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245.馬車の旅

 今回一緒に向かう組み紐(トゥトゥガ)師は、全部で十名ほどらしい。

 王都以南の街はほとんどそうらしく、この十名も、複数人編める、とかそんな理由があるという。

 そして、予想通り言われた。

「はぁ!? こんな子どもの組み紐(トゥトゥガ)師を連れてくなんて、何考えてるんだよ……どんだけ色が合うんだ。普通は予備を山盛り編ませて置いてくるだろ……」

 まあ、同情からなのだろうが、一人で怒っている。心配してくれているのかなと思っていたが、単に文句をいいたいだけのようなのでフォローも入れずに放っておいた。

 組み紐(トゥトゥガ)師は、男性でも女性でもなれる職業なので、今回同乗しているのも男性三人女性二人だ。シーナを入れて六人になる。

 文句を言い続ける男以外は、出発してから時間を経るにつれて、押し黙っていく。

 流石に馬車や物資を運ぶ荷車があるので、疾駆けするわけにいかないが、それでも半月以上歩いた道のりを五日で踏破する予定らしい。

 夜はもちろん野営することになるが、それでも日が沈む少し前まで走り続けるようだ。

 馬車はかなり快適だった。魔導具を使って、車輪から伝わる衝撃を緩和するようになっているらしい。中にはクッションもたくさん置いてあった。

 快適で、暇で、そうなるとあとは寝るくらいしかない。

 シーナも馬車についてる小窓から外を見ながらあくびをしていた。

 考えてることはなかなかに不埒な、騎士団のどの刺繍の色がいいかであった。

 今回見かけたのは、赤青金銀、そして緑だ。なかなかどうして緑の刺繍がカッコいいのだ。たぶんアルバートに似合う。

 変な人と思われないようニヤニヤしないようにするのに必死で話を聞いていなかったのは悪いが、突然肩を思い切り叩かれて低い声がでる。

「あ゛?」

 顔に似合わぬ反応に相手は一瞬怯んだが、すぐ立ち直る。

「聞いてるのか?」

「ごめん、外見てたからまったく聞いてなかった。何か用?」

 朝からずっと喋っている彼だ。

「名前は? どこから来た?」

 肩をどつかれてイラッとしているが、あと五日間同じ場所だということを考えると、仲良くはしなくていいが、程よいお付き合いは必要だろう。

「シーナ。シシリアドから」

「あのシシリアドか! へぇ、遠いところからご苦労だな。この行軍にフェナ様もいるのか?」

「話していいことなのかわからない」

 情報って大切だと思う。

「は? いるかいないのかくらいなんの問題もないだろう?」

「うーん、どこに敵の目と耳があるかわからないから」

「敵って、単に魔物が溢れただけだろ?」

「は?」

 これは、なんだか不味い気がする。

「え、違うのかよ……」

 シーナの反応に、お喋りな男と女性が戸惑う。

 情報統制がされているのか、単に彼が騙されて連れてこられているのか。

 テレビや電話、その他通信器具が、冒険ギルドと神殿にしかないから、情報の制限はしやすい状況だ。

「なあおい、魔物じゃないのか?」

「あなたはこれからどこに行くか知ってるのか?」

「あれだろ、最近できた大きなダンジョン。聖地の近くの……」

「私もそう聞いてるわ」

 情報が間違っているのが二人目。

「となると、私が知ってるのが間違っている可能性もあるわね。あまり憶測で話すのはやめて、休憩のときに騎士様にでも聞けばいいのよ」

 シーナの隣の席の女性の提案に、頷いた。たぶん皆、彼のおしゃべりにうんざりしている。

 シーナは、再び窓の外を眺める。

 しばらくして、馬の速度が緩んできた。やがて馬車が止まり、外から扉が開かれる。

「昼だ。パンとナーラ、水がないやつは言ってくれれば精霊使いが出す。で、土で作られているのがトイレ。女性用は少し離れたところにあるから、今一緒に行ってくれると助かる」

「次は夜までですよね?」

「ああ。このあと止まる予定はない」

 ならば今行くべきだと、女性三人が馬車から降りた。

 窮屈ではなかったが、身体が固まりそうだったので動けてよかった。

「五日かぁ、長いなぁ」

「馬上で五日もキツイけどねぇ」

 女性二人が言い合っていると、そこら辺の冒険者から口笛を吹かれる。

 たぶんシーナの隣に座っていた人が結構な美人さんだからだと思う。

 そんな彼女の対応は完全なる空気扱い。

 普段からモテるのだろう。

「騎士は厳しい罰則があるから問題ないとは思うが、冒険者の所業までは目が行き届かないと思うから、夜はあまりウロウロせず、自領の人と行動して」

「はーい」

 女性用トイレには、女性の騎士が立っていた。送ってくれた男性は少し離れた場所で立って待っていてくれる。

 シーナたちはかわりばんこに用を済ませた。

 気遣ってか、先ほどとは違う道を通ってくれる。

「シーナさん?」

「あ、フランクさん! お久しぶりです」

「うわぁ……ついてくることになったんだ。大変だね。あ、馬車まで送るんだろ? 俺もう食べ終わったから、俺が送ってくよ」

 助かると、送ってくれていた騎士がフランクと交代する。

「シーナさん、王都まではアルに乗せてもらって?」

「そうなんですけど、疾駆け倍速で身体バッキバキになって、次の日動けなかった……」

「ははっ! 素人に倍速はひどいな」

「まあ緊急だから仕方ないですけど、二度とごめんって感じでした……そうだ、行き先って、秘密になってます?」

「いや、秘密ではない。どうやら間違った情報を持っている冒険者がいるとは聞いてるけどね。どっちにしろ着けばわかるから、そのままにしている感じだよ」

 なら我々もそのままにしておくのがベストだろう。

 二人も、フランクの回答で、同じ結論に達したようだ。たぶん、自分が組み紐(トゥトゥガ)を編む冒険者が情報を取り違えているのだろう。

 世界樹が近づけば自ずとわかる。

「何かあれば、馬車の小窓が開くから、外の騎士に大声で呼びかけたらいいよ。たまに気分悪くなる人もいるし、窓を開けて風を取り込んでおくのもいいかもね」

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ブックマークいいねありがとうございます。

馬車の旅とかつかれそー

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