにした、って感じですかね。師匠(せんせい)やフェナ様たちの言ってた危機感のなさはもしかしたらそーゆうところからかもしれませんね」

 死にゃあしないよ、みたいな。

「まあ、それじゃあこの街の冬支度をこの一ヶ月で頑張りましょう」

 ということになりました。

 九月の終わりに狩猟祭があったので、十月丸々使っていくのだ。

 なんだかんだで金はあるガラ。もうすぐ収支報告があるよと言われているが、ガラの店で売れた索敵の耳飾りの数だけでも砂糖を好きなだけ買えるシーナ。二人が本気を出せば冬支度なんて余裕……ではなかった。

 十月は店もやるのだ。それと並行して保存食を作り続ける。冬の間パンは、毎日割増料金で届けてもらえるらしい。ただし、あまりに山から吹き降ろす風が厳しいときは来ない日もある。そんなときのために少しだけ多めにパンをとっておく。まあ、あのゴリゴリと硬い水分の少ないパンならカビにくい。

 卵や牛乳はたまに量り売りがやってきたりもする。魚を漁りにいくのも、寒くてなかなか厳しいので、冬の特産目当て以外は船が出ないそうだ。

 野菜を買って塩漬けしたり、オイル漬けをする。途中提案して、魚を蒸して身をほぐしてそれをオイル漬けにした。ツナ缶みたいなものである。成功するかはわからないが、試してみようとなった。

 漬け込むのは全部瓶で、ゴムのパッキンはないけれど、金属の留め金がつけられているものばかりだ。煮沸消毒するか、洗浄の組み紐(トゥトゥガ)を使うか。迷わず組み紐(トゥトゥガ)を使った。

 同時に、門の外にたくさんの家が立ち並び始めた。簡単な枠組みと、薄い板の住むには少し厳しそうな家だ。

 何かと聞けば、北の方から流れてくる冒険者たち用の簡易宿らしい。ある程度稼いでいる街を流れるタイプの冒険者は、狩猟祭前に街の宿と長期滞在の契約をする。そしてその街の狩猟祭に参加するのだ。それができない、金のない冒険者たちは、格安の門の外の簡易宿に滞在して冬を過ごす。壁さえあれば冬の寒さで凍死することはない。シシリアド以南の街に北から冒険者たちは降りてくる。

 冬の肉の供給はほとんど彼らの仕事になる。街の宿に泊まれるような者たちは、朝の簡単な食事はついているのでなんとかなる。

 壁の向こうの宿も、壁際のものからどんどん埋まっていく。足りなくなればさらに建てるのだから、壁際のほうが風を防げるのだ。

 ちなみにこのとき使われた木材は、解体されたあと保管され、また次の冬に使われる。使えなくなった木材から薪になるらしい。冬の間使う薪も溜め込まなくてはいけない。ただ、ガラは火の精霊石もかなり買っていたので、部屋が薪に埋め尽くされるようなことはなかった。

 そんな準備の合間に、フェナの屋敷で先日のイノシシ系ブタ肉を調理する日がやってきた。

 

ブックマークありがとうございます。


電気はでかいと思うのです。

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― 新着の感想 ―
電気というか、電気をどう使うのか、という知識と技術だと思います。電気を発生させる仕組み自体はかなり前からあったのに、それでものを動かすというところに行くまでに蒸気機関が挟まれてるから意外と時間かかって…
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