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27.楽しい冒険者の作り方

 十日ごとのイベントが多すぎる。

 神殿教室に午前中行った翌日は丸々仕事場で、索敵の耳飾りを作っていた。チャムの細工工房も大忙しだそうだ。耳飾り自体は前々からあるものなので、ここに商品登録の利権などは絡まない。ただ、シーナが最初に頼んだ細工工房だということで少し有名になり、少し注文がいつもより多めに入ってきているという話だ。翌日午前中も仕事場で、昼食を作って食べたら今度はフェナの屋敷に向かう。十日に一度の昼から昼までの約束のお料理教室である。


「と、いうことがあったんですよ」

 神殿教室の出来事を話ながら、バルと買い出しにきていた。

「実際冒険者ってどうやってなるんですか?」

「冒険者はなろうと思えばなれるんだが」

 荷物を抱えながらバルは笑う。

「それは本人も言ってました。そうじゃなくて……」

「どんな行程で冒険者として活動し出すかって話だね?」

「そうです、それです! ちなみにバルさんはどんな風に冒険者になっていったんですか?」

「そうだなぁ」

 バルの実家は大きな街の周囲にある農村にあった。穀物や野菜を育てては街へ売りに行く。契約している店があった。優先して卸すかわりに、不作の年も豊作の年も変わらずお互いを優先していた。

「その道中どうしたって魔物がでるんだ」

 だが、人が日々行き来するようなあたりにいる魔物は、かなり弱い魔物だ。そんなに強い魔物がいる場所はもちろん通らない。

「親について街へ行くうちに、魔物を倒すのは俺の役目になった」

 父は御者をしている。とっさに動けるのはバルだった。

「やがて御者は一番上の兄になった」

 四兄弟の三男だったバルは、村の鳥や野菜を狙うもう少しだけ強い魔物を倒すようになっていった。

「両親と、兄弟四人とその妻の分は、畑の稼ぎでは少し足りないと皆がわかってたんだ」

 末っ子が、自分のかわりをできるようになったあたりで、街へ仕事を探しに行くようになった。十二歳のときだ。

「腕はそこそこあったからね。冒険者ギルドにいって、とりあえず登録のための規定の納入品を集めだした」

 冒険者になろうと思った日から冒険者である。

「どうしたって冒険ギルドに足繁く通うことになる。そうすると、冒険者に顔見知りもできてくるんだ。まだ見習いか、なら、今度の採集についてくるか? と聞かれたりもする。持ちかけてきた相手が問題ないかは受付の顔色をさっと伺えばわかるしな。ギルドの中で話してくるのはほとんど問題ない」

 安い荷物もちだ。安いかわりに冒険者としての技術は聞けば教えてくれる。荷物をきっちり持ち帰ってもらわなければならないから、むしろ積極的に危険の回避のしかたは教えてくる。

「そうやって気づけば見習いの納入は終わり、三年もたてば自分だけで森の中を歩けるようになる。俺は街の近くで護衛や、依頼品を狩って暮らしてたよ」

 何でも器用にこなし、森の中を歩くことができるバルは斥候のような依頼を受けることも多かった。

「こう、一緒に仲間同士組んだりはしなかったんですか?」

「パーティーかい? 決まったのはいなかったな。よく行動していたのはいたが、きっちりパーティーを組んではなかったね」

 転機が起きたのはかなり強い魔物が近くの森に住み着いた時だった。バル達街の冒険者では到底敵わない。ギルドはすぐさま他のギルドへ要請を出した。やってきたのがフェナだった。

「そこでまた斥候役を任せられてね。二十二の頃だ。とにかく、フェナ様の機嫌を損ねるなと厳命されてたんだ」

 仕事はきちんとやるが、それ以外のところではヤリタイ放題我儘いっぱいのフェナだ。何が食べたいあれが欲しいという望みを片っ端から叶えていったら、依頼が終わるときに言われたそうだ。

「行くよってね」

「うわぁ、は? てなりますね」

「実際なったね」

「ギルドの職員に、もらってっていいよねって言われた。それからずっとだよ」

 今年三十二になったと聞いた。

 十年、お疲れ様である。

「まあでも、フェナ様と一緒にいると飽きないし、狩りは楽しいから」

 洗脳されているなぁ。しかし、ニールとはベースが違う。冒険者になるべくしてなった感がすごい。

「孤児が冒険者になるのはなかなか難しいんでしょうか?」

「そうだなぁ。少なからず差別はあるし、一人でやるならやはり戦闘技術と、ギルドへの顔つなぎが大切だからなぁ。親父について街に来て、冒険ギルドをうろちょろしていた俺よりはかなり大変だとは思うな。あとはどんなタイプの冒険者になりたいかにもよるな。俺は街の周りで街に定住していたかったからね。物語に憧れて、世界を見たいとかいうタイプは、やはりパーティーを組んで精霊使いがいないと厳しいだろうな。だが、孤児だと避けられたりはどうしてもあると思うよ」

「孤児だと避けられるんですか?」

「偏見の目ってのは、あるだろうね。神殿に保護され掃除しか知らない、弱っちいと。だが彼は、文字を読み書きできるんだろう? 冒険者には読み書き計算が苦手なやつは多い。しかし、契約書なんかに接する機会は多い。読んで、書けて、契約書の内容を理解できるというのは強みになるかもな。あとは、積極的に体作りはしていったほうがいいだろうね」

 具体的なアドバイス。今度あったら教えてあげよう。

 満足そうに頷くシーナに、バルは微笑んだあと少し表情を翳らせた。

「だが、あまり肩入れしすぎるのはやめておいたほうがいいよ」

「肩入れ、ですか?」

「なにか装備を買ってあげようとか、組み紐(トゥトゥガ)をプレゼントしようとか」

 ギクッである。

「まあ、そうですね。ニールだけじゃないだろうし」

「……冒険者はブロンズランクになれても3年以内に半数が死ぬんだよ。とくに、旅をしたりダンジョンに挑むような者たちはね」

「やっぱり、そうですよねぇ」

 正直今のニールが何かと戦う姿が思いつかない。

「そのための一角ウサギだけどな。シシリアドも一角ウサギ百匹だ」

「角は薬になると聞きました」

 肉は孤児院へまわすのだろうか。


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