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239/280

239.広いと思ったら案外狭かった

「この間真っ直ぐ帰っただろ? そしたら、あの変人連中が発狂してた」

 主語をぼかして色々と説明をしてくれるのだが、ぼかし方がひどい。

「押しかけそうな勢いを上の人が止めてたよ」

「押しかけは……困るなぁ」

 何をしているんだか、あの人たちは。たぶん、自分がこのあと平和に暮らすには、二度と会ってはいけない人たちだ。

「あの人たち、圧が強すぎるしな。あ、これクセがあるけどオススメの酒」

「申し訳ないけど否定できない。いただきまーす」

 フランクは氷の入ったグラスに透明の酒を注いだ。

「それじゃあ、二人の門出に乾杯」

「かんぱーい」

「ありがとう。乾杯」

 きつめの蒸留酒だ。そしてふわりと甘い香り。

「芋焼酎!?」

「お、知ってる?」

「いえ、故郷に似たのがありまして」

「へぇ〜アルバートは? この店で酒は飲んでたの?」

「多少は。ただ、誰かは正気を保ってないと不味かったから、軽めのものしか飲んでないなぁ」

「あー、学校の休みの日か、抜け出して、だろ? まとめ役がいるんだよなぁ。わかる」

「ヴィルヘルム様と一緒のことが多かったしな。あっちは思い切り飲みたい派だから」

「そっかー。じゃあ、ボトル一本プレゼントするから、持って帰って一緒に思い切り飲むといいよ」

「いや、それは」

「いいのいいの。俺も貴族の結婚の作法について語り尽くした甲斐があった」

「貴族の結婚?」

「彼女がアルバートがこんなにかっこいいのになんで嫁が来ないと言ってたから」

「……クッキー作りをしていたときの話ですね」

 とんでもないところからバラされる。

「俺等の立ち位置はなかなかに結婚は難しいことなんだという話と、なんならもらってあげたらいいんじゃないかって話をね」

「おかげさまでもらってもらえましたね」

 アルバートの言葉にフランクは破顔し、シーナは顔を覆う。恥ずかしい。顔が熱いのは芋焼酎のせいだけではない。

「どっちから告白したの?」

「私です」

「アルって、なんでこの手の話普通にできるのぉ……」

 目の前でやられるの心臓が保たない。両手で顔面を覆うしかなくなる。

「ふはは! 楽しそうだなぁ〜いいね〜」

 ほろ酔い程度で、解散となる。フランクも次のお店の予定があるだろう。

「あの、私が……」

「言わないよ。あの連中の相手するのめんどくさそうだもんねー」

「ありがとうございます。もし追求されたときは、」

「お酒飲んだから忘れたことにするわ」

 じゃあねと夜の街へ消えていった。


 次の日は大人しく二歳児に遊んでもらった。ヴィルヘルム夫妻の子ども、ケンドリックだ。まだ話はあまりできない。動き回る方にリソースを使っているようだ。

 きれいに整えられた内庭で、歩き回るケンドリックに追いすがるだけの時間だった。

 歩き回るだけ歩き回って、ころっと寝てしまう。

 その後は厨房を借りてアマーリのタルトを作った。型はさすがに持ってきていないので、スコップケーキよろしく、型のままお出しすることにする。

 アマーリはなかなかきれいに並べられた。多少厨房の料理人に手伝ってもらった。さすがプロだ。飾り切りは本当に上手だった。

 タルトはかなり好評で、起きてきたケンドリックは言葉が出せない分、全身でお代わりを要求してきた。大変可愛らしい。

 夜は一緒に食事をいただき、王都を発つ日がやってきた。

 

 フードを目深に被り、ギルド内へ入る。

 朝早めだと言うのに、人の出入りは多かった。たぶん、どこかの地区の売上報告日に被っているのだろう。

 好都合だ。

 シシリアドの組み紐(トゥトゥガ)ギルドよりずっと広く、カウンターも倍以上あった。

「あ、アル、あっちの壁」

「本当だ。近くに行こう」

 【見るものの組み紐(トゥトゥガ)】とはまた違った壁掛けだ。いくつも並んでいて、本当ならメモを取り出し書き写したいくらいだが我慢。食い入るように見つめ、脳に刻む。

 知らないものがいくつもならんでいた。

 そうこうしているうちに、三の鐘が近くなったようで、アルバートに促された。もっと見ていたいが仕方ない。名残惜しいが三の鐘でここを発つのだ。あとはズシェが王都にきたとき見てきてもらうとかしようと思う。

 出口に向かったところで、割と勢いよくぶつかってしまった。

「スミマセン」

「ごめんね〜大丈夫? ……ッ! シーナ?」

 当たった勢いでフードが脱げて、しかも相手はギルド長。フィレリナだ。

 とっさにアルバートの腕を引き、組み紐(トゥトゥガ)に魔力を込め駆け出す。

「あんた!? 王都に来てたなら――」

「さよーなら!!」

 途中からアルバートがシーナを引っ張る形になり、そのまま全力でタウンハウスへ帰った。

 荷物は全て運び込まれ、立派な馬車が五つ並んでいた。

 息せき切って走り込んでくる二人に、ヴィルヘルムは出発の号令を出す。

「アルバート様、馬を」

 執事が指さした先に、アルバートは駆け出す。

「シーナはこっちよ! 乗りなさい」

 シンシアに呼ばれて、お邪魔しますと駆け込んだ。

 貴族用の門からとっとと抜け出す。王都を出てしまえばこちらのものだ。

「間一髪でした」

「お目当てのものは見学できたのかしら?」

「はい、おかげさまで。次の休憩地でメモしないと忘れてしまいそう……」

 馬車の揺れで、頭の中身がポロッと落ちてしまいそうだった。

ブックマーク、いいね、評価ありがとうございます。


関東のゲリラ豪雨にめちゃくちゃビビってます。

これ、まじやばいやつやん……

本当に気候が変わってきてるって感じですよね……

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