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280.【書籍化記念番外編】ヤハトの街歩き

 石畳を降りて行く。その先々で声を掛けられるので軽く手を上げ挨拶していた。立ち止まるのは誘われたとき。


「ヤハト! うちに新人入ったぞ!」

「マジで? どれ?」


 店先にちょうど客を見送りに現れた男に言われ、駆け寄る。

 店の入り口、扉付近に置いてある色見本の中から、真新しいものを取り出した。


「……どうだ?」


 首にかけてある自分の色見本を引っ張り出して合わせてみるが、惜しい。


「やっぱり今の方が合致するなあ」

「そうか、残念だな。闇だけは?」

「闇だけの方がむしろ合わないかも」


 ううーと唸って男は肩を落とす。


「ヤハトと合えば箔がつくんだがなぁ。まあこればっかりは仕方ない」

「そうだなー」

 仕方ないのだ。ごめんと謝るのも違う。


 すると、中から古参の組み紐(トゥトゥガ)師が現れた。


「たまに色も変化するからまたチェックしに来てね」

 そう言って、モーガの茹でた物を渡された。色が変わるのはごくごくまれだが、本当にたまに現れる。


「サンキュ~」

「またね、ヤハト」


 モーガは酸味と甘みがちょうどいい果物だ。小さい粒がたくさんより集まっていて、種が大きく食べるところは少ないが、好物の一つだった。


 市場まで買い食いしに行くつもりだったのに、そこに辿り着く前に一つ二つと腹に溜まる物をもらって、いつの間にか両腕がいっぱいになってしまった。


「ヤハト~! すごいわねーそれ」

 海辺に近い組み紐(トゥトゥガ)師の店から顔を出したのは、俺の専属であるラリアだった。


「なんかいっぱいもらった」

「落としそうじゃない。布貸すから包んでいきなさいよ」

 暇な時間だったのか手招きされて店に入った。


 ラリアは今年で二十歳くらいの組み紐(トゥトゥガ)師だ。シシリアドに来てわりとすぐに出会うことができたのは幸運だった。色がかなり近くて使いやすい。おかげで俺の精霊使いとしての能力も上がった。


「はい、これ使って。ちゃんと返してね。いつも布は持ち歩きなさいよ」

「この間使ったヤツ戻すの忘れてたんだ。ありがとう」

 ラリアに会わなくても、そろそろ誰かに借りようと思っていたので助かった。


「ヤハト美味しそうに食べるし、みんなついついあげたくなるのはわかるんだけどね。組み紐(トゥトゥガ)はどう?」

「多分次の狩りしたくらいでほどけると思うから、そうしたらまた予備を作ってもらうと思う」


 店内はラリア一人だ。分店をして、まだ弟子を持つほどではない。分店時には俺も特大のリュウを踊らせた。あとでフェナ様にやり過ぎだと言われたが、やってるうちに楽しくなってしまったし、ラリアが嬉しそうだったから聞かなかったことにした。


「無事に帰ってきてね。ヤハトは私の一番のお客様だから」

「フェナ様がいるから大丈夫!」

「食べ物も、うちに来たらいくらでもあげるのに」

「買ったわけじゃないし?」


 口を尖らせるラリアに俺は肩をすくめた。


 気付いたらこの有様なのだ。別に市場に行く道だけじゃない、どこを歩いていてもこうなる。


 と、扉が開く。


「おや、珍しいもんがいるね」

「製糸ギルド長!」

「げ、ネーストリアのばばあ!!」

 現れたのは雫葬のとき、シーナを沈めかけた、この街一番の酒豪だった。


 ホントに口の悪い小僧だといって、ネーストリアは俺をひと睨みしたあと、ラリアに向き直る。ギルドを通して糸の入手依頼をしたらしく、それについてだった。

 なので俺はお先に失礼する。


 が、すぐ捕まった。


「ヤハト! ちょっとフェナ様に言っておいてくれよ。酒持ってくからこの間のギョウザ? が食べたいって」

「はあ!? やだよ! うちで飲み明かすの? なんで? フェナ様酒嫌いじゃないしコレクションいっぱいあるけどばばあみたいに深酒しねーし!」

「ヒヒッ! 酒飲んだら精霊集らせるひよっこにはわからんかもな。あのギョウザはいいよ。酒に合う。この間は少ししか食べられなかったろ? アレをつまみながら酒を飲みたいんだよ」

「しらねーよ! だいたいあれ作るのシーナだし」

「わかってるよ、だからシーナを引っ張り出しておくれって言ってるんだよ。頼んだからね」

「え、やだって、聞いてんの? なあ! ばばあああああ!!」

 道に、俺声が響くが、あっちはまったく気にしていなかった。

 ババアは耳が遠いのかっ!



 美味しい酒を対価に、餃子パーティーをしたいと言われた。

 挽肉が必要だし、包む手もあるしで、フェナの屋敷でやるのが一番だという話になった。いつものごとくバルがすまなそうにお願いするので、OKした。

 本当はビールが飲みたいが、ここのエールは気が抜けてイマイチなので、その美味しい酒に期待しよう。


 ガラも後から来ると言っていて、シーナはウキウキとフェナの屋敷へ向かった。

 向かえに来たヤハトが、いつもより静かなのが気になったが、悪いものでも食べたのだろうか?


「やあ、シーナ。今日はとことん飲もう」

 ネーストリアの姿に、シーナはヤハトを見る。彼は顔を背ける。知っていたなこれは。


 ……明日のお店はお休みさせてもらおう。

というわけで、『精霊樹の落とし子と組み紐』書籍化します!

TOブックスさんより、2025/12/15発売です。


詳しいことについては、TOブックスさんの予約ページやXでご確認ください。

活動報告にもお知らせしておくのでそちらを見ていただいても。


手にとっていただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
書籍化おめでとうございます!番外編も嬉しいです。
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