34.海の幸
1月1日より公開を始めました。
始めた当初は二十話くらいしか書いていなかったのですが、無事一ヶ月公開し続けることができました。
読んでくださってありがとうございます。
10ストック制で公開していく予定です。
このまま連続して公開していけるよう頑張りたいと思います。
ブックマーク、評価ありがとうございます。
気を取り直して海辺の方の露店に足を伸ばすことにした。四人で行くからサヨウナラと別れようとしたが、フェナが当然のようについてこようとする。
「私が邪魔だっていうの!?」
「目立ちすぎて正直邪魔ですね。子どもたちも楽しみきれないですよ」
「貴族様を邪険にするっていうの!?」
これ、しばらくずっとやられるな。
結局着いていくと決めたフェナを追い返すことはできずに七人一緒に階段を降りていた。午後近くになり、人もかなり増えてきたので子どもたちを見る目が増えたのはいいことだと思いたい。
狩猟祭のメインはやはり魔物の肉だが、海側の出店は海の幸が多い。魚の串焼きが半分くらいだ。
海にも魔物はでるらしいが、内海なのでそこまで強いものはおらず、冒険者が出向くようなものは百年に一度レベルで、外海に繋がる運河を移動してくるので、もっと東の方の街で始末してしまうそうだ。
「どれか食べたい?」
「魚は骨苦手だからいらない!」
元気に答えるニールと頷く女子二人。
「えー! お魚美味しいのにもったいない」
とはいえ立ち食いで骨を上手く処理しながら食べるのを指導するのは面倒でもある。
ならば、貝類だ。
「あれは? あの赤い貝の身を焼いてるの」
「ケラの身だな。チカ漬けで味をつけてるみたいだし、旨いと思う」
バルのお墨付きを受けたので、買うことにした。
「フェナ様は? バルさんもヤハトも食べる?」
「自分で買う」
そう言って懐の財布を出そうとするヤハトを止める。
「いいよ、いつもお世話になってるし。ほんとに、新しい組み紐を生み出した恩恵の凄さを日々実感してるから」
まだ二ヶ月経ってないから収支報告はされてないが、今からドキドキしている。
「マジで、サンキュー!」
フェナは今はいらないと言うので、六つお願いした。バルは奢られることに抵抗があったようだが、一番奢りたいのはバルなので譲らない。
行列の邪魔にならないところで止まって食べる。貝をパンに乗せては無理だという判断か、串に2つ刺してあった。食感はホタテの貝柱だ。
美味しいねえと喜んでいる子どもたちに、変なことに巻き込んだが喜んでくれていて良かったと安堵する。
「バター醤油だともっと美味しいかなぁー」
「バタージョウユ?」
シーナのつぶやきを耳敏く聞きつけるヤハト。
「私が言う醤油は、チカ漬けのことね。同じ風味の調味料があるのよ」
血液は醤油でできてますけどね、日本人。
「多分普通の植物油で焼いてると思うんだけど、バターで焼いたほうが美味しいと思うの」
バターや生クリームはここにもあるのだ。乳製品、そういえば何から搾ってるんだろ。え、ちょっと怖くなってきた。大型の畜産はやっていないのだ、この世界。つまり乳牛はいない。
後々聞いてみれば答えは簡単だった。植物性。また謎植物がいた。便利な世界である。あと、多少は農村で魔物の牛みたいなやつを飼ってはいるらしい。数が多いと他の魔物が襲いに来るのでそんなには飼えないそうだ。
「じゃあ、今度うちでやってみてよ」
「別に私じゃなくてもソニアさんに頼めばいいじゃないですか。ただ焼くだけですよ」
「まあ、そうねえ。バル、今度市場でケラの身買っといて」
「わかりました」
「今買ってって夜ご飯にちょっと焼いて貰えばいいんじゃないですか?」
またここまで買いにこさせるなら、今買えばいいのに。
「今夜は領主様のお屋敷でパーティーよ。今回貢献した冒険者や、ギルドの長なんかを招待してね」
おお、存在することだけたまに聞く領主様。
「冒険者が招待されるわけだから、ドレスコードはないけど、シーナも行く?」
「いかないです」
即答ですよ、即答。ちょっとお金儲けて、美味しいもの食べて、平和に生きたい。
「招かれていない者は連れていけませんよ、フェナ様」
バルも予防線を張ってくれる。心の友じゃない、心のお母さんよ!
同じ貴族でも、流石にわがままを言うわけにはいかないのだろう。渋々黙った。
「さ、そろそろこの子達も神殿に返さないとなので、お土産に甘いものを買って帰りたいと思います。どこかいい店知ってますか? 持って帰りやすいやつで」
わぁ、と子どもたちの顔が笑顔になる。甘いものはやはりあまり食べられないようだ。
「あっちの道を上がったとこにいくつかあるよ」
ヤハトが先をゆくので後を追う。
結論から言うと、この街の食に期待したのが間違いだった!!
焼く! 塩! の街にまともな甘味なぞない!! というか、普通の食べ物よりはどうしたって贅沢品であるので、砂糖が使われるのは、贅沢品か、保存食。つまりそう、保存食なのだ。
ドライフルーツの砂糖まぶしだらけ。
たしかにこちらに来てから甘味は食べてない。ガラの店にも砂糖は多少買ってあるが、料理に使うだけだ。テリヤキチキンをするとき、お砂糖は大切にって言われた。美味しいけど、大切にって。
ただ、子どもたちは、それでもテンションをあげ、店頭に並ぶ砂糖まぶしされてるドライフルーツが山ほど入った瓶を、キラキラした目で見つめていた。
その期待、応えましょう!
ヤハトに聞いて、どのフルーツがおすすめか聞く。
「えー、俺はどれも美味しいと思うけど、子どもが食べるなら苦みがない方がいいよなぁ」
「あんまりお砂糖使ったもの食べたことないと思うから、この際とことん甘い物でもいいと思う」
年に一度のご褒美くらい、いいよね?
「みんなも、どれが食べてみたいとかあったら、言ってね」
「どれがなにかなのか、全然わからない」
でへへと笑うニール。
まあ、そうか。
「とりあえず色で選んでもいいよ〜。それがおすすめかは、こちらのお兄ちゃんに聞けばいいから」
言われて三人がそれぞれ候補を指さした。
ニールのはオレンジ色、ミリアは紫で、シアはピンク色だった。
「どれも甘くて美味しいと思う」
えー、じゃあどれにしようと三人は真剣に相談しだす。
「すみません、これ、この小さな瓶の方を丸ごと買うといくらになりますか?」
「え、丸ごとかい!?」
大きな、梅酒を漬けるような瓶がズラリと店の後ろに並んでいて、店頭には小さい高さ十センチくらいの丸い瓶が、小分けされて並んでるのだ。それでもお高い砂糖漬けである。普通は数で買うそうだ。
「そうだなぁ、一瓶、銀貨五枚てところかなぁ」
実は、ガラから今日は銀貨十枚を先にもらっていた。フェナからもらってる援助費の一部だそう。おろしたお金はまだ銀貨五枚以上残っている。つまり、買えるのだ。
「じゃあこの三つの瓶を瓶ごとください。瓶代も取っていただいて」
「お嬢さんお金持ちだねぇ、瓶代くらいはおまけするよ」
チラリとシーナの後ろに立つフェナへ視線をやる。
「えっ! こんなに?」
「すごく高いよ!」
子どもたちが狼狽えているが、大丈夫だよと笑う。
「その代わり、みんなで仲良くわけてね。割り切れないときは、包丁で切ってもらったりして上手に分けて」
「割るといけないから、俺が持とう」
一つはシーナの肩がけ鞄に。残りは、瓶同士があたって割れないよう上手く包んだ風呂敷バッグを、ひょいとバルが横から持っていった。
「じゃあ帰ろうか」
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