246.車窓から
昼食休憩後は、お喋りな彼も静かだった。何か聞いたのかもしれない。
日が暮れだし、行軍が緩やかになってくる。夜は各自の領地ごとに食事を摂るので、領地の人間が呼びに来る。
そう考えると昼が与えられただけマシなのかもしれない。馬を駆る騎士や冒険者はまだしも、馬車にただ乗っているだけだった。シーナに至っては、異世界の(馬)車窓から騎士服を見ていただけだ。
フランクに会ったせいで、貴族の結婚について話したときを思い出してしまう。
これの半数以上が独身男性。貴族なだけあって、一定以上の見た目を保持している。
イケパラの完成だ。
とんだ売り手市場だ。世界を飛び越えて巨大合コン会を企画したいくらいだ。
馬車が止まり、扉が開かれる。
一人二人と迎えがやってきて、シシリアドからはダーバルクたち【暴君】がやってきた。
「待たせたな! 行くぞ」
「はーい」
さり気なく前後左右に散って、護衛をしてくれる。そのまま歩き出そうとするが、前を行くダーバルクが、歩みを止めた。
松明とともに、前方から男性がやってくる。闇夜にも負けない輝く黄金の髪に、同じく金色の目。これを、シーナは知っている。黒い騎士服に、刺繍は金だ。
あまりに真っ直ぐこちらを目指してくるので、ダーバルクも戸惑っているようだった。
そして、ダーバルクの、シーナの前で止まる。
「それは何だ?」
主語ぉぉぉ! とハリセンを飛ばしたくなるが、今は好都合かもしれない。たぶん、間違いなくラコのことだ!
日が暮れだすと、ラコはキラキラと輝き出した。あまり一緒に夜、外を歩くことがなかったので、こんなにも光り輝くとは思いもしなかった。
そして相手はエセルバートと同じ金目である。
何か何か誤魔化すんだと必死に考えてカバンから取り出したのは瓶だ。
「えーと、フロランタンといいます」
「ふろらんたん……」
「ええっと……クッキーはもう食べられましたか?」
「……ああ、陛下より頂いた」
「その進化系です」
「しんかけい?」
「一つ食べてみます??」
周りの騎士たちがなんとも言えぬ顔をしてた。
シーナも、彼らが何と言われてここまで来たのか知らないので、余計なことは言いたくない。
瓶の蓋を開けると、キャラメルの甘い香りがした。
「あ、毒見とかしたほうがいいですか?」
ならばと一番上の一つを食べる。
うむ、美味い!
「それは、大丈夫なのか?」
「はい。安全です。もしよかったら瓶ごとどうぞ」
差し出したシーナをじっと見る金目。色々と見透かされそうで怖い。
「安全なら良い。これはありがたくいただこう」
そう言って踵を返して去っていく。
同じく金の刺繍をした騎士が瓶を取りに来たので、十日くらいで食べ切るようお願いしておいた。
シシリアドの陣に着くまで、変な緊張感に包まれていた。だが、アルバートが駆け寄ってきてそれも霧散する。
「ありがとうございました」
「別に構わん。寝床の準備は出来たのか」
「ええ。食事を済ませたら、全員寝ていいとは言われてますが――」
「一応見張りを立てたほうがいいな」
「ですね。その割振りも終わらせてあります」
ダーバルクは、おう、と言って食事の輪に向かう。
「馬車は大丈夫だった?」
「うん。楽ちんだったよ。ただ、今……金髪金目の人って、第一騎士団の人だよね?」
「団長だね。ホークショー団長。ジェラルド様とお呼びしてるな」
「さっき急にこっちに来た。たぶん、ラコちゃんを見て」
「大丈夫だった?」
「端から見たらよくわからない会話だったと思うけど……誤魔化せてはないけど誤魔化した感じ」
周りの耳があるのであまり長々説明してられない。
「また向こうについたら教えて」
「うん」
シーナも食事の輪に加わり、ハーナーシェとともに囲われた空間の中で寝た。男性陣はそのまま焚き火の周りで就寝だそうだ。
テントや、それこそ巡礼の時のように簡易家を作るのかと思ったが、この人数の野営で突如動かなければならなくなったとき、そこら中に簡易家が乱立していたら馬も動かせないので混乱してしまうから、このままだそうだ。
一応ヴィルヘルムや、シーナたち女性の寝床は屋根と壁を作るという。
今回は歩兵がいないので、馬だらけだ。
その餌を運ぶ荷馬車もあるし、行軍は大変なんだなぁとつくづく思った。
次の日も馬車の中だ。
しかし昨日と違うことがあった。
なぜか、第一騎士団が馬車の周りに来ているのだ。
「騎士服の刺繍の色が違うわよね」
「あー、第一騎士団の方々ですね」
「第一……一番上てこと?」
「騎士団ごとに警護の要人が変わる的な話だったかな?」
「へぇ~」
て、この会話全部聞かれてると思う。
基本皆さん身体強化の組み紐をしている。
実は、耳も良くなるのだ。
今日も換気だと馬車の小窓を開けているので、中の声がダダ漏れであった。
「それにしてもさすがお貴族様よね〜お顔の良いこと」
「見ていて飽きないわよね!」
お、ちょっと皆背筋伸ばしだした。
吹き出しそうになるのをこらえる。
あの人がかっこいい、こっちの方がかっこいいなどと言い合う二人の言葉に、いちいち反応してて、第一騎士団も独身者が多いのか? と疑問に思った。第一はエリートなのだと認識していたのだが。
そのあとも二人が好き勝手言うのに、馬車の外は一喜一憂しているようだった。
人気のある髪色やら、言われたい憧れのセリフだとか。向かいに座る男性陣も耳をダンボにして聞いている。
「シーナちゃんの好みは?」
シシリアドで好みが服着て歩いてます、と言うこともできたが、いい加減外のソワソワを終わらせようと思う。
「えー、私より二人の話の方が、反応が面白いんですけど?」
「反応?」
「皆基本身体強化の組み紐してますから、全部会話聞こえてますよ」
「えーやだー!」
ヤダと言うわりにはさほど嫌じゃなさそうだ。
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これを書いている時、「世界の車窓から」最近見てないなぁと友人の猫ちゃんと話してて、調べたら回数減らしてやってるんですね。
かなり好きだったけど生活時間帯が変わってしまっている。
八月はもう書くのを諦めて人狼ゲームゴリゴリやってます。9月から次のやつ書き始めるんだ……。




