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28.狩りの準備

 あらかた材料を買い終えると、屋敷へ戻る。今日は海近くの市場へ向かったので、帰り道の過酷さがさらに上がる。基本ずっと上りだ。

 荷物の重いものはほとんどバルがもってくれているのだが、それでも手ぶらというわけにはいかず。これは、背中に背負うタイプの背負子のようなものをもってくるべきだったと後悔している。

 それでも市場は楽しかったのだ。いろんな香辛料や果実なんかもあった。何でも買っていいといわれたので、この際だから遠慮せずに試してみようとしたのも、荷物が重くなった原因である。

 延々と上り続けて、やっと街の一等地へとたどり着いた。ここには商業ギルドや、大きな店が立ち並ぶ。とても華やかな通りだ。

 フェナの屋敷まであと少しである。

「あれ、フェナ様?」

 いくつもある大店の中でも一番のところに、銀髪でおしゃれな服を着た人が入っていくのが見えた。間違いなくフェナである。

「ああ、精霊石を買いに来たんだろう。狩りの準備をするといってたからな」

「狩り、ですか?」

 見上げるバルの赤髪が、日の光でキラキラ輝いてる。バル自身もキラキラのよい笑顔だ。

「ああ。基本肉といえば鳥だろ? 他は魔物を倒して得られるものばかりだから。で、フェナ様がシーナに他の肉料理も作らせようと言い出してね」

 入ってこないなら自分で狩ればいいじゃないかということらしい。

「うわぁ、その肉を美味しく料理できるかわからないのに」

「まあ、狩りに行くのは悪くないことだからなぁ。魔物が増えれば、さらに大きな魔物を呼ぶ。シシリアドはわりと森が近いから、なるべく数を減らしておく方がいいのさ」

「でも、大きな魔物とかどうやってもってくるんですか? 三人で」

「そうだなぁ、小さければその場で(さば)いて皮や魔石などの素材と肉が欲しいときは肉を持ち帰る。大きくなると、絶対に必要な素材をとったら、隠蔽の魔法をフェナ様が敷いて、ヤハトが結界を張る。で、一度戻った街から人足を募る。結界も、なるべく森の外の方に移動して、だね。その方が後々楽だ。フェナ様は風の精霊を使って多少は重くても移動できるから」

「結界……」

「ヤハトもかなり優秀な精霊使いなんだよ。双剣も使うし、優秀な冒険者、だな」

 押し掛け弟子はかなり優秀に育っているのか。

「少し覗いてみよう。ここに来るのは最後の最後だから、もう帰るんじゃないかな? ヤハトに荷物をもたせればいい」

 こういったお店は扉を開けるようなタイプではなく、入り口がとても広い。人の出入りがひっきりなしだからだろうか。出入り口の左右には剣を佩帯した男が一人ずつ立っていた。用心棒だろう。

 フェナはすぐに気づいた。

「もう買い物は終わりか」

 バルとシーナに目をやり口元を少しだけ緩める。

「フェナ様は目的の物は集まりましたか?」

「だいたいは。あとは一応火の精霊石でもと思ってね」

 話している間に奥から木箱を持って、バルよりもさらに上だろう男と、後ろに同じように箱を持ったヤハトより若そうな男の子が二人やってきた。

「お待たせいたしました、フェナ様。おや、バル様もいらっしゃいませ」

 フェナの前の台に三つの木箱が並ぶ。蓋を開けると真っ黒の拳大の石がたくさん入っていた。

「例の石です。どれもかなり品質が良い物です」

 例のという言い方に、ああと思いつく。先日バルとヤハトが話してくれた火吹きトカゲの石なのだろう。

 フェナは迷うことなく箱の中から五つ取り出す。

「ありがとうございます」

 男児は残りの木箱を奥へ持って行き、フェナは金貨を二枚皿においた。

 高い! と心の中で叫び、目を丸くする。一つ銀貨四枚。石一つで魔除けの組み紐(トゥトゥガ)が四つ買える。

 ありがとうございますという彼らの声を背に、四人は歩き出した。

「ヤハト、シーナの荷物を少し持ってやってくれ」

「全部寄越せ」

 ぱっぱと手際よく、ヤハトはシーナの買い物袋を回収していった。

 この買い物袋は元々一枚の布だ。ここの人たちはこれを上手に袋にする。昔テレビで風呂敷のそんな使い方を見た気がする。

「ありがとう」

 ついつい買いすぎた自分のせいだが、もう腕がプルプルしてきていたので助かった。

「シーナ、今日の料理も期待していいんだよね?」

 フェナからのプレッシャー。

「パスタは、好き嫌いがあるかもしれません。メインは、お魚です!」

 香草をふんだんにつかった、アクアパッツァみたいなのを目指そうかと思っています。香草買い込みました。

「魚かぁ」

 ご不満そうなヤハト。肉をガッツリ食べたいんだろうなぁ。でもほんと、鶏肉かウサギ肉しかないんだもん、ここ。

「まあ、楽しみにしててよ。上手く行けば美味しいよ」

「上手く行けばってどーゆうこと?」

「私の故郷と、調味料とか、ハーブとか全然違うの。こんな感じかなで使ったのがとんでもない化け方するときがあるんだよ」

 火を通すと風味が変わったりするのが結構あるのだ。塩にも色々と種類があるらしく、一見普通の塩が、スープにいれたら塩味が少ないくせに柑橘系の香りがこれでもかってしだしたときはびっくりした。塩が原因だと突き止めるのにも少しかかった。

「まあとにかく、色々と試すしかない! お高い香辛料もフェナ様のお金で買いたい放題だから!」

 ぐっと握りこぶしを空へ打ち上げる。

 美味しくて珍しいならなんでもいいよとフェナが言った。

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