231.ラッコのラコ
ヤハトとバルも着いてきたが、寝室に入るのは拒否した。
「そうか、これが普通の反応なのか」
「そうだ。これが普通なんだよ」
女の子の寝室に入るのは、NGのようだ。
フェナが腕を振るうと、光の粒がキラキラと舞い、やがてベッドの上と、今シーナの横で浮かんでいるラッコもどきに集まった。
灰褐色の毛皮が光り輝いている。
しかもなにやら嬉しそうに身をくねらせていた。可愛いのは可愛い。今までであった魔物の中ではダントツ可愛い。きゅっ? て小首を傾げる姿が、あざといなぁと思いながらも可愛くてついなでなでする。
「やはり産んだのか?」
「いやいやいや……多分違います」
「落とし子はだいたい同じような繁殖の仕方だと思っていたのだが、シーナの故郷は違うのか?」
「繁殖って!! 違わないです! 同じですよ!! 普通に同じ!!」
なんか、ものすごい憤りが生まれました!
いや、多分同じ。うん。
「じゃあ何が原因だ……眠る前まで何をしてたんだ?」
「あー、こたつ部屋で晩酌を」
次はこたつ部屋へ移動だ。
飲んでいたグラスとか、酒瓶とか、溶け切った氷を入れていた器とかがそのままで恥ずかしい。翌日人が来る想定ではなかったから仕方ないが。
「あれっ!? この木箱」
そして散乱している糸の切れ端。
「ベラージ翁の組み紐がない」
「説明を」
「ええと、この間ベラージ翁の素材部屋をまた片付けたんです。その時作りかけの組み紐があって、そのまま置いておいたんですけど、このハサミで切った残りの糸の色とかを見るに多分……ちょっとあちらにないか見てきます」
急いで階段を駆け下り、戻したはずの棚を見るが、空っぽだ。やはりあの木箱の中に入っていたようだった。
「やっぱりベラージ翁の作りかけが入ってたみたいです」
「何の組み紐だった?」
「知らない組み紐でした」
フェナの眉がキリキリと上がっていく。
「詳しく説明を」
組み紐ギルドで壁掛けに描かれた紋様を見つけて、何か耳飾りにできないかとベラージ翁の手記を調べていた話をする。
フェナがあの悪筆メモを本気で読み出したので、昨晩の残りを片付けた。
「シーナ、フェナ様が呼んでる」
「はーい」
流しのお皿なども片付けていたところ、ヤハトが呼びに来る。
「両手を出せ」
命じられるままに手を出すと、再び手を振るう。
シーナの左手首が淡く光り輝いていた。
「お前はここに、組み紐をしていた」
「ええ……この洗浄しか最近はしてないのに」
「とんでもなく悪筆の、この手記の、お前が言うこの紋様の注釈でなんとか読めたのは【喚ぶ】と言う言葉だった」
「……喚ぶ?」
「ベラージ翁はどの程度編んでいたんだ?」
「ええと、覚えている限りたぶん、その図案のほとんどを……」
酔って仕上げたとしたら両端の結びの部分だと思われる。前からこの花びらの紋様は可愛いなと思い続けていたから、酔っ払って完成させたはありそうだ。
「そして腕につけたと」
「うわぁ……つけそう……」
そして、今は腕に跡形もなく、精霊の跡形だけ残っている。
「つまり、役目を終えて解けたんだろう」
「それって……ひゃっえ、なに、火打ち石!?」
突然ラッコもどきがシーナの知っているラッコがやるように、どこから取り出したのかわからない石と石を打ちつける。そして赤い煌めきをシーナの真上で振りまくのだ。
燃える燃えると慌てふためくが、フェナがはぁと盛大なため息をつく。
「火ではない……それは、精霊の祝福だ」
命名『ラコ』。
ラッコのラコちゃんと呼ぶことにした。
魔物ではなく精霊の集合体だそうだ。たまに森の深い場所で見かけることがあるらしい。
最初からそこには気づいていたそうだが、問題はなぜここに現れたか。そしてなぜシーナの魔力を纏っているか。
「ベラージ翁も何かに気づいて完成させずにやめていたのを、忘れてしまっていたんだろうな。そして、完成させてしまい、あまつさえそれを手首に巻いてしまったと」
「おおう……」
やらかしだ。
「返品はどうしたらいいですか!? クーリングオフしたい!!」
「なんのことかわからん! 返品なぞできるわけがなかろう」
「ですよねぇ……この子、どうしたらいいですか?」
「わからん……要観察だ。他人に見えないのが救いだな。私に見えるのは魔力の色のせいだと思う。それか銀目のせいだ」
「つまり、聖地にはもう行かないほうがいいやつ」
「そうだな。行くのはやめよう」
「でもさぁ、ラコ。私が召喚したのなら、バルさんとヤハトに見えるようにして、ってお願いしたら見えるようになるんじゃないのぉ〜?」
召喚主の言うことを聞いてほしい。指でラコの頬を突っつくと、尻尾をフリフリしする。
そして、例の仰向けで、小首を傾げて両手をお腹のところに置いて、きゅっ? と鳴いてそうなあざとポーズを決めるのだ。
「もぉぉぉ可愛いいい!!」
宙に浮いてたのを抱き寄せてスリスリする。ラッコ(仮)の毛皮サイコー!
「シーナ、次は私だ。あと気疲れした。お茶」
「はぁい。そうだ、ルーロのタルト作ったから持っていくつもりだったんですよ。お腹入ります?」
「入る!」
ヤハトが元気よく返事をし、フェナは鷹揚に頷いている。
「バルさんは?」
「ああ、頼む。運ぶのを手伝おう」
部屋から出ようとすると、フェナが手招きをする。
「ラコ、おいで」
するともう自分の名前と認識しているのか、シーナの肩あたりに浮かんでいたラコが、くるりと身を翻してしっぽフリフリフェナの下へ向かった。
「えぇー!? なんでフェナ様の言うこと聞いてるの?」
「人徳の差」
「ソレは絶対違う……」
ラコはこたつに座ったフェナの腕に抱かれ、撫でくりまわされていた。
ブックマーク、評価、いいねをしていただけると嬉しいです。
ブックマーク、いいねありがとうございます。
少し前に200ブクマ超えました。わーい。
あと一ヶ月ほどお付き合いください。
ここ数日また少しあくせすがあがっているようで。
台風近づいていますね。無理なさらないよう気を付けてお過ごしください。
というわけでやっと出たモフ枠!!
モフ欲しくなっちゃったから、アルバート忙しくさせたり、組み紐ギルドの壁掛け入れたり色々と手を加えて奔走した。
それもすべてラッコのため!!
おかげでラッコをやたらとニュースとかが拾ってくるようになっちゃった。




