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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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221/280

221.タルトの作り方講習会

 今日はマリーアンヌにモルのタルトを持っていく。という名目で、赤子を堪能しに行く。

 あれから結構経ったので、どのくらい成長しているかも楽しみだ。

 こういったおすそ分けを運ぶためのバスケットみたいなものが欲しいなぁと思う今日この頃だ。今度アンジーに聞いてみよう。

 今回はタルト型そのままで持ってきた。きれいな布を巻いたので、まあ大丈夫だろう。

 三の鐘が鳴ったら家を出て、すっかり顔なじみの門番に挨拶をしていると、奥からアルバートがやってきた。

「シーナ!」

「アル?」

 マリーアンヌのところの側仕えが来ると思っていた。

 シーナの持ってきた風呂敷包みをすっと受け取る。

「みんなが気を回すんだ。休みも増やされそうだ。冬はわりと仕事に余裕があるからね」

 皆、家に閉じこもって寒さをしのぐ時期だ。

「そんなわけで今日はシーナについてるのが仕事だ」

「マリーアンヌ様に渡したあとは、厨房で作り方を教えようと思ってるから、アルもそこで食べられるかも」

「それは嬉しいね、モルのタルト、美味しかったから」

 

「いらっしゃい、シーナ。さあ、掛けて。アルバートも座って良いわよ」

 マリーアンヌにそう勧められ、アルバートはシーナの荷物をそのまま側仕えに渡す。

「土台を外して切り分けてください。こう、下から押すと周りの枠が外れて、そのあと下の一枚はナイフで剥がしてもらえたら」

「シーナのデザートは楽しみね。リリアンヌ、抱っこする?」

「します〜〜〜〜〜〜!!」

 向かいに座って抱かれていたリリアンヌを、側仕えが受け取り、シーナの膝の上に置いた。

「可愛いぃ〜だいぶお肉ついてきたねぇ〜〜ムチムチ〜腕のちぎりパン最高ぅ〜なになに、どうしたの? なんか知らない人警戒してるぅー?」

 リリアンヌは新生児を脱して、ムチムチのプリプリに変化を遂げていた。まだ首は据わっていない。

「ぁー食べちゃいたいよぉ〜」

「私はシーナの持ってきたデザートを食べたいわ」

「あ、毒見しないとですね。やりますよ!」

「うちの側仕えが嬉々としてやってるわよ」

 ね、と後ろを振り返ると、いつもの女性が恭しく頷いていた。

「あとで作り方教えてきますね。マリーアンヌ様お疲れ様と、リリアンヌちゃんおめでとうのプレゼントです」

「とっても嬉しいわ。このあと昼ごはん用意してあるけど、どうする?」

「お気遣いありがとうございます。でも私は、リリアンヌ様のムチムチほっぺ食べたいなぁ〜ふぁー笑ってる。楽しい? よく笑うようになったぁ〜かわぃぃぃぃぃ!!」

「アルバート、どう?」

「本当に……子どもが好きなんですね」

「ふふ、あちらへ食事は用意させる。アルバートも食べていきなさい」

「かしこまりました」

 

 赤子との夢見心地幸せタイムを終えて、次は厨房でタルトの作り方を教える。材料は事前に伝えてあるので準備されているはずだ。

「ねえ、私が来るたびに本来の仕事、できなくなってるんじゃないの?」

「そんなことはないよ」

 正直、どんな仕事をしているかわからない。想像がつかない。が、シーナが来ることになると迎えとして来るし、こうやって一日付き合ってくれることになる。

「お仕事の邪魔はしたくないんだけどな」

「こういったことも仕事の一環なんだ。一月からは領地にちょっと出かけたりすることもあるから、頻繁に会えるのは冬だけになってしまうし」

 やっぱり、これだけ会えるのはこの時期限定なのか。

「月の半分はシシリアドにいないこともあるから、今のうちに会えるときは会っておきたいな」

 笑顔の暴力がすごいっ!

「昼間から見せつけてくれるねぇ」

 後ろからかかる声に、我ながらとんでもなく動揺して足をもつれさせる。アルバートが肩を支えてくれた。

「いきなりビックリします!」

 料理長のバルバトに抗議する。

「いきなり現れたと思ってるのはシーナだけだよ。こっちは気付いてただろ」

 えっ、と振り返ると、彼はニッコリと笑う。

 知っててあの会話をしていたのか!?

「お前、このきれいな顔に騙されんなよ? 腐っても領主の秘書官だぞ」

「お褒めに預かり光栄です」

 えっ、ともう一度アルバートを見るが、笑顔は変わらない。

 そのまますぐ厨房に入ると、熱烈歓迎されて有耶無耶のままモルのタルト作りが始まった。

「今回はモルを使いましたけど、このクリームに混ぜ込まないでフレッシュなフルーツを、上にきれいに飾ってもいいと思います。その場合焼かないほうが良いものも多いので、試作して試してください。そして、上手くいったものはぜひ教えてください。何度でも言いますけど、私の作り方はプロの作り方じゃないので。ここからさらに美味しくするのは料理の専門家の仕事ですから」

 シーナの料理はあくまで家庭料理だ。

 飾り切りとかは断然彼らのほうが上手い。

「あと、失敗するかもしれないし、材料無駄にして終わるかもしれないんですけど、試しのもの作ってもいいですか?」

「お? 珍しいな、いつも自宅で試してから来るのに。構わんが、何を準備する?」

 許可が出たので材料を用意してもらう。

「正直お菓子作りは計量が命だったんです。他のものはぼんやりでもなんとかなったけど、これはどうかわからないので……失敗しても怒らないでくださいね」

「ずいぶん前書きが多いなぁ。いいからやってみろ」

 それでは、ともう一つの器具を取り出す。

 金属製のボウルと泡だて器だ。

 厨房のボウルを借りて、卵黄と卵白を分ける。卵白を金属のボウルに入れると、バルバトに渡した。

「水分油分、つまり、余計なものが大敵です。とにかくこれを泡立ててください」

 少し混ぜたところで砂糖を加え、を繰り返す。

「頑張っててください」

 おまかせして卵黄に砂糖を入れて、水とサラダ油を入れる。分量がおぼろげだから怖いが、とにかく少量だった。マグカップ半分以下の量だ。

 さらにふるった小麦粉を混ぜ合わせた。これは割としっかり混ぜる。

「おい、これくらいか?」

「あ、まだまだ全然です。もっと頑張ってください」

 メレンゲ作りが難所過ぎて、分量と手順はだいたい覚えているが避けていたのだ。

「交代するのもいいと思います」

 腕がやられる。

 そうしてようやくピンと角が立ち、混ぜても崩れない完璧なメレンゲが出来上がった。先程の生地へ混ぜ合わせる。

 メレンゲを加えたら必要以上混ぜないで、再び取り出した型へ入れた。真ん中が穴の空いている、そう、シフォンケーキだ。

 重曹がダメなら腕力である。

「上手くいきますよーにー!」

 お祈りしながらトントンと空気を抜いて、タルトと交代でオーブンへインする。

 最近は分量が曖昧な感じで作ってしまうシーナの対策として、とにかく分量を見る係が出来ていた。今も紙に数字を書いている。

「タルトは少し冷やした方がいいんです」

「精霊使い呼んでこい」

 待てない民はフェナだけではなかった。

 先日シーナの家に来た精霊使いが現れる。

「やあ、シーナさん。この間ぶりだね。挨拶したかったのにアルに追い返されちゃったよ。さて、水の扱いは俺に任せて」

「少し置いて生地を落ち着かせるのもポイントなので、領主様やマリーアンヌ様にお出しする時は半日置いてくださいね?」

 聞いているのか聞いていないのか、料理人たちが試食用に小さな皿とフォークを準備して並べる。

「この型は差し上げますけど、こうして下から押し上げて、さらにナイフでタルトと下の円盤部分を切り離してください」

 等分にすると細切れになりそうだ。カットはバルバトに任せた。恨みは買いたくない。


ブックマーク、評価、いいねありがとうございます。


重曹、ベーキングパウダーの部類っていつ頃から使われるようになったんですかね〜


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