31.狩猟祭
あまり雨は降らない地域だが、今日は本当に青さが突き抜けてくるほどの快晴だった。一昨日狩りの終了が宣言されて、一日置いて今日明日とお祭りだ。
祭はシシリアドのメインストリートである、西門から入ってすぐの幅広い道。そこをずっと行った先にある大広場。直ぐ側には各種ギルドが立ち並ぶ。さらに港までの大通りだ。もちろん途中途中にアップダウンのおまけ付き。
その道の両側に出店がズラッと並ぶ。ギルドから卸された肉が調理されて露店に格安で並ぶのだ。広場には肉、他の道沿いには小物や肉以外の飲み物や甘味もあった。砂糖は、魔物みたいなやつが咲かせる花の蜜袋から取れるそうでまあまあある。上白糖みたいな真っ白のものはないが、多少色がついていていいなら、砂糖は高価ではあるが、手が届かないものではなかった。
フェナの屋敷でチキン南蛮を作ろうと思って、甘酢だれ用に欲しいといえばすぐ出てきたくらいの物だ。
でも、この街のご飯って、パンと、ソーセージと、塩味のスープ。あと野菜をバリバリそのままって感じで、肉は醤油味か塩味。こう、食に対する関心が薄いの? と思ってしまうのだ。
パンも色々作ればいいのに、基本の硬いパンでしかない。パン屋にもいつか殴り込みに行きたい……。
食事とは栄養補給である! みたいな気質なのだ。このシシリアドの街は。海の幸豊富なくせに、その地の利を活かしきれていない!!
と、憤るのはシーナが日本人だからだろうか?
ご飯は美味しく食べたい。
甘味もあんまりない。今回出店には出るそうだ。今から楽しみにしている。
ガラの店はこの二日間完全にお休みである。
組み紐の店はだいたい休みだそうだ。出店を出すのは、飲食店や、宿屋の名物料理だったりするそうで、宿屋には縁のないシーナはそれも楽しみにしていた。
家族持ちの兄姉弟子はもちろんそちらと一緒に回るらしい。他の弟子もだいたい回る相手がいる。ガラは今日は寝るそうだ。この狩猟シーズンで三ヶ月分くらいの組み紐を編んでぐったりだそうで、今日は思い切り寝る宣言をいただいた。お土産を買って帰ろうと思う。
で、悩んだ末に孤児院の子どもを誘うことにしたのだ。バルに、あまり思い入れるなと忠告はされているのだが、いつも教えてもらっているお礼という建前を掲げて、ローディアスに相談した。
あまり小さな子の面倒は見きれない。今年七歳の、来年から仕事をしだす子どものみ、という条件付きで。神殿教室に来ている三人だけだ。ミリアとニールとシア。
待ち合わせの時間に神殿へ向かうと、ローディアスが待っていて奥へ連れて行かれる。割と人も多く、列を作っていた。シーナも並ぶのかと思っていたら、さらにその奥に通される。小さな個室だ。
「普段はあちらに並んでくださいね、今日は特別です」
そう言って、紙とペンをシーナへ渡した。
「引き出す金額を書いてください。全部銅貨でいいですよね?」
出店で四人分ならそれでいいと思うが、お土産を買うときにはどさっと買うつもりだ。
「銀貨五枚と銅貨五十枚でお願いしたいです」
「そんなに、使いますか?」
「孤児院の子たちは全部で四十人と聞いているので。折角なら普段食べられない甘いものをお土産にしようかなと」
肉よりは高いと思われる。
「……ありがとうございます。子どもたちも喜ぶでしょう、とても」
ローディアスの声色は優しい。
「ではこちらの魔道具に手を」
丸い玉に左手を乗せると青く光った。これで本人確認がなされるらしい。異世界不思議仕様。
その後奥へ引っ込んだローディアスが盆にお金を乗せて現れる。
丈夫な皮でできた肩掛けカバンに、布の巾着財布をいれて、そのまま入口へ行くと、平民と同じような服を着た子どもたちがいた。
「シーナ!」
「お待たせ〜じゃあ行こう。迷子になると困るから、手を繋いで行こうね」
ウキウキを隠せない三人、いや四人は、ローディアスに手を振りメインストリートへと向かった。
シシリアド中の人々が出店に向かうのだ。どの出店も長い列ができている。
「お土産を物色しつつ、食べたいものがあったら言ってね」
「肉! 絶対肉!」
ニールがわかりやすく主張する。
大広場までやってきたが、そこら中から肉の焼ける良い匂いがしていた。
「どこが美味しいのかなぁ」
呼び込みをしてはいるが、いかんせん魔物の名前がわからない。バアヌヤーマの肉だよ〜と言われてもピンとこないのだ。
と、一番おとなしい物静かなシアがシーナの袖を引いた。
「あそこの出店のパパルっていう魔物が美味しいって、神官様が話してた」
「お、じゃあそこに並んでみようか」
大人である自分が事前調査をしておくべきだったと思いつつ、シアの情報に乗っかることにする。
鉄板で焼いた肉をスライスしたパンに乗せて渡してくれる。パンはごくごく薄い。皿などを用意すると洗わなくてはいけないから、肉屋はこの形式が多いようだ。四つで銅貨三枚と鉄貨二枚。肉は割と厚めである。
受け取ると少し離れたところでみんなで立ち食いだ。
「うんめぇーー」
「ほんとだ。肉自体が美味しいんだな、これ。臭みも少ない」
塩だけの素材の味を活かすというやつだ。
ミリアもシアも満足そうだ。
外でこうやって食べるというのも、美味しさをマシマシにさせている気がする。
「おう、シーナじゃないか」
組み紐ギルドの長、ガングルムだ。
「こんにちは。ガングルムさんもご飯ですか?」
「俺達は店を出す方さ。ほらそこの、チチェの肉とハパティの炒め物の店だよ」
ギルドは最低一つ店を出さなければならないらしい。
「せっかくだから味見しに行こうか」
三人を振り返ると、突然現れた強面のガングルムに怯えていたのか、表情が硬い。それでも頷いたのでミリアの手を引き列に並んだ。
先ほどとは違って、肉を厚めに一つ焼くのではなく、薄切り肉と葉野菜を炒めていた。それをまたごくごく薄く切ったパンに乗せて渡される。お代は四つで銅貨二枚と鉄貨四枚。もらったパンをそのまま半分におって食べると、これもなかなか、肉が美味い。
「どうだ、旨いだろ」
ガングルムの言葉に、口の中がいっぱいの子どもたちはコクコク頷いた。
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