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32.【青の疾風】のギーレ

 ウマウマと食べていると、黄色い嬌声が聞こえてくる。アイドルと言えば、そう、フェナだ! と思って振り向いたが違った。

 濃い青い髪の長身の男が、周囲の女性たちに甘い笑みを浮かべ何か囁いている。そのたびにきゃーっと歓声が上がる。

「ん? ああ、ギーレだな。アレも精霊使いだ。仕事がないときはあの調子だが、強いぞ。あそこは五人パーティーだな。【青の疾風】って名前のパーティーだ」

 【青の疾風】……厨二病かな? ちょっと恥ずかしくない? いや、これは自動翻訳がシーナの言語に寄せているだけである。きっとそうだ。

「パーティー名てあるんですね」

「いや、パーティー登録なんてものはないんだが。依頼を受けるときはそれぞれ名前を書くしなぁ。どちらかというと周りが名前をつけたがるんだ。フェナ様たちにもあるぞ?」

「【消滅のフェナ】ですか?」

 出会った頃に聞いた覚えがある。

「いや、それはフェナ様個人が言われてるやつだな。まあでも変わらんな。【消滅の銀】だよ」

 ううん、【青の疾風】よりはましかな? というか、完全にフェナ由来ではないか。

「山の主が消滅しなくてよかったですね」

「あれなぁ! すごい塊だったな。俺も解体見に行った。旨そうな肉が切り分けられてた。あれ一匹からかなりの量のベーコンが作れるから、ギルドも大喜びだったな。冬支度に助かるって」

「ベーコン……」

 そばで大人しく話を聞いていたニールたちだが、お肉の話になり思わずつぶやいてしまったようだ。

「ああいったものってどこで加工して売り出されるんですか?」

「ん? とってきたものは即解体、素材は割とゆっくり売りに出されるが、肉は捌いた端から売りに出される。大きな塊はだいたい商業ギルドが買い取り、加工へ卸しているな。この時期はあまり仲介料をとらずに、なるべく末端まで行き届くようにすることになってる。冬支度だからな。強突く張りの商業ギルドも鳴りを潜めるのさ」

 この人ホントに商業ギルド嫌いだなぁ。

「ベーコン買いたいなら、祭りが終わったあと店頭に並び始める。でも、お前にはフェナ様が、肉を取ってあるんだろ?」

 ああ、そんな話だった。解体は怖いのですぐ逃げ出したから詳しくは聞いてないが。

「愛されてるねぇ」

「私の作るご飯が物珍しいらしいですよ」

「フェナ様に飯を作るのか?」

「この街なのか、世界なのかはわかりませんけど、食に関しては不満だらけなので色々と工夫をしてますね」

 へ〜とガングルムが面白そうに頷いていると、再び歓声が上がる。ギーレは前方にいるので、真反対からのそれは、フェナだった。

 バルとヤハトを従えて優雅に坂を登ってきていた。

 子どもたちといるし、とっととお土産も見ないといけない。早々にこの場を離れようという判断を下す。

「甘いお菓子はどこらへんに売ってますか?」

「んー、港側に降りていったところにいくつかあったな。ここら辺は肉のみだ」

「じゃあ失礼しますね。さ、みんな行こうか」

 そういって手を繋いでしれっとその場を去ろうとすると、捕まった。

「シーナ、どこに行くんだ?」

 フェナの声はそこまで大きくないはずなのにやたらと通る。モーゼのように人が左右に割れて、こちらへやってきた。今日は冒険者としての服装でなく、なんか高そうな白い毛皮を首に巻いているし、服のあちこちがキラキラしてる。他の人間がこれを着たら気でも狂ったのかと思われるだろうに、フェナが着るとやたらと格好良い。

「こんにちは、フェナ様。出店巡りですか? 私は出店巡り中です」

 だからもう行きたいんだけどなぁという雰囲気を出すが、まあ、そんなことは知ったこっちゃないないのがフェナだ。

 子どもたちを待たせて申し訳ないなぁと、チラリと視線をやると、三人とも目をキラキラとさせてフェナを見ていた。

 うん、アイドル。

「なんか目新しいものはないかなぁと見て回ってたけど、どれもこれも変わらないね」

 その割にはヤハトの口元が汚れてる。彼は満喫しているようだ。

「シーナの料理のほうが旨い」

 そこら中の出店から睨まれるので、その通る声で言うのはやめていただきたい。

「そこのパパルの塩焼きはなかなかだよ。俺が捕ってきたやつなんだけど」

 油断していた。いつの間にかギーレが近くまで来ていた。なんでこの人たち寄ってくるんだろう?

 バルとヤハトがすっとフェナの後ろに下がった。

「ああ、パパルね。あれも確かに肉は旨いねぇ」

 フェナの興味が無さそうな声に、ギーレがイラッとしているのがわかってしまう自分が辛い。子どもたちは更に追加された有名冒険者に釘付けだ。ササッと離れたいが無理そうだ。ガングルムを見ると、ニヤニヤしてた。

「シーナ、パパル食べた?」

 フェナが尋ねる。

「え、ああ、はい」

 パパルは牛肉に近かった。

「美味しかった?」

「そうですね、美味しかったですよ。ね?」

 青髪とその取り巻きの圧に耐えかねて子どもたちを巻き込んでしまう。ミリアとシアはコクコクと頷き、ニールは旨かった! と元気よく答える。

「肉がじゅわってして。塩味だけど、なんか、他にも味がした!」

 ギーレが満足そうだ。

「じゃあ今度獲ってくるから、美味しく料理して?」

 自分も簡単にとれますよマウントぉぉぉ!! やめてください!! 周りのお姉さん達が怖いんだって。

 だめだこれは、急いで退避せねば。

「ああ、君が噂の落とし子(ドゥーモ)か。索敵の耳飾りは本当にすごいね。うちの仲間も使わせてもらっているよ」

 青髪黙れぇ……。

「で、なに? 君の作る料理が美味しいの?」

 辛いこれは辛い。

「フェナ様のお口に合ったらしいですね」

 我ながら感情のこもらない棒読みの返答。一刻も早く逃げ出したい。

「へぇ、ぜひ俺も食べてみたいな」

 無理無理無理無理無理無理!!!

 

 

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