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【書籍化】精霊樹の落とし子と飾り紐  作者: 鈴埜


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22.糸作り

 三ヶ月に一度くらい行われる素材作りの日である。

 朝からシーナはうきうきと準備をしていた。

 素材を染めたりするので、専用の皮手袋、皮のエプロン。髪の毛はまとめたうえに三角巾をする。さらに、マスク。

 それらを持って、ぞろぞろとガラを含む十人が総出で以前この街に入ったときとは別の北の方の門に向かう。

 素材作りは臭いがそれなりに出るので、門をでて少し行った場所に、組み紐(トゥトゥガ)ギルド所有の工場(こうば)があった。交代で借り賃を払い作るのだ。いくつかあって、他の工場も今日は全部埋まっていると言う。ガラの店は十人もいるのでガラたちだけで使うが、従業員が一人二人のような店は何軒か集まってひとつの工場を借りるらしい。

 工場は、なかなかの掘っ立て小屋だった。ただ、壁の外であるからか、広さは十分で、釜が五つもある。

「さあ、準備にかかるわよ」

 ガラの号令と共に、兄姉弟子たちが一斉に動き出した。

 素材はもう朝早く直接こちらに届いている。年若い弟子が二人朝早くから待っていて受け取りをしていた。

 みんなそれぞれ作る糸は違うので、事前に作るもののリストを作成し、手順は確認済みだ。シーナは一からなので、今回はフェナに使う糸を六種類作る。

 部屋のすみにある台の上の大きな(かめ)に、水の石を入れると、あっという間に水がなみなみと溢れ出す。三人がかりで少し傾け流しに水を貯めた。

「シーナ、鼻の下にこれを塗りな」

 マナベラから差し出された瓶の軟膏を鼻の下に塗ると、スーッとした感覚と共にミントのような強い香りがした。

 布で口と鼻を覆っていても、強い臭いにやられるので、糸作りのときにこれは必須だそうだ。 

 竈に火がくべられ、鍋に素材が放り込まれる。それぞれの魔力を通すのは、糸の材料を素材の薬液につけるときだ。各自桶に煮詰めた薬液を取り分けて、それに合う糸を浸ける。

 この糸と素材の組み合わせを研究開発しているのは組み紐ギルドの人間だったり、単なる研究したい者だったり、中には変わり者の貴族だったりするらしい。

 単なる研究したがりは、組み紐ギルドに所属していることが多い。ある程度組み合わせは出来上がっているので、新素材でもない限り、素材の無駄にもなるのでなかなか金がないとできない研究開発なのだ。

「シーナ! 風の薬液ができたよ。あんたが一番多いんだから最初にやるよ」

「あ、はい!」

 風の糸は、植物からとる。セルベール王国の南の方で栽培している。タカメヤガという背の高い植物の茎を、干すと細い線維状に分かれるらしい。それを縒って少し太めの糸状にするのだ。桶に注がれた薬液に、金属の棒を差し込む。魔銀でできたそれに、シーナの魔力を通していくと、薬液の色が淡い緑色へと変化した。そこへタカメヤガでできた糸を浸ける。棒に引っ掻けたままぐるぐると回すこと二分ほど。引き上げればすっかり染まった糸が現れる。

 そのまま先ほど貯めた水の中にさらして、さらに次のとなりの流しへ。置いたところに柄杓で水を掛けたら余計な薬液は全部なくなる。不思議なことに桶の中の薬液は空になっていた。

 棒から糸をはずしてぎゅっと手で絞ったら、何本も木の棒が渡されている棚に掛けて、乾けば完成である。

 これは植物の繊維からできた糸なので、長くて一メートルほどだった。火の糸や光の糸になると、綿のような原材料から作った糸なので、一本が長い。

 薬液はもう配合してあるものを卸してもらうこともあれば、ギジェパの肝臓のように、魔獣の臓器だったりして、この場で潰して他の素材と混ぜ合わせることもある。

 内臓はまだいい。

 虫が、きつかった。

「配合も業者にやってもらえることはもらえるが、高くつくから自分でやったほうが断然いいぞ」

「ムガ虫でだめなら、ビジゲあたりは絶対ダメだろうな」

 兄姉弟子たちが、どっと笑う。

 それからできた土の薬液に触るのは本当に、躊躇う。臭いもきつい!

 竈に五つも火が入っているので、暑い時期はなかなかの重労働だ。反対に寒い時期は水が冷たいという。とはいえ、年中割合温暖な土地なので、暑さの方が大変だった。今は冬に向かっている時期なので、そういった面での過酷さはない。

 昼の鐘がなる頃には、シーナの分は全部終わっていた。あとは細かな足りない糸の補充だった。この糸や素材の費用は自分もちになるので、必要以上に作ることはない。必要な者が必要なだけ作ることになる。

 事前に相談し合っていた分を、段取りよく、一番上の兄弟子であるギムルの号令で作っていた。

 シーナも鍋をかき混ぜる手伝いをするが、素材に触れるのはそこまでなので、火の回りで汗だくになりながらヘラをぐるぐると動かしていた。

 最初の頃のみんなが使うものよりかは、量が少なくて楽だ。


 昼食は届けられたパンのみ。交代でモソモソと口に詰め込んで、終わったのは門がしまる少し前だった。

「今回もギリギリねえ」

「二班に分けてやったほうがいいかもしれませんね」

「工場の借り賃が上乗せされるから、それでよければ」

 ガラの言葉にぐぬぬぬぬと、兄姉弟子は唸るのだ。

「シーナ、洗浄をお願いしていい?」

 午前中に糸を作り終えたシーナは大分魔力も回復している。みんなに向けて、左腕をふった。

 水の渦が体にまとわりついて、霧散する。臭いがとれたかは正直わからない。鼻が麻痺してしまっているのだ。

「さあ、門がしまる前に行くわよ」

 シーナも自分の籠を抱える。

 今日作った糸がきれいに並んでいた。


ブックマークありがとうございます。

少しずつですが毎日更新頑張りたいと思います。

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