233.見るものの組み紐
朝揃ってフェナの屋敷へ向かう。アルバートに見えるとなると、他にも見える人がいるかもしれないので、今日は風呂敷バックに入ってもらってラコを移動することにした。
ラコは、水辺が好きらしく、海の側に行けば海にダイブし、湯船を溜めるとシーナより先に湯に浸かっている。
他の人が触ることはできないのに、不思議と毛皮がしっとりしているように見えた。
どうせ他人には見えないと高を括って好きなように生活させていたら、アルバートにラコが見えた。シーナもパニックになった。どう言うことなのか?
二人で考えてもまったくわからず、翌日に持ち越すこととなった。
「おはようございまーす」
今朝もフェナの屋敷はのんびりとした時間の朝食だった。
「おはよう。どうした?」
「また予想外のことが起きたから、相談に来ました。まあ、先に朝ごはん食べてしまってください」
「最近シーナからの相談は碌なことが起きない」
「今回も碌でもないことですよ」
「……いつもの部屋に行ってろ」
「はーい」
大人しく言われた通り土足禁止のクッション部屋でゴロゴロ待つことにした。
ラコを風呂敷から取り出すと、ふよふよと動き出す。
アルバートがその姿を正確に目で追っているので、やはり見えているのは間違いない。
「ラコちゃーんおいで」
呼べばしっぽフリフリこちらへ泳いでくるのが可愛い。一応言うことは聞いてくれるようだ。
「そうだ! ラコちゃん! アルに祝福してくれる?」
きゅっ?(幻聴)と小首を傾げて、ラコはアルバートの真上に行く。そしてどこからか持ち出した石のようなものを打ちつけると、火花のような光が降り注ぐ。
「これが、祝福?」
「らしい。フェナ様が言ってた」
「本当にご利益はあるのかなぁ」
懐疑的なアル。昨晩から相性はあまりよくなさそうなのだ。
「ただ、この祝福が永続的なものか、期間限定かが全然わからないや。あと効果も。今度フェナ様が狩りに行く前に祝福してもらって確かめようって話になってる」
絵面的にはとてもかっこいいのだ。今日はオフだから普通の冒険者スタイルなアルバートだが、赤い光がキラキラと降り注ぐ姿はポスターにして貼り付けておきたいくらいカッコいい。
これが礼装や黒い騎士服だった日には、鼻血を吹いて倒れるくらいのことは起こり得る。
「あー、もっとなんかこう、カッコいい服を……はっ! ヒラウェルに言って、アルに似合うカッコいい服を、手配というか作ってもらえばいいのよ!」
男性の服はそこまで詳しくはないが、ラフなシャツとか着せたい!!
いや、まず男性の服を物色するところからだ。今まで自分の服しか見ていない。ヒラウェルも、おすすめよ〜とか言ってハンガーにかけるのはいつもシーナの服なので、男性服は見たことがない。
「アル、今度洋服一緒に見に行こう?」
「シーナの思考の経路がよくわからない……私は自分が着飾るよりシーナを着飾らせたいが?」
「いやいや、私なんていいの。そこら辺ので。それよりもアルにいろんなシチュの服を着せてもうそ――もとい、堪能したい! 背もそれなりにあるし、鍛えてるから体も締まってるし、もちろん顔もいいでしょ〜私の世界にモデルっていう衣服や小物を売るために、身につけて宣伝する職業があったの。もー、アルだったらトップモデルになってるよ〜それでとんでもない人気で、毎日SNSを賑わせて、来日するときなんか空港大騒ぎだろうなぁ〜そうなってたら絶対私も部屋中アルにしてて――」
「シーナの言ってることの大半がわからんな」
部屋の入口からフェナが入ってくる。バルとヤハトも一緒だ。
「アルはいつもこのわけわからない話に付き合っているのか?」
「いつもこうなわけではないですよ。それにこんなときのシーナはとても楽しそうなので」
「楽しそうと言うかニヤニヤしてるときのシーナだ」
ヤハトの言葉に気持ち悪いまでいかないようにしなければと自戒する。
「それで、何があった?」
「ラコちゃん、アルも見えるらしいです」
「は?」
「原因がわからないので相談に」
「まあ、完全に目で追ってるな……品がない話だが、シーナとアルがヤッ――」
「ダメダメダメダメっ! 品がなさすぎる! あと、アルは見えるけど、触れないんですよ」
だからそーゆうことではないと思うのだ。
「私が見れて触れるのは、シーナと魔力の色味が同じだからという推測だな。見られるだけと言うなら何か要因があるということか」
フェナは部屋に入ると特等席に座り、手招きでラコを呼び寄せずっとなででいる。そうとう手触りがいいらしい。まあそのおかげでラッコは乱獲されたのだが。
というか、ラッコの姿をしている時点で、これが自分由来なのだとよくわかる。酔っ払いだったので、例の組み紐を身に着けたとき、ラッコのことを考えていたのかなぁと思っている。
「ならばアルに何かあるんだろうな」
そう言ってフェナが手を振るう。精霊の煌めきがアルを襲った。
そして、一点が、それはもう、キラキラと存在を主張している。
「あ……ああ……やだもう、何これ、凄いを通り越して怖い。フェナ様、世界樹って、何なんですか? 私の故郷とどんなつながりかあるんですか? 他の落とし子の故郷とも何か特別なつながりがあるんですか?」
「特別なつながり? 説明しなさい」
言いしれぬ不安に指先が震えた。
「アルのそのピアスの編み方は、故郷ではがごめ結びと言いました。がごめは籠目。籠の目です。元来魔は、見られるのを嫌い、籠の目はたくさんの目が、えーと、六芒星、ペンタグラムって言うんですけど、神聖なるじゃないなぁ、まあ、呪術的な形なんです。籠の目がそれに見えるとも言われてて……とにかく、籠目は魔よけ。見ることに関わっていました。このがごめの形を、組み紐ギルドの壁掛けで見つけて、ピアスにしたんですけど、その壁掛けには名前がついていて、【見るものの組み紐】だそうです」
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友人の猫ちゃんが、アルが見えてなかったらイケメンとラッコ一緒に風呂にいれるつもりだったのかって話をしてて、大草原になりました。




