244.魔導具開発研究部門襲来
いっけな〜い遅刻遅刻!!
ドスッ
いや、遅れて申し訳ない。
組み紐ギルド長のフィレリナと、魔導具開発研究部門の連中だ。
「起き上がるの億劫なんでこのまま失礼しますよ……」
ベッドにうつ伏せでぐったりしたまま早く帰れと言わんばかりの態度に――臆することなぞ微塵もない。
「軟弱ねぇ、少し鍛えないとだめよ?」
「三徹くらい平気な体力つけないとね」
「研究職は体力勝負です」
「朝の走り込み必須」
一つのセリフに二倍三倍の返しがある会話辛っ!
「一つずつご要件をどうぞ……」
「じゃあまず私ね! この間偽名で王都へ来てたとき見てた壁掛け、持ってきてあげたわよ。待機時間暇でしょ? これでも見てなさい」
どさっとテーブルに置かれる布の束。嬉しいけど、見る余裕あるかなぁ。
そしてベッドに乗って、シーナの足を押さえつける。
「ふぁ!? なに??」
「私、マッサージ得意なの。ほら、下向いてなさい」
たしかに気持ちいいが、今はたぶん触らないで炎症鎮める時期なのだと思う。
「では次は我々ですね。まずこちら、収益表になります。シーナさん発案ドライヤーを、ズシェに機能化してもらい、さらに省エネ化した完成品を貴族を中心にさばいた売上金の五分がシーナさんの取り分になります」
「……え?」
省エネって、翻訳機!?
「いつの間に商品化して販路開いてるの?」
「アイデア料として一括も考えましたが、シーナさんはこの先長く生きられるので、定期収入の方が良いかと判断いたしました。今後は販売発案権は我々魔道具開発研究部門にあり、商品登録は三十年です。入ってくる使用料の一割。全体の一分をシーナさんのものとして神殿に振り込むようで手続きしております。文字はあとで誰かに読んでもらって確認してください」
紙をペロッと渡される。
「次にキリツアみじん切り機ですが、ズシェから美味しいものができたと聞いています。我々にも! 美味しいものを食べる権利を!!」
「「「「権利を!」」」」
「……この戦から帰ったら考えます」
フラグみたいで嫌だが、疲れ切ってるのでとにかく今を逃れる方向で。
「仕方ありませんね。その言葉覚えていてくださいね! 我々が、王都から出ないとでも思ったら大間違いですからねっ!」
お、押しかけてくる気だぁ……。
「最後にこちらです!」
ぺろんと薄い布のようなものを広げる。といっても、そんなに大きくない。学校のプリント程度の大きさだ。
黒地に赤い線で丸が書いてある。
「こちらシーナさんがズシェに依頼した携帯コンロの改良版です」
「えっ!? これが? んぐっ」
びっくりして起き上がろうとしたら、フィレリナが足に乗ってて背筋測定することになった。
「火力は断然ズシェの作ったもののほうがいいですが、正直、家で使う意義を見出だせず、今回のような行軍時にこそ役立つのではと改良しました。火力は半減しますが、火の精霊石を使うにしても竈の形に石を組んだり、土の精霊使いが必要だったりでしたが、この布一枚なら荷物にもなりませんし、良い発明だとがっつり開発費お小遣いいただきました! さらには大量発注で莫大な売上! さらにさらに、すぐ使用することになりそうで、それを見た冒険者からの今後の受注にも期待です! ということでシーナさんへのお支払い、今回の分はまとめてですが、今後は売上金の一割と使用料の一分ということで、こちらが詳しい金額の詳細の紙です」
おかげさまで研究費確保ですよーと、ホクホク顔だった。
ペラペラの布はたしかに持ち運びに便利だ。
「私はちょろっと欲しいものを言っただけなのになぁ」
「そのちょろっとのアイデアがここに繋がったんです。当然の権利なので受け取ってください」
「ありがとうございます……」
「それで、何か他にアイデアございませんかっ!?」
ずずいっと迫ってくる魔導具開発研究部門の面子。逃げたくてもフィレリナに足を押さえられている。それ以前に身体がうごかない!
「助けてぇ……」
とりあえず扇風機の話をしておいた。ズシェに頼もうとして忘れていたものだ。
あとは、鍋類持ち運ばないと結局このコンロも使いにくいから、いっそのこと直接置いたら焼けるものはできないのかという話に。つまり、ホットプレートだ。
皆が皆、雷に打たれたような顔をしていた。
そして、新しく研究開発したいものができた途端、ソワソワしだして早々にお暇する無礼をお許しくださいとかなんとか言い出し、飛んで帰って行った。
「忙しない奴らねぇ……壁掛けになにかあったの?」
マッサージの手を止めることなく、フィレリナが聞く。
「シシリアドのギルドにもおなじようなものがあったんですけど、それが古い廃れた紋様も多く描かれていて。何か耳飾りにしたら役立つようなものはないかなと思いまして」
「なるほどねぇ〜」
「古きをたずね、新しきを知るという言葉が故郷にあるのです」
「その姿勢嫌いじゃないわ。そうね、王都には研究家がたくさんいるから、帰ってきたら紹介してあげるわ。むしろ向こうからお願いされそう」
結局二時間近くそうやってマッサージしてもらった。
「組み紐師の義務ではあるけど、あんたは安全なところにいなさいよ? 気をつけてね」
たぶん結構なお年のイケ女なフィレリナを玄関まで送り、その後は部屋で借りた壁掛けの知らない図案を紙をもらって写し取って過ごした。
そして、次の日はだいぶ動けるようになってきたので、せっせとフロランタン作りに勤しんだ。王都までは余計なものを持つのは馬に悪いかなと思って避けていたのだ。しかしここからはあんなスピードは出さないらしいし、シーナは馬車なのでいいだろう。
ナッツ類は栄養にもなるし、味気ないパンをボソボソ食べるくらいならこっちを食べる。お砂糖も好きなだけ使っていいと言われたので、この際レシピがどうだとかはもういいやで、メイドさんたちに手伝ってもらった。
味見をした彼女たちからは、今にも告白してきそうな潤んだ目で見られた。
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