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35.招待状

 子どもたちを送り届け、店に戻った頃には、もう昼をだいぶ過ぎていた。途中ガラに肉を持って帰るため、皿代わりのパンをもう一枚つけてもらいサンドイッチにしたものを手に持っている。器とかがないから、手に持つしかない。

 持ち帰りをするために、自宅から食器を持ってくる人もいるらしい。今度は是非そうしよう。

 子どもたちには神殿で別れを告げたのだが、三人はなぜかついてくる。

「今日はもうなにもないですよ!?」

「いや、シーナ危なっかしい」

「送り届けるまでが仕事だな」

「あんたよそ見しながら歩きすぎ。シシリアドはそう治安は悪くないけど、それでもボケっと歩けるほどではない。あの子どもたちの方がよっぽど周りに気を配りながら歩いてた」

 そんなつもりはないのだが、まだまだ平和ボケしているらしい。日本、夜中でも歩ける街だったしなぁ……。

 子どもと別れたあとのシーナのほうが危険だそうだ。まあ今日はまだ多少お金を持ち歩いているから、お言葉に甘える。

 そして、絶望する。


「よかった、あんまり遅いなら探しに行かないと行けないかと思ってたのよ。領主様から急ですがって招待状いただいたわよ。どうする? お断りもできるわよ?」


 フェナの前でそれを言ったらお断りできるはずがないのですよ、師匠(せんせい)


 領主様のお誘い理由は、索敵の耳飾りだった。まあ予想通りである。貢献度の高い冒険者たちを呼んでの立食パーティーだそうで、それならシーナも気を使わずに来られるだろうというお気遣いらしい。

「迷惑だぁ〜」

「こら、滅多なこと言うんじゃないの!」

 本当に急なことだし、冒険者たちはもちろん普段の格好で行くので、シーナも普段着でも咎められないが、そういうわけにも、ということで衣装をどうするかが問題となった。

 フェナが屋敷にたくさんあるから来いと言うが、フェナの衣装は他の誰も似合わない危険な衣装である。結局ガラの若い頃の衣装を引っ張り出して着ているところだ。

 ガラは三十くらいなんだろうがまだ全然若々しい。そのガラが若い頃というからちょっとどんな派手なのかと思ったら、なんと、アオザイによく似たワンピースだった。ターコイズブルーのそれに花の刺繍が施されている。

「わー、素敵!」

「でしょう。あなた、胸がないからちょっと詰め物するわよ!」

「いらないですよ!! 不自然になりますって。ないもんはないんです!」

 そんなことをしながら化粧までしてもらって、なんとか約束の時間には間に合いそうだ。

 フェナは一度屋敷に帰ると、バルといっしょに帰った。今はヤハトが一階の店のスペースで待機してる。

「なにか耳飾りしていったら?」

「あ、新作があります!」

「あんたねぇぇぇ」

 梅結びを少しアレンジした。青と白と金で作ってるから今の衣装にも合う。ちなみに下の方は糸を解いてフサフサしてる。これは、我ながら怒られるの覚悟だ。

「……完全に可愛いだけで作ってるでしょ」

「だって可愛いでしょう?」

 ここの国なのか、世界的になのか、みんな言うほど着飾らないんだよなぁ。娯楽に割く金はないってことなのか?

「洗浄の組紐でなんかできないかなとは思うんですけど、なかなか思うようにいきませんね」

 洗浄には紋様がなく、糸の魔力と編み方でやるものなのだ。だから耳飾りにするにはなかなか難しい。独特の編み方があるのだ。指定の糸で文様を編めばいい魔除けなどとは違う。

「まあ、気をつけていってらっしゃい。ガングルムも行くだろうからそこに頼もうと思ってたけど、たぶんフェナ様が一緒に居てくれそうよね。帰りはバルかヤハトに送ってもらいなさい。一人で帰らないように!」

 ここにもお母さんがいた。

 招待状を手で持っていくのもあれだが、この服装に合うカバンがないのが痛い。

「ヤハト! 招待状カバンに入れてくれない? 持っていけるようなカバンがないの」

 そう言いなから一階に降りる。

「あー、いいよ」

 返事とともに差し出した手に招待状を乗せるが、ビックリしたまま固まっている。

「どうしたの?」

「……誰かと思った」

「ヤハト、それは零点」

 後ろから来たガラが厳しく言い放つ。

「女の子が着飾ってたら褒めないと」

「あー、そうゆーことかぁ。顔薄めだから化粧映えするんだよ」

「シーナ、自分で言わないの」

 チキュウ種ではなく、ええ、日本人ですんで。

「さあ、ヤハト。シーナをよろしくね。あんまり面倒なのに関わらないことを祈っているわ」

 すでに領主が面倒です。

「じゃあ行ってきます!」

 ガラに見送られ、二人は揃って歩き出した。

「フェナ様がパーティーとか出るとは思わなかった。面倒とかいいそう」

「言ってるよ。でもほら、一応貴族だし、貴族からのお招きを無下に断るのはできないから。あとはまあ、ここで顔出しておけば、一年何も言われないから」

 やっぱり面倒ではあったのか。

 領主様のお屋敷は、ずっと東の貴族街。疲労軽減の組み紐(トゥトゥガ)をしているのでわりとすいすいと歩けたが、帰りはダルいなぁと思う。

 立食パーティーと言っていたが、座るところがあるなら隅の方で座っていよう。

 いつもなら人はあまり見えない貴族街入口がガヤガヤと賑わっている。そこで衛兵に招待状を見せて、門の中に入ることができた。領主様のお屋敷はさらに奥だ。

 お屋敷にたどり着くのもまた一苦労だった。庭が広い。こんな敷地を取っていたのかと驚く。人の流れがあるとはいえ、領主様のお屋敷ですという門をまたくぐってから玄関まで五分以上歩いた。

 シシリアドは高低差が激しいからこんな平らな広場を庭に使うなんてもったないなぁと思いながら先を行く。

 玄関では、さっき以上にキラキラしたフェナが、先ほどと変わらずの、バルとともに待っていた。

 やっぱり衣装を借りなくて良かった。


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