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33.金と銀

 ここは心のお母さん、バルに助けを! と思ったが、視線を合わせてもらえなかった。ヤハトなぞ、完全にその場から逃げ出し出店に並んでいる。

「この子は私のおもちゃだからダメー」

 そこへまさかの救世主、後ろから両腕を回し、すっぽりとシーナを抱きかかえる。

「フェナ様……」

 おもちゃ、おもちゃか。まあでも今は甘んじてそれを受け入れる方がましそうだ。

「フェナ様のおもちゃかぁ。それは、ご愁傷さまだな」

 周りのお姉さん、お嬢さんたちの視線が同情的になった気がする。助かった。道を歩いてたらどこからか水をぶっかけられたり、石を投げられるような暮らしをせずに済みそうだ。

「じゃあ今度お店に寄ろうかな。何か編んでもらうのもいいね」

 ウィンク付き。

 青髪いい加減にしろよ貴様。

「ギーレさんほどになれば専属の組み紐(トゥトゥガ)師もいるでしょう。そちらの店と余計な軋轢を生む行為になりますのでご遠慮願います」

 ビックリするほどの冷たい口調に、ギーレも周りも驚きに目を丸くする。

「索敵の耳飾りとかなら別に……」

「なおさらです。あれはかなりの売上になりますし、作り方は公開しているのですからどこのお店で買っても同じです。ギーレさんがうちで索敵の耳飾りを買った売上以上に、店同士の火種を生むようなことは損失でしかありません。有名な冒険者ならばそのくらいのことは考えていただきたい」

「あんた、ぽやぽやしてると思ってたけど、案外言うねぇ」

「こちらの常識はまだまだ勉強中ですけど、人と人との関わり合いならどこだって同じですよ」

「ま、そういうことだから。ヤハト! 行くよ!」

 フェナがシーナと腕を組み引っ張ってその場を離れる。慌ててニールの手を取ると、ミリアとシアも追いかけてきた。



 やっちまったぁぁ。

 イライラして、思わずやっちまったぁぁぁ!!

 クククとフェナが笑う。

「今、失敗したって思ってるでしょ。丸わかり。顔ぉ」

「あの場で言い過ぎたぁぁ絶対周りのお姉さんたちの標的になったぁぁぁ」

 せっかくフェナのおもちゃで同情票を得ていたのに!

「そっち!?」

 とはヤハト。

「えっ、どっち?」

組み紐(トゥトゥガ)買ってくれる金づる逃した方かな、と」

「いや、それは本心あのまま。あの場のことがなくてふらっと落とし子(ドゥーモ)が面白いって聞いたから見に来た、とかなら受け入れるけど、あのレベルになれば確実に色の合う専属もいるだろうし、それが店を移ったなんて話になったら、相手の店からしたら憎い以外ないじゃない? 大迷惑だよ」

 当人に恨まれても何も怖くない。怖いのは数だ。

「大量のお姉様たちから『何この子、調子に乗ってない?』て思われる方が万倍ヤバイ」

 大きなため息をついたら、右手がギュッと握りしめられた。目をやるとキリッと口を結んで真面目な顔をしたニールがいる。

「シーナがイジメられたら俺がやっつけてやるからな!」

 何この、可愛い生き物は。

「ありがとー! 気持ちが嬉しい〜」

 ぎゅっと抱きしめて頭にチュッチュしたい気分である。

「海辺の出店も覗きに行こうか」

 シーナが言うと三人は元気よく頷いた。

「このチビたちは何なの?」

「あー、神殿教室でとても世話になってる孤児院の子たちです」

 フェナに答えながら、バルから突き刺さる視線をスルーする。肩入れし過ぎてるわけではございません。一人で祭りを歩くのが寂しかったからですよ、はい。

「ふーん」

 ジロジロと上から下まで値踏みされて下を向く子どもたち。

「フェナ様、子どもたちが萎縮します。やめてください」

「ちょっと魔力見てるだけじゃない」

「魔力て見てわかるんですか?」

「そりゃ、銀の目だからねぇ……て、それも知らないの?」

 もちろん知らない!

「銀は精霊が宿るの。精霊に愛されてる。あとは金もだね。そこら辺に転がってる金髪とは違う、黄金の髪を持つ人もいるよ」

 初めて聞いた。そういえば前に森の中に入ったとき、精霊に好かれてるって話をした気がする。

「だから、フェナ様って様付けで呼ばれるんですね?」

 シーナの言葉に、フェナ、バル、ヤハトは頭の上にはてなマークを掲げていた。

「いや、だって。同じ冒険者で実力のあるギーレさんですら、組み紐(トゥトゥガ)ギルド長が呼び捨てにしてたのに、フェナ様だけはみんな様付けだから」

「え、マジで言ってんの? 嘘だろ」

「当たり前過ぎて誰も教えてこなかったんだろう」

 バルが可哀想なものを見る目をしてる。

「え、なに? なになに?」

 フェナ本人は腹を抱えて笑ってる。と、シアがシーナの袖を引いた。

「フェナ様は貴族様よ」

「えっ!? えええっ!!」

 ひぃひぃと笑いながら目尻の涙を脱ぐってシーナの頭をポンポンと叩いた。

「まあ、貴族としての役目は果たしてないから、貴族とはもう言い難いけどね」

「精霊を宿す色は貴族の血を引くものにしかでないんだよ。マジで知らなかったのか」

 知らないよ!! ヤハトも教えてよ!

「精霊使いとしての才能がありすぎたから、もう貴族の籍は捨てたけどね」

「捨てようと思って捨てられるものじゃありませんよ」

「お役目来たらぶん殴って追い返してるだけー」

 これだから落とし子(ドゥーモ)はとか言われるやつだぁ。

「神殿教室でもっと勉強しようね」

 ミリアが優しい。

 子どもたちが癒やしだよ。

 



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