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222.シフォンケーキ

 クリームチーズを使ったケーキはとても感動された。色々と応用がきくのも大きい。

「フルーツやナッツを入れないものも美味しいですからね」

 レモンのような果実もあるのでそれで香り付けしてやればいい。

「シンプルなものに、ジャムになる手前のもう少しゆるい、ソースをかけても美味しいです」

 提案をいくつかすると、バルバトとザッカスは揃ってため息をつく。

「これにまた領主様はいくら払えばいいんだか……」

「今回はマリーアンヌ様おめでとうございますのプレゼントだから、お代はいただきませんよ」

「……そうはいってもなぁ」

 と、シフォンケーキのことを忘れていた。中が見えないから開けるしかない。

 香りはいい感じなのだが、どうだろう。

「オーブン、全開せずにチラって見てもいいですか??」

「おう、火傷するから俺が開ける」

 少しだけ隙間を作ってもらうと、膨らんではいた。さすがの筋肉である。

 ただ、まだ最高値といった感じだ。ここから少し萎んで、さらに少しだけ待たないといけないのだ。

「もう少し粘りましょう。この形覚えておいてください」

 ちなみに、時間計測係りもいる。

「なんとなくで作ったわりにいけそうな気がします」

 食べたら粉っぽいとかベチャッとなったはあるかもしれないが、どこかしら食べられる部分はありそうだ。そしたら、それを目指して精進してもらえたら良いかなと思う。

 そして次開けると、たぶん引き上げ時だ。表面が黒くなりつつあった。

「少し焼きすぎましたね。で、これを逆さまにして、んー、このコップの上にでもおいておきます。この真ん中の穴が空いてるところが冷え切ったら、ナイフを使って型から出します。」

 精霊で冷やすのはやめてもらった。今回は成功か失敗かわからないので普通に冷ましたい。

 なので待ってる間にシフォンケーキのポイントを教える。

 まあ、とにかくメレンゲなのだが。

 ハンドミキサーがないとシーナには無理だ。

 そんなこんなで夕飯の支度の時間らしく、厨房の隅に椅子を並べてシフォンケーキが冷めるのを待つこととなった。

「アル、お仕事あるならいいよ?」

「ここでシーナといるのが仕事なんだ」

「そうそう、今日はシーナさんが来るって言って、夜中まで仕事を片付けてたから――」

「ランバルト、余計な話だ」

「とにかく、アルの仕事は今日の分どころか明日の分まで片付いてるよ」

 それはそれで無理をしているんじゃなかろうか?

「秘書官は何人かいるし、アルは仕事回されたらホイホイ全部やるから、たまにはアルもしっかり休みを取れば良いんだよ。一月からはかなり忙しくなるだろうし」

 先ほどアルバートも言っていた。話だ。

 彼らを見ると、目を合わせたあとアルバートがため息をついて説明してくれる。

「もう各ギルド長や神殿には話が行ってるが、シシリアドの壁をもう少し拡張しようという話が出てて、その調整が本格化するのが一月からなんだ。今はそのための書類を大量に準備しているところだね」

「冬の間の、ではなく?」

「ここのところ宿屋不足だったり、定住希望者の住居確保がなかなか難しくてね。思い切ってという話だ」

「いろんなことが、大変そうです」

「そうだねぇ〜外壁がもっと外側に行くと今の住処の価値も変わるからね。冒険者相手の店や、宿屋は外壁に近いほうが良いだろうし、どの店を優先的に移動させたり、そのまま住まわせるかとかとか、なかなか全部の望み通りにはいかないし、目の回るような忙しさになるだろうね〜」

 かなり大変な事業になると思われる。

「まあ、そんなわけだから、この冬は思いっきり二人で休みをとって楽しんだら良いと思うよ。てことで、エドワール様が明日はお休みでいいって」

「そうか、じゃあ今日はこのままシーナの家に行こうかな?」

「えっ! あ、うん」

「くっそ、燃え尽きろ……夕飯はここで食べていけって。シーナさんの冬支度、アルの食事の分まで想定してないだろ」

 アルバートがハッと目を見開く。

「大丈夫! お米ならいくらでもあるの。アル、ごはんも結構平気で食べてくれてるし」

 ひもじいのは嫌で、少し多めに準備している。

「葉物のオイル漬けなんかを渡そうか?」

 バルバトがひょっこり会話に参加してくる。

「いや、だいじょ――」

「お願いできますか?」

「おうよ、夕飯作ったあとに準備する」

「ありがとうございます。助かります……シーナすまない。すっかり失念していた」

「ううん、たぶん足りると思うんだけど、でもせっかくだからいただいていこうかな」

 キリツア、パテラ、ムルルなら大量にあるし、最悪一人の時はポトフ祭りにしようかとも思っていた。

 暖炉の火力で料理をと思ったが、あまり現実的でない。ストーブみたいになっていたら、天辺にスープ鍋を置いてできそうだったが、暖炉は鍋が丸焦げになりそうで諦めた。

 その日の夕飯は、ヤキニクソースを使った牛系肉と、サラダとスープにパンだった。ヤキニクソース美味しい。

 シフォンケーキは少し周りが焦げてしまったが、概ね成功だ。初めてのふわふわ食感に、料理人たちが雷に打たれたようにビクッとしたまま動かなくなった。

「ちょっとベタついてるかなぁ、微妙だ」

「そんなことないと思うけど」

「こんなの食べたことないや……シーナさん、今度俺にもカラアゲを……はんばあぐを……」

 これは、アルバートから聞いたな。チラリと見ると、目を伏せる。

「自慢せずにはいられなかったんだ」

 推し、もとい、恋人は今日もかわいい。


 たくさんの瓶詰めを抱えて、帰路に着く。もちろんアルバートも一緒だ。

 そして家の前で思い出した。

「とりあえずパスを渡すけど、ズシェがピアスを作ってくれたよ」

 シーナのつけてきたピアスを見せて、キャッチも魔銀で作ってもらった。

「ありがとう、……似合うかな」

 家の中だからと、とりあえず身体強化の耳飾りを外してつける。

 ああ、これは、彼氏に合鍵を渡すやつではないかと思い至り、顔に血が上るのがわかった。



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都市計画が進行中。明日から昔話したことが花開くお話。

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