225.マリーアンヌに必要なもの
「それでは、どのような支援をするつもりか、具体的な案を書いてください」
「え?」
シーナの言葉に戸惑うマリーアンヌ。
「具体的と言うのは?」
「それを聞きたいのはこちらの、領主様の方ですよ? どんな支援をどこまで、どのくらいの金額がかかるのかまずそこを調べなければなりませんね」
「……」
「わからないですよね? でもそれを言うなら、領主様もわからないんですよ? マリーアンヌ様の提案を受けて、いったいどんなことをしたらいいのか一切提示されない状況で、わかった、やろうなんて言えるわけがないんです」
シーナの言葉に、シュンと俯いている。困ったな。これは、問題外だ。そして、イライラしてきた。今日は、アルバートと一緒に過ごす予定だったのに!
「では別紙に、『神殿教室を発展させるために必要な下調べ』と書いてください。何事にも下調べは大切ですよ。大きな事業を完成させるためには。そして、下調べすべきことを並べてください……ウォルドさん、側仕えって、こういった場で口を挟むのはダメなんですか?」
「そうですね……今は皆さん、シーナさんのお言葉をマリーアンヌ様がお聞きになっているので控えているのかと」
「ああ……皆さんも主であるマリーアンヌ様を助けてくださって大丈夫ですよ?」
口出しオッケーを告げる。が、動かない。
ニコニコと待っていても、控えている側仕えたちは一言も発しない。
身分が辛いな。
あまり暴言を吐けない。
「シーナさん、彼女たちはこういった案件には不向きなようです。一旦下がらせましょう。マリーアンヌ様、よろしいですか?」
「え、ええ。みんな下がってちょうだい」
ゾロゾロと、五人はその場を退出する。
「……ひどい有り様でしたね」
ウォルドの笑顔がすごい。やだ、怖い。
「私のイメージしてた側仕えと違う。メイドなの? 側仕えって、側近で、主のために物事を円滑に運ぶよう色々と下準備したり根回ししたりして働く人だと思ってた」
「シーナさんの思っている通りですが、彼女たちはそうは思ってないようですね。困りましたね」
「製造元に責任取れ、優秀な人材こっちに寄越せって言うのはどうですか?」
「シーナさんの真っ直ぐな意見は好ましいです」
だがダメだという幻聴が聞こえた。
「……私のやったことが、まったくダメだっていうのはよくわかった」
「全部だめだとは言ってないですよ。神殿教室を拡大させようと領地のことを考えたのは悪いことじゃないですから。ただ、それを軌道に乗せる手段を知らないだけですし、ちょうどいいので学べばいいんですよ。私はこれから春になって忙しいんでお付き合いできませんけどね」
「シーナさん……逃げる気ですね」
当たり前だ。身分の差があるのに、我慢しながら教えるとか面倒だ!
「マリーアンヌ様もですけど、彼女たちもちょうどいいから今回やる気があるのかどうか見ればいいじゃないですか。裏で文句言ってるだけなら解雇して領地に送り返せばいいし、少しでも挽回しようという気があるなら教えていけばいい。正直あの年になって、主がこれだけ皆の前で言われてるのに、自分が行動できないのがまずいと思ってないなら修正不可ですよ」
「シーナ、ちょっと……」
アルバートからストップが入ったので口をつぐむ。
「まあそこら辺はエドワール様と相談いたしましょう。今は神殿教室の案をまとめましょうか」
ウォルドの言葉にマリーアンヌが驚いて顔を上げた。
「だから、領地の力の底上げは悪い話ではないと何度も言ってるじゃないですか。ただ、今はそれに割ける人員がいないし、マリーアンヌ様の側仕えたちが色々動いて働きかけてお膳立てをしているわけでもないので、ではやろうですぐ動けないんですよ。こういった大きな案件は普通何年もかけてやるものですから、マリーアンヌ様が主体になってこれから何年か掛けて仕上げていけばいいんですよ」
文字が読めて書類が書けることは絶対悪いことじゃないのだ。
「じゃあまず、下調べです。マリーアンヌ様、私が話した情報しか神殿教室のこと知らないでしょう? 神殿教室に参加しないとだめです。マリーアンヌ様じゃなくていいんですよ。こういったときのための側仕えなんですから。いきなり行ったら先方が驚きますからね。シーナからこんなことをしていると聞いたからマリーアンヌ様が興味を持っているので一日見学させてくれ、とか、神殿にまず話を通すんです。そこで、使っているものの値段なんかを調べたり、そこからです」
やることをまとめ上げて、解散の流れになる。マリーアンヌには、くれぐれも側仕えたちが試されているのだということを告げてはいけないと言っておいた。まあ、告げて変わろうと思えるなら可愛い方だ。
そのまま帰ろうと思っていたら、エドワールからお茶に呼ばれる。
「ご苦労だったね、シーナ」
「お疲れ様です」
いえいえ、そんなことはありませんよとは言えなかった。
「何かお礼をしないとな」
「お礼、今、特に必要なものはないですね~」
ふむと唸ってアルバートを見やる。
「アルバートの休みを増やすとか?」
「だめですよ! それでなくても忙しくてお休みのために仕事詰め込んでるみたいだし、過労死しちゃう! また秋とかにお砂糖ください。冬支度に使います」
「アルバートが騎士服で仕事をすればいいんですよ」
と、ウォルド。
ひゃっと変な声を上げて口を押さえる。
ご、ご褒美でしかない……。
そんなシーナの反応に目を丸くしたエドワールがウォルドを見ると、彼は重々しく頷く。
「アルバート、着替えてこい」
め、命令だぁぁ!!
戸惑いしかないアルバートはわかりましたと言って席を外した。
「私の妻も、私のこのお仕着せを気に入っております」
同士がいるぅ!!
「女性のドレス姿を好ましく思うようなものか?」
「まあそのようなものと解釈しておけば良いかと」
ちょっと違うんだなぁ……。
「ウォルド様は奥様がいらっしゃるのですね」
「ええ、以前の奥様に仕えておりましたが、今は家で気ままにしているようです。よく森に狩りに行ってますよ」
「精霊使いの方ですか……というか、おうちってどこにあるんですか?」
「この屋敷の裏手に屋敷に勤める者たちの住まいがあります。独身の者が住む屋敷が一棟。家族の住まいも十ほどありますが、街の方に家を持っている者も何人もおりますね」
貴族でも、爵位のない者が多いので、そうなるのだとか。この領主の館の区画には、フェナの屋敷もあるし、もういくつか同じ規模の使われていない屋敷があった。
「家や部屋の大きさは地位によって変わっていきます」
そんな話を教えてもらっていると、アルバートが現れた。黒に金の刺繍がされていて、マントもついてた。片側だけにかけているやつだ。
「ふぁ〜! オシャレマント……ペリースだっけ? か、かっこよ……揃いの外套もかっこよすぎる」
耐えきれずに両手で顔を隠して机に突っ伏した。
「ずいぶんな褒美になったようだな。アルバート、そのまま今日はもう帰りなさい」
お持ち帰りします。
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誤字報告助かります〜
制服いいですよね〜
素敵〜
イケメンの制服サイコー




