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270.リュウの置き場所

「シーナの会話だけを聞いて全体の話を推理しながら、戦場に飛び交う情報整理をする私の苦労を気遣え。少し黙っていなさい」

 えー、と思いつつさすがに疲れたので地べたに座り込む。素人目にも血が足りなさそうなアルバートの頬に手を当て、さらに首筋で脈を見る。

 生きていることにホッとしつつ、手をぎゅっと握る。

 吐きまくった後に水分を取りはしたが、全力で走って逃げたので少し貧血気味だ。

 目の端がチカチカする。

「ラコちゃん、私にも祝福ちょうだい」

 精霊の光が降り注ぐと、確かに少し体調がましになったような気がする。

 とぐろを巻いたリュウの鼻先がシーナの真上にきた。

「傍からみたら食べられそうだわ」

『もう人は長いこと食ってないなぁ……魔物の肉のほうが旨い』

「それには同意。なんで魔物のお肉あんなに美味しいんだろう。落ち着いたらお肉料理もなにか作りますね……魔物の肉がないと困るけど。ここらへん一帯から消えてしまったんですよね?」

『それでも魔物は放っておけば湧いて出る。一日二日で通常の量に戻る』

 ならば、聖地のお食事問題も解決しそうだ。

「そう言えば! 召喚の組み紐(トゥトゥガ)は使ったら消えたんです。耳飾りも消えてるし……でもあの人達の使っていた組み紐(トゥトゥガ)は魔物を操れたり、その素材の持ち主の魔物を呼び寄せたりできたのはなぜですか?」

『さあ、解らぬ。だが、それだからこそこの世の理から外れた気味の悪いものだったのだろう』

 この世の理から外れたという言葉に、また世界樹の意図がちらりと垣間見えた。

「リュウは、またあのダンジョンに戻りますか?」

『さて、どうするかな』

「どうしましょうかねえ」

 本当に、どうしたらいいのだろう。

 やがて、フェナがため息をつきながら振り返る。

「残党はほぼ捕獲か排除したそうだ」

 ルーやその他の深淵の組み紐(トゥトゥガ)を使っていた者たちは、リュウによって組み紐(トゥトゥガ)を無くされたらもう為すすべはないだろう。彼らは普通の組み紐(トゥトゥガ)を使えない。

 ラーシャやユルルはどうなったのだろう。

「フェナ様お疲れですか?」

「疲れてはいるが、なんだ?」

「すっかり忘れていたんですけど、私の背中もなかなかに酷い状態で、とりあえず傷を塞いで、いただけると……」

 立ち上がり、後ろを向く。ズキズキが止まらないので応急処置だけでもと思っていたが、服をめくったフェナが顔色を変えた。

「お前はっ! もう少し自分を大切にしろと言っているだろう……」

 手をかざされると痛みが引いた。

「自分でやったのか」

「家の保存陣を消さないようにヤハトに再三言われていたので、同じ陣だし、背中に傷をつけたら効果がなくなるかな? と」

「思い切りが良すぎる。丁寧に直さないと傷跡が残る。後でゆっくり治す」

「はぁーい……て、アルの傷も跡が残るの!?」

「……顔じゃないから諦めろ。死ぬか生きるかだったんだから」

 呆れられてるのはわかるが、なんかこう、辛い!

「聖地に戻るが、問題は――」

 リュウをどうするか、だ。

「ここで待ってる?」

『我のクッキーは?』

 うーん。あまり先延ばしにしてはイライラを周りに撒き散らして何事か起きそうだ。

「どのくらい待てます?」

『あまり待てないなぁ。言ったろ? 組み紐のない召喚はそなたの魔力か、我の腹かなのだ。そなたの魔力では到底足りぬから、我の腹がすいた』

 代償なのか。それなら早く作ってあげないと可哀想だ。


 フェナの絨毯にアルバートとシーナも乗り、その隣をリュウが旋回している。聖地の先の世界樹の足元、樹海にしばらくは滞在することとなった。昔もそこでうろついていたことがあるそうだ。

 シーナが呼べばすぐ祈りの広場の近くまで来るそうだ。

 ダンジョンで出会った時は常に鳥肌が立っていたが、喚び出したのでリュウの気配も気にならなくなった。広間にシーナが降りると、エセルバートやジェラルドが駆け寄ってくる。

「救護室に案内させよう」

 担架のようなものが来たので、フェナがアルバートを移動させる。

「よろしくお願いします」

 担架を持つ二人はどこかビクついた様子でアルバートを運んで行った。

「さて、我々もお話をしましょうか?」

 エセルバートに導かれ、彼の食堂へ向かう。

「寝たい」

「我慢しなさい」

 一応主張してみるが、フェナに却下された。

「じゃあお腹すいた」

「食べたら眠くなるだろ」

 それも正解。

「何か用意させるよ」

 エセルバートが言うと、神官が厨房へ向かった。

 お茶が用意され、人払いがされる。【五葉】とジェラルド、そしてフェナのみらしい。

「バルさんとヤハトも席を外すなら、クッキー作ってもらっておいたらだめですか?」

「ああ。約束していたな。そうさせよう。バル!」

「プレーンなものだけでいいですか?」

 フェナに尋ねるが、横から口を出す。

「あー、ジャムは無理ならいいけど、ドライフルーツ入れたのとかもあったほうがいいかもしれない。あのときいろんな味食べてたから」

「そうだったな……わかった。ヤハト」

「あいよー」

 二人も出ていき、部屋の中は八人になる。

「さて、……何から話し合えばよいのか」

 エセルバートが机に突っ伏した。

 まあそうなるよね。

「何か決めないといけないことあるんですか?」

 すっとぼけてみる。

「何を言っている!?」

「決めることだらけだろう!」

「すべてを決める権限があるのはシーナ様ですけどね」

「シーナ様!?」

 【深緑】の言葉に慄く。

「そう言えばもう敬語で話さなければなりませんね」

 【若葉】が言うと、エセルバートまで頷いた。

「じゃあ言葉遣いは今まで通りで……というか、私はこれまでもこの先もシシリアドで平和にやっていきたいんですよぉ」

「ならば、そのために話し合いをしなければならないね」

 エセルバートがにっこりと笑った。

ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。


ここからは戦後処理です。

あとちょっと。

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