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240.神殿教室の成功と、フェナの出立

 ヴィルヘルムが帰還し、側近も何人も増えた。すると、仕事を割り振る人員が増えたようでアルバートも楽になるかと思ったのもつかの間、壁拡張の事業が本格化した。

 同時に、シンシアがスカウトした女性の側近がマリーアンヌにもつけられ、以前の側仕えたちは、使用人になるか、実家へ帰るかを迫られ四人とも実家へ帰ったそうだ。もちろん、一人側仕え、側近としての仕事をしていたサンドラはそのままだ。

 そして、冬期神殿教室の準備も着実に進んでいた。最初にシーナが提示した三ヶ所のスペースを確保し、冬の労働力としては、冒険者を雇う。その代わり、夜は寝床として提供する。

 そして問題の冬期以外の教室スペースの運用法だが、イェルムに相談したらそれはもう大喜びで飛びついた。

「シーナさんのアイデアは本当に楽しくて、この三年ほど日々喜びに震えておりますよ! そこでご相談なのですが……」

「もう、私、相談料いただいても問題ないですよね!?」

「必要でしたらいくらでもお支払い致しますよっ」

 ぽんぽこ親父は今日もウキウキだ。

「というか、もうそこら辺は全面的に決まってるのかと思ってましたよ」

「ええ、決まっておりますよ? 門の直ぐ側は、他領の商人たちの店舗としました。場所代を取って一月半ばから、十月半ばまでの期間限定店舗です。おかげさまですでに予約で満杯ですね。シシリアドに特産品を出すことにより、商品の継続的な入荷先を増やす。さらに、あの、シシリアドに店舗を持てるというわかりやすいメリットに、皆が飛びつきました。他二店は、食堂ですね。もともと厨房付き物件ですし、テーブルも椅子もありますので。まあ、よくある丸テーブルや四角ではありませんが、場所代はただ。売上の二割をその教室の冬の資金に回す。冬は神殿教室の調理も担当して貰うことになりました。こちらもすでに人員は確保済み。ですがやはり話題性が欲しいのですよ」

「あー、まあ。そうですね」

「ハハナラヤのスタンピードの炊き出しで、鶏肉を油で揚げたものを出したとか」

「……良くご存知で」

 本当に、どんな情報網を持ってるんだ。王都の向こう側なのに!

「あれを、ぜひ目玉商品として置きたいのです! どうしても新規参入ですからね、店舗の場所が変わったとて、行きつけの店に流れがちなんですよ。そこをこの店に行きたいと思わせる目玉が欲しい! これは売上向上、最終的には子どもたちのご飯のもととなるので是非是非ご協力いただきたく!」

 子どもたちを出すのは卑怯である。

「子どもの参加人数ってどうなってます?」

「もう六月頃から開催は決定しておりますからね。市民同士の呼びかけや、門近くに張り紙や立て札もあちこちにありますよ」

 それは知らなかった。やはり、読めないのは情弱!!

「現在の予想人数は二百ほどですね。実はもう一箇所候補地は残してあります。冬の間の子どもの死亡率を少しでも減らそうと、ね。今年成功すれば来年はさらに通う子どもが増えるはずです」

「つまり、領主の準備する食料も増やさねばならぬと」

「そうです。完全なる慈善事業ですから、食堂の売上を少しでも上げたい」

「人の弱みへの付け込み方がお上手すぎて!! ……仕方ありませんね。私は前々から思っていたんですよ。ここ、港町なのに、みんなのお魚食べる率が低いって! カラアゲはもちろん、私は、フィッシュ&チップスを提案する!!」

 そんなこんなで食堂は大賑わい。魚はもちろんパテラの揚げたのウマーである。

 冬の神殿教室も小さないざこざはありつつも、なんとか盛況に終わった。十一月は三ヶ所で百人くらいだったのが、十三月には三箇所で二百五十人の子どもたちがやってきた。

 壁の内側には空き地が多く、これから店舗を移動したり、住む場所を作ったりしていくらしい。一度覗きに行った食堂で、以前フェナの屋敷の庭に一軒家を建てたラガンがいた。

「俺はもう、十年分の仕事をしたぜ……」

 昼間なのにたいそうぐったりしてたので、ランチを奢っておいた。

 ちなみに、ここでダーバルクのお嫁さん、イヴも働いている。冬も調理補助をしてくれるらしい。

「家でぼけっとしてるのは性に合わないんだよ」

 宿屋は年中無休だったので、冬は働かないとかは考えられないらしい。

 気風がよく、客さばきも上手いので、なかなかの人気だそうだ。定期的にダーバルクが店に来るので客筋も悪くなりようがない。

 街全体が活発になり、冬を越え春が来た。冒険者たちが動き出す。


 シャラランとドアベルが鳴る。

 店内が舞い上がる。

「フェナ様、いらっしゃいませ」

「シーナ、組み紐(トゥトゥガ)を」

「奥の部屋を使いなさい」

 ガラに言われて、フェナを通す。丸台と糸を準備している間に、ガラがお茶を淹れてくれた。

「早いですね、もう少し先かと」

 編みながら話す余裕すらある。

「うん、予備をね」

 だいたい半年に一本なので、あと二ヶ月くらい先だと思ってた。

 フェナはラコの背を撫でながらどこか遠くを見ていた。

「はい、できましたよ」

「ああ、完璧だ」

「ふふ、フェナ様の組み紐(トゥトゥガ)だけは完璧ですよ!」

 丸台と糸籠を片付けようと席を立つ。その手をフェナが捕まえる。

「私たちは明日シシリアドを発つ」

「狩りですか? 気を付けて」

「あちこちで、黒いシミを残す魔物が増えている。南の森にあったダンジョンの中もシミだらけだった」

 フェナの目が真剣だ。

「嫌な予感がする。私は聖地に行く。あそこが始まりだ」

 一昨年の夏だ。色々なことがあった、夏だった。

「シーナ、お前は私の組み紐(トゥトゥガ)師だ。ラコを身の回りから離すな。私の精霊を食わないよう、重々注意しておけ」

「はい……フェナ様も気を付けて」

ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。


さて、次回より最終局面へ向かって走り出します。

シミの魔物とは!!

シーナとアルの行く末は!!

ラコちゃんは可愛い!!

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