236.神殿教室はいぱー
許可が出たので言いたい放題しておこう。
「期限があったんですよね? 私、調べた人の口から聞きたいっていいましたよね? 結局調べたの全部サンドラさんってことですよね?」
「そのようね。サンドラ、前回のお話からどのような流れになったの?」
「それが……」
サンドラは以前、マリーアンヌとおそろいの耳飾りが嬉しいと言っていた側仕えだ。
同僚を売るようで心苦しいのだろうか。
「側仕えとしての仕事をしないなら、使用人で問題ないんじゃありません?」
「本当よね。お仕着せ着てもらおうかしら。しかし、聞いていた以上で。やれやれだわ。サンドラ、マリーアンヌ様のお世話ができる最低人数は? 私とあなたを省いてよ」
「今はリリアンヌ様がいらっしゃいますから……」
「別にリリアンヌ様のお世話は側仕えじゃなくても務まるでしょう? 側仕えは、使用人ではない。主人の衣装の準備や食事の補助なら側仕えでなくてもできるの!」
ブチギレキャスリーン様だ。
「……まあいい。これはこちらの話ね。シーナ、神殿教室の話をしたいわ。あなた、草案あるでしょ?」
「マリーアンヌ様が主導でやらないとなんじゃないですか?」
「その側仕えが使えないから仕方ない。数値は出たし、ある程度形にはしておきたい。その後の細かい仕事はまた側仕えの仕事だわ」
「うーん、まあ、壁を拡張して新しく家を建てる前に詰めておいたほうが良いと思いますし、いいですけど〜」
けど、なんか危険な気がする。
「これ、誰の意見になるんですか?」
「一応シーナから出た意見になるけど?」
「もう、これ以上手伝いたくないんですけど〜」
「本来領主夫人の事業に貢献できるのは光栄なことよ?」
「ボランティアだし、私は一介の組み紐師ですよぉ」
「旦那の仕事減るわよ?」
「だ、旦那じゃないです……お付き合い始めたところだし……それに実際始まったら増えるんじゃなかろうか」
「もう! いいからとっとと吐きなさいよ!」
キャスリーンは強引だ。
「仕方ないですね、まず、開催時期。対象年齢を四歳から七歳にするとして、そこら辺の子どもって結構お手伝いで小銭稼いでるんですよ」
だから普段の神殿教室も、それなりの子どもしか来ていないのだ。昔ニールと張り合ってたニックなんかが良い例だ。親の店を継ぐのに読み書き計算は必須。それで通っている。
水売りのお手伝いをしている子どもも八歳未満の子どもたちばかりだ。
ほかにも四、五人で一角ウサギに飛びかかり夕飯を得ようとする子どももいる。街の周りの草原はそこまで危険度が高いわけではない。
「冬以外に神殿教室をしても人数は今と変わりません。だから、領主主導の神殿教室は冬限定とする。問題は、興味のない子どもや親を釣るためには勉強の後の昼ごはん。ここで一食分、子どものご飯は確保できるのだと思わせることも大切ですね。みんなわりと現金ですよ。家にいても手仕事をするくらいだし、それなら午前中子どもだけでも食事代を切り詰められるなら行ってこいってなるでしょう?」
冬の食事の確保はでかい。
「問題は、これらの食材を領主が負担しなければならない。それだけの備蓄をしなければならない。さらに備蓄食料の運搬、料理人の確保。神殿教室の教師役の確保」
冬にやるのが一番なのだが、いざやるとなれば人と金が必要だ。
「そして難問の教室スペース。神殿には余裕がない」
キャスリーンは、シーナの言葉を聞きながらペンを走らせていた。
「続けて、シーナ」
「スペースは作ればいいんですけどね。壁を拡張するんでしょう? あとは予定人数のもう少し正確な数字かなぁ。食料確保するにしても、概算にも限界があるし。あと、評判が良ければ後半になるほど増えそうだし」
「シーナ、まだるっこしい。全部話しなさい。あなたの中にはどんな事業計画があるの?」
完全なるボランティアのシーナに脅しをかけるとは……。まあ、焚き付けたのはシーナではあるのだが。
「例えば子ども、三百人としましょう。百人ずつ、三か所スペースを作ります。料理を運ぶのは現実的ではないので、調理場も作ります。五日毎の固定メニューにすれば、調理する人の負担も減りますね。そして冬の間一番暇なのは冒険者です」
「……確かに」
アルバートが頷く。
「彼らに調理の仕事を与えます。食中毒怖いので、手洗いとか衛生面を厳しく監督する人が必要ですけど。丸ごと洗浄は必須ですね。彼らの昼ご飯が手伝いの対価です。お金のない冒険者ほど手伝ってくれるんじゃありません? さらに、夜の寝床もその施設を提供します。お金は取らないか、格安。壁から一番遠い宿屋以下。これで、人員はかなり確保できると思うんです。男性と女性の問題があるだろうけど、それこそ施設ごとに男女分ければいいだけです。掃除も彼らにやってもらいます。掃除と、調理配膳、もし読み書き計算ができるのなら教師役もありますけど、こちらは向き不向きとかがありますからね……最初は神殿にお願いするのがいいと思いますよ。神官と、冒険者の教師、そして、領主様の派遣する貴族。貴族がいればそれだけ騒ぎが減ります。流れの冒険者へのお願いはよく相手を見て決めなければなりませんけど」
「毎年シシリアドへ来る、わりと壁に近いところに宿を取る者を中心に、最初の年は選べばいいかと。彼らは門番たちとも顔見知りだしね。門番に聞けばリストは作れるだろう」
アルバートも意見する。
「最初の年は試練の年です。ここでしっかりルールを明確にし、守れないものは次の年は雇わない。怠け癖のあるものもチェックして雇わない。かわりに、よく働いてくれた人は次の年も優先的にお願いする。なんなら冬の途中で解雇することも考えて大人には厳しくです」
キャスリーンの手は速い。読めないので書ききれているかはわからないが、こちらの語りを止める気はないようだ。
「あの、すみません。冬以外はその場所は何に使うのですか?」
サンドラから質問が上がる。自分でも考え出している良い傾向だ。
「うーん、一月から十月まで、遊ばせておくにはもったいないですね」
本当は考えはある。だがそれはあとからでもどうにでもなるし、それこそ、商売人に相談すればいい。シーナが口を出すことではないと思っている。イェルムあたりはウキウキで提案してきそうだ。一月から十月までの間に場所代をとればそれがまた冬の運営費の一部になる。
「これが成功すれば、学ぶことを知った子どもや親が普段の神殿教室にも通わせることになるかもしれません。今四十人弱だし、そうなったら増えた分の昼食代は領主様が補填してあげてくださいね」
「うーん、さらなる詳しい数字が必要になりそうね。またまとめたら、シーナも見てくれる?」
「まあいいですけどぉ」
巻き込まれる。
「ちょっと楽しくなってきたわね。これ、私の友だちとか呼び寄せていいか領主様に聞いてみましょう。あいつら全員馘首にするわ」
清々しい笑顔で宣言するキャスリーンに、アルバートが頭を抱えていた。
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