36.祝賀会
領主様のお屋敷はたしかに広いが、王都から離れているということもあり、大人数を招いたパーティーなどが開けるような広いホールはなかったようで、室内に食事を並べ、そのまま続いた庭で立食スタイルで飲み食いするようになっていた。庭にもいくつも小さなテーブルが設置され、そのテーブルを囲んで話し込んでいる。
フェナの後ろをついて歩いていくとそれはもう目立つ目立つ。ホールの方へ案内されたのだが、部屋の扉をくぐった途端、視線という視線がザッと音を立てて押し寄せてきた。
「ヤハト、シーナと一緒に好きなものを食べてこい」
「やったー、行こうぜシーナ。フェナ様のとこにはギルドのお偉いさんとか、他の冒険者が押し寄せてくるから面倒くさい」
「がってんしょうち!」
「なにそれ」
そそくさとその場を離れて料理のテーブルを目指す。
フェナが、ぶーぶー言ってたが、バルが窘めていた。そしてすぐにフェナにわらわらと人が集まる。
「領主様のお屋敷の料理はさ、やっぱ美味しいんだ。ここについてくるのはこれのため。あー、でもこの間のシーナの料理の方が旨いかもしんないけど」
「流石にそれはないでしょう」
そんなバカなぁ〜と笑いながら、皿を持って料理のテーブルの前を陣取る。飾り付けかどれも素敵で、さすがに食用ではないだろうが、花が一緒に飾られたりして華やかだ。久しぶりにパーティー料理を見た。友人の結婚式以来だ。
「こんなに立派なお料理準備して、領主様も大変だね」
「あっちではこーゆうパーティーってないのか?」
「あるとこではあるだろうけど、仕事でパーティーするような業種でも役職でもなかったしなぁ」
しがない事務員である。
「へー、まあ俺もフェナ様がいなかったらこんなのには無縁だったしなぁ」
シーナが物思いにふけっている隣で、ヤハトが、片っ端から味見をしはじめていた。
これは負けていられないと、シーナも肉料理に手を伸ばす。
「お肉美味しいけど、塩味だなぁ」
結局そこであった。
美味しいし、多少の香辛料は使ってある。最初のガラのところよりはずっと美味しい。肉の焼き加減も絶妙だ。プロの作る料理なんだから、とっても美味しい。問題は、どれもこれも味付けが同じなのだ。
なんか惜しいなぁと色々味見をしていると、側に人がやってきた。
いつの間にかヤハトが、すぐ隣に戻ってきている。
「シーナさん、ですか?」
四人の男女は明らかに冒険者だった。
領主の館に入る前の門で、刃物は預けることになっていた。ヤハトは事前にバルへ得物を預けてフェナの屋敷に置いてきてもらっていた。ヤハトは精霊使いでもあるので街中でのことならそれで十分間に合うからとのことだった。彼らもベルトの部分に武器があったのだろう空間が空いている。
「そうですけど……」
シーナが答えると、彼らはぐっと表情を険しくさせた。
「大変申し訳ない」
四人は揃って深々と頭を下げた。
ヤハトがそっと耳打ちをする。
「こいつら、【青の疾風】のメンバー」
「あー、ギーレさんのとこの!」
お姉さまたち侍らしていた青髪空気読めない男。
「昼間、ギーレがシーナさんに対して大変失礼なことを言ったと聞いています。本当に申し訳なかった」
一番年を取ってそうな男が言うと、隣の短髪の濃い緑色をした女性が続けた。
「シーナさんだけじゃないわ。お店にも迷惑がかかるようなことを言い放ったって」
「あー、いやあ。私もみんなの前で思いっきり言い過ぎたかと……」
「言いすぎじゃないわよ! そのくらい言われて当然なんだから。むしろそれくらい言わないとあのバカには通じないのよ。自分の言動がどんな事態を引き起こすか、何も考えないで言ってるのよ」
お怒りのパーティーメンバーであった。
「帰ってきて、こんな事言われて怒られちゃった、ハハハとか言ってるから思いっきりぶん殴ってやったわ」
「ナナに殴られたの? いったそー」
ヤハトが吹き出して笑いながら言うと、初めの男が頷いた。
「ハーナーシェが治癒術かけるのを拒否したから今、家で留守番だ」
ヤハトの爆笑が加速した。
たぶん、金髪の長い髪の背の低い女性がそのハーナーシェなのだろう。何度もこくこくと頷いている。
「どーせ俺等がこっちに来てる間に誰か女呼んで世話させてるだろ」
四番目の男の言葉に他の三人がビキっと固まる。
あ、せんせー、こいつやらかしました!!
「どーゆーこと、それ。うちらの家に他人を入れるのは禁止だよね?」
「キールはそれ知ってるってこと? 知ってて私たちに黙ってたってこと?」
女性陣の詰め方怖っ。
「女のとこに行ってるのは知ってたが、連れ込んでたのは知らないぞ、どうなんだキール」
「いや、えっと、や、ほらまだ若いシーナさんの前でそーゆはなしはちょっと……」
「あ、こう見えてバリバリ成人してまーす。二十四歳ですー」
シーナも空気を読まずに言ってみる。どうぞどうぞ続けて。
しかしそれに反応したのはヤハトだった。
「えっ、二十六じゃなかったっけ?」
「いや、それがさ、ここ、ひと月、三十日でしょ? 故郷とだいたい同じなのよ。でも一年十二ヶ月。ここは十三月じゃない? てなって計算し直すと、私ここの年数で換算すると二十四だったわ! 少し若返った!」
シーナとヤハトのやりとりに、毒気を抜かれた四人は顔を見合わせてため息を付く。
「あのバカ関連でなにか困ったことがあったら言ってね。ヤハトはうちらの家知ってるし、そこら辺の子どもに言付けてもらっても、みんな家知ってるから」
「ありがとうございます。お姉さんたちになんかされたら駆け込みます」
彼女たち怖いわよね〜と笑っていた。
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二才若返ったシーナでした。
ここの世界は結婚しない人も山盛りいるので結婚適齢期とかはないです。フェナ様に結婚話持ちかける勇気のある貴族はおりません。




