248.聖地到着
スマホトラブルで失礼しました。
その後も何度か魔物が出る。そのたびに行軍を止めていては支障が出ると、次からは馬車は止まることがなかった。
そのまま走り抜け、残って魔物を倒す部隊が編成されたようだ。騎馬なら馬車の速度にならすぐ追いつける。
順番に出撃する部隊を変えて、そうやってすっかり辺りが薄暗くなってきた。
「もう夜か?」
お喋りな男が漏らす言葉に、シーナは首を振る。
「違うよ。ここは昼でもこの暗さなの。世界樹が陽の光を妨げてる」
「世界樹様……」
街道沿いに行く道でなく、真っ直ぐ聖地を目指しているらしく、今どこかはわからないが、たぶん今夜は行軍を止めずに聖地まで駆け抜けるつもりなのだろう。
寒気がどんどん増して、目を閉じていても不安に押しつぶされそうになる。
ラコは時折馬車を出て行くが、基本シーナの膝の上に乗っていた。
もう二度と来ないだろうと思っていた場所だ。
昼の休憩もなくただひたすら駆け抜け、やがて世界樹の大きさが眼前いっぱいになった頃、馬車の速度が緩んだ。
「着いたみたい」
まっすぐ向かっている方が聖地。そして、左の窓から時折火柱が見えている。
「ラコ、フェナ様に祝福を」
小さくつぶやくと、ラコがすいっと馬車から出ていった。火柱が上がった方だ。
軍が止まる。だが、数が多いのでどうしてもすぐにとはならない。
しばらく待つことになるだろうと馬車の中で話していたら、扉が開いた。
「シーナ、おいで」
「エセルバート様、お久しぶりです」
「ああ。他の組み紐師はもう少し待っていなさい」
「ごめんね、お先です」
「んだよ、特別扱いかよ」
お喋り男がこぼすと、女性二人は呆れたように言う。
「そりゃ特別扱いでしょ」
「あんた本当に気付いてないの? シシリアドで組み紐師よ? 貴族の送り迎えがつくとか」
「え?」
などという言葉を背に、エセルバートについていく。もちろんその後ろにはタムルがいる。
「フェナ様、あちらにいるんですね」
「ああ。今は昼間は私と他の精霊使いが、夜はフェアリーナが魔物を食い止めている。あとからあとから湧いて、聖地を攻めたてているんだ。早々にフェアリーナが土塀を築いてくれてね。侵入口が限られているのは助かってる。……九の雫は恐ろしいね」
といいつつも嬉しそうだ。
「九の雫はやっぱりすごいですか?」
「ああ……本当に美しい」
うっとりとしているエセルバートに、タムルは苦笑していた。
「攻めたててくるのはどこの国の人なんですか?」
国同士の聖地占拠の宗教戦争だと、思っていた。
「正直、国かどうかもわからぬ。魔物が大挙してやってくるのだ」
まるでスタンピードのときのように。
「現在は土塀を常に強化しつつ、迎え撃つ。人ならば尽きるだろうが、魔物は正直、わからない。接してる帝国は自分の領土に入ってこない限りだんまりだし、あちらも聖地を狙っているという点では変わらない」
この地は特別なのだ。
「まだ夜は始まったばかりだが、これから軍と相談してフェアリーナをなるべく早く下げる。彼女には休息が必要だ」
「フェナ様ずっと動いてるんですね」
「ああ……聖地としては、気になるで来てくれていたのは、世界樹様のお導きでしかない」
世界樹のお導き。何度も何度も聞く言葉だ。
「シーナはとりあえず私の食堂へ。このあとジェラルドと話し合い、騎士団に出てもらう。何人か君には神官をつけておくが、正直戦力となる者はこちらに回せないのだ。アルバートは来ているのか?」
「あ、はい。いますけど、今はヴィルヘルム様の秘書官として動いているので私の見張りとかはちょっと違うかなぁ……」
「見張りでなく護衛だろう」
苦笑するエセルバートとタムル。
「もう少し自分の価値をわかっておいたほうがいい」
よく知った道を進む。広場や廊下は閑散としていた。大祭のときとは違う。
そして懐かしの食堂に入ると、見知った顔が増えた。
「シーナ!」
「ヤハト! バルさんもお疲れ様。怪我とか大丈夫ですか?」
「俺等は平気」
疲れが顔に出ることもなく、いつも通りの二人に安堵する。
「フェナ様組み紐二本使っちゃったから間に合ってよかった」
「二本!?」
半年に一本ペースだったのが、二本は異常だ。
「聖地だけじゃなくて、セルベールの領土の境を全部囲ったんだ。すごかったよ。あんなのもう二度と見られないと思う」
「あのときのフェアリーナは本当に美しかったね」
「今も定期的に土塀の強化してるし、魔力効率良くなったけど、反対に組み紐の消費は早いみたいだ」
そんな話をしていると、神官がやってきてタムルに耳打ちする。
「軍議の準備が整いました」
「わかった。じゃあシーナはここで……」
「え、軍議俺も行くし、シーナも行こうよ。シーナ一人にしたってフェナ様に知れたら、俺めちゃくちゃ怒られるし」
「ええ……」
あんまり参加したくないなあというのが本音。
「……フェアリーナに怒られるのは私も嫌だなぁ。仕方ない、部屋の隅にいなさい」
「はい……」
今は【緑陰】の食堂を作戦本部としているらしく、そちらへ移動する。
「シーナ、馬に乗ってきたの?」
「王都まではね。その後は馬車に乗せてもらったよ」
「それでまともに動けてるのか」
「それよ。冒険者はみんな化け物だね。あんなにずっと馬に乗ってて平気なんて……」
「シーナが弱っちいだけだけどなぁ」
「絶対そんなことないから!」
ヤハトの基準がおかしい!
食堂には騎士団はもちろん、ヴィルヘルムとダーバルク、そしてアルバートの姿もあった。さらに他の領からきたらしい、見知らぬ冒険者もたくさんいる。
シーナはバルやヤハトとともに壁際に立っていた。
軍議とは言うものの、基本は情報の伝達と今後の方針だ。フェナを少し休ませたいが、魔物の進行は昼夜続けて止むことがない。たまに止まることはあるが、特に西へ少し行った場所にかなり大きめのダンジョンがあるらしく、そこから常に魔物が供給されていると推測されていた。
「魔物の動きに統制が取れすぎている。そのあたりを調べたくとも、人員が足りなさすぎて手を出せていなかった。さらに問題となっているのは、突然現れる魔物だ」
「それはこちらも行軍中に何度も出会った」
ジェラルドの発言にエセルバートは頷く。
「あれが入り込んできてこちら側を荒らして帰って行く。聖地には魔除けの魔導具を設置したので入ってこないが、外には何度も現れている。あれの正体もまだ突き止めきれていない。とにかくまず、フェアリーナをこちらへ戻したい。接敵している回数が多い分、なにか気づいているかもしれない」
「では騎士団と冒険者で編成を組み、こちらに余裕を作ろう」
「部屋の割り振りなどはタムルがする」
「わかった」
そうやってとりあえず解散となる。
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